大神紅葉は防人である   作:社畜戦士 くっ殺

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溜まった短編です。


蛇足感がありますが、あくまでもぽっと出の話だったり、進行の都合上消した話もありますので悪しからず。


それでは、暇潰しにどぞどぞ(*・ω・)


短編3

 

 

『君の手』

 

 

 

コンプレックス。という言葉がある。

 

広く使われる使い方としては、その事柄、内容に対し他者と比べ劣等感や卑屈に感じる物。

 

良い例としては、肉体における体型や容姿に直結するものだろうか。

 

さて、今回話すのがその肉体、容姿にコンプレックスを持つ少女達の話。

 

 

……そして、それに巻き込まれた一人の少年の話。

 

 

 

「くぁ……、ねむぃ……」

 

 

大きな欠伸をしながら、丸亀城の中を歩いて行く。目的の場所は医療室だ。

 

今日は学科の授業はなく、それぞれの鍛錬、または身体の調整に充てる日程となっている。ならば、睡眠を貪るのは妥当だろう。

 

……まぁ、眠い理由はゲームのし過ぎなのだが。

 

 

「失礼しまーす」

 

「おや、大神様。……またサボりですか?」

 

「違います。肉体を休め、精神統一をするんです。寝ながら」

 

「人はそれを睡眠と呼ぶんですが……。まぁ、奥のベッドが幾つか空いてるんで、どうぞ」

 

 

呆れながら案内をする年配の女医に礼を言ってベッドへと進む。

 

空いてて良かった。何時もなら鍛錬の扱きに耐えられない警備員の死体(比喩)が並ぶのだが、今日は空いてるらしい、ラッキーだ。

 

もう限界だ。目に入るベッド(楽園)に、睡魔が本気を出す。

 

ドサリと倒れ、そのまま導かれる様にモミジは目を閉じた。

 

 

凄い、幸せに包まれるってこんな感じか?もう抗えない、このまま寝てしまう――

 

 

「あ、そういえば今日は“勇者”様と“巫女”様の身体測定を此方で行うので、それまでには出て下さいねー」

 

 

意識が落ちると同時に言われた言葉に、モミジは返事をすることが出来なかった。

 

 

 

 

『――――で……、』

 

『それ――――かよー!』

 

 

「……ぅん?」

 

 

すやすやと気持ち良く寝ていたのだが、普段静かな医療室が騒がしくなっていることに気付き目を覚ました。

 

彼方と此方を仕切るカーテン越しに、幾人かの影が移る。分かる影と声からして、若葉達だろうか。

 

 

こんな場所で何やってんだ?と内心首をかしげつつカーテンに手を掛けて、

 

 

『お前らそんなにも見せつけやがって~、そろそろもぎ取るぞォ!!』

 

『ひやっ?!』

『わわっ?!』

 

 

『こら球子、何をしてるんだ?!』

 

 

――そんな、女子達の会話を聞いて即座にカーテンから手を離した。

 

音も無く並べられたベッドに潜り込み、息を殺してじっとする。気分は獲物を狙うネコ科の気分だ。

 

 

待て。待て待て待て、落ち着け。

 

まだ見つかった訳じゃあない。ここで息を殺して寝たふりをしやり過ごせば、向こうは此方に気付かずやることを終えて帰る筈だ。

 

それにこれは事故だ。俺は眠たかったから医療室へと来て、寝ていた。だから無罪だ。きっとそうだ。

 

 

そう考え出すと、あれ、なら何事もないようにベッドから抜け出しさっさと帰れば良いんじゃないか?と思えた。そうだ、そうしよう。

 

ベッドから起きてカーテンに手を掛ける。その時、僅かに開いた隙間からある物が見えた。

 

 

同年代の女子と比べてもナイスバディと声が上がる存在感のある胸。それを本来は隠すように下着を着用し、制服なり普段着を着るのだが……。

 

何故か、キャミソールの様な姿でそこに居た。

 

 

惜しげも無く曝け出された首回りや腕。普段見ることのない面々のその姿に、思わずゴクリと生唾を飲んだ。

 

いや、飲んだじゃないよ。

 

変態か。

 

 

現実逃避に自分へそうツッコミを入れて、またコソコソとベッドへ戻る。

 

あれはダメだ。絶対に言い逃れ出来ない奴だ。と判断し、ベッドへ潜り込もうとした所で、

 

 

『ん? 今物音がしたような?』

 

――マズい?!

