朝、私はいつも通り夜明け前に目が覚めた。
ふかふかで凶悪なほど寝心地のいいベッドだけど、いつもの習慣は抜けないみたいだね。
私はゆっくり起き上がると、トランクから動きやすい服を取り出して着替え、腰にポーチを巻きローブを羽織った。
今日中に荷物を整理しないとね。
着替え終わった私は隣のベッドを見る。
そこでは私のかわいい友達が、これまたかわいい寝顔で眠っていた。
朝からいいものを見たなあ。
これから毎日見れるんだよね、最高。
みんなを起こさないように忍び足で寝室を出て、談話室に向かう。
談話室には当然まだ誰もいない。
談話室を抜けて私は上の階に上がっていく。
入り口から寮が近くて助かったな。
広々とした玄関ホールは耳がちょっと痛くなるくらい静かで、私は早足で玄関へ向かう。
巨大な扉は、昨日寮に向かうときは閂がされていたけど、今は外されている。
軽く押すと扉は勝手に開いてくれた。
外に出ると少しだけ肌寒い風が吹いていたけど、草や水の匂いがして心地良い。
私はローブを脱いでポーチに片付けて、ゆっくり体をほぐすように体操をする。
そして靴の紐をしっかり結んでいることを確認すると、軽く走りだす。
初日でどこに何があるとか全然知らないし、とりあえず適当に走ってみよう。
しばらく走ると、先になんだか大きな建物が見えた。
なんだろあれ? 気になるからあそこに向かおうかな。
近くまで来ると建物の正体がわかった。
その建物はクィディッチ競技場だった。
試合のときは、全生徒が集まって熱中するんだろうね。
セリア達と見に行くの楽しみだ。
いつかチョウやケイティもここでクィディッチをするのかな?
さて、次はどこに向かおうかなあ。
そうだ、昨日校長先生が言ってた森の方に向かおうかな。
校長先生も兄ちゃんも危ないって言ってたから入らないけど、見に行くくらいはいいよね。
私は森に向かって走り出す。
鬱蒼とした広大な森は、きっといっぱい生き物がいるんだろうなー。
入りたいけど、我慢我慢。
森を眺めてちょっと休憩していると、遠くで物音がした。
そっちを見てみると何やら小屋があって、その中から人が出てきた。
あれ? なんだかあの人でっかいな。
ああ、昨日一年生を城に連れて行ったでっかい人だ。
でっかい人はぐぐっと伸びをした後、私を見つけて少し驚いた顔をした。
目が合ったし挨拶しないとね。
私はでっかい人の元へ向かって走る。
「おっはよーございまーす!」
「おお、おはよう。お前さん、ずいぶんと早起きだなあ」
私が挨拶すると、でっかい人も朗らかに挨拶を返してくれた。
でっかいせいで見かけはちょっと怖いけど、優しそうな人だなあ。
あ、でっかい人が水のたまった樽に顔を突っ込んだ。
すっごい豪快な顔の洗い方だね。
「私、毎朝走るのが日課なんだー。でっかい人は何してんの?」
ぶるぶると顔を振って水を飛ばしてるでっかい人に尋ねる。
でっかい人はタオルで顔をごしごし拭きながら答えた。
「俺は森番だからなあ。朝はいろんな仕事があるんだ」
「森番? てことはでっかい人がハグリッドだったの?」
「んー? 俺のこと知っちょるのかい?」
森番のハグリッド。
兄ちゃんが生物の知識や飼育の技術をべた褒めしてたからね。
背が高いって言ってたけど、想像してた以上だね。
ただ凶暴な生物ほど好きってのがたまに傷とも言ってたけど。
「うん、去年まで兄ちゃんがホグワーツにいたから。ロルフ・スキャマンダー。知ってる?」
「おお! お前さん、ロルフの妹か! いやあ、奴さん、生意気だが魔法生物に関してはすごかったからなあ。兄さんは今何しとるんだ?」
「兄ちゃんは魔法生物の研究をしてて、特に新種の発見に燃えてるよ」
私が言うと、ハグリッドはうんうんと力強く頷いた。
頷くだけですごい勢いだな。
「奴さんなら、本当に見つけるかもしれねえなあ。と、そろそろ仕事しねえと」
「あ、ごめんね。私が話しかけたせいで」
朝は忙しいだろうに、時間取らせちゃった。
私が謝ると、ハグリッドは片手をぶんぶん振って気にしないでいいと言ってくれた。
「そう言えばお前さん、名前は?」
「私はリジーだよ」
「そうか。リジー、そろそろ大広間も開くだろうし、もう戻ったほうがええぞ」
「うん、わかった。もう戻るね。じゃあばいばい、ハグリッド」
「おう、じゃあな」
私はハグリッドと別れ城に向かって走りだした。
ここら辺は斜面になっててしんどいな……。
玄関に戻った私はポーチからローブを取り出し羽織った。
まだまだ誰もいない玄関ホールを抜け、談話室へとゆっくり歩いて向かう。
さて、樽の山の前についた。
「ハッフルパフ・リズム」いってみようか。
まあ、ビネガーが発射されても避けるけどね。
私は慎重に樽を確認して叩く。
叩き終わってすぐに避けれるように身構えたけど、問題無かったみたいで樽の山が開いた。
土の坂を登ると、談話室にはいまだに誰もいなかった。
もう日が昇ったのに、ホグワーツの生徒って意外と起きるの遅いのかな? あ、何人か出てきた。
みんなそろそろ起き始めるのかな?
