大神紅葉は防人である   作:社畜戦士 くっ殺

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最近4:30起床→6:00出勤、20:00退勤→00:00就寝とかいうアホみたいなルーティンに慣れてきた自分に震えが来ました。皆さんはお元気でしょうか?

複部構成になりそうなので纏めて上げようかと思いましたが、それだと一月単位になりそうなのでキリが良いところで上げます。

今回からラストスパートへのシリアス入ります、苦手な方はご注意を。


崩壊の足音 1

 

 

夢を見た。

 

 

「痛い、痛い、痛いよぉ……!」

「止めて! 皆に酷い事しないでよ!」

「……ぅぅ」

 

 

暗がりの中、絶えず響く子供達の悲鳴、嗚咽。

 

壁に掛けられた蝋燭の灯りに照らされたのは、手元にある書類を見ながら何事かの指示をする者と、他数名の男達。

 

一人の男が頷き、少女の髪を乱暴に掴むと物を引き摺る様にぐいぐいと引っ張って行く。

 

痛みに喘ぐ少女を無視して、躓こうが、泣き叫ぼうが聞こえないのかと見紛う程に。

 

 

「嫌だ、嫌だ、助けて。助けてよ!」

 

 

頼れる誰かも居らず、助けを求めて所構わず暴れる少女に流石に男も苛立ちを覚えたのか少女へと拳を幾度も振るった。

 

数度の殴打の音の後に、少女は遂にぐったりと動かなくなった。

 

男がぐいと少女を持ち上げ、顔を覗き込むと掠れる様な呼吸の音を確認して、再び少女を運んで行く。

 

 

バタン、という扉が閉まる重い音が聞こえた後に、ぽつりと子供達の中から声が聞こえた。

 

 

「……助けて、勇者様」

 

 

――その瞳は、俺に向けられていた。

 

 

 

 

「――っは?!」

 

「あ、起きた」

 

 

最悪な夢見だ。

 

飛び起きる様に覚醒すれば、側に居た綾乃が此方に視線を向けていた。

 

周囲を見れば、何時もの勇者部の面子が集まって部室でパーティーでも開いているのか、中央に寄せられた机の上に色々なお菓子や摘まむ物を置いている。

 

楽しそうだが、何処か疲労感のある面々の表情に漸く記憶が追い付いた。

 

 

「お役目終わりだったか。悪いな、うたた寝こいてた」

 

「最近アンタも忙しかったし、しょうがないわ。眠いなら先に戻る?」

 

 

言い終わると共に差し出されたコップには、甘い炭酸飲料が入っていた。

 

普段であればあまり飲まないのだが、最悪な寝起きで頭がもやもやしてる今なら丁度良いかもしれない。

 

口へと流し込めば、シュワシュワとした感覚と共に頭に糖分が回るというのか。多少すっきりした様に思える。

 

 

「……そうだな。明日のお祭りの準備もあるし、今日はもう帰るよ。綾乃は大丈夫か?」

 

「あの巫女さんも居るし、皆と一緒に帰るから大丈夫。アンタこそ気を付けなさいよ?」

 

「あぁ、分かってる」

 

 

壁に掛かっている時計を見れば、子供はとうに戻るべき時間帯だった。

 

引率の一人として綾乃に確認すれば、まぁそうだろうな。といった返答だった。

 

少女達とはいえ、その辺の悪漢程度なら問題なく対処するだろう。逆にやり過ぎないかが問題だ。

 

 

「んじゃ、おつかれさん。また明日な」

 

「うん。また明日」

 

 

騒いでいる空気感を壊したくなく、気持ち静かにドアを開けて出ていく。

 

去り際に閉まるドアの隙間から中を見れば、ひらりと綾乃が此方に手を振っていた。

 

 

~~

 

 

「うーむ。やっぱ買いに行くしかないよなぁ」

 

 

宿舎の外。近場のスーパーへと向けて足を運びながらモミジはむむ、と唸っていた。

 

 

家に戻りさっさと寝るかー。なんて思いながらお茶でも飲もうと冷蔵庫を開けると、なんと明日の朝食分の食材が無かったのだ。

 

祭りの準備で連日忙しかったし、皆して買い忘れてたなぁ。なんて反省しつつ、悩んだ末に買い物に行くことになった。

 

