大神紅葉は防人である   作:社畜戦士 くっ殺

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少し遅くなりました。
書きたいことまとめていたら二部構成と言ったな、あれは嘘だの事態になりそうなので、一気に書き上げました。
作者の語彙力や表現の拙さから分かりにくいと思うので、最後に補足として纏めておきます。


過去の防人、現代の防人 2

 

 

――"防人"としての活動を大きく分けるのなら、それは二つに分類される。

 

 

一つ目が四国外の調査、避難者の誘導、救助だ。

 

 

「よっ、ほっ、ほっ、ほっ……」

 

 

身体に締め付ける様に身に付けた登山用のバッグをパンパンに膨れさせ、モミジは山道を走っていた。

 

時刻は夜。先程夕日が沈んだのが見えたから今は時期的に19時頃だろうか。と考えながらも足は止めずに動かし続ける。

 

山道に合わせ上下する身体と共にバッグが揺れ、中からはガッチャガッチャと金属製の物がぶつかり合う音が聞こえていた。

 

 

身体の前で毛布を巻いて抱き抱えているソレが、窮屈そうにもぞもぞと動くのを抑えつつモミジが苦笑いして言う。

 

 

「悪ぃな。もう少しだけ揺れるぞ」

 

「うん」

 

 

小さく返ってくる返事に、モミジは絶対に落とさない様にと再度抱え直しながら速度を上げた。

 

山道をジグザグに突き進み、第六感とも言える感覚器官で感じ取ったそこへとスライディングさながらに飛び込む。

 

モミジが飛び込むと同時に息を潜ませると、少し後から僅かな飛行音の様な物と共に何かが飛んで来ていた。

 

 

バーテックスだった。

 

 

周囲を探すように巡回をするが、痕跡も無く人の気配も感じ取れなかったのか諦めて何処かへと飛んで行く。

 

それを見送ると、モミジは安堵から大きく息を吐いた。

 

 

「もー良いかな。おつかれさん」

 

 

抱える様にしていた毛布を剥がせば、中からは小さな児童が一人。

 

ポケットからスマホを取り出し一つの画像を表示させると、それと児童を見比べて照合する。

 

 

「モミジ。戻ったのね……その子が?」

 

「おぅ。避難組からはぐれたって子で間違いない」

 

 

遡ること数時間前。

 

 

――弟が、街ではぐれてしまったんです……!

 

 

神樹からの神託で、四国へと向かっている一行が居るとの事で出迎えに向かったのは良いがその内の一人の女の子がそう焦った様相で捲し立ててきた。

 

何でも食糧の調達に街に入った際、何体かのバーテックスに追われショッピングモールの一室にやむを得ず隠したのだとか。

 

別の人が回収する段取りで本人はそのまま囮として走り出したらしいが、後になって合流すると弟を置き去りにした事に気付いたらしい。

 

街へと戻るか否かで揉めていた所を、丁度俺と綾乃が見付けたといった所だ。

 

 

そして、今に至る。

 

 

「お姉ちゃん……」

 

「ごめんねって言ってたよ。君の事が嫌いになった訳じゃないって。明日になったら会えるからね」

 

 

バーテックスに見付からない安全な場所で野営の準備をする中、助かった安堵からなのか目に涙を溜めて泣くのを堪える少年を綾乃があやしている。

 

不安から癇癪を起こして大騒ぎする訳でもなく、逆に大人しそうな子なのであの子は綾乃に任せるかと思いつつ食事の準備を進める。

 

まぁ、食事と言っても先程のショッピングモールで拝借した粉末スープと缶詰めだけなのだが。

 

 

「飯出来たぞー。明日は忙しいからな。明日に備えてお腹いっぱい食べたら早く寝ようか」

 

「そうね」

 

「うん!」

 

 

元気を取り戻し、問題なく食事を摂る少年を見ながらほっと胸を撫で下ろす。

 

……防人として救助に何度も向かってはいるが、こうして無事に救助が出来ている成功例は三割程だ。

 

ほとんどが恐怖や空腹に耐えきれず、隠れている場所から移動してバーテックスに襲われる。というパターンが多い。

 

だからこそ、

 

こうして助けた避難者は、必ず四国へと連れ帰る。

 

