大神紅葉は防人である   作:社畜戦士 くっ殺

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息抜きに書いた短編です。

キャラ崩壊注意!


短編 2

 

 

『大神紅葉の長い一日』

 

 

「御役目お疲れ様です、大神紅葉様」

 

「おう。これ、報告書と頼まれてた奴。確認頼む」

 

「失礼します。…………確かに、確認致しました」

 

 

早朝。大社から秘密裏に頼まれた調査を終えて、その報告の為に大社へと足を運んでいた。

 

何てことはない。夜間においてバーテックスの行動パターンに変化はあるか、そして四国にはない物資の調達だ。

 

“神樹”からの恵みはあるにしても、それでも生産や製造が難しい物。所謂娯楽品が欲しいらしい。

 

 

調達品が入った布袋の中身を確認し、目星の物があったのか神官の顔に安堵の表情が浮かんだ。

 

 

「大変だな。どうせ上役に行くもんなんだろ?」

 

「そうですね……。恐怖も、喉元過ぎれば何とやら……、他人事ながら、人とは欲深な物と再確認しますよ」

 

「おいおい。誘っておいて何だが、上役の愚痴なんて大丈夫か?」

 

「モミジ様なら良いか、と」

 

 

神官の顔がニコリと綻ぶ。この神官とは丸亀城の案内をしてもらって以来の付き合いだが、ここ数年で老けたように見える。それだけ苦労しているのだろう。

 

 

「ここだけの話、最近四国の方でまた反大社側の動きがありまして……、襲われないように大人しくしないといけないのにアイツら本当に……」

 

「ヘイヘイ、ダークサイドに堕ちかけてるぞ落ち着いて」

 

 

苦笑いしつつんじゃこれ、と別の袋を手渡すと、中を見た神官の顔がおっ、と目を僅かに見開く。

 

袋の中身はほとんどが酒だった。ちゃんと賞味期限を加味し、大丈夫そうな物だけを厳選し持ってきていた。保存の利く缶詰などのつまみも一緒だ。

 

 

「神官友達と一緒に呑んでくれ。色々と厳しいって聞いてさ」

 

「いやはや……、なんとも恥ずかしい事で」

 

 

神官は受け取った袋を仲間内しか知らないであろう戸棚にさっさと隠した。

 

何でも、“神樹”から産み出される酒は数が少なく、特別な物として上役や有力な家系に優先的に回されるらしい。下の者、つまりは一般の職員への配布などは、呑まない方がマシというレベルの量の様だ。

 

 

さてと、と大社を後にしようと荷物を担げば、不自然に多いその荷物へと神官の視線が注がれる。

 

先ほど受け取った酒とそれを見比べ、なるほど口止め料かと納得すれば部屋の灯りを落として棒読みで言った。

 

 

「あ、急な停電ですねー。うーん、これじゃあ荷物の検閲は難しいなー」

 

「態とらしい演技ありがとう。次も何か持ってくるよ」

 

 

そんじゃ、と出入り口へと足を運べば、月明かりに照らされて神官がお辞儀しているのが見えた。

 

 

 

 

「さ、て、と。これが杏用、これが球子用……」

 

 

丸亀城へと足を運びながら荷物を簡単に整理する。

 

馬鹿正直にはいと調達品を贈れば、一言もなく四国の外に出ていた事がひなたや若葉にバレて吊されるだろう。

 

ここで素直に渡すのは、そうした事情を黙っていてくれる面子だけだ。

 

 

まだ朝の薄い霧が残る道を歩けば、離れた所から声が掛かった。

 

 

「モミジさんじゃない、グッモーニン!」

 

「おはよう、歌野」

 

 

畑弄りを終えたばかりなのか、頬に付いた泥をタオルで拭いながら此方へと手を振っていた。

 

じっとしているのが苦手なのかは分からないが、歌野は此方に来てから毎日の様に何かしら行動を起こしている。

 

 

避難者の為の仮設住宅の準備の手伝い。

 

日課、本人曰く本業らしい農作業。

 

避難者への炊き出し、または物資の配布。

 

etc……。

 

 

その働きぶりは凄まじく、それを見た他の大社の職員や、バーテックスに襲われマイナス思考ばかりしていた避難者すら立ち上がらせるという始末だ。

 

自身の行動により、周囲を巻き込んで鼓舞する歌野はなるほど、まさに“勇者(勇ましい者)”だと、彼女の姿を見て素直にそう思えた。

 