 

「明日は朝早いし、この辺開いてる店無いもんなぁ」

 

 

時間が遅いこともあり、綾乃や梓に帰りに買ってきて、なんて任せる訳にもいかない。

 

明日はパンにするか、それとも米にするかなんて思考を切り替えて歩いていると、ぼんやりと灯った街灯の下に一人の姿があった。

 

 

「どーもぉ、こんばんは。奇遇ですねぇ」

 

「……あぁ。確かあの時の」

 

 

此方に気付くと、僅かに驚いた様な顔をした後ににへら、と直ぐ様表情が変わる。

 

間延びした声、飄々とした雰囲気の少女にモミジが記憶を辿れば少しの後に思い出した。

 

 

――確か、歌野の農場に黒服と共に来ていた子。だったか?

 

 

「確かに奇遇だな。こんな時間帯に女の子の一人歩きは感心しないぞ?」

 

「あらぁ。心配して下さるなんて、ありがとうございますねぇ」

 

 

……やっぱりこの子。最初に会った時からそうだが。

 

隙が無い。全くと言って良いほどに。

 

 

飄々とした雰囲気を纏ってはいるが、此方が何かをしても対応出来るだろう程度には然り気無く重心を落とし身構えている。

 

見たままの雰囲気で言えば、戦闘訓練を長く積んでいる若葉達と同じくらいの覇気があるのだろうか。

 

まぁ要するに、()()()()の生まれではないだろう事は容易に理解できた。

 

 

「んで、こんな時間にお散歩かい? 暇なら、そこのスーパーまで行かないか? 飲み物くらいご馳走するよ」

 

「お誘いは嬉しいんですがねぇ、今回貴方に用がある人が居て……」

 

「……俺に?」

 

 

奇遇。とは言っていたが、こんな場所であからさまに佇んでいるのがたまたまな訳がない。

 

モミジが少女から少しでも情報を聞き出そうと誘うが、少女は誰かからの遣いで待っていたらしい。誰だ?

 

 

「まさか本当に来るとは思いませんでしたよぉ。……ねぇ、国土様ぁ」

 

 

少女のその言葉と共に、

 

 

「おにーちゃん♪」

 

 

モミジの身体が総毛立つ様な、()がいつの間にか背後に居た。

 

 

「あはっ、びっくりさせちゃってごめんね」

 

「――――」

 

 

耳元から聞こえたその声に振り向く前に、瞬時に地面のアスファルトを踏み砕いた勢いで目の前の街灯へと飛び上がった。

 

点検時に昇る足掛けに飛び乗り鉄柱に身体を預けながら、神力を戦闘時さながらに身体へと巡らせつつ女を見る。

 

正確には、女の魂を。

 

 

()()()()()()

 

 

相手側の言う国土、という名前で一番に出てくるのはもう一人の梓の事だ。

 

この世界に来て直ぐに会えたが、その時の彼女は身体が穢れに染まっていた。

 

若葉達への怨嗟が募り、穢れが溜まっているとは知っていたがあの時の彼女とは違う。

 

 

――別の存在に成ったかの様に、変貌していた。

 

 

容姿には変化はない。だが、大きな変化があるのはその魂。

 

 

底の見えない程の、暗い闇。

 

 

西暦の時代にテレビで見た、世界の秘境という中で紹介されていた"ブルーホール"という地球にぽっかりと開いた巨大な穴。

 

それを見た時に感じた、周囲とははっきりと違う程の異質な存在に成っていた。

 

 

「梓。お前何をした?」

 

「んー? 前にお姉ちゃんに言われたでしょ? 私はまだまだ未熟者だって」

 

 

険しい顔で訊ねるモミジとは反対に、梓は楽しそうに言葉を続ける。

 

 

「それは理解したの! 私にはお姉ちゃんみたいな"特別な力"はないし、お兄ちゃんみたいに強くもない」

 

でもね、と言って、

 

「――()()()()()()()()()()()()()()()()()()なら、私でも出来たみたいなんだ♪」

 

 

外から取り込む方法。

 

お兄ちゃん、大神紅葉の様にと言われたならば、該当する方法は一つしかない。

 

 

――ヒトガタの儀だ。

 

 

「馬鹿な……」

 