それが、大神紅葉が防人として一番に心掛けている事だった。

 

 

 

 

「――とまぁ、四国外の調査はそんな感じだなぁ。避難者の有無は、神樹が神託を降ろしてくれるから助かってたよ」

 

「"様"を付けなさいな、"様"を」

 

 

モミジの説明に対して、神として敬うべき神樹に様付けしろと夕海子がジト目で言う。

 

そういえば、神世紀だと神樹のみが神として扱われているのだったか。

 

平成に限らず、嘗ての日本では八百万の神として色々な神様が存在したと教えたらどんな反応をするのだろうか。特に亜耶ちゃん辺り。

 

 

「……悪い顔をしてる」

「気味が悪いわね」

 

「畜生。確かに悪巧みしてたから否定は出来んが傷付く!」

 

 

しずくと芽吹の言葉がぐさぐさと突き刺さるが、まぁ確かに要らぬ悪巧みをしていたのは自分の方なので甘んじて受け取る。

 

一通り喋ったのもあり、ひなたが用意してくれたお茶をぐいと一気に飲み干した。程よく冷たいお茶が喉を潤した後、ぷはと息を一つ吐く。

 

 

「さて、次は防人としての四国内の活動だな。俺が此処に来たときにも話したが、昔の四国は荒れた空気が漂っていたんだ――」

 

 

 

 

「ありがとうございます、本当にありがとうございます……!」

 

 

四国に帰還してすぐ、救助の要請をしていた女の子が駆け寄るとぎゅうとその子を抱き締めた。

 

苦しそうにしていたが、姉と再び逢えたのを実感したのか少しの後に少年の嗚咽が聞こえてきた。

 

 

「あの子達の手当てと、保護を宜しくお願いします」

 

「はい。お任せ下さい」

 

 

避難者の確認と書類の整理をしていた近くの大社職員に任せ、一足先に大社の施設内にあるソファで寛いでいた綾乃へと合流した。

 

歩き通しでだらけたくなるのも分かるが、年頃の少女がするには少々はしたない格好だ。

 

 

「お前な、またひなたにどやされるぞ?」

 

「調査から戻ったんだから少しくらい良いじゃない……」

 

「いや、周りの目を気にしろって意味なんだが」

 

 

自室でする分には全然良いんですよ……。と以前綾乃を折檻したひなたが呆れた様に言っていたのを思い出す。

 

大社施設内は基本的に巫女さんが事務所に居ることが多いのもありそこまで気にしないのだろうが、男性の神官も居るには居るのだ。

 

どうしたものかと諦め半分、呆れ半分で考えていると視界の端に一人の人影が見えた。

 

 

此方を何か言いたげに見ている神官を見て、内容を察したモミジが綾乃へと向き直るとそこにはすやすやと寝息を立てている彼女の姿があった。

 

 

「まぁ、確かに此処のところ連続で調査だったしな……」

 

 

すぐ側の事務所内の巫女さんに声を掛け、何か掛ける物と綾乃が起き次第宿舎に送るよう頼むとモミジを待つ神官の元へと歩き出した。

 

 

~~

 

 

「申し訳ありません。お疲れだとは理解しているのですが」

 

「別に良いですよ。それで、次は何があったんです?」

 

 

応接間に通され、目の前に大皿に乗ったおにぎりや摘まめるオカズ等を用意される。

 

それを礼を言って食べれば、丁度良い塩気が身体に染みるようだった。旨い。

 

 

「以前にも居た反大社団体が、ウチの傘下にある施設で暴れている様で。追っ払っても直ぐに別の所から派遣されるので、大元を叩きたいのです」

 

 

詳細を書かれた書類と、主要な面子の顔写真を手渡される。

 

 

反大社団体と呼ばれる存在は、中には嘗ての旧政府機関や、反社と呼ばれるならず者で構成されている事がほとんどだ。

 

大社が今の四国を管理しているのが気にくわないらしく、小競り合い自体は何度もあったのだが今回はとうとうその垣根を越えたらしい。

 

 

「自警団の人間を闇討ち同然に襲撃したり、中には住居にまで押し入る等もあったらしく……。被害にあった人間は軒並み病院送りになりました」

 

