次回も同じ位のペースで投稿する予定です。
「綾乃さん、此方はどうしましょう?」
「それはアタシがするから、亜耶ちゃんは梓とこれをお願い」
「はい、分かりました! 梓ちゃん、一緒にしよう?」
「うん!」
綾乃から手渡された書類を受け取り、
話を聞いていたのか、作業に必要な文房具を幾らか手に持つと亜耶と共に作業机へと向かった。
場所は勇者部部室。
少し先の日程にある祭りに参加する事になったのだが、それに合わせて勇者部の方でも準備する必要がある物が出てきた為皆で手分けをして作業をしていた所だった。
綾乃達が行っているのは地域の子供達へと渡す案内のしおり作り。かなりの数を作る予定ではあるが、綾乃の顔に特に焦りはなかった。
「さーて、作業の方は順調かなーっと……」
二人で問題なく作業に取り掛かり始めたのを見届け、椅子から立ち上がって部屋の角へと向かう。
部屋を区切ったパーテーションをがらりと動かすと、ソレらは忙しなく動いていた。
ただ一人を除いて。
「あ。綾乃さーん。式神さん達問題なく働いてくれてますよ! いやぁ、働き者で助かりますねぇ」
「そうね。所で加賀城さんは何やってるのかな? 現場監督に就任させた覚えはないけれど」
綾乃の操作する式神達が作業机の上を右往左往する中、綾乃の登場に一瞬思考が停止するも開き直って
ぴっ、と敬礼をする雀とはうってかわり額に青筋を浮かべて綾乃は笑顔で言う。
「クビよ」
「そんなぁ?!」
当然な綾乃の宣告に、雀の声が響き渡った。
◆
「――で、此処に来たって訳。酷くない?」
祭りに使う照明用の提灯等の装飾を作成する為に別に借りた部屋で、同じ"防人"の部隊である
愚痴る様に言う雀へと三人は目も合わせず、
「加賀城が悪い」
「そうですわね」
「そうね」
「満場一致ッ?!」
ごむたいなー、と机に項垂れ突っ伏す雀を見ながらでも、と夕海子が言う。
「雀さん、貴女にしては珍しいですわね。普段なら綾乃さんみたいなタイプにはへこへこしてるでしょうに」
「その言い方は大分引っ掛かる所だけど……、うーん」
加賀城雀は、長いものに巻かれるといった傾向がある。
学校生活や防人隊の中でも、自身より強そうな、かつリーダーシップが取れる人間に媚びを売ることが多い。
彼女曰く、それが私の処世術。だそうだが。
言いたい事ははっきり言う、かつ気の強い性格である綾乃に対する態度に普段の彼女ならばあり得ないと夕海子が言うが、当の本人は腕を組んでうーむと唸るだけだ。
「綾乃さんは怖い訳ではないんだけど、別に恐怖を感じるって程ではないというか……」
例えばそう、と指を立てて、
「――お母さん的な?」
「お母さん」
雀から出た突拍子もない例えに、聞いていた芽吹がおうむ返しで口を開く。
そんな雀に否定的な目を向けたのは夕海子だった。
「それを言うなら、風さんの方ではないですの? 誰かが勇者部の母、なんて言ったのを聞きましたが」
「誰が言ってたのそれ。……うーん、風先輩も包容力はあるけどそれとは違うんだよねー」
「……口を動かすのも良いけれど、作業も大事」
「あっ、はい」
会話が盛り上がる程に作業が滞る事を悟ったしずくが、早くやれ、と目にメッセージを込めて雀達(特に雀を)を見れば、それを理解したのか直ぐ様作業に取り掛かった。
提灯の枠組みを立てて、接着剤を塗りながらも会話は続く。
「でも言いたい事は分かるわ。綾乃さん、言い方はぶっきらぼうな所があるけれど面倒見は良いもの」
「……そういえばそうですわね。痒い所に手が届く、というか」
思い当たる節があるのか、夕海子が確かにと納得する。そんな話題に、しずくも確かにと口を開いて。
「……私がラーメン欠乏症になった時にも、美味しいラーメン作ってくれた」
「そうなんだ」
「麺は市販のだけど、トッピングのストックも作ってくれてる。週に3.4回」
「2日に一回?! もはや中毒じゃん!」
しずくの暴露に思わず雀が突っ込んだ。
ラーメン欠乏症というラーメンが好きすぎる彼女独自の病気だが、麺類ガチ勢の集まりである勇者部としては特に珍しい症例ではない。
「……美味しいから」
「あら、お料理が出来るのですね。一度ご相伴に預かりたいですわ」
「西暦の時代に、モミジさんと四国の外を旅してたみたいだからね。野宿もしてたらしいし、その過程で料理も出来るようね。……よし、完成」
夕海子の言葉にサムズアップで応えるのを見ながら、作り終わった提灯を箱に入れて芽吹が一息吐く。