「何で出来たのかって事? 確かに大変だったよー。それに対する文献や書物も無いから、何から始めれば良いか分からなかったからね」

 

 

空気が揺れる。

 

梓が楽しそうに話す度に、ドス黒い穢れが渦を巻き梓を中心に撒き散らされて行く。

 

それに呼応する様に、何か良くないモノが四国の各地で反応しているのをモミジは肌で感じていた。

 

 

「でも、先生がその方法を教えてくれたんだ」

 

「……先生か。良かったら紹介してくれよ、俺も礼を言わなきゃな。その先生とやらに」

 

「そう言うと思って、一緒にどうですか?って誘ったんだけどね……ごめんね、忙しい人だから断られちゃった」

 

「そうか。そいつは残念だ」

 

 

……考えるまでもない。

 

先生とやらは、十中八九アイツ――初代大神だろう。

 

だが、無垢な子供でもない梓にどうやって"神"を降ろした?

 

いや、

 

 

――"神"を降ろしたのは、梓一人だけなのか?

 

 

「――ねぇねぇ、お兄ちゃん」

 

「……何だい?」

 

 

思考を巡らせるモミジへと、梓が笑顔で声を掛ける。

 

幼い時の、望月 梓だった時の様に本当に無邪気に。

 

だからこそ、モミジもそんな彼女を無碍には扱えなかった。

 

 

「お兄ちゃんはさ、この時代に来て良かった? 楽しんでる?」

 

「……あぁ。毎日楽しいよ」

 

 

嘘ではない。

 

悪意や害意が多分にあった西暦の時代では、きっと今ほど楽しめてはいなかっただろう。

 

日々バーテックスと戦うにしては、平和ボケした世界だと評した覚えがあるがこうした平穏な世の中だからこそ、年頃の少年少女として皆が生活出来ていると今では思う。

 

 

「そっか、私も好きだよ。私が居た、こうなる前の四国は本当に辛かったから」

 

「だったら――」

 

「でもね、あの二人はダメ」

 

 

まだ話し合いの余地があるなら、とモミジが口を開くが、それを拒否するかの様に梓がきっぱりと言い放つ。

 

あの二人、というのはやはり、

 

 

「若葉と、ひなたの事か?」

 

「うん、そうだよ。……一番に頑張ってた、誰よりも幸せになる筈だったお兄ちゃんとお姉ちゃんを切り捨てた、裏切り者」

 

「……梓、その事なら俺も若葉本人から聞いた。だがあれは――」

 

 

「――仕方ない事だったら、大切な家族でも見捨てるの?」

 

 

モミジの言いたい事を分かっていたのか、それに返す様に梓が言う。

 

 

「モミジお兄ちゃんの事を諦めるのはまだ分かるよ。四国の結界の外に行っちゃったのは、私も見たし」

 

でもさ、と続けて、

 

「綾乃お姉ちゃんは、まだ遺体とはいえ返ってくる可能性は充分にあったんだよ? それを居なかった事にして……、返ってきたらどうするつもりだったの? 身元不明の死体だとかでゴミみたいに処分するつもり?!」

 

 

怒りが再燃したのか、口調が徐々に荒くなる。昂る梓の感情を表す様に、梓が纏う"闇"――神威がその形を大きく広げる。

 

 

「それに、あの子達だって――ごふっ?!」

 

「梓?!」

 

 

突如として咳き込む梓に、モミジが駆け寄ろうと近付くと、

 

――モミジの首筋目掛けて、横合いから刀が振るわれた。

 

 

それを躱し、振るってきた少女から距離を取る。少女はモミジから目を離さず刀を構えながら小足で梓へと近付くと、此方への警戒を解かずに声を掛ける。

 

 

「国土様ぁ、もう今日はお開きとしましょうよ。これ以上は限界でしょう?」

 

「……まだまだ、って言いたい所だけど。これ以上は身体が保たないね……」

 

 

仮面の端から吐いた血を滴らせながら、梓が少女の肩へと身体を預け立ち上がる。

 

 

「……普通の人間に"神"を降ろして無事に済むわけがない。血筋、身体へと慣らす期間が長かった俺ですら、最初は身体がボロボロになったんだ」

 

「……だろうね。でもね、それでも止まらない。もう、止められないの」

 

 