「警察は?」

 

「誰がやった等の明確な証拠もない上に、彼等は向こう側の組織です。幾らでも揉み消せるでしょう」

 

「だよねぇ……」

 

 

一縷の希望に掛けて聞いてみたが、想定どおりの答えにため息が出る。

 

証拠が無いから逮捕出来ない。なんて馬鹿げた理由だが、その理由を押し通してこの事態が続くならいずれは勇者や巫女に被害が出るのも時間の問題だろう。

 

それを見越して、此方に話を持ってきたのだ。

 

 

「及川さんには確認は取ったんですか? あの人元々向こう側の人間でしょう?」

 

「確認済みです。今は現場で指揮を執っている頃かと」

 

 

元反大社過激派だった人の事を聞けば、今は自ら現場に出ているらしい。

 

野心というか上昇志向が強い人でもあるので、一日でも早く上役に就きたいのだろうか。頑張ってほしい。

 

 

「分かりました。んじゃあこれ食べたら直ぐにでも行きます」

 

「ありがとうございます。……それにしても、モミジ様は健啖家ですね。それがその強さにも繋がるのでしょうか?」

 

「えぇ。身体作りも兼ねてますけどね」

 

 

モミジの返答におぉ、と感動した様子だった神官だが、邪魔しては失礼だと直ぐに部屋を出ていった。

 

本当はモミジが使用している神具が、握るだけでモミジの生命力をガンガンに吸い取って行くため普段から食い溜めをしていると言った方が正しいのだが、まぁ、食べることは嫌いではなく寧ろ好きな方なので健啖家である事の否定はしない。

 

 

おにぎりを齧りつつ、再度報告書へと目を通す。

 

 

「さてと。んじゃ、お仕事に行きますかね」

 

 

防人としての活動。その二つ目。

 

それが、四国内の治安維持活動だった。

 

 

 

 

深夜。四国内。某所。

 

 

慌ただしく人が往来するその倉庫内で、男は煙草の煙を揺らしながらそれを眺める。

 

見渡す限りの銃、刃物、爆薬の類い。

 

四国を牛耳る大社を潰す為、そして勇者と呼ばれる人の理解を越えた戦力を宿す少女を始末する為に用意されたものだった。

 

 

「頭ぁ。此処で煙草はヤバいですって! 万が一火が着いちまったら……!」

 

「あぁ? うるせぇよ。これから全てをひっくり返すんだ。気合いくらい入れさせろ」

 

 

そういって傍らにあるテーブルに置かれた酒の封を乱雑に破り、その中身を煽る。

 

喉を通り腹の中に流れ込む熱い感覚が、僅かに残った焦燥を興奮へと塗り替えて行く。

 

 

「良いかお前ら。外の大社の奴等を始末した後は丸亀城へと行け。そこに勇者とか呼ばれてるガキ共が居る筈だ!」

 

「「「へい!!!」」」

 

 

一気に沸き上がった喧騒に、思わずにやりと笑みが浮かぶ。

 

銃の一つを手に取り、ガシャリと撃鉄を起こす。景気付けに外の奴等へと照準を向け撃ち殺そうとした所で、

 

 

「いや~、止めといた方が良いと思うよ」

 

 

場違いな子供の声に、直ぐ様声の方へと振り向く。

 

そこには見たことのある顔の子供が、バシャバシャと何かを銃等の武器類に振り撒いていた所だった。

 

何を、と口を開こうとして鼻につくツンとした臭いに男の顔が青ざめる。

 

 

「お、お前。ガソリン何か撒いてどうするつもりで……!」

 

「うん? 交渉するには此方が有利だって状況でしなきゃならないでしょ。だからだよ」

 

 

ガラン、と赤いポリバケツを此方に放り投げて少年、大神紅葉は笑う。

 

報告にあった勇者達と同等の力を持った少年という話だったが、まさかこんな事をするとはと男は歯痒く顔を歪ませる。

 

 

「因みにそれ撃ったら此処丸ごとドカンだからね。分かったら大人しくして下さい」

 

「ふ、ふざけ……!」

 

「ふざけてんのはそっちだろ。少しずつ四国内の治安も良くなってるのに、またあの日に戻すつもりか?」

 

