今回の話はゆゆゆいのとある話がベースです。
「うぃーす、お疲れさん」
放課後。もはや日課となりつつある勇者部での集合時間。
言葉と共に勇者部の部室であるドアをモミジはがらりと開けた。
いつもであれば廊下にまで賑やかな声が響いているのに今日は静かだなー、なんて思いつつ中を見ればそこには異様な光景が広がっていた。
「…………」
「若葉ちゃん。お茶、冷めちゃいますよ?」
「……えーと、ぐんちゃん。何か食べる? 今日のおやつまだだよね?」
「ありがとう。でも今は良いわ、高嶋さん」
「何、この空気……」
何だか丸亀城で初めて顔合わせした時の様な、ぎくしゃくしている空気にモミジがドン引きしていると、部長机という名のシステムデスクで気配を消していた部長の
正直行きたくないが、涙目で必死に手招きする風に根負けする形で仕方なく足を進める。
「ちょっと! さっき嫌そうな顔してなかった?!」
「いやぁ、何か面倒臭そうな事案だなぁって」
小声で怒鳴るという器用な事をする風へと合わせる様に、モミジも小声で包み隠さず本音を風へと言うがそれを聞いた風が更に怒る。
「同じ平成の勇者の仲間でしょ?!冷たいじゃない!」
「それを言うなら風さんは勇者部の部長では?」
「うぐぅ」
モミジからの返しに言葉を詰まらせる風。
茶番はここまでとばかりにそれで?とモミジが風に訊ねる。
「何があったんだ、あの二人。昔も多少揉めてた事はあるが、ああいう揉め方は初めてだ」
「実は――」
風の語る内容を簡単にまとめると、
↓
データ全破損。千景がキレて口論の末に若葉も激怒。
↓
色々あって仲直りするが、ゲームは返って来ない。
↓
若葉が気まずくなり、千景もそれを感じて気まずい。
↓
今に至る。
「――ってな訳」
「なーるほど」
風の説明に、モミジが納得行った様に頷く。
話で聞いたゲームは、確かに千景のお気に入りの中でも特にやり込んでいたゲームの筈だ。
たかがゲーム。という物でもあるが、どんな趣味にしろ本人が心血注いでやり込んだ物が唐突に無くなればやるせなくなるのも分かる。
「「…………」」
お互いに長机を挟み、目を合わせる事もなく淡々と過ごす。という振りをしている。
既に怒りは無いのは分かるのだが、特に若葉は千景がゲームを人一倍好んでいるのを知っている為尚更気まずいのだろう。
二人の側にいる
あ、友奈と目が合った。
「~~っ!」
何かを必死に目で訴えているのだろうが、端から見れば此方を睨んでいるようにしか見えない。
怒っている訳でもない友奈が睨んだ所で、怖さとは逆の微笑ましいものだなぁと思っていると途端に背筋に寒い物を感じた。何だ?
「モミジさん、ちょっと」
「はい、只今」
「私の時と反応が違う……」
脊髄反射の如く振り向けば、ひなたがいつの間にか部室の入り口に笑顔で立っており、此方へと手招きをしていた。
一も二もなく即座に応じたモミジに、自分の時との対応の差に風が思わず言葉を漏らしていた。
許せ、風さん。
~~
「――って事なんですが、何か良い案がありますか?」
「そうだなぁ」
先程風から聞いた内容と同じ物を聞き、どうすれば良いかという問いにモミジが腕を組んで悩む。
簡単な物で言えば新しいゲームを渡せば良いのだが、千景はゲーマーという事もありゲームに対する拘りも強い。
以前モミジや大社職員を含め、ゲーム大好きな面子で語り合った事もあるのだが、その時の千景の拘りは群を抜いて突き抜けていた。
「私はゲームの知識が乏しいので……、モミジさんなら一緒に遊ばれている事も多かったでしょう? 千景さんが好きそうなゲームに心当たりはないですか?」
「確かにそうだが……。神世紀のゲームは正直、これだって思える物が少なくてなぁ」
神世紀は"神樹の恵み"が産業のほとんどを締めており、食に関しては何不自由無い生活を送れている。
その反面、娯楽に関してはあまり平成の頃と比べて進歩が少なく、新たな技術等が必要なゲーム等の電子機器は軒並み平成止まりなのだ。
前に
300年も進んだのだから、ゲームの世界に飛び込めるかと期待していたのだが。
「千景のやってたゲームも平成の物だし、同じ物を渡してもデータが無いから意味が無いしなぁ」
「でも、このまま二人があの雰囲気だと周りの士気にも影響しますし……」
確かに、とひなたの言葉に納得する。
先程の状況でも、二人の雰囲気に巻き込まれた連中が遠巻きに見るように避けていたのだ。
そんな人間が、揉めてる訳でもないにしろ気まずくぎくしゃくしているのは見ている側でも嫌だろう。
でも、どうするか……。とどんなゲームが良いかと考えていた時、ふととある事を思い出した。