会話は平行線。言葉による説得も重要だが、このままであれば梓の身体が危ない。

 

若葉達勇者の敵側であろうとも、それで見殺しにするなんて事はしたくない。

 

いくら考え方が変わろうと、その身体に"神"を降ろし穢れに染まろうとも。

 

梓は、俺の大事な家族だ。

 

 

「――来い」

 

「――ひゃー……」

「あは、やっぱ規格外だね。その神剣は……」

 

 

モミジの声に応え、蒼雷と共にその手に現れた大刀に二人が冷や汗を流した。

 

モミジの神具である、身の丈程の大刀、"天叢雲"(あまのむらくも)

 

穢れごと、神剣・"天叢雲"に注ぎ込めるだけの神力で吹き飛ばす。とモミジが込める神力に呼応して"天叢雲"の神浄の輝きが増していく。

 

神力を込め終わり、後は斬り飛ばすだけ、

 

 

その時だった。

 

 

「っ?!」

 

「……やっぱ気付いちゃうか」

 

 

四国の各地。不意に湧いた穢れの気配に、モミジが弾かれた様に気配を探る。

 

何時も隠れて討伐していた"精霊"の類いではない。これは――

 

 

「"神樹"が行った勇者召喚を聞いてね。此方も似たような事をしてみたんだ。まぁ、此方が呼んだのはただの犯罪者だけどさ」

 

ただ、と笑って

 

「――女子供、弱者をなぶるのが趣味なクソ野郎だけどね」

 

 

梓の言葉にそれでか、と納得する。

 

最初に気配を感じた時に同時に流れ込んだ、()()()()()()()

 

 

「あの時代ならいざ知らず、今の時代の人間に冷静な対処が出来るかなぁ?」

 

 

梓のわざとらしい言い方を聞きながら、モミジは頭を必死に回す。

 

気配の散り様から見て明らかに無差別に行動している。

 

即時の対応は可能だが、そうすると梓を取り逃がす事になる。

 

 

数秒で頭をフル回転させ、出てきた答えに心を落ち着かせる様にふぅと一つ息を吐いた。

 

込めた神力を霧散させ、肩掛けに大刀を担いで言う。

 

 

「梓。俺はお前がしでかした事は間違いだと思ってる」

 

「……うん」

 

「若葉達を殺したって何も変わらない。お前がしていることはただの自分勝手な我が儘だ。……その上で言う」

 

 

「お前を、必ず助ける」

 

 

「――え?」

 

 

モミジの言葉に、梓から呆けた声が漏れた。

 

そんな梓へと、モミジが続ける。

 

 

「若葉達への憎悪、それら全て元を辿れば俺にも関係がある」

 

「だから、お前がどうしようもなく苦しんだ上で、自分の身体を犠牲にしてまで今のお前を選んだのならば、」

 

「俺が、その穢れを祓ってやる。その上で、お前を助けるよ。お前は大事な家族だから」

 

 

言葉の後で、忘れんなよ!と言い残してモミジの姿が蒼雷となり掻き消えた。

 

恐らくは四国各地で暴れる為に派遣したならず者達を対処しに行ったのだろうが、先程言われた言葉が梓の中で繰り返し木霊していた。

 

 

「……聞いてた通り、本当に無茶苦茶な人なんですねぇ。初代防人様は」

 

「……そうね。本当に無茶苦茶よ。……戻ってくる前に、帰るとしましょうか」

 

 

少女に肩を借りたまま、よろりとふらつきながら歩いて行く。

 

梓の影から"闇"が伸び上がると、ぐにゃりと形を変え洞穴の様にぽっかりと開いた穴を形作っていた。

 

そこへと二人が足を踏み入れると、崩れる様に"闇"が溶け地面へと流れ込む。

 

 

二人の姿は、何処にも無かった。

 

 

 

 

「……さぁて、宣戦布告は済んだようだ」

 

 

そんな様子を、遠目から見ていた鬼が一人。

 

登っていた巨木に背中を預け、太い枝を寝床にゴロリと寝っ転がる。

 

くぁ、と大口で欠伸をして、

 

 

「――大詰開幕だ。何人生き残るのか、本当に楽しみだ」

 

 

口の端を吊り上げ、鬼が嗤った。

 

 

 

 

 

 

 




読んで下さり、ありがとうございました。
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