ハリー・ポッターと翡翠の魔法使い   作:ごま丸

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オリキャラが出ます。


第19話 クィディッチ・開幕戦

 ホグワーツ城は十一月を迎えた。

 空気は冷たくなってきており、これから一月も経つと本格的な冬が訪れるだろう。

 しかし気候の変化とは裏腹に、ホグワーツ城の中は異様な熱気に包まれていた。

 あと少しすると、今学期最初のクィディッチの試合があるのだ。

 クィディッチとは、魔法界で最も人気があるスポーツだ。

 選手の数は各チーム七人で、箒に乗って飛び回り二つのチームで対戦する。

 ピッチはとても広く細長い形をしていて、両端には三本の柱があり、その頭に丸い輪がついている。

 この丸い輪はゴールで、相手キーパーを抜いてボールを入れることで得点となる。

 競技時間は定められておらず、あるボールを獲得するまで試合は続く。

 七百にも及ぶ反則行為があるが、そのすべてを把握している者はほぼいない(魔法ゲーム・スポーツ部がすべてを公表していないため)。

 試合で使われるボールは全部で三種類ある。

 まずはクァッフル。

 見た目は赤く一番大きなボールで、一試合で一つ使用する。

 このボールをゴールに入れると得点となり、一度の得点で十点が入る。

 次はブラッジャー。

 見た目は黒くてクァッフルよりも一回り小さく、一試合に二つ使用する。

 このボールは物凄い速さで飛びまわり、選手を箒から叩き落とそうとする。

 ホグワーツでは死者が出たことはないそうだが、毎年多くの生徒を医務室に送っている。

 最後はスニッチ。

 見た目は金色で銀色の羽を持ち、胡桃くらいの大きさで一試合に一つ使用する。

 小さくて素早く飛び小回りもきくので、見つけることも捕まえることも容易ではない。

 このボールを獲得したチームには百五十点が入り、試合終了となる。

 ちなみに大昔は、スニジェットと呼ばれる鳥を捕まえると試合終了だった。

 スニジェットとは金色のまん丸な鳥で、スニッチと同じくらいの大きさをしている。

 非常に早く飛び、真っ赤な目と鋭い嘴を持つのが特徴だ。

 クィディッチでの使用や乱獲により数が激減し、現在は保護鳥獣の一種である。

 スニッチには「肉の記憶」という機能があり、一番最初に触れた人物を特定できる。

 これは判定争いになったときのためのもので、スニッチを作る職人も手袋をつけ直接触れないようにして作業するのだ。

 選手のポジションは全部で四つある。

 まずはチェイサー。

 各チームに三人で、クァッフルを扱ってゴールを狙う。

 一度の得点は十点だが、チェイサーが優秀だとスニッチでは取り返せないほどの点数を取ることができる。

 次にビーター。

 各チームに二人で、ブラッジャーを相手にする。

 クラブと呼ばれる棍棒でブラッジャーを打ち、その脅威から味方を守ったり相手選手を妨害したりする。

 ちなみにクラブで選手を殴るのはルール違反だ。

 次はキーパー。

 各チームに一人で、相手チェイサーの放つクァッフルから三本のゴールを守る。

 相手チェイサーが三本の内どのゴールを狙うのかを見抜くなど、とっさの判断が要求される守りの要だ。

 最後はシーカー。

 各チームに一人で、飛び回るスニッチを探し捕まえる。

 小柄で素早い選手がシーカーに向いていると言われるが、例外もある。

 ほとんどの場合スニッチによる点数で試合が決まるため、責任が大きいポジションだ。

 それと同時に、ビーターに一番狙われるポジションでもある。

 このようなクィディッチの話を、試合が近づくにつれほぼ毎日のようにアイビーはセリア達に語っていた。

 最初は聞いていたセリア達だったが、あまりに語り続けるので少々げんなりとしていた。

 クィディッチに夢中なのはアイビーだけではなく、ほぼ全生徒だと言ってもいいだろう。

 そして、開幕戦当日の朝がきた。

 

「それでね、去年の試合だと特にすごいのが……」

 

「もう、うるさいよアイビー。宿題はしたの?」

 

「え? あ、忘れてた……。メグ見せて?」

 

「やだ」

 

「そんなあ」

 

「セリアもリジーも、見せちゃだめだからね?」

 

「わかったー」

 

「すみません、アイビー……」

 

「みんな意地悪ね……」

 

