第1話 手紙
「ついにきましたね……」
セリア・レイブンクローは微かに興奮した声で呟いた。
手に持った手紙はホグワーツ魔法魔術学校から送られてきたもので、緑色のインクで入学の知らせと記されている。
七月のとある朝食の席にいくつかの書類と共に置かれていた手紙は、セリアが昔からずっと待ち望んでいたものだった。
「レイモンド! ルン! 来てください」
朝食を食べ終えたセリアが呼ぶと、パチン、と何かがはじけるような音と共に、テーブルの横に執事服を着た男と屋敷しもべ妖精が現れた。
「なにかご用でございますか? お嬢様? もしや朝食が口に合われませんでしたか?」
キーキーと甲高い声で、屋敷しもべ妖精が首を傾げながら主に尋ねる。
「いえ、朝食はとてもおいしかったです。いつもありがとうございます、ルン」
セリアがそう言うと、ルンと呼ばれた屋敷しもべ妖精は嬉しそうにお辞儀をして、食後の紅茶の準備を始めた。
「では、書類の中になにか緊急の案件でもございましたか?」
ルンの次に執事服を着たレイモンドと呼ばれた男が尋ねる。
「いえ、そうではなく……もう、二人共わかっていて言っていますね?」
セリアは少し眉をひそめて言った。
レイモンドの口元に、からかうような笑みが浮かんでいたからだ。
「申し訳ありません、お嬢様」
「申し訳ありません!」
声を揃えて謝罪する執事としもべ妖精。
セリアは、まったく……と呟き紅茶を一口飲んで気を取り直すと、二人に尋ねた。
「このお手紙は、いつ?」
「今朝方、他の手紙と共に届きました」
レイモンドの答えを聞いたセリアはむう、ともう一度手紙に目を落とす。
「なぜ届いたその時に、持ってきてくれなかったんですか?」
「レイモンド様が、お嬢様を驚かそうとおっしゃられたのです! ルンはすぐに持って行くべきだと申し上げましたのに!」
目を落としたままのセリアが怒っていると思ったのか、ルンが少し焦ったように言い訳を始めた。
「何を言ってる。私がお嬢様の驚く顔が見られるぞと言ったら、すぐに賛成しただろう?」
しかしすぐにレイモンドに反論され、うぅ……と呻きながらセリアの顔色を伺った。
「まったく……二人共ひどいです。私を驚かせて、そんなに楽しいですか?」
「はい」
呆れたようにセリアが言うとレイモンドは即答し、その横で申し訳なさそうにしていたルンまでもが肯定するように頷いていた。
頭が痛そうにしながらため息をついたセリアは、心を落ち着かせようともう一口紅茶を飲んだ。
「申し訳ありません。……それでは、今日は入学に必要なものを買いに行くのですね?」
セリアをひとしきりからかい満足したのか、姿勢を正したレイモンドが聞く。
すると、セリアはきょとんとした顔で答えた。
「お買い物? いえ、持ち物の一覧を見ましたが、屋敷にあるもので間に合うのでそれでいいかと。それよりも、ホグワーツへ行く前に調べておきたいことがいっぱいあって……」
そんなセリアの答えを聞いたレイモンドとルンは顔を見合わせた。
「レイモンド様! お嬢様を連れてお買い物へ行ってきてくださいませ! お屋敷の事はルンにお任せください!」
「わかっている。今日は来客はないし、一日中使えるな」
「え?」
ルンが風のように駆けて部屋を出て行き、それに驚いて目を白黒させているセリアに、レイモンドは微笑みながら言った。
「お嬢様、着替えてきてください。買い物へ行きますよ」
「そんなことより調べものを……」
そう言って立ち上がろうとするセリアの肩を優しく抑えて座らせ、レイモンドは更に言う。
「お嬢様、たまには贅沢をしてください。ホグワーツへの入学は一生に一度しかございません。家にあるお古で済ませるなど、いけませんよ」
「でも調べもの……」
「それに、お父様もきっと、研究を放り投げ買い物へ付き添われたはずですよ」
「それは……」
レイモンドがそう言うと、反論しようとしたセリアはおし黙り目を伏せ考え込む。
レイモンドはセリアを見つめ、待つ。
それから数十秒も考え込んでいたセリアが口を開いた。
「……わかりました、行きましょう」
それを聞いたレイモンドは安心した顔を浮かべてから、すぐからかうように笑う。
「それでは、うんとお洒落な服に着替えてきてくださいね」
そう言うレイモンドに、紅茶を飲み終えたセリアは苦笑しながら答えた。
「べつに、いつもどおりですよ」
椅子を立ち部屋を出て行こうとするセリアに、レイモンドは優しく声をかけた。
「ああ、そうだ。言い忘れていました。……入学おめでとう、セリア」
それを聞いたセリアは立ち止まり、振り返って満面の笑みで答えた。
「うん、ありがとう! レイモンド!」