 

 

声と共に開かれたカーテン。間一髪ベッドへと潜り込む事を成功させ、寝息を立てるように呼吸を整える。落ち着け、バレたら殺される。

 

 

『あれ? 誰か寝てるわね』

 

『もう、うたのん。起こしちゃマズいでしょ?早く閉めて!』

 

『それもそうね。グッドスリーピン♪』

 

 

小声でそうやり取りする声に冷や汗が出るが、直ぐにカーテンが閉じられる音がした。ナイス水都、今度何か奢る。

 

 

さて、ならばどうしようか。とベッドで目を閉じて考えるが、目、即ち視覚を閉じたからか他の器官である聴覚が鋭敏になったのだろうか。

 

 

『わぁ、ぐんちゃんスラッとしてて良いなぁ。スレンダーって言うのかな、綺麗に見えるよ!』

 

 

そんな、友奈の声が聞こえた。

 

 

『……そう? これでも、此処に来てから大分体重が増えたのだけど……』

 

『そうなの?!』

 

 

えぇ。という千景の返事の後でがしゃりという体重計の音が聞こえた。

 

少ししてうーん、という女医の声が上がる。

 

 

『標準体重でいうと、まだ足りないですね。郡様、お食事は三食摂られてますか?』

 

『はい。……自分としては食べ過ぎなくらい』

 

 

『千景はゲームばかりで、食事が疎かになってたイメージだったが、きっちり食べていたんだな』

 

『……モミジ君とか、綾乃さんが強引に誘ってくれるから』

 

 

若葉からの言葉に、千景が呟く様にボソリと返事をする。名前が出たからか、綾乃から声が上がる。

 

 

『そりゃ、あんなガリガリだとね。大人しく着いてきてくれて助かったけれど』

 

『抵抗したら何するつもりだったんだ』

 

『抱えて連れて行くか、椅子に縛って食べさせるかね』

 

『拷問ですか……?』

 

 

杏のその声に、失敬なと思う。

 

裸の付き合いで風呂を一緒になった綾乃が、千景が酷くガリ体型だと言っていたから心配しての行動だ。

 

そもそもが小食な上に、あんなに不定期に食べていてはいざという時に力が出ない、という笑い事にもならない事態になる。

 

 

『世間的には、伊予島さんや上里さんの様な体型がモテるんじゃないの?』

 

『わ、私、ですか?』

 

 

話題が振られるとは思ってなかったのか、ひなたが若干言葉に詰まりながら返事する。

 

その言葉に待ってましたとばかりに声を上げたのは、やはりというか球子だった。

 

 

『そうだそうだ! そんなポンヨヨヨンを見せつけやがって! ちょっと揉ませろ!』

 

『タマっち先輩……? 吊すよ?』

 

『ごめんなさいでした』

 

 

意気揚々とした球子の声が瞬時に消沈する。

 

全くもう、という後に杏が言う。

 

 

『タマっち先輩も可愛いんだから、もう少し身なりに気を使えば良いのに』

 

『えぇー……? タマは良いよ。柄じゃないし』

 

『そう言わないでさ。ほら、こうして髪を下ろして、ちょっと整えれば……』

 

『うわ、ちょ、杏。やめろって……!』

 

 

球子の焦ったような声が聞こえる。そんな騒ぎを聞きつけたのか、計測を終えたらしい若葉の声が聞こえた。

 

 

『こら、お前達騒ぐな……、どちら様ですか?』

『何してるのー? あれ、この人は誰?』

 

 

『タマはタマだッ!!』

 

 

突如として響く球子の怒声。若葉と直ぐ後に来た友奈の驚く声が上がる。

 

 