 

男の言葉に、モミジが苛立ち混じりに言葉を崩す。

 

あの日、というのがあの化け物が降ってきた日だというのは直ぐに分かった。

 

だからこそ、と男は吼える。

 

 

「神だの勇者だのと見えもしねぇ物に頼ってる頭のおかしい連中の言うことを聞ける訳ねーだろ! 時代が戻るってんなら、暴力が物を言う時代にするまでなんだよ!」

 

 

そこまで言って、手にした銃の照準をモミジへと向ける。

 

撃てばドカン。という言葉を思い出し、手が僅かに震えるが意を決した様に銃を握り直す。

 

 

だが、それが引かれる事はなかった。

 

 

ちくり、とした小さな痛みの後にぐらりと視界が揺れる。

 

視界の端に床が映ったのが見えて、自分が倒れたのだと気付いた。

 

 

「ぁ、……ぉ」

 

「無理無理。当分立てないし喋れない麻痺毒撃ち込んだから。気付かなかったでしょ?」

 

 

目が動かせる範囲で周囲を見れば、他の部下達も同様に倒れ痙攣していた。

 

いつの間に、と痺れる脳内で考えていると視界につぅ、と降りてきたのは爪の先程の小さな蜘蛛。

 

 

まさか、毒蜘蛛?

 

でも、そんな蜘蛛なんて聞いた事が無い。

 

 

「"女郎蜘蛛"って聞いたことない?400年程蜘蛛が生きると化けるらしいよ。あぁ、死ぬ程の毒じゃないから安心して」

 

 

けらけらと気楽に笑うモミジの声に苛立ちが募るが、徐々にぼやけてくる視界と力が抜けていく身体に抵抗する気力すらが失せていく。

 

 

「因みにさっきのガソリンは嘘だよ。"蜃気楼"って蛤の妖怪のね」

 

 

その言葉を聞きながら、落ちていく瞼を見つつ最後に思い出す。

 

神等と言う胡散臭いモノを信仰する大社の、更にその中でも眉唾な存在を。

 

"精霊"と呼ばれる、非科学的な力を秘めた存在を使役する少年の事を。

 

 

「お役目終了だな。……くぁ、さっさと風呂入って寝よ」

 

 

"防人"と呼ばれる、大神紅葉という存在を。

 

 

 

 

「――以上が、俺の防人としての活動かな。案外普通だろ」

 

「いや、昔の四国どんだけ世紀末なの?!」

 

 

簡単に説明を切り上げたモミジの言葉に、雀がコントの様にツッコミを入れる。

 

前から思っていたが、この子はツッコミの才能が有るようだ。ボケの多い勇者部では珍しい方だろう、頑張ってその腕を磨いてほしい。

 

 

「裏で何かしているのは知ってましたが、本当に危ない事にまで手を出していたとは……」

 

「一言相談してくれれば良いのに何故だ?」

 

 

ひなたの言葉に丸亀城に居た頃の折檻を思い出し思わずひやりとしたものが背筋に走った。

 

続く若葉の言葉に僅かに言い淀みながらだが答えた。

 

 

「流石に勇者が動くと四国中がパニックになるからな。隠密に、なるべく大事にならないよう動くのが基本だぞ」

 

「それもそうか」

 

 

勇者が動くとなると、当然大社もその身を守るために警備隊を敷くことになる。

 

万が一を考えると、その勇者と同じ戦力を持つモミジに白羽の矢が立つのは仕方の無い事だった。

 

 

「……でもそれだと、モミジさんは大社からすれば捨て駒みたいな扱いじゃないの? 勇者のストックというか、都合の良い存在というか」

 

「……楠」

 

「でも、事実じゃない。それについては何も感じなかったの?」

 

 

芽吹のストレートな発言に、しずくが失礼だと目で訴えるがそれでも変わらずそう訊ねてくる。

 

嘗て、勇者の座をかけて同じ勇者部の三好夏凜としのぎを削った楠芽吹。

 

結果は敗北。しかもその後に紹介されたのは、勇者ではなく四国の結界の外の調査へと赴く捨て駒の様な防人という部隊。

 

 

