大神紅葉は防人である   作:社畜戦士 くっ殺

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前話を二度投稿していた様でした。寝起きでボケてました。すみません。


暗中模索 2

 

勇者部。その部室。

 

平時なら和気藹々とした空気が広がるその部室だが、今は全くと言っても良い程に静寂が広がっていた。

 

かりかりと何かを走らせる音、ペラ、と何かを捲る音が鳴る。

 

 

――その中の一人が、手に持ちノートへと走らせていたペンを机に叩き付けて叫んだ。

 

 

「うがーっ!! 勉強なんてやってられるかぁーッ!!」

 

「球子さん、キレたーッ!!」

 

 

我慢ならぬと手をわなわなと震わせ、球子(どい たまこ)が呻くのを同じく勉強組の(みのわ ぎん)が同調する。

 

そんな二人に待ったを掛けたのが、監督役を引き受けた須美(わしお すみ)だった。

 

 

「ちょっと二人とも、そんなんじゃ今度のテスト良い点取れませんよ?」

 

「須美ぃ、タマ達はもうダメだ。何だか参考書の文字がぐるぐると回って読もうにも読めやしないんだ」

「そーだそーだ!」

 

「そんな嘘が通じる訳ないじゃないですか……」

 

 

球子と銀の二人の主張に、須美ががくりと肩を落とす。

 

そんな様子を見ていた友奈(ゆうき ゆうな)が苦笑いして言う。

 

 

「でも二人とも、次のテストで平均点取らないと補習になるんでしょ? お休み潰れても良いの?」

 

「そうよ。二人を置いて皆で旅行に行くことになるわよ?」

 

 

「「うぐぅ……」」

 

 

友奈に続いた美森(とうごう みもり)の言葉に、盛り上がっていた二人の勢いが消沈する。

 

一週間後に控えている定期試験。それが終わればまとまった休みが待っているのだが、そこで勇者部の皆で旅行に行くことになった。

 

皆で行く旅行に色めき立つ勇者部だが、そこで教師陣から申し訳なさそうに待ったが掛かったのだ。

 

 

――曰く、勇者部数名の成績が悪すぎる。

 

 

勇者部、ひいては四国の防衛というお役目を担っている彼女達は、授業日数や成績の不足は目を瞑られる事が多い。

 

鍛練や静養に重きを置いてほしいという大赦や教育機関等の配慮なのだが、それを引いてもオツムが悪すぎない?なんて声が上がったのだ。

 

 

「大体なんですか、連続してテストで平均点以下って……。授業を真面目に聞いているだけでももう少し点数取れますよ?」

 

「し、仕方ないだろぅ?! 授業受けている時の先生の声は催眠術みたいな物なんだからさぁ?!」

「そーだそーだ!」

 

「ぎ~ん~……?」

 

「銀。私はそこまで庇えないわ……」

 

 

球子の主張に同調する銀に苛立つ様子の須美に、普段は甘い美森も呆れる程だ。

 

そんな様子を見ていた園子(のぎ そのこ)と園子(小)が、同じくノートにペンを走らせながら笑う。

 

 

「タマっちは仕方ないとしても、ミノさんが成績悪いのは意外だねぇ」

 

「うんうん。神樹館小学校の時だって、成績は普通位じゃなかった~?」

 

 

「うっ……。別に、元の世界に戻ったら記憶なんて関係ないから、勉強なんてどうでも良いかなって……」

 

「あなたねぇ……。もう少しでお役目が終わるとしても、それはそれ。って此処に喚ばれた時に言われたでしょう?」

 

 

園子達の言葉に今度こそ打ちのめされた銀が最後の抵抗とばかりに言うが、それを聞いても須美の主張は変わらない。

 

――記憶を無くす、という言葉に、顔が曇る数名を除いてだが。

 

 

その時。

 

 

「うぃーす。戻ったぞー」

 

「勉強頑張ってるー? 差し入れよー」

 