『球子か?! すまない、ちゃんと女の子だったんだな』

『全然気付かなかったよー、見たことない可愛い子が居たからびっくりしちゃった』

 

 

『離せ杏っ、千景ぇっ! タマはあの二人をガツンとやってやらないと気が済まないんだ……ッ!!』

 

 

暴れているのか、どったんばったんと騒ぐ物音が聞こえる。目には見えないが、球子を取り抑える杏と千景の姿が目に浮かぶ様だ。

 

 

 

『検査が終わった方はお帰りを! 郡様は後ほど、また医務室へと立ち寄って下さいね!』

 

 

 

そんな、医務室のおばちゃんの一喝でその騒ぎは幕を閉じた。

 

 

 

 

 

「――では、何か異変を感じたら直ぐに来て下さいね」

 

「はい。ありがとうございます」

 

 

笑顔で応対する女医へと、ぺこりと頭を下げる。

 

“天空恐怖症候群”、略して“天恐”に罹ってしまっている母親。その子供である千景は大丈夫なのかと大社から通達があったらしい。

 

別に“天恐”の事は隠していないのだから皆が居る前でも良かったのだが、どうやら気遣ってくれたようだ。

 

 

「失礼しまし――」

 

 

部屋を出る直前、仮眠室でチラリと見えた姿に千景の動きが止まる。

 

音を立てぬ様にゆっくりと忍び寄り、ベッドで横たわる彼を確認するように見れば、それは確かに思った人だった。

 

 

「朝から姿を見ないと思えば、こんな所で寝ていたのね……」

 

 

すぅすぅ、と寝息を立てる彼をじっと眺める。普段は球子と同様に騒がしい彼だが、眠る時には静かに寝るようだ。

 

 

つい魔が差して、指で頬を突いてみた。んん、と嫌がる様に声を上げるモミジを見てクスリと千景が微笑む。

 

ふと視線を下げれば、そんな彼の手が目に入った。

 

 

――郡千景の今までの人生において、男という生き物にはロクな思い出がない。

 

自分勝手な父親を始め、自分が悪いことをしていないのに髪を引っ張って来たり、暴力を振って来たり……。

 

 

――髪長くて気持ち悪いだろ、キレーにしてやるよ!

 

 

小学生時代のそれを思い出して、震える手で耳元の()()を押さえる。

 

消えない傷。一生残ると言われたその傷は、千景にとって人生のトラウマとも言える物の一つだ。

 

 

郡千景にとって他者の、特に男の“手”は自分に痛い事をしてくる物だという認識だった。

 

 

だが。

 

 

ゆっくりと、起こさない様にモミジの手を触る。

 

ざらざらとした感覚。硬質化した皮膚が、細かい傷に合わせて凸凹とした溝を作っていた。

 

 

「傷だらけね……。皮膚が厚いのは、あんな大きな武器を振っているからかしら」

 

 

自分も大柄な鎌を振っているが、それでもここまで皮膚は硬くなっていない。多少のマメが出来ているだけだ。

 

手の平に手を合わせれば、じんわりとした温かさが伝わってきた。

 

ゴツゴツとした骨の感覚を確かめていると、不意に手が握られる。

 

 

「も、モミジ、君……? ……寝ているわね」

 

 

ドキリと心臓が跳ねたが、むにゃむにゃと寝相を変えただけのモミジに安堵の息を吐いた。バレたかと思った。

 

千景の手の感覚を確かめるようにニギニギと触るモミジに、千景は少しの気恥ずかしさから顔を赤らめる。

 

 

だけど、この“手”は違う。

 

 

千景の知る、痛い事をしてくる“手”ではない。

 

 

「……もう少しだけ、触ってても良いかしら」

 

 

備え付けの丸椅子に座り、両手で包むようにモミジの手を握る。

 

身体を、心を温めてくれるその暖かさを感じつつ、千景はゆっくりと目を閉じた。

 

 

~~

 

 

人の気配と、同時に片手に違和感を感じる。

 

眠たい目を擦りつつ上体を起こせば、そこには千景が寝ていた。

 