納品用の段ボールが一箱満タンになった。良いペースだし、少し休憩でもしよう。
何か甘いものでも、と摘まめるお菓子を探していると雀がにやりと嫌な笑みを浮かべて言う。
「でもさぁ、モミジさんと綾乃さんって……。やっぱり良い関係なのかなぁ?」
「良い関係、とは……?」
「だ・か・ら。恋人なのかなって!」
また始まった。
まぁ、男女があんなにも親密な関係にあれば恋仲に発展する、と考えるのも健康的な乙女にとっては変ではないのだが、この雀の他人への詮索はもはや芽吹の中では日常茶飯事にもなりつつあった。
良く言えば周囲への観察眼の深さが彼女の生存率だと言えるのだが、それを向ける相手を間違ってはいけない。
「そうやって詮索するのはやめなさい。雀の悪い所よ」
「それについては前に本人が否定してましたわ。背中を預ける程度には信頼してると。恋仲というより仲間という事でしょう」
「えー、本当にそうなのかなー?」
認める気がない雀の態度に、無視するのが一番だと理解した面々が休憩の為にそれぞれ動き出す。
相手をされなくなった雀がくそぅと落ち込んでいると、入り口のドアが開けられた。
「皆、進行はどんな感じだ?」
「やっほ~、お邪魔しまーす!」
「若葉、園子」
開けられたドアに居たのは、
リストが挟まったバインダーを見る限り、各々の担当の準備を確認して巡っているのだろう。
「取り敢えず一箱分は仕上がったわ。何時でも取りに来て」
「おぉ、流石は芽吹。仕事が早いな」
「ふふっ、まぁね」
芽吹の報告に顔を綻ばせた若葉に、嬉しさから思わず芽吹の頬が緩む。
職人気質のあるが故か、仕事に対する評価が何よりも嬉しいのだ。
だが、そんな嬉しさに水を差す雀が一羽。
「あのー、乃木様。お聞きしたい事があるんですが……」
「な、何だ。急に畏まって……。乃木は三人も居るんだから下の名で呼んでくれ」
「へいへい乃木だよー!」
全力で媚びを売る雀に若干引きつつ、悪ノリのスイッチが入った園子を若葉が抑える。
「それで、何が聞きたいんだ?」
「はい、実は……」
ごくり、と雀が唾を飲む。
後ろでは、他の三人が呆れた様な目で雀を見ていた。
「――モミジさんと綾乃さんって、実は恋仲だったりしないんですか?!」
「あ」
雀の言葉と同時に、入り口近くに居た園子が思わず声を漏らした。
何事かと若葉が目を向け、それを目にして同じくあ、と声を漏らす。
「――そのお話、詳しくお聞きしても宜しいですか?」
笑顔を浮かべて居るのに、醸し出す雰囲気が朗らかではない
◆
「――それにしても、大赦は太っ腹だなぁ。普段のクレカに加えて、祭りの商品食べ放題だなんて」
「準備を手伝ってくれるお礼と言ってましたし、報酬と考えれば良いんじゃないんですか?」
「それもそうか」
目的の教室を目指して、モミジと
モミジが手にしているカードには、大赦の刻印が施されている。
大赦から聞いた話では、それを祭りに出店する屋台や施設の人間に掲示すれば商品やサービスがタダで受けられる様に話をしているらしい。
普段から無駄遣いはしていないとはいえ生活費等を全額負担して貰っている身からすれば、まさに至れり尽くせりだなと思う。
まぁ、それほどに勇者達が重要な存在だと敬われているという事だろう。
今度行くという旅行にもこのカードを使うらしく、絶対に失くさないで!と念押しと首から下げる用のストラップケースを受け取ったモミジ達は、それを他の勇者達に渡しに行く所だった。
「後は何処だっけ?」
「えーと、提灯としおり部隊ですね。若葉さん達には、寮で会ったら渡しておきますよ」
「おぅ、頼んだ」
そんな事を言いながら、じゃら、と残り少なくなったストラップを提げているとあれ、と杏が声を上げる。
「小学生組が残ってますね。渡しそびれたかな……?」
「加賀城さんがしおり部隊からクビになったらしくてな。主にサボりで。その代わりに小学生組が提灯部隊からトレードになったらしいぞ」
「そうなんですか……」
退屈らしいから提灯部隊に行かせたわ、と綾乃から連絡があった時には何事かと思ったがその理由がサボりと聞いた時には思わず苦笑いが出た。
おそらく綾乃一人であれば何も言わなかっただろうが、梓や亜耶ちゃんに悪影響が出るのを危惧して追い出したのだろう。
何とも不憫である。
理由を聞いて納得した杏が、進んでいた足を急に止めて身体が止まる。どうしたんだ?