私は起きてきた数人に挨拶すると、談話室を抜けて寝室へ向かう。
寝室に戻ったけど、やっぱりと言うかなんと言うか、まだ誰も起きてないや。
そろそろみんな起き始める時間みたいだし、起こしてあげようかな。
誰から起こそうか。
ローブを脱いだ私はそう思案して、かわいい友達の寝顔を見下ろす。
うん、やっぱりセリアからだよね。
そう決めた私はセリアを優しくゆすった。
「セリアー。そろそろ起きたほうがいいよ」
ホグワーツ初日、楽しみだなあ。
──────────
「セリアー。そろそろ起きたほうがいいよ」
どこからか暖かな声が聞こえる。
眠っていたセリアの意識は、ゆっくり覚醒へと向かっていった。
目を覚ましたセリアの目の前にあったのは、大好きな友人の姿。
なぜかこれから運動でもするのかという格好をしていたが。
「リジー……? おはようございます……。ふわぁ……」
「あらら、かわいいあくびだねー」
思わず漏れてしまったあくびをからかわれ、セリアは少し顔を赤くして体を起こした。
「リジー……どうしてそんな格好をしているんですか……?」
「さっきまで走ってたからね。日課なんだー」
「そうなんですか……」
寝起きのせいか、セリアはぼんやりと気の抜けた返事をする。
そしてベットから降りようとして、トランクにつまづいて転びかけた。
すぐにリジーが抱きとめてくれていなかったら、セリアはホグワーツ初日を鼻に擦り傷をつけた状態で過ごしていただろう。
「す、すみません、リジー」
「あはは、いいよいいよ。目、覚めた?」
「はい……二人はまだ寝ているんですね」
残る二つのベッドには、姿勢良く眠るアイビーと体を曲げ縮こまって眠るメグの姿があった。
二人とも熟睡しているらしく、当分起きそうにないだろう。
リジーはセリアに濡れタオルを渡しながら言った。
「うん。私は二人を起こすから、セリアは顔洗って着替えておきなよ。それで二人が起きたら、トランクの荷物を整理しよう」
「そういえば、昨日は遅くてそのままになっていましたね……わかりました、着替えます」
顔を拭いたセリアはトランクから着替えを引っ張り出し、パジャマを脱いだ。
白いワイシャツにネクタイを締め、黒いスカートを身につけ、白いハイソックスに足を通し靴を履く。
ホグワーツの制服はローブだが、その下に着る服には特に指定はない。
ただ、あまり派手だと注意を受ける。
毎日私服を着るのも面倒なので、生徒達は大体同じようにシンプルなワイシャツにスカート、もしくはズボンという服を着て上からローブを羽織る場合が多いのだ。
これが冬になると、セーターを着たり首にマフラーを巻いたり手袋を着けたりする。
ちなみに極少人数だが、下着の上から直接ローブを着る魔法使いも存在する。
セリアが着替えている横でリジーは、今だ眠る二人のベッドへ近づき優しくゆすって起こしている。
すると二人はすぐに目を覚まし、眠そうに目をこすりながら起き上がった。
「おはよう……早いのね、二人とも」
「おはよ……」
「おはよー二人とも。すっごい熟睡してたねー。とりあえず顔洗って着替えなよ。朝ごはん行く前に荷物の整理をするよ」
リジーは寝起きで朦朧としている二人に濡れタオルを渡しながら言った。
顔を吹き終わったアイビーとメグがトランクから服を取り出し着替え始め、セリアはトランクを開け荷物を出していっている。
その間にリジーは全員のベッドを整え、ささっと着替えた。
「リジー、あなたすごく手際がいいのね」
「昔からずっと家事してたからねー」
「私もそれなりにできると思っていたけれど、ぜんぜん敵わないわ……」
「あはは、そんなことないって。それより早く整理しよっか」
「そうね……。あ、こら! メグ起きなさい!」
メグは取り出した服をまとい、座り込んでこっくりこっくりと船を漕いでいた。
メグの目を覚まし着替えさせようとしているアイビーをリジーがにこにこと見ていたら、ちょんと袖を引かれた。
リジーが振り返ると、セリアが少し得意げな顔をしていた。
「リジー、整理終わりましたよ」
