大神紅葉は防人である   作:社畜戦士 くっ殺

8 / 87
諏訪事変 2

『いやぁ、弱すぎて笑うわ。いや、逆に笑えんわ』

 

「ぶっ飛ばすぞジーさん」

 

 

開口一番煽るように言ってきた諏訪神に、モミジは青筋を立てながら返答する。そんな様子を見つつもプププと笑い、諏訪神が言う。

 

 

『というかお主、“精霊”全く使っておらんの、何でじゃ?』

 

「精霊システムの事か、起動させてるぞ?」

 

『違う。お主が来たとき、“鬼”を憑依させたじゃろ、それの事じゃ』

 

「……あぁ、“精霊降ろし”の事か? あれは体力の消費が激しすぎるから、ここぞという時にしか――」

 

 

モミジの説明に、そりゃあお前さん、と諏訪神が被せて言う。

 

 

『お前さんが“精霊”を従えておらんからよ。とりわけ“鬼”の様な、()()()()()()()()()が精霊になったものは、反発する力も強い』

 

 

「反発?」

 

『穢れとも言うかの。身体を乗っ取ろうと、あの手この手で使用者を殺しに来る筈じゃよ』

 

 

その言葉に、諏訪で“精霊降ろし”を使用した時の反動を思い出した。何時もと違う疲労感、あのままなら死んでいた可能性がある。

 

「なるほど。ここで使ったときに倒れたのは、余分に体力を持っていかれたからか」

 

『あ。それについてはワシから謝罪が。諏訪の地に結界張っとったろ、あれが原因じゃ。ワシの神威を感じて精霊共がピリピリしてたからのぅ』

 

「お前のせいかよ!!」

 

 

思わずツッコミを入れてしまう。実際後ちょっとで死んでいたかもしれないのだ、冗談ではすまない。

 

すまんすまん、と軽く謝る諏訪神は、だから、と話を続ける。

 

『それの詫びも兼ねて、ワシが稽古でもつけてやろうかとね、おもってね』

 

「なんかこじつけが適当な気もするが……。てか、どうやって稽古をつけるの?」

 

 

某有名漫画の様に、重石を背負って鍛練でもするのか?と想像する。うん、限りなくシュールだ。

 

此方の言葉に笑い声で返答すると、一面真っ白な世界に、突如一迅の竜巻が巻き起こる。身体が引っ張られないよう踏ん張り耐えると、暴風が止むのと同時に、一人の姿が現れる。

 

姿は毎日鏡で見る姿、つまりはモミジだった。髪は下半身まで及ぶほど長くなり、それを一つに纏めた先は、白く燃えるように揺らめいている。若葉色の新緑が基調の神官服の様な物を着ており、背中には身の丈の3倍ある程の注連縄を円にして背負い、その上に御柱が4本時計回りに生えていた。

 

その姿と神威に圧倒されていると、その姿のモミジが自慢気に笑う。

 

『ワシは“戦”を司る神でもあるからの。お主のその“精霊降ろし”、ものにするまでワシが稽古をつけてやろう』

 

「――それはありがたいけど。まさか日中寝るつもりか? バーテックスが来たら」

 

 

モミジの言葉に、それは大丈夫じゃ、と諏訪神は言う。

 

 

「起きたら分かる」

 

 

その言葉の意味を知る前に、モミジはまた意識が真っ白になった。

 

 

 

「あ、起きた」

 

目が覚めると、目の前に小さな子供らの姿があった。まだはっきりしない意識と、ズキリと痛む頭に思わず手を当てる。

水都ねーちゃん、と一人の少年が間延びした声を上げると、パタパタとスリッパの音を立てながら藤森さんが現れた。

 

 

「モミジさん。良かった、無事だったんですね」

 

「一体何が、――あぁ、やっぱ良いです」

 

「えぇ?!」

 

何があったのか、と聞こうとして歌野に完璧な敗北を受けたことを思い出して項垂れる。突然落ち込みだしたモミジに、水都はあたふたと慌て出す。

それを見てケラケラと笑う子供らをため息と共にジト目で見れば、モミジは苦笑して言う。

 

 

「手も足も出なかったなぁ……」

 

「あぁ、さっきの事……。仕方ないですよ、うたのん、強いから」

 