 メグは朝食の席で弾丸のように語っていたアイビーを黙らせることに成功した。

 今朝の大広間は異常だった。

 会話が全くないという訳ではないのだが、みんなどこか声を出すのを遠慮しているように、ひそひそと話している。

 もちろん、クィディッチの試合の前は毎回独特な雰囲気になるのだが、今回は特におかしい。

 その理由は今回出場する選手にある。

 伝統の一戦と言われるグリフィンドールとスリザリンが戦う開幕戦。

 この両チームに、学内のみならず学外からも注目されている選手がいるのだ。

 一人はグリフィンドールチームキャプテン、チャーリー・ウィーズリー。

 ポジションはシーカーで、チームに入って以来一度もスニッチを逃したことがない。

 その飛行技術は並外れており、一度相手チームのビーターが二人掛かりで彼を狙ったが、それを軽々くぐり抜けスニッチを掴んだことがあった。

 しかも、仲間の選手に指示を飛ばしながらだ。

 その他にもある数々の偉業から、グリフィンドールチーム史上最高のシーカーと称されている。

 そしてもう一人はスリザリンチームキャプテン、ジェニファー・マレット。

 ポジションはチェイサーで、彼女がキャプテンになってからスリザリンチームは一変した。

 試合前はどの寮でも多少なりは生徒同士の小競り合いがあるのだが、スリザリン生はそれが特に酷かった。

 しかし彼女はキャプテンになると、それらを一切禁止にしたのだ。

 そしてチームの力を高めることに専念し、史上最高のチームを作りあげた。

 彼女が非常に優れた選手であるのは当然だが、その真価は仲間との連携にある。

 スリザリンチームのチェイサーは彼女がキャプテンになってから変わっておらず、同級生の三人が務めている。

 彼女達は互いに考えていることがわかるかのように、ピッチを縦横無尽に飛び回ってどんどん得点を稼ぐ。

 それは学生が止められるようなものではなく、毎回彼女達が百五十点を取るまでにスニッチを掴めるかどうかが勝負を分ける。

 この両選手がぶつかる最後の試合であるため、優勝チームが決まる試合にもまさる熱気が渦巻いていたのだ。

 

「それにしても、本当に不思議な雰囲気ですね……。私が試合に出るわけではないのに、なんだかどきどきしてきました」

 

「本当だね。私もなんだか落ち着かないなー」

 

「そうね。なにせチャーリー・ウィーズリーとジェニファー・マレットの最後の対決だもの。お金を出してでも見たいって人もいるはずよ」

 

「校外からプロチームのスカウトマンが見にくるって噂、聞いたことあるよ」

 

「チャーリーってそんなにすごかったんだね。後でちょっと応援しに行こうかなー」

 

「それなら私も行くわ!」

 

 一方グリフィンドールのテーブルでは、クィディッチチームのメンバーが固まって座っていた。

 彼らは少し早めに大広間にやって来ていたようで、あとから来た生徒達がメンバーに激励の言葉を送っていた。

 

「おはよう、チャーリー! 今日は頑張れよ!」

 

「スリザリンに負けるな!」

 

「ありがとう、みんな! 頑張るよ」

 

 応援に笑いながら答えたチャーリーは、特に緊張した様子もなく自然体だった。

 しかし他のメンバーはそうでなく、朝食を口に運ぶ手が少し遅い。

 特に酷かったのが、チャーリーの両隣に座る赤毛の双子のフレッドとジョージ、そしてフレッドの隣に座る黒人の少女だ。

 三人は今にも倒れてしまいそうな顔をしており、朝食は全く減っていなかった。

 チャーリーはそんな双子の頭をがしがしと強く撫でた。

 その勢いでフレッドとジョージは机に突っ伏しかける。

 

「いてて……何すんだよ、チャーリー」

 

「僕らに皿に頭を突っ込む趣味なんてないぜ」

 

 不満そうに二人が言うがその声にはとても弱々しく、いつもの悪戯っ子な様子は微塵もなかった。

 

「二人ともそんなに緊張するな。いつもの調子なら、誰もお前らを止められないから。アンジェリーナも同じだよ」

 

 チャーリーの言葉に、双子ともう一人の少女、アンジェリーナが疑うような目を向けた。

 

「僕だって初めての試合のときは、三人と同じだったよ。だけど箒に乗ってしまえば、そんなの全部吹っ飛んだんだ。それから先は知っての通りさ」

 

 チャーリーは三人に笑いかけながら続ける。

 

「つまり、クィディッチを楽しめってことだよ。一年間の試合の数なんて少ないんだから、楽しまなきゃ損だ。そうだろ? みんな?」

 

 チャーリーがそう問いかけると、同調するように他のメンバーも頷く。

 それを見て三人は少し元気が出たのか、朝食を食べる手が動き出した。

 

「それとオリバー、お前がマレット達を止められるかどうかが勝負の鍵なんだからな。頑張れよ?」

 

「な!? そんな、脅かさないでくれ!」

 

 チャーリーがチームのキーパー、オリバー・ウッドをからかい、チームメンバーは笑い声をあげる。

 もう全員いつも通りの顔になっていた。

 そこへセリア達四人がやってきた。

 

「おはよー、チャーリー。応援に来たよ」

 

「おはようございます、チャーリーさん」

 

「おはようございます」

 