そんな煮え湯を大赦から飲まされた芽吹だからこそ、勇者という存在に固執し形は違えど同じ境遇のモミジに興味を持ったのだろう。

 

同じ防人でも、勇者である若葉達や大社から認められていた大神紅葉という存在に。

 

 

沈黙し思考するモミジの解答を、一同が固唾を飲んで待つ。

 

 

「んー……、特に?」

 

「へ?」

 

「特に何も。恨むも何も、別に悪意を持って接されていた訳じゃないからな。あの時代の中の、損な役割だと言われたらそうなのかもしれないが」

 

 

一息に話して、お茶をぐいと飲む。

 

呆けている様な芽吹へと、モミジが苦笑いして言う。

 

 

「今の大赦がどんな組織かは分からないけど、俺達が生きていたあの時は皆生きるのに必死だったからさ。不幸だの何だの、一々嘆いてる暇なんて無かったよ」

 

「……なら、貴方は何のために防人として生きていたの?」

 

 

生きるのに必死だった時代というならば、そんなお役目は自分の精神を磨り減らす苦行の様なものではないのか。

 

力があるからといって必ずしも他人の為に使わなくてはいけない訳ではない。もっと他に、自分の思うままに使おうとは考えなかったのかと。

 

そんな芽吹の問い掛けに対してモミジは少し悩んで、

 

 

「……秘密」

 

「なっ?!」

 

「そこまで考えられるなら、その内楠さんにも答えは見付けられるさ。んじゃ!」

 

 

はぐらかされた解答に芽吹が面喰らっている内にモミジは颯爽と部屋を飛び出して行った。

 

まるで台風みたいだったねー、なんて園子の言葉が芽吹へと虚しく響く。

 

 

「さっき、モミジがダッシュでどっか行ったけど何かあった?」

 

 

入れ替わりというのか、綾乃がひょっこりと部室のドアから顔を覗かせて訊ねる。

 

 

「綾乃か。少し、昔話を聞いていただけだ」

 

「そちらの作業はどうですか?」

 

「順調よ。今日はもう遅いから、先に小学生達と乱入してきた杏ちゃん(不審者)は帰らせたわ」

 

「待て。今とんでもない言われ方をしてなかったか?!」

 

 

さらりと言い流した綾乃の言葉に若葉が反応しているのを見ながら、そういえば今は何時かと時計を見る。

 

見ると、もうとうに下校時刻を過ぎていた時間帯だった。これは不味い。

 

 

「皆ごめんなさい! 後は私がやるから、先に帰って」

 

 

急いで作業の続きをと始めれば、周囲から反対の声が上がる。

 

 

「もう遅いんだから明日で良いんじゃない? メブー」

 

「……無理は良くない」

 

「そうですわ。焦って作業しても、上手くは行かないと言いますし」

 

 

そうは言っても、このままでは祭りに間に合わない。

 

それにモミジの話を聞こうと言ったのは自分だ。責任は持つと言ったのだし、最後まで全うすべきだろう。

 

 

「なら、アタシが手伝うわ。若葉ちゃん、皆の見送り頼める?」

 

「別に良いが。大丈夫なのか、綾乃?」

 

「"式神"使うから人手は充分よ。だから大丈夫」

 

 

言い出したら止まらない綾乃の性格を知ってるが故か、ならばと若葉は皆を連れ立って部屋を後にした。

 

帰り際に心配そうに此方を防人の面々が見てきたが、大丈夫、という意味を込めて軽く手を振れば通じたのか皆も帰路に着いた。

 

 

「よーっし。さっさと終わらせるわよ」

 

 

言葉と共に懐から取り出した人の形をした紙人形、"人形"(ヒトガタ)を放れば薄いもやの様な物が紙人形の周囲に纏わりつき人の姿を形作る。

 

それらが自我を持つように一人手に動き出すと、提灯を型作る骨組みを組み上げて行く。

 

 

「骨組みまでは"式神"にやらせるから、和紙を貼るのを頼める?」

 

「え、えぇ……」

 

 

初めて見たそんな光景に思わず返答が遅れるが、次々に送られてくる骨組みを綾乃と二人で黙々と和紙を貼り付けて行く。

 

このペースなら、思ったより早く終われそうだ。

 

 