 

だが、そんな彼女に不満を抱く者が一人。

 

 

「大丈夫なのか? また水都に怒られるんじゃ?」

 

「うぐ、の、のののノープロブレムよ……」

 

「声震えてるぞ」

 

 

ぎくりと跳ね、しどろもどろに冷や汗を流しながら答える歌野へと呆れながら返す。

 

以前、諏訪の時以上に働き詰めの歌野についに水都が不満を爆発させた時があった。

 

 

諏訪から離れ、平和かつ穏やかに過ごせると期待していた水都からすれば毎日の様に外へ出掛ける歌野に不満を持つのも仕方ないと言える。

 

早い話が、二人でイチャつけないのが気に食わないのだ。

 

 

「頼むぜ歌野、俺はもうあんな笑顔を水都に向けられたくない」

 

「本当にソーリーよ、モミジさん……。でも、ならどう過ごそうかしらねぇ」

 

 

“モミジ君、そんなに四国って大変なの?”、と笑顔(重圧付き)を向けられ問い詰められた時の事を思い出し身震いする。ひなたもそうだが、“巫女”はどうしてあぁも怖い笑顔を振り撒けるのだろうか。梓には是非ともそのまま、可愛らしいままで居てほしい。

 

その光景を見ていた歌野がモミジへと謝罪すると共に、うーむと時間の潰し方を考えていた。そうだ、丁度良い物がある。

 

 

ゴソゴソと袋を探る。そんなモミジへと歌野は疑問符を浮かべながら眺めていたが、出てきたそれにおぉ、と目を輝かせた。

 

 

「DVDね! 貸してくれるの?」

 

「勿論。ホラー、恋愛物、B級の〇シネ。どれが良い?」

 

「何故にV〇ネ?!」

 

「登場人物がサイコガン付けたり、かめは〇波撃ったりしだすハチャメチャ系が観たいかなぁって」

 

「え、普通に気になるわ。後でレンタルさせて!」

 

「オーケー」

 

 

冗談はさておき、と幾つかまとめて手渡す。“天災”が起きる前話題になっていた作品や、上映されていた作品が混じっていた。

 

これならば人をそう選ばないし、本数もあるから長い時間過ごせるだろう。俺も帰ってゴロゴロしながら観たい物がある。

 

 

「適当につまみでも作って観たらどうだ? その方が水都も喜ぶよ、きっと」

 

「そうね、サンキュー。今日は朝から大規模な神事を行うらしいから、帰ってきたらそれで労うわ!」

 

 

大規模な神事、という言葉にそういえば綾乃やひなたも参加すると言っていたなと思い出す。

 

守り神である“神樹”を奉る大社としては蔑ろに出来るものではないらしく、それで今回の探索は一人で行う事になったのだ。

 

目的地も近くなり、手を振って歌野と別れる。

 

さて、次は杏と球子達へだ。お腹も減ったし、急ぐとしよう。

 

 

 

 

「おぉー?! こ、これは最新式のリールにロッド!!今じゃもう手に入らないやつばかりじゃないか!」

 

 

目を輝かせながらそれを手に取り、色々な角度から球子は眺めた。嬉しそうな球子にモミジも笑みを浮かべる。

 

 

「釣り道具とかよく分からんからな、取り敢えずお値段が高そうなのをかっぱらって来た」

 

「かっぱらって来たって……。モミジ、お主も悪よのぅ」

 

「タマお代官様こそ……」

 

 

ささ、と言って空いているコップへとジュースを注いでやると、ニシシと笑って球子はコップを煽った。

 

 

そんな風に球子と遊んでいれば、ドアの開く音がしてパタパタと足音が此方に近付いてくる。聞き慣れた控えめな足音は、確認するまでもなく杏の物と理解できた。

 

 

「ごめんなさい! 準備に時間が掛かっちゃいました……」

 

「良いよ、気にすんな。朝の早くから来た俺が悪いんだし。杏は髪が長いから寝癖凄そうだもんな」

 

「そうだぞぉ、杏の寝癖は酷いときはあれだ。ペガサス昇天盛りとかいう……」

 

「適当な事言わないでよ、タマっち先輩の馬鹿!」

 

 

笑う球子と頬を膨らませて怒る杏のやり取りに仲が良いなぁと感じつつ、荷物の一つを杏の目の前へと置く。やはりというか、中身は全て本だ。

 