それに気付いたのか、ひなたが縋る様に此方を見詰めて来る。
そんなひなたを抑えつつ、モミジが言う。
「四国一帯の地図はあるか?」
◆
「地図のどの辺りなの?」
地図がないかと風に訊ねると、四国全土が記された地図が直ぐに出てきた。
マーカーで色々と記されているのを見るに、バーテックスから開放された地域をちゃんと確認しているらしい。
「えーと、ここだ」
「……ギリギリ未開放地域ですね」
モミジが地図上に指を置いたそこは、開放地域から爪の先程の距離ではあるが未開放の地域だった。
未開放地域、という言葉に今まで周囲で様子見をしていた者達も集まる。
「……何処かに攻め込むのか?」
「ちょっと野暮用なんだけど、その用件先が未開放地域でな。
「あぁ、海が私を呼んでいる気がする……」
その中の一人。女子揃いの勇者部の中でも長身組に入る古波蔵 棗が、覗き込む様に地図を輝く目で眺めていた。
海が呼んでいる、という言葉の意味が分からないが、再度地図を見ると海沿いの地域ではあるためそれが理由だろうか。
「荷物があるからもう少し人手が欲しいんだが……」
「……荷物って、何かを置いてるんですか? 未開放地域に?」
「ん? あー……、それが、だな」
モミジが悩むように呟いた言葉に、思惑の読めないひなたが訊ねる。
そういえば言ってなかったなと説明をしようとするが、ひなたを見て言葉が濁る。
うん、非常に言いづらい。
「簡単に言えば、俺の秘密基地みたいなもんなんだが」
「はぁ」
「四国外調査で皆へのお土産をこっそり持って帰ったは良いが、口うるさい神官が担当の日にそれが見つかると没収されるだろう?」
「それはまぁ、確かに」
「ここに小さな社があるんだが、そういった時に貯め込んだ物が結構残ってる筈なんだ」
「神様の社で勝手になんてことを……」
モミジの
灯台もと暗しと言うか、信心深い大社の職員だからこそ神様が眠る社には容易に踏み込まないだろうと考え付いたからだ。
「……だが、紅葉がそれを隠したのは300年も前の事なんだろう? 当に風化するか、誰かが持ち去った可能性があるのではないか?」
「確かに誰かが手を着けた可能性はあるが、風化はしていない筈だ」
「……? どうしてだ?」
棗の疑問に確信を持って言い切るモミジに、棗が疑問符を浮かべる。
モミジが答えるよりも先に口を開いたのは、もしやと呟いたひなただった。
「神域による結界ですか? でも、300年なんて……」
「正解だ、ひなた。社一つでも四国の結界を保つ大事な要の一つだからな。神域としてあれば、幾ら時が経とうと風化する事はない」
神というのは畏れ、即ち信仰心そのものが生命線である。
忘れ去られた神の社は直ぐにでも脆く、朽ちて風化するが、逆に信仰心があればその内部は神域として何時までも在り続けるのだ。
つまり、四国を守護する"神樹"という神を信仰する限り、その内部にある社は綺麗に保ち続ける筈なのだ。
「まぁ、物は試しだ。散歩がてら、未開放地域の開放と洒落込まないか?」
モミジの提案に、顔を見合わせた数名は頷いた。
◆
「この近くの筈だが……」
「……奴らの気配はないな」
「……そうね」
モミジが隠した荷物があるという確証はない為、モミジ、若葉、千景、棗の少数精鋭で出向く事になった。
残る友奈とひなたは、持ち帰る足として乃木家が所有する車を用意して貰いそこで待機する事になった。
視界に充分収まる範囲までに近付いたが、バーテックスが居ない様子に若葉が訝しげに目を細める。
そんな若葉に同意する様に、千景が少し遅れてぽつりと呟いていた。
「モミジ。どうだ?」
「……ふむ。中に隠れているな。造反神側のが何体かだ」
確認としてモミジに声を掛ければ、神性を宿した碧金の眼で社をじっと見詰める。以前に聞いていた、生き物の魂を検知する能力だろうか。
何体か居る。というモミジの報告に、三人に僅かに緊張が走った。
「造反神側の、ということは私達で対処すべきね」
「……異論はないな」
「落ち着いて行こう。私が先陣を切る。続いてくれ」
「ちょ、乃木さん?!」
相手が造反神が遣ったバーテックスと聞いて、千景が奮う様に手にした鎌、
事前に試練の事は聞いていたのか、棗が了承したのを見るや若葉がバーテックスが潜む社へと走り出した。
それを危険視した千景が慌てて声を掛けるが、当の本人はそれを無視して社へと斬り込む。
「来い! バーテックス共!」
若葉が吼える声に反応して、バーテックスがゆらりと社の周囲から姿を現した。
頭上。屋根に位置する複数の個体へと、境内の石畳を踏み込んで大きく跳躍する。