「うたのんねーちゃんは最強だからな!!」

 

「おー……」

 

「にーちゃんは雑魚だな」

 

「うっせぇ」

 

此方を煽る少年の鼻先をきゅっと摘まむ。ふがふがと間抜けな声を立てつつ抵抗するのを、ふはは精々抗うが良いわ、と魔王的な態度で返していると藤森さんがくすりと笑った。

うたのん達に伝えて来ますね。と言うと去って行った藤森さんを見送っていると、右頬に鈍い衝撃が走ると同時に視界がぶれた。

 

見ると、仲間を助けるべく徒党を組んで此方へと攻撃を加える子供ら。良い度胸だ。

 

 

「今だ。やっちまえ!」

 

「さぁ、かかって来い。お兄さんが相手をしてやろう……ッ!」

 

 

大人気ない戦いが、今始まる。

 

 

 

 

「……随分と元気そうね?」

 

「いたたた、ちょ、諏訪のキッズ割りと容赦ない……」

 

 

諏訪の子供達にボコボコにされているモミジの姿に、歌野は驚き混じりに声をかけた。

自分の攻撃で気を失った彼に謝りに来たのだが、起きてすぐ子供とじゃれ合うくらいには回復しているらしい。

 

歌野が来たことに気付いたのか、子供達はケラケラと笑いながら蜘蛛の子を散らすごとく去って行った。元気な事だ。

 

 

「一応、謝りに来たのだけど……大丈夫そうね」

 

「おう。大丈夫大丈夫、これくらいの怪我でダウンするほどやわじゃあないさ」

 

「なら良かったわ。手伝ってほしい事があるの、来て貰える?」

 

「俺に出来る事なら、何でも」

 

ありがとう。と笑顔で言う歌野の後を、モミジは着いていった。

 

〰️〰️

 

照りつける太陽、広がる広大な大地、そして風に乗って香る青臭い匂い。

諏訪が誇る、白鳥歌野お手製の畑にモミジは来ていた。

 

 

「うっひょー、でけー」

 

「自慢の畑よ。今の時期、幾つかの収穫と種植えが重なってるから手伝ってほしいの」

 

「オーケー、喜んで手伝うよ」

 

 

籠を受け取り、トマト、キュウリ等の野菜を次々と収穫していく。幾つか手に取った所で、ふとした疑問を訊ねてみた。

 

「この野菜って、今が旬だっけ?」

 

「あぁ、()()()

 

そう。温室で育てているという訳でもないのに、様々な季節の野菜が綺麗に育っていた。プチリとトマトを切り取ると、白鳥さんは言う。

 

 

「豊穣を司る、諏訪の神様のおかげかしらね。適切な世話をしてあげると、ある程度の野菜なら早く実が育つの」

 

「へぇ、そば粉とかも?」

 

「そうよ。ここの食卓は、いつでもヘルシーなんだから!」

 

どやぁ、とドヤ顔の歌野は、でも、と苦笑いを浮かべた。

 

 

「育ち盛りの子達も居るから、魚とかの肉も獲らなきゃいけないんだけどね……」

 

「……なるほど、バーテックスか」

 

「うん。結界のギリギリの範囲に魚が棲む川があるのだけど、かなりデンジャーなの」

 

 

バーテックスが出る以上、歌野が魚を捕るしかない。

 

だが、それにばかり集中していると他の守備が疎かになる。

 

かといって、諏訪の食料事情をやりくりする歌野からすれば、魚等の肉類も何とかしたいのが現状だった。

 

 

「大人や子供達も野菜で充分って言ってくれるけど、……やっぱり美味しいものを食べたいじゃない?」

 

「そうだな。……分かった、俺たちでも何か考えてみるよ」

 

「本当? 頼りになるわね、ありがとう!」

 

 

差し出されたトマトを受け取り、がぶりと中程までかぶりついた。

甘味と酸味が程よい果汁とぎっしりと詰まった果実にもう一口と口に入れる。

その様子を見てにこりと笑うと、歌野はキュウリを採るとかじった。パキリと程よい音を立てて、ん~と目を細める。

 

「良い塩梅ね。塩や味噌が欲しくなるわ」

 

「梅肉を混ぜたマヨネーズなんかもさっぱりしてオススメ」

 