それを見た杏から、歓喜の声が上がる。

 

 

「わぁ、この先生の新刊まだ残ってたんだ! 都会の方から先に出るって情報だったから、もう手に入らないかと諦めてたのに……」

 

「あぁ、それは倉庫の方にあってな。貴重な物なら見つかって良かったよ」

 

「ありがとうございます!!」

 

 

ははー、と此方へと頭を下げる杏に苦笑いしか出ない。お目当ての物が見つかって嬉しいのか、テンションが普段より右肩上がりだ。

 

ふんすふんすと鼻息荒く本へと目を通す杏とは別に、球子がその中の本の一つを手に取り声を上げる。

 

 

「これも欲しかった物なのか、杏ー? “世界歴史”……?」

 

 

ハードカバーの分厚いそれには、年号毎に起きた細かい事象が記されていた。

 

他にも日本以外の海外の歴史書が入っており、それに球子が目を丸くする。

 

 

そんな球子へ向けて、杏が少しだけ恥ずかしそうに口を開いた。

 

 

「私、“天災”以前の歴史や世界の事をまとめておこうと思って。将来世界を取り戻した時に、地理が残ってたら生存者の探索も楽でしょ?」

 

 

えへへ、と笑う杏とは逆に、球子の目にうるうると涙が溜まっていく。杏ぅ!!と声を上げると、ひし、と抱きついて泣き喚く。

 

 

「お前は本当に良い子だなぁ! そうだ、世界を取り戻した時、お前の力が必要になるぞぉ!」

 

「もう、タマっち先輩大袈裟すぎだよ……」

 

「……お前ら本当に仲良いなぁ」

 

 

よいしょ、と荷物を片付けつつ、二人が抱き合う光景を眺める。つい口に出た言葉に、おうよと球子が笑顔で言った。

 

 

「タマと杏は姉妹の契りを交わした仲だからな! 来世では本当の姉妹になるのだ!」

 

「なるほどな。杏みたいな姉貴ならしっかり者だろうなぁ」

 

「“姉”はタマがなるんだ!!」

 

「えー? タマっち先輩がお姉ちゃんって色々と心配……」

 

「なにおぅ?!」

 

 

今でも充分に姉妹で通じるような二人を見ながら、この二人なら本当に来世で姉妹になってそうだ、とモミジは笑った。

 

 

 

 

さて、場所は変わって千景の部屋。

 

 

俺、大神紅葉と、部屋の主である郡千景は今窮地に立たされていた。

 

正座する二人の目の前には、きゅっ、と不安そうに胸の前で手を握る友奈の姿。

 

 

「こんな朝早くから何してたの。二人の秘密の事って、何……?」

 

「…………」

「…………」

 

 

結論から言うと、面倒な事になった。

 

日も昇りきらないこんな朝早くから、二人して、それも男女という異性で会っているのがバレたのだ。

 

 

――千景からの要望はやはりというかゲームだ。常日頃からゲームを嗜んでいる彼女らしいとも言えるチョイスである。

 

 

それを渡しに来た際にタイミング悪く、とでも言うのか、千景から借りた漫画を返しに来た友奈と遭遇した。

 

別にここで上手く立ち回れば良かったのだが、

 

友奈に知られる

 

→いけない事に加担していたとバレる

 

→嫌われる

 

とダメな思考をしてしまった千景が突如として暴走。

 

 

「た、たたた高嶋さん! 私とモミジ君は……、そう!」

 

目を泳がせまくって、友奈とモミジ、どちらも大切な親友両方に申し分が立つ言い訳を探して、辿り着いた答えが一つ。

 

「――秘密を共有する、(友情的な意味で)深い仲なの!!」

 

 

と、爆弾を投下した所で冒頭へと戻る――。

 

 

「……あー、実はなぁ友奈」

 

 

これ以上沈黙、そして隣で限界まで追い詰められた顔をして俯いている千景がいたたまれなくなり、モミジは諦めて口を開いた。

 

最初から下手に誤魔化そうとするから変に拗れるのだ。こうなったら本当の事を喋ってしまえ。

 

 

「俺が前に黙って四国の外に出てたこと、知ってるだろ? 」

 

「うん、ひなちゃんがすっごく怒ってた時のだよね」

 

「おう、それそれ」

 

 

あの時のひなたは怖かった。怒られている当事者でもない若葉が、離れた物陰で此方を見ながらガタガタ震えていたのをよく覚えている。

 