空を鋭く縫うようにバーテックスとの距離を詰めると、屋根に居たバーテックスを
「……邪魔はさせん。バーテックス、花により散れ!」
空から降ってくる若葉の着地地点で待ち構えるバーテックスへと、棗が武器であるヌンチャクを風切り音を響かせ振り回す。
沖縄で学んだという武術と、勇者本来のスペックにより高められた身体能力から繰り出される体術に、バーテックスは為す術もなく地面に叩き付けられ、消滅した。
「……終わりか。案外呆気なかったな」
「……そうだな」
最後に打ち倒したバーテックスの消滅を確認し、若葉が刀を振るい鞘へと納める。
閉ざされた社の扉の前に立つと、観音開きのそれを開けようとするが中々に開かない。
「ちょっと、乃木さん?」
「棗さん。手伝ってくれないか?」
「あ、あぁ……」
戦闘に出遅れた千景が不満を隠さずに若葉へと声を掛けるが、若葉は焦るように棗に扉を開けるための協力を要請していた。
普段鈍感だの言われている棗だが、場の空気がおかしいことに気付いたのかぎこちなく返事をする。
「乃木さんってば、ちょっと待ちなさ――」
「もう少しだ、せぇ、の……!!」
千景の制止を振り切り、棗と共に扉を開く。
ぎぃ、と低い音を響かせて扉が開くと、
――中から、大口を開けてバーテックスが若葉と棗へと迫っていた。
扉を開ける為に武器は納めており、体勢も崩れている今即座に反撃は出来ない。
万事休す――と若葉の背筋に寒い物が伝った時、二人の間を黒い影が一瞬で走り抜けた。
開けた大口ごと身体を両断されたバーテックスが、力無く地面へと落ちると光と共に消滅する。
何が、と若葉が見れば、千景が鎌を肩掛けに携えてにこりと笑顔を浮かべていた。
「乃木さん。話があるわ」
その額には、しっかりと青筋が浮かんでいた。
◆
時は過ぎて、今回のオチ。
「貴女は何を考えているの? バーテックスが居るかどうか何てアプリで見れば分かることじゃない。明鏡止水? 口だけで全く落ち着いていないじゃない」
「はい……、全面的に私が悪かった……」
「ぐ、ぐんちゃん。そろそろその辺で……ね?」
場所は変わって勇者部、その部室。
モミジが隠していたという荷物を無事に回収し、持ち帰ったのだが若葉の自己中心的な行動に頭に来た千景からの口撃が止まらない。
前とは違い反論する事はなく、若葉は項垂れつつ千景からの口撃を一身に受け続けている。
そんな若葉を不憫に思うのか、友奈が宥める様に千景へと声を掛けていた。
「大体、何が"私が悪かったのだから、一番に身体を張るべきだ!"よ。それで敵に足元掬われて怪我でもしたら意味がないわよね?」
「うぐ……」
「……貴女は私に謝罪した。私はそれを受け入れた。今回の事はそれでおあいこでしょう?」
一切の反論をしない若葉に、流石に怒りの熱も冷めたのか千景の声音が変わる。
その言葉に、若葉がゆっくりと顔を上げた。
「それでも気が済まなかったんだ。……
「本当よ。……まぁ、悪いと思ってるなら――」
若葉の言葉に、千景が机の上にある物を物色してあるものを手にとって言う。
正確には、テレビゲームのソフトをだ。
「――これ。一人じゃ難しいゲームだから、手伝って貰うわ。1日2日じゃ終わらないから、覚悟して」
「……あぁ!」
柔和に微笑みながら言う千景に、若葉も笑顔を浮かべて返事をした。
二人の雰囲気が普段通りに戻ったのを感じて、友奈が長机に広げられた物達を見てそれにしてもと口を開く。
「色んな物が有るねぇ。あ、これ懐かしい~」
「娯楽は壊滅的だったからな。結構手当たり次第になったんだ。欲しいものがあれば皆も遠慮なく持ってってくれ」
「わーい!」
「ありがとうございます!」
モミジの言葉に、待ってましたとばかりに他の顔ぶれが物色を始める。
――結論から言えば、物資は全くと言って良い程に時間の影響を受けていなかった。それこそ、埃すら被っていない程に。
だが300年も年月が経っているということもあり、一見問題なさそうな缶詰め等の食料品達は安全を取って破棄する事になった。
今度行く祭りの打ち上げで、闇鍋を開催するらしいからそれに入れようかと思ったが、実行すれば確実に痛い目に遭うとひなたの表情から察したので大人しく処分する事にしよう。
千景がやりたいと思うゲームソフトも幾つか見付かったらしいから、当初の目的としては成功だろう。
何時になく上機嫌でゲームについて語る千景と、そんな彼女の様子に安堵から頬が緩んでいる若葉を見てそう思う。
――そんな、何気ない日常の一日。
お読みいただき、ありがとうございました(^_^)
今後も牛歩ならぬ亀歩となりますが、お暇な時にでも目をお通し下さいm(_ _)m