「そっか! どれど……れ?」
クローゼットにはくしゃくしゃに服が吊るされ、私物を入れる戸棚は物が押し込まれ閉まっていない。
教科書は適当に積み上げられている。
つまりぐちゃぐちゃだった。
「ねえセリア、普段片付けるときどうしてたの……?」
「普段はルンがやってくれていたんです。たまに私も魔法で。魔法を使わず自分の手で片付けたのは初めてですけれど、なかなかうまくいきました」
セリアはふんす、と鼻息を荒くして答えた。
どうやらセリアにとって片付けるとは、とりあえず物をどこかに詰め込むということらしい。
そんなセリアを少し見つめたリジーは、セリアの肩に手を置き無情に告げた。
「正直に言うね、セリア……めっちゃ汚い!」
「ええ!?」
セリアは仰天して声を上げる。
セリアの声に驚いたのか、整理していたアイビーとメグもこちらに目を向けた。
「どうしたの? 二人とも……うわあ」
「汚い……」
セリアの荷物の惨状を見て、アイビーとメグの口からも思わず声が漏れる。
セリアはがっくりと膝をついた。
「そんな……私、片付けようとしていつもルンに迷惑をかけていたの……? どれだけ甘やかされてきたの……?」
絶望しているセリアの背中をぽん、と叩き、リジーは元気づけるように言う。
「ま、まあ、昨日も言ったけど、これから覚えればいいって! 私も手伝うから!」
「はい、お願いします……」
それからリジーも手伝い綺麗に片付いた寝室を四人は後にし、談話室を抜け大広間へと向かう。
「まさか、セリアにあんな弱点があったなんてねー」
「意外」
「お恥ずかしいです……」
「まあまあ、ほら、朝ごはん食べて元気だそうよ!」
大広間にはすでに多くの生徒がいた。
四人は並んでハッフルパフのテーブルに着き、朝食をとる。
昨日の歓迎会ほどではないが、朝食もかなり豪華だった。
「あなたたち、一年生ね?」
四人が朝食をとっていると、ずんぐりとしてつぎはぎだらけの帽子をかぶった魔女が声をかけてきた。
この魔女の名前はポモーナ・スプラウト。
ハッフルパフの寮監を務める教師だ。
スプラウトはセリア達に羊皮紙を一枚ずつ渡していく。
「これが今年の時間割よ。授業を行う場所がわからなかったら、上級生にでも聞きなさい。みんな教えてくれるわ。最初の授業は薬草学よ。城の裏側に温室があるから、そこに向かいなさい」
言い終わるとスプラウトは他の一年生に時間割を渡しに行った。
四人は食事の手を止め時間割を眺める。
「今日は午前は薬草学、午後は変身学ね」
「変身学楽しみだったんだよねー」
「変身学、かなり難しいらしいよ?」
「頑張るよ!」
「授業、遅れないようにしませんとね」
朝食を食べ終えた四人は寮に戻った。
それぞれ鞄に羊皮紙や羽根ペン、教科書などを入れ授業の用意をする。
「あれ? リジー、荷物それだけなの?」
「ほぼ手ぶらだね」
「ふふん、このポーチを見てごらん」
「なになに? ……わあ、何これ⁉︎」
「もしかして、「検知不可能拡大呪文」? すごいね」
アイビーとメグはリジーのポーチを覗き込み驚きの声をあげた。
「セリアと初めて会ったときにもらったんだー。いいでしょ」
「へえ! いいなー!」
「すごい高度に呪文がかけられてる……。お父さんでもここまではできないかも」
「リジーも、お兄さんと一緒にこれをプレゼントしてくれたんですよ」
セリアは微笑みながら鎖を握ってロケットを持ち上げた。
「プレゼント交換かー。なんかいいわね」
「アイビーとメグにも、プレゼントしましょうか?」
「え、いいの?」
「ええ、大丈夫ですよ」
「これ、セリアが作ったの?」
「いいえ、私の家でお手伝いをしてくれている人が作ってくれたんです」
「すごく腕の立つ人なんだね」
「すごいよー。あの人、キングズ・クロス駅で私と兄ちゃんのこと、気配を察知して見つけたとか言ってたし」
「何よその超人?」
準備を終えた四人は談話室を後にし、玄関ホールへと足を向けた。
いよいよホグワーツでの初めての授業が始まる。
四人は期待と少しの緊張を胸に抱いて、城から一歩踏み出した。