 

「実は、あれまだやっててさ。でも誓って無茶はしてないぞ、本当に。んで、その活動の中で欲しい物を拝借して、欲しい奴等に配ってんだ。千景の場合はゲームって訳」

 

「(コクコクコクコク)」

 

 

友奈からのツッコミを避けるため、一息で説明を終えた。隣で座る千景も、赤べこなんぞ非にならないレベルで首を縦に振る。

 

モミジからの説明を反芻し、頭で整理しているのか友奈が顎に手を当てて暫し黙る。

 

普段の彼女からは感じられない無言の圧に、モミジと千景からタラリと汗が垂れる。怖い、友奈さんめっさ怖い。

 

 

「……こんなに朝早くから居るのは、外から帰ってから直ぐ来たからって事?」

 

「え? おう、まあな。こんな大荷物背負って日中歩き回れないし、早めに配ろうと思ってさ」

 

 

モミジの言葉に、何とも感情の読みにくい顔をして友奈がじっとモミジの顔を見つめる。少しの間の後、なーんだ。と何時もの笑顔を浮かべて彼女は言う。

 

 

「あんちゃんの恋愛小説読んだからかな。変に勘繰っちゃった、ごめんね?」

 

「あー、恋人でもない奴と朝一緒の部屋で目覚めたって本? 前の日の記憶がなくってー、って内容だったか」

 

「そう、それそれ!」

 

 

杏が珍しく熱心に推してきた本だったな、と思い出す。

 

たまに俺や綾乃、千景をチラチラと盗み見しながら鼻息荒くノートに何やら書き殴っていたが、あれは何だったのだろうか。ひなたは苦笑いしていたが。

 

 

納得行ったのか、友奈が安心したように息を吐いて床に座る。

 

 

「安心したら喉渇いちゃった。ぐんちゃん、何か貰っても良い?」

 

「あ、うん。待ってて、飛びっ切り良いの淹れてくるわ! モミジ君も待ってて」

 

 

親友にお茶を淹れるとなり、張り切って台所へと姿を消す。

 

まぁ、何とか収まって良かった。と安心していると、友奈が身を寄せながら口を開く。

 

 

「他にはどんなのを持ってきたの?」

 

「んー? えーとだなぁ……」

 

 

ダメな事とは理解しているのだろうが、外からの物資も気になるらしい。個人へ向けた荷物の他にある、個人的に持ってきた物を確認しながらそうだなぁと手に取る。

 

 

「これなんかどうだ? キャンディボトルなんだけど、そのままでも綺麗かなって」

 

「良いねぇ、これ!」

 

 

小さなキャンディボトルを友奈へと手渡す。綺麗な意匠が施されたそれは、朝の日の光を浴びてキラキラと輝いていた。

 

友奈は一目見て気に入ったのか、それを手に取ると目を輝かせる。気に入ってくれたらしい、良かった。

 

 

ニコニコと笑顔を浮かべる友奈を眺めながら、やっぱり笑顔が一番似合うなと思っていると、不意にスマホが震えた。

 

ディスプレイを見れば、最近大社の上役になった元過激派及川さんの名前。どうしたのだろうか。

 

 

「もしもし?」

 

『モミジ様、朝早くから申し訳ありません。緊急で申し上げたい事が……!』

 

 

電話口から聞こえる焦りを含んだ声。落ち着いて、と言って続きを促す。

 

視界の端で友奈がテレビを点けるのが見えた。直ぐに開いたチャンネルで、“緊急速報”と大きく表示されているのが見えた。

 

そこに映るのは、“神事中起きた事故、巫女誘拐?!”という文字。

 

 

『“巫女”様方が、件の反大社組織に襲撃にあってしまったようで……!』

 

 

気付けば、“神花”を纏いつつベランダから飛び出していた。

 

 

 

 

 

「おい、例の“巫女”は居たか?!」

 

「俺達素人に分かるわけねーだろ! 先生が来るまで待てよ!」

 

 

とある廃ビル。人がとうに住むことを止め、時が経ったことを思わせるような荒廃したそこにそれらは居た。

 

一つは男女の集団。焦りを含んだ会話を飛ばし、苛立ち混じりに部屋の隅に居るターゲットを見やる。

 

今回の目的は大社側の“巫女”だが、誰でも言い訳ではない。それの区別をしたい訳だが、どうにも今居る自分達ではどうにもならなかった。

 