「モミジと昔話をしたって言ってたけど、どんな話をしてたの?」

 

「貴女達の時代の、防人の話をきいたわ」

 

「へぇ」

 

 

作業する手は止めず、ぽつりぽつりと話を続ける。

 

 

「……ねぇ。綾乃さんなら、モミジさんが防人をしていた理由が分かる?」

 

「んー?」

 

 

先程本人に聞いてはぐらかされた内容を、相棒的な立ち位置だった彼女ならば分かるかと聞いてみる。

 

芽吹のその言葉に、作業を止めて暫し思い出すように天井を綾乃は見上げる。

 

 

「本人には、秘密って言われたわ」

 

「あら、それじゃあアタシから言えることは無いわね」

 

 

綾乃からの言葉に、それもそうかと思わず笑みが浮かぶ。

 

モミジも言っていたがこれは芽吹自身の問題。他人から答えを貰うようなものではないのだ。

 

ただそうね。とそんな芽吹を見かねたのか綾乃が言う。

 

 

「亜耶ちゃんが言ってたわよ。芽吹先輩は頑張り屋さんなのが玉に瑕です。って」

 

「亜耶ちゃんが……?」

 

 

身近な存在に、そんな風に評価されていたとは知らず少し考え込んでしまう。

 

 

「自分の発言に責任を取るってのは、確かに大事な事よ。無責任な奴に誰も着いて行こうとは思わないし、信用もしない。でもね、」

 

「仲間に心配される程、自分を追い込む事はないんじゃないかな。甘えたって良い、頼ったって良いんだよ」

 

「アンタの思う強さ、または"勇者"がどんなものかは分からないけど、アタシが知ってる勇者や強い奴は一人で強くなった訳じゃないわ」

 

 

一息に話し、同時に提灯に和紙を貼り終わる。

 

出来上がった提灯を入れるための段ボールが一杯な事に気付き、新しい物を取りに部屋の隅へと行く綾乃の後ろ姿を見ながら、今言われた事を反芻した。

 

 

仲間の重要性は、痛い程良く理解していたつもりだ。

 

防人という部隊に所属し、隊長として任務を遂行する。その上で、部隊を率いる隊長として部下達の事も理解している。

 

……している、つもりだったのだろうか。

 

私は、自分の我が儘や自尊心を責任感という言葉で周囲に押し付けていただけだったのではないか?

 

 

――その時。

 

 

コンコン、と部屋のドアがノックされる。

 

下校時刻はとうの昔に過ぎている。もしかしたら、当直の先生が見回りに来たのかもしれない。

 

そうなれば、直ぐにでも此処を追い出されるだろう。

 

 

面倒だな、と思いつつも返事をする前にがらりとドアが引かれる。

 

そこに立っていたのは、見知った姿だった。

 

 

「貴方達、帰ってなかったの?」

 

 

そこに居たのは帰った筈の雀、しずく、夕海子、亜耶の四人だった。

 

芽吹の言葉に、雀が後ろめたそうに言う。

 

 

「モミジさんの話を聞いたのは、私達もだからさ。やっぱりそのまま帰るのは違うよね、って」

 

「雀……」

 

 

しずくと夕海子もそうなのか、芽吹が目を向けると同意するように頷いていた。

 

少し沈んでしまった空気を変えようと、亜耶が持っていた少し大きめの包みを見せる。

 

ふわりと香るそれは、空腹だった芽吹の胃を食欲へと誘発させた。

 

 

「芽吹先輩と綾乃さんへの差し入れです。お腹空いてると思って」

 

「あら、良いわね。じゃあ皆で食べない?」

 

「さ、賛成ーっ! メブー、中に入れて入れてっ!」

 

 

会話を聞こえたのか、差し入れ、という言葉に綾乃が提案すると雀がここぞとばかりに声を上げて芽吹をぐいぐいと部屋内に押し込む。

 

何か言われる前に行動を起こしてしまえ、という考えなのだろうとはやりきった後の様な顔をした雀を見て理解出来た。

 

ならば、私がすべき事は。

 

 

「ありがとう。やっぱり、皆に作業を手伝って貰えると助かるわ」

 

 

真摯に頭を下げ、意地を張らずに素直に助力を願う。

 