 

部室のドアをがらりと開けて入って来たのは、大きめのビニール袋を数個ぶら下げたモミジと綾乃だった。

 

差し入れ。という言葉に休憩だ!と球子と銀が騒ぎ出す。そんな様子に須美が呆れた様にため息を吐くのを見て、モミジが苦笑いした。

 

 

「何だ何だ。球子辺りが勉強したくないってごねてたのか?」

 

「補習が嫌じゃないの?」

 

 

「嫌だけど、タマは勉強が苦手なんだ!」

 

「なんて力強い否定」

 

 

モミジや綾乃の言葉に、ついに球子がぶっちゃけた本音を出した。

 

まぁ、勉強が好きなんて人も居るだろうが、少なくとも自分は好きではないな。とモミジは差し入れからジュース缶を取り出しながら思う。

 

どちらかと言うほどはなくタマはアウトドア派だし、じっと座って勉強なんてのは性に合わないのだろう。

 

 

カシュ、と小気味良い音を立てて缶を開けるモミジに球子は大体、と指を差して言う。

 

 

「モミジ達はどうなんだよ。丸亀城に居た時は授業なんてろくに出てなかったろ?」

 

「ん? 俺達?」

 

 

球子に自身の成績を指摘され、綾乃と顔を見合わせた後、数日前に返却された成績表を球子へと手渡す。

 

どうせあまり自分と変わらない……、なんて思っていた球子のにやけ顔が、徐々に青くなって行った。

 

それを不思議に思った須美が、球子の背後からそれを盗み見るとまぁ、と声を上げる。

 

 

「立派な点数が取れてるじゃないですか。正直言って意外です」

 

「え、俺って馬鹿の部類だと思われてたの?」

 

「い、いえ! そこまでは……!」

 

 

「おい、今遠回しにタマの事を馬鹿って言ったろ」

 

 

思わず漏れた言葉に須美が慌てて訂正するが、聞き逃さなかった球子が僅かに青筋を立てて須美へと詰め寄る。

 

ひぃ、と逃げ出す須美を追い掛ける球子を見送った。狭い部室内だし直ぐに捕まるだろう。

 

 

「俺達は"防人"として四国外で活動してたからな。それなりの頭じゃなけりゃ勤まらないお役目だぞ?最低限勉学と社会的なマナーは学んである」

 

「へ~! あのあの! 四国の外ってどんな世界だったんですか?」

 

 

休憩時のおやつとして美森からぼた餅を受け取った友奈が、差し入れの緑茶を取りながら言う。

 

そんな友奈の顔と瓜二つと言っても良い程にそっくりな、丸亀城の友奈こと高嶋 友奈(たかしま ゆうな)を思い出し、その出会いに思わず笑みが溢れた。

 

 

「んじゃ、休憩がてら高嶋の方の友奈との出会いでも話そうかな。生証人からの体験談だ。大赦じゃあトップシークレットだぜ?」

 

 

そんな会話が聞こえたのか、須美の頬をむにむにと両手で挟んで遊んでいた球子が、おぉ、と言って此方へと来る。

 

 

「友奈は確か奈良からだったよな? その辺りはあまり聞いてないから教えてほしいゾ!」

 

「や、やっと解放された……」

 

「災難だったわね、須美ちゃん」

 

 

球子の興味が自分からモミジの昔話に移ったのを見て、安堵から思わず床へとへなへなと崩れ落ちる須美。

 

崩れ落ちた彼女の肩に手を乗せ、労りの品であるぼた餅と緑茶のセットを美森が手渡していた。

 

 

全員におやつと飲み物が行き渡り、此方の話を聞く姿勢が出来た所で、モミジは口を開く。

 

 

"防人"としての、己が成した偉業を。

 

 

「あれは、バーテックスが侵攻してきた"天災"と呼ばれる夜の事だった――」

 

 

モミジが抱える課題を解くヒントを見付けられたらと思いながら。

 