 

もう一つは、四肢の自由を奪われ、口に猿ぐつわを噛まされ転がされた“巫女”の集団。

 

突然浚われ、こんな所に連れて来られた挙げ句訳の分からない事を言われている。近くに居た、入ったばかりの小学生程の少女は目に涙を溜めていた。私だって泣きたい。

 

 

「……なぁ、もうちょっとちゃんと見たのかよ。胸元くらいってだけで、他の所にもあるんじゃないか?」

 

「ちゃんと見たわよ! 私は本格的な“巫女”じゃないの! 先生が来るまで待ってなさいよ!」

 

 

男の一人が面倒くさげに此方を見る。その後の言葉に、女の一人が喚くように声を張った。

 

胸元とは言ったが、先程行われた身体チェックの事だろうか。同性にされたとはいえ、いい気にはならなかったが。

 

 

大人達の怒鳴り合いに遂に限界が来たのか、涙を溜めていた少女が嗚咽を上げる。

 

子供の泣く声に苛立ったのか、リーダー格の男が少女の胸倉を掴み上げて怒鳴る。

 

声と共に懐から出したのは、任侠映画で出るならず者が持つ長い刃渡りのドスと呼ばれる刃物。

 

見た目から誇るその殺傷力と切れ味に、少し離れた場所で見る自分ですら背筋が凍った。

 

 

「面倒くせぇ、この中にその標的が居るんだろ?! こうなりゃ全員殺しちまえよ!」

 

 

男と目が合う。自分達は殺されてしまうらしい。

 

嫌だ。死にたくない。

 

まだこれからの人生、どれだけの時間があると思ってるんだ。それをこんなふざけた事態で台無しにされるなんて堪った物ではない。

 

心ではそう思うが、身体はそれに反してガタガタと震える。情けない、今にも殺されそうなあの少女の方が怖いだろうに。

 

 

男がドスを振り上げる。それに合わせ、少女の引き攣った悲痛な悲鳴が上がる。

 

 

 

その時。

 

 

 

――部屋と部屋を仕切る、分厚いコンクリートが吹き飛ぶ音がその場の一同の動きを止めた。

 

 

 

 

「……おぇ、粉っぽいな」

 

 

“神花”により上昇した身体力でコンクリートを蹴り飛ばせば、思ったより風化していたのか埃の様に粉が舞う。

 

もう人が住んでいないからと豪快に行ったが、少々失敗の様だ。

 

 

「な、なな、何だぁ、お前は……?」

 

 

声に振り向けば、部屋の中央で男が唖然と此方を見ていた。

 

突然の事に理解が及ばないのだろうが、その男が持つ物にモミジが目を細める。

 

長い刃渡りの刃物。そして、

 

 

「く、来るな! コイツがどうなっても――」

 

 

――暗くて良く見えないが、刃物を突きつけられた梓程の体格の少女。

 

 

少しの時間の後、何かが砕ける音がした。

 

 

 

 

 

 

時間は流れて、陽が傾きそろそろ山へと消え行く夕方。

 

 

簡単に言えば、今回のオチ。

 

 

「結局お前ら無事だったんだな……」

 

「はい。私達が乗る車は、もう少し後だったので」

 

 

“勇者”が寝食を共にする寮。その一階にある大広間で、他の面子を含め集合していた。

 

 

ソファーへと疲れた様に腰を降ろすモミジへと、ひなたが笑顔で言葉を放つ。

 

その額には、僅かに青筋が立っていた。

 

 

その理由としては仕方ない。とその場に居た他の者も思う。

 

だが、ひなたには悪いが外野から見ている分には面白いから黙っておこう、と球子は苦笑いしながらお茶を啜った。

 

 

おほん、とひなたが仕切り直し、

 

 

「まぁ、四国外捜査に勝手に行っていた事は神官さんを含め色々とお話をすることとして……」

 

「あぁ、許されないんですね……」

 

「当たり前です。……それに……!」

 

 

ちらりと、モミジの横に居るものを見る。

 

自分と同じ、高位に立つ大社の“巫女”の一人である少女を。

 

 

「貴女は何時までそこにいるおつもりですか? 迎えの方もいらっしゃっていますが」

 

「えー? だってまた誘拐されるかもしれないし、紅葉様に守って貰わないと」

 

「お帰り下さい」

 

 

ぴしゃりと言い放つひなた。だが言われた少女はどこ吹く風か、何てことない様にモミジへと言う。

 