「ナイスねモミジさん! 今日のおやつは決まりだわ!」

 

 

此方の提案に目を輝かせると、白鳥さんは目に見えて作業の速度を上げていった。周囲で作業をしている人達のペースを考えるに、このままなら一時間も掛からないだろう。

そうなれば昼過ぎ、ちょうど昼御飯の時間だ。

 

 

 

「うたのん、モミジさん。お昼の用意が出来たよ」

 

 

作業が一段落ついた頃、良いタイミングで藤森さんから声が掛かった。見れば、綾乃を含めた数人の女性が、お昼が入ってるであろう重箱を手に此方へと来ている。

 

分かったわ。と返事をする歌野に合わせるように、モミジも着けていた軍手を外しタオルで汗を拭う。喉がカラカラだった。

 

 

「はい、麦茶」

 

「おー、サンキュー」

 

紙コップを手渡され口に運べば、麦茶の風味と心地好い冷たさが喉を潤してくれる。ぷはっ、と一気に飲み干し、お代わりを貰った。

 

聞けば、この麦茶等の茶葉も白鳥さんの畑からの物らしい。作物なら何でも育つのだろうか。

 

若葉なら小麦一択だろうな。と考えながら、どうぞと差し出された重箱のおにぎりを手に取る。色んな具が入ってるから、一杯食べてね。とは藤森さんの言葉だった。

 

 

「私も作ったの、今アンタが持ってるそれとか」

 

「へー、中身は?」

 

「プチトマト」

 

何故、そのチョイスなのか。

 

 

塩気の効いた程よい歯触りの米に、甘いプチトマトの酸味が加わる。まさに不味くないけど微妙、という絶妙なハーモニーに思わず頭を抱えた。

同じものをもう一つ手に取りながら、綾乃へと言う。

 

 

「お前さ、訳の分からない挑戦するの止めてくれないかな」

 

「そう言いながら食べるのね……、愛の為す技かしら?」

 

「白鳥さん、これは勿体ないから食べるだけです」

 

綾乃が作った分を消化しつつ、藤森さんから渡された味噌汁に口をつける。出汁の風味と味噌の合わせ技に箸を進めていると、藤森さんが笑う。

 

「良かった。今回の担当は私だったから、少し不安だったんだ」

 

「そうだったんだ。美味しいよ、この味噌汁」

 

「そうだよ、自信持ちなって。将来、毎朝作ってほしいくらいよ!」

 

「う、うたのん……」

 

 

最早お馴染みになった夫婦漫才に皆で笑い声を上げていると、底から響くようなサイレンの音が鳴った。

その音に諏訪の皆の顔が強張る。つまりこれは――

 

「バーテックスか」

 

「そうね。……ごめんなさい、モミジさん手伝って貰えるかしら?」

 

「元よりそのつもりだよ。場所はどこだい?」

 

精霊システムを起動させ、側に置いてあった大刀を手に取る。――僅かに感じた違和感に首を傾げるが、原因は分からなかった。

 

藤森さんが頭に手を当て、端から見ても分かる瞑想状態へと入っている。思えばひなたも、神託を受ける際には同じような状態になっていた。

 

「場所は……、社の入口方面と、――っ、そんな?!」

 

「みーちゃん?!」

 

驚きのあまり神託を強引に切ったのか、頭痛を堪えるようにしながら震える声で藤森さんは告げる。

 

「諏訪大社の後ろ、河川に来てる。彼処は確か今――」

 

「――子供達が近くに居る筈よ?!」

 

 

白鳥さんの顔が驚愕に染まる。ぐずぐずしている暇はない、行動は迅速に行うべきだ。

 

「白鳥さんは社の入口に。救助者が複数居る場合、鞭の方が処理がしやすい」

 

「でも、子供達の事もあるわ!」

 

「大丈夫。そっちは俺が行くから。任せてくれ」

 

「――分かったわ、お願いします!」

 

 

言葉を交わし数瞬後、二人は駆け出した。

 

諏訪神から言われた、精霊のコントロール。まだ何も分からない状態だが、それでも今はやるしかない。

 

駆け出す足を、更に強く踏み込んだ。

 

 

 

 




オリキャラの紹介とか、設定の説明とか近々作ろうと思います。
暇潰し程度で、この駄文にもお付き合い下さい。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。