これが、私の力になりたいと思う仲間への対応だと、今はそう思う。

 

 

芽吹の突然の変化に、思わず防人隊の四人の動きが止まる。

 

固まった表情が、次第に嬉しさと気恥ずかしさへと変わるのがお互いに目に見えて、思わず笑いあった。

 

 

「当然だよ、メブー!」

「……任せて」

「勿論、お請けいたしますわ!」

「頑張ります!」

 

 

「やる気があるのは良いけど、昼みたいにサボらないでね。加賀城さん?」

 

「ちょ、もうサボらないですよぅ?! 綾乃さん~!」

 

 

やる気満々な雀へと、綾乃がしれっと昼間のサボりの事を刺せば雀が慌てて綾乃へとご機嫌取りに必死になる。

 

そんな光景に、再び部屋内に笑い声が響き渡った。

 

 

――勇者の座をかけて三好夏凜と競ったが私は敗北した。

 

その次に所属した防人隊は、はっきり言って勇者の代替品も良いところの寄せ集めの部隊。

 

だからこそ、誓った。この防人隊で隊長として功績を積み上げ、私は勇者よりも凄いのだと、大赦の連中の目は節穴なのだと証明しようと。

 

 

だが、それは少し違う。

 

 

勇者部は、それぞれが強いという訳ではなかった。

 

互いを頼り、尊重し、弱さすらも晒し互いを支え合う。

 

その柔軟さこそが、個人の強さばかりを求めた楠芽吹には無く、勇者としての強さを求めた三好夏凜には有った物なのだろう。

 

 

「一歩ずつ、マイペースに行くのが良いのかしらね」

 

「はい!」

 

 

独り言の様に呟いたそれに、傍らの亜耶が元気に反応した。

 

差し入れが待っている、と空腹な腹が自己主張するのを抑えつつ、直ぐにでも終わらせようと和紙を手に作業を再開する。

 

 

――不思議と、気持ちは軽くなっていた。

 

 

 

 

 





出てきた精霊
蜃気楼 大蛤の妖怪。名前の通り幻覚を見せる。
女郎蜘蛛 何度か登場。人を殺す程の毒は無いが、麻痺させたりモミジが全力で引っ張っても中々千切れない強力な糸を出す。

モミジが防人をしている理由は、今までにもあった通り家族とも呼べる仲間を守るためです。

物心ついた頃にはもう血の繋がった家族が居なかった事もあり、"紅葉"という名前をくれた綾乃はモミジにとってある種家族以上の崇拝する存在になりました。

モミジが綾乃や勇者達よりも強かった事や思春期という特殊な時期から、自分が誰よりも頑張って護らねばという強迫観念に近い使命を自分で背負います。番犬の誕生。

普通の人間であれば四国外の調査なんて直ぐに限界が来る所が、生まれ持った神の素養から全ての難関をこなしていく内に若葉やひなた等の周囲の人間も感覚が麻痺。

唯一気付いていた若葉の祖父だったが、若葉には伝わらず逝去。綾乃も気付いてはいたが、具体的な治療法も分からず時間が解決するだろうと暫くは静観していた。

諏訪で出会った歌野はその異常に気付き、モミジに周囲を頼るようアドバイスするが、結局最後の最後までそれは叶わなかった。

そして、綾乃が受けた"天照の呪い"が発動。綾乃が逝去。

レオ・バーテックスを倒し、自身を犠牲に国譲りの儀を行おうと考えてる所で、全員がモミジの異常に気付くが時既に遅し。

強力な個の力ゆえに、他者の力を必要としなかった。自分のエゴを押し付け過剰なまでに家族を護ろうとする……それが、大神紅葉の強さであり弱さでもあります。

紅葉自身もそれを自覚しているが、自分が頼った綾乃の叔父である和人が殺されてしまった事もあり、万が一を考えて中々行動には踏み出せず。

そんな彼を変えるには、どうすれば良いのか。そして変わった時、彼はどういった結論を出すのか。

それを、これからの物語で表現出来ればなと思います。

長々とした文章でしたが、ここまで読んで下さりありがとうございます。

これからも、ゆるりとお待ち戴けたらと思いますm(_ _)m
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