 

「なら、私の家に一緒に行きましょう! そしたら何時でも守って貰えるわ!」

 

「良いわけないでしょう!」

 

「おぉ、千景が立ち上がった」

 

 

堪えきれなくなったのか、握った拳を振るわせて千景が立ち上がる。

 

 

「なぁ、お前ら。こんな小さい子にそんな言わなくても……」

 

 

自分より年下の子供との怒鳴り合いに不憫に思ったか、モミジはまぁまぁと苦笑いして仲裁に入る。

 

だが。

 

 

「モミジさんは黙ってて下さい」

「モミジ君は黙ってて」

 

「あっ、はい」

 

 

「モミジ弱っ」

 

「いや、お前。あれには逆らえないわ……」

 

 

謎の威圧感(プレッシャー)を放つ二人に直ぐさま陥落する。ダメだ、ああいう時の二人には逆らっちゃダメだ。

 

球子が茶化す様に言うが、ならばお前が言え、と視線で言うと直ぐさま目を逸らされた。ほら、一緒じゃないか。

 

 

壁に掛けた時計をチラリと見れば、もう夕飯時くらいだった。

 

この騒動は終わりそうにないし、助け船に若葉へと視線を送るがふいと逸らされる。何故だ。

 

一日何も食べてないし、疲れたし、と座り込んだソファーで虚空を仰ぐ。黙って“戌崎”に行ってはダメだろうか。

 

 

「モミジさん、聞いてるんですか?」

 

「聞いてまーす」

 

 

直ぐにバレるな。逃げ場は無いらしい。

 

 

ぎゃーぎゃーと騒ぐ三人を見ながら、まだ時間が掛かりそうだとため息を吐いた。

 

 

「……長い一日だなぁ」

 

 

吐き出すようなその呟きは、誰にも拾われる事無く消えていった。

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

『誰が食べた?』

 

 

「おい、俺が大事にとって置いたBIGプリンが冷蔵庫から姿を消していた。心当たりがある物は挙手しろ。今ならケツ叩きで勘弁してやる」

 

 

「「「「………………」」」」

 

 

「若葉」

 

「た、球子も食べていたぞ!」

 

 

「タマ」

 

「千景が食べようって誘うからさぁ……!」

 

 

「千景」

 

「……一番美味しそうに食べてたのは白鳥さんよ」

 

 

「歌野」

 

「ご馳走様、ガッチャ!」

 

 

 

「「「「散ッ!!!」」」」

 

「逃がすかぁ!!!」

 

以後、一時間の追いかけっこ(ガチ)

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

『誰が食べた?2』

 

 

「おい、そこにあった貰い物のケーキを俺の分まで食った奴は誰だ。今、自己申告するなら過度なセクハラで勘弁してやる。申し出ろ」

 

 

「「「「…………(モグモグモグモグ)」」」」

 

 

 

「若葉、頬に付いてるぞ」

 

「うむ、美味だった」

 

 

「タマ、何味だった?」

 

「良い感じの甘さのショートケーキだったゾ」

 

 

「千景、何切れ目だ?」

 

「……追加を含めて1.5人前ね」

 

 

「歌野、申し開きはあるか?」

 

「モグモグしてやった。今は消化している」

 

 

 

「「「「散ッ!!!」」」」

 

「貴様らそこになおれぇ!!!」

 

 

以後、“勇者”システムVS神花の四国全土を巻き込んだ追いかけっこ(マジ)

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

『例えるなら?』

 

 

「若葉はうさぎじゃねーか?」

 

「あー、寂しがり屋」

 

「年中発情期……(ボソッ)」

「千景、模擬戦をしよう」

 

 

「友奈、千景はネコ。球子、杏は犬か?」

 

「うーん、びみょー」

 

「綾乃はネコだよな。モミジは……」

 

「「「「番犬」」」」

「満場一致?!」

 

 

「ひなたさんは?」

 

「「「「鬼」」」」

 

 

「さーて、皆さん大人しくして下さいねぇ……?」

「わ、私は何も言ってないぞ?!」

 

丸亀城に、4体のてるてる坊主が吊された。




最後に吊されたてるてる坊主は球子、千景、モミジ、綾乃です。千景ちゃんいたずらっ子路線。

巫女の少女は奉火祭の六人の巫女の一人……?

もしかすると本編に出るかも(望み薄)。
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