「つまり……」
ゆっくりと此方を見上げて、
「――今、しおり部隊には小学生組と梓ちゃんや亜耶ちゃんが私を待ってるって事ですよね?」
「待て杏。少なくともお前を待ってはない」
「止めないでモミジさん。私、イケますからッ!」
杏の豹変に思わずしまったと声が漏れる。
杏は俺の主観だが、小さくて可愛い物が好きだ。
西暦の頃はそれの対象が主にタマや梓だったが、この神世紀に来てからはそれを加速させる存在を見付けてしまったのだ。
そう。国土亜耶や小学生組である。
本人は
タマに至っては全てを諦めた目をしている。
頑張れタマ、お前が最後の砦なんだ。
いつの間にかストラップを引ったくって走り出した杏を、行かせてはなるかと仕方なく肩を掴もうとするがその手は空を切った。
普段の彼女からは想像も出来ない速度で走り出し、見事なスプリントを決めて走り出していたのだ。
「止まれ伊予島ァ!! その先は地獄だぞォ!! つーか病弱設定は何処に行った?!」
「楽園が私を待ってるんです! もう止まりませんよ!」
普段の彼女とは違うそれを見送りつつ、追い掛けるのもアホらしくて足を止める。
どうせ綾乃が居るのだ。手を出そうとした所で吊るされるのが落ちだろう。
というか凄いスピードだ。あれで運動テストをすれば良い結果が残せるのではなかろうか。
「ゴール前に亜耶ちゃんと梓を設置してみるか……、と。うん?」
そんなアホな事を考えながら歩いていると、目的の教室へとたどり着いた。
そうなのだが、
――ひなたに怯えている雀と、それを庇う様にひなたを宥める若葉の姿があった。
◆
「……えーと、何があったんだ?」
声に振り向けば、入り口で此方を困惑した表情で眺めるモミジの姿があった。
救世主の登場に、ひなたに笑顔で詰められていた雀から歓喜の声が上がる。
「モミジさん~!! お助け~!!」
「うぉっ?!」
恥も外聞も無くモミジの身体に縋りつく様に助けを求める雀に、かなりの修羅場の経験もあるモミジですら更に困惑する。
そしてその雀の行動に、ひなたの笑顔の覇気が更に増した。
そんな状況を見て、あちゃあとそれを見た面々からぼそりと声が上がった。
「考えうる限り最悪の一手だね~」
「……手の込んだ自殺」
「地雷原の上でタップダンスしてますわ……」
「合掌」
「アンタら助けてくれなかったじゃんかぁ!!」
好き放題にボロクソ言ってくる外野に、雀から抗議の声が上がる。
何やら揉めている訳ではなさそうなのだが、話を聞かない事には何も始まらない。
「それで、これは何事?」
「……えぇ、実は」
ひなたが、言葉を続ける。
「加賀城さんが、モミジさんと綾乃さんの防人としての活躍をお聞きしたいそうで」
「へ? 防人としての?」
「はい」
笑顔でそう言うひなたの言葉に、真偽の確認を込めて周囲をちらりと見れば皆揃って頷いていた。
なんて統率力だ。巫女というのはここまで制圧出来るのか。
「モミジさん?」
「あっ、いえ。何でもないです」
背筋が凍る感覚に襲われそうになり、即座に話題を逸らす。
あれには逆らわない方がいい。
「そんで、何処からが聞きたいんだ?」
「出来れば、防人として活動を開始する所から聞かせてほしいの」
確認を込めて聞けば、雀ではなく芽吹から声が上がる。
「なら最初からか。長くなるぞ?」
「別に良いわ。私一人で居残りしてでも作業はするから」
ふんすと鼻を鳴らす芽吹に、周囲から声が漏れる。特に加賀城さんから。
「そこまでするのか……」
「するわ。……私の思う信念が正しいものか、そうでないのか、その判断材料の一つになるもの」
「そうか」
……彼女も、自分と同じように揺れているのだろう。
この在り方で正しいのか、間違いではないのか。
防人という、過去と現在では大きな違いがあれど勇者の助けになるという意味では、そう大きな違いはないのだろうか。
モミジからの話を、それに当て嵌めて考えたいのだろう。
「……確かに、気になる」
「
芽吹の言葉を聞いて、最初は話を合わせる程度の感覚だったしずくと夕海子の二人から声が上がる。
この二人も、何か思うところがあるのだろうか。
「……そういえば、防人としての活動を詳しく聞くのは初めてだな」
「そうですね」
若葉が思い出しながら言った言葉に、ひなたが椅子を引っ張りだして準備しながら言う。
「忙しかったのもありますけど、中々話してはくれませんでしたから」
「そりゃあ、まぁな……」
言えないこともしてたからな、とは言えずはぐらかす。
下手に誤魔化すのは不味い。さっさと本題に行くとしよう。
「なら、俺が神具を手に入れて直ぐの事だな。四国へと来る避難民を誘導しつつバーテックスを撃退していたよ」
思い出す為に、目を閉じて当時の事を頭に思い浮かべる。
まだ無力な、非力で人の身であった時の事を。
――正真正銘、命を燃やして走っていた時の事を。
綾乃の式神はもののけ姫に出てくるの木霊を大分デフォルメした感じだと思ってください。適当ですまぬ。
ひなたが威圧を放ってるのは嫉妬等ではなく、大切な親友二人を下世話な恋ばなに巻き込んだからです。大社時代からも多々あり辟易している。
その後のモミジへのハグは……ね?
防人組の一人称や喋り方等に違和感あれば申し訳ないです。