 

「……ん?」

 

 

俺の手の平を枕にするように、ベッド脇で丸椅子に座って千景が寝ていた。

 

その光景と、その状態に理解が追いつかない頭が出した結論。

 

 

「……寝るか」

 

 

これは夢だ。と割り切り、千景を起こさない様にゆっくりとベッドに倒れる。

 

 

 

――後日、モミジと千景が同衾していたと大社を大きく賑わせる事になるが、それはまた別の話。

 

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

『今際の幻』

 

 

「モミジ。お前も剣道やってみるか?」

 

 

ふと掛けられた声に上を見れば竹刀を持った若葉の爺さんが居た。

 

場所は乃木家の剣道場。隣に居る綾乃と一緒に小窓から覗いていたがバレたらしい。

 

 

「ん……。別にいい」

 

「うむ? 嫌いか、剣道」

 

 

思っていた返事と違ったのか、小首を傾げながら爺さんが言う。

 

別に嫌いではない。なのだが。

 

 

「難しそう。特にルールとか」

 

「あぁ、そういう事か」

 

 

納得行った様に爺さんが手を打つ。

 

他の門下生を見ながら思うことだが、どうもルールというか、攻め方が性に合わなそうだ。

 

 

「なら、お前が思うように剣を振るえば良いさ」

 

「……良いの、そんなんで?」

 

 

ルールはどうした、と訴えるモミジの視線に笑いながら爺さんが言う。

 

 

「ルールに縛られちゃ強くはなれんからな! 若葉も最初はチャンバラから入ったもんだ」

 

「へぇ」

 

「要するに勝てば良いのさ、勝てば!」

 

「指導者がそれで良いのか……」

 

 

呆れる様に言うモミジに、ニカリと笑って言う。

 

 

「“他者を嬲る暴力”でなく、“抑止としての力”として身に着けりゃあ良い。きっと、損する事はないしな」

 

「……まぁ、そうだろうけど」

 

「そして場を制圧し言うんだ。“俺がルールだ”と」

 

「そりゃアンタの実体験でしょうが!!」

 

 

ブォンと音を立てて飛んでくる木刀。それを難無く躱して爺さんが笑う。

 

木刀を投げたのは婆さんだろうか、その側に居る若葉が焦って婆さんを止めに入っている。

 

というより、今のは実体験なのか。

 

 

ごほん、と咳を一つしてともかくだ。と爺さんが言う。

 

 

「どうせ暇だろう? なら一緒に剣を振ろう」

 

「む、モミジも剣を習うのか? 大歓迎だ!」

 

 

やるとは言っていないが早合点した若葉が目を輝かせて此方へと来る。

 

それをニヤニヤと笑いながら見る爺さんに、この野郎狙いやがったなと思うが直ぐに諦めた様にため息を吐いた。

 

 

確かに暇なんだ、なら、剣を教わるのも悪くはないだろう。

 

 

 

――今思えば、俺のこの口調も、性格もあの爺さんから多少なりとも影響を受けていたのかと思う。

 

 

 

教わった“力”で色々やった。

 

バーテックスを倒した。

 

他者を害した。

 

人を、殺した。

 

 

褒められない事ではあるだろう。特に乃木の婆さんからは半殺し以上にされる自信がある。

 

 

「“俺が、ルールだ”。だっけか……」

 

 

目の前に広がる燃え盛る大地に力無く座りながら、モミジはそう思い出すように呟く。

 

今思えば滅茶苦茶な理論だ。我が儘極まりない。

 

 

「……俺の“力”は、間違ってたかなぁ」

 

 

爺さんの、師の教えに背いてないかと今際になって思う。

 

返事が返ってくる筈も無く、ただただ燃え盛る炎の轟音の中、落ちる瞼を特に抵抗することもなく目を閉じていく。

 

 

その中で。

 

 

――頑張ったな、モミジ

 

 

「――――」

 

 

そんな声が聞こえた気がして、モミジは僅かに微笑んだ。

 




千景ちゃんは魔性の女。決して"いんらん"ではない。
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