 

 

同時刻、四国内、某場所にて。

 

その一室の中で、二人の少女がただ黙って各々の時間を過ごしていた。

 

 

片方の少女は、手にしている武器の手入れを。

 

拳銃、刀、手榴弾……。手にしているだけで警察に即お世話になるであろう品々を、無心で手入れしていく。

 

それを使用する際に、万が一等起こらぬように。

 

 

もう片方の少女は、ただぼぅ、とソファに深く身体を預けて天井を眺めていた。

 

手にしている書類らしき物には、至急確認だの署名欄だのが見えるが、彼女はそれを無視するように天井を眺めている。

 

もう一人の少女がそれを見ても何も言わない所を見ると、それが彼女の通常運転の様だ。

 

 

そんな一室に、こんこん、とノックの音が鳴った。

 

 

その音に両者が反応する。数秒待って、平時ならば勝手に入ってくる姿が一向に無いことに徐々に眉に皺が寄っていく。

 

手入れしていた拳銃と刀に手を掛けた瞬間、音を立てて扉が開き、

 

 

「ばぁっ! ……どうどう、二人とも落ち着いて下さいよぉ?」

 

 

驚かせる様な声と共に入室した彼女へと、後数センチ踏み込めば武器が身体を傷付ける程に接近した状況に対して危機感の無いような間延びした声を上げる。

 

こーさんでーす、何てふざけた様子で両手を上げる彼女に、武器の手入れをしていた少女が声を荒げる。

 

 

「貴様、ふざけるのも大概にしろ。例の勇者が裏切ったのかとひやひやしたぞ」

「……同、意見」

 

「あいや、こりゃあすみませんねぇ」

 

 

ソファに居た少女も蚊の鳴くような小さな声で非難すると、とてとてと歩いて再びソファへと飛び込んだ。

 

うつ伏せのまま顔だけ此方へと向けて、何の要件だ。と伝える瞳に少女がにへらと笑って言う。

 

 

「ちょっとしたジョークじゃないですかぁ。待ち望んでいたモノが、漸く入りましてねぇ」

 

「ほぅ、漸くか。待ちくたびれたぞ!」

 

 

にへらと笑う少女へと、苛立ちを隠さず発していた少女がその報告に思わず立ち上がる。

 

 

「えぇ。簡単に言うと、"今はまだ動くな"だそうですよぉ。勇者の勧誘はそのまま続行らしいですけどねぇ」

 

「まだ待機なのか……」

 

「なんでも、勇者が行ってるお役目が終わってからでないと、色々と邪魔が入るそうで。……ま、私としては、楽で良いですけどねぇ」

 

 

「……何で、お役目が終わるまで?」

 

 

落胆した様にソファへと腰掛ける少女に、残念でしたねと笑う少女。

 

そんな彼女へと、うつ伏せで寝転んだままの少女が訊ねる。

 

 

「さぁ? そこまでは何とも。ただ、向こうさんも色々と制限が掛かる様で、その関係ではないかなぁ?」

 

「……ふーん」

 

 

どうでも良い。とばかりに興味を無くした少女へと寂しい感じを抱きつつ、そういえばと話を変える。

 

 

「例の勇者様はどうされましたかねぇ? 仲間集めは順調なのでしょうかぁ?」

 

「不審に思われてもいけないから、慎重に行うと連絡が来たぞ。定期的に送るらしい」

 

「なーるほどぉ」

 

 

壁に耳あり障子に目あり、人の口に戸は立てられぬ、と昔の人も言った具合に何処で誰が聞いてるか、または情報が漏れるかは分からない。

 

まぁ、そちらの方はゆっくりと待ちますか。と少女は笑う。

 

 

「……どんな道程を辿ろうと、最後に勝利を奪い取れば良い。それが私達、"鏑矢"の理念ですからねぇ」

 

 

腰掛けたソファに身を沈め、少女はゆっくりと目を閉じた。

 

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