「お、おはようございます! 今日の試合、頑張ってください!」

 

「ああ、おはようみんな! 応援ありがとう。頑張るよ!」

 

 リジーののんびりとした挨拶に続いてセリア達は挨拶をする。

 アイビーは少し上ずった声になってしまったが、チャーリーは気にせず笑顔で返した。

 

「あ、この間のかわいい子達じゃないか」

 

「僕らのファンになったのかい?」

 

 セリア達に気づいたフレッドとジョージが元気に言う。

 もうすっかりいつもの調子を取り戻したようだ。

 二人の冗談をリジーとメグ、アイビーは軽く笑って流すが、セリアは律儀に答える。

 

「おはようございます、フレッドさん、ジョージさん。お二人のご活躍も、とても楽しみです」

 

「あ、ああ、うん。ありがとう」

 

「普通に返されると、調子狂うな……」

 

 二人は面食らったように頭をかく。

 その二人の頭をチャーリーは軽くこづいた。

 

「こら、二人とも。ふざけてないでちゃんと朝食を食べろよ。力出ないぞ」

 

「分かってるさ、チャーリー」

 

 チャーリーに言われた双子は食事を再開した。

 

「食事の邪魔だろうし、私達はもう戻るよ」

 

「悪いな、リジー。あまり相手できなくて」

 

「いいよいいよ。そのかわり、かっこいい所見せてね?」

 

「ああ、任せてくれ!」

 

「それじゃ頑張ってね。みんな、帰ろっか」

 

 リジーが声をかけると、他のチームメンバーと話していた三人もそれに続く。

 

「それではみなさん、ご武運を」

 

「応援しています」

 

「精一杯応援します! が、頑張ってください!」

 

 最後の挨拶でもアイビーの声が上ずってしまったが、チームメンバー達は笑顔で手を振って見送った。

 セリア達はハッフルパフのテーブルの席に戻った。

 

「デザートの続きを食べないと」

 

「メグ、まだ食べるの?」

 

「まだ全然食べてないからね。それに応援するには体力が必要だよ」

 

「そうですね。私も、もう少し食べることにします」

 

「じゃあ私もー」

 

「もう、しょうがないわね……」

 

 四人は朝食を再開した。

 それからしばらくすると、グリフィンドールのテーブルから歓声が上がった。

 グリフィンドールチームが朝食を終えて席を立ったのだ。

 他の生徒達の歓声を浴びながら、グリフィンドールチームは大広間を出ようとする。

 しかし大広間の扉を目前にしてチームは立ち止まり、それと同時に大広間の中に沈黙が広がった。

 静まり返った中、足音が響き七人の生徒が大広間に入ってきた。

 入ってきた生徒達は、グリフィンドールチームの前まで進むと足を止めた。

 この生徒達はグリフィンドールチームの対戦相手、スリザリンのクィディッチチームだ。

 両チームのメンバー達が睨み合う中、チャーリーが一歩前に出て口を開く。

 

「おはよう、マレット。随分と遅い登場じゃないか。寝坊でもしたのかい?」

 

 するとスリザリンチームの中からも、一人の女生徒が前に出た。

 

「おはよう、ウィーズリー。残念だけど、寝坊なんてしていないわ」

 

 チャーリーの軽口に答えた女生徒。

 女性にしては高身長な彼女は、陶磁器のように白い肌をしている。

 すべてを飲み込むような漆黒の髪が、背中の辺りで滑らかに揺れている。

 冷めた目にうすい青色の瞳が浮かび、より雰囲気を冷たく見せていた。

 彼女の名前はジェニファー・マレット、スリザリンチームのキャプテンであり、並外れたチェイサーでもある少女だ。

 

「そうか、なら今日は朝食を食べずに試合をするのか? それとも、今から食べるのか?」

 

「もう試合まで時間もないのに、今から食べるわけないじゃない。みんなで寮で食べたわ」

 

「寮で食べただって? おいおい、そんなのまともな物食べれないだろう?」

 

「そちらの寮と一緒にしないでくれるかしら? あなたは料理という言葉、知らないの?」

 

「料理だって? 寮で?」

 

「厨房の子達に頼んだのよ。静かな場所で、ゆっくりと食べたかったから」

 

 ジェニファーはそう言うと、一人の背の高い男子生徒にちらりと視線を送った。

 その男子生徒の目の周りには青あざがあり、手には七人分の食器を持っていた。

 

「あの子達がお皿は大広間に置いてほしいって言ったから、持ってきたの。そうじゃないとこんなに騒がしい所には来ないわ」

 

「……なんでフリントが皿を全部持ってるんだ?」

 

「ああ、マーカス? 彼、あの子達に上から目線で生意気なことを言ったのよ。だからちょっと痛めつけて、お皿を持たせてるの」

 

「あの子達って屋敷しもべ妖精だよな? あいつ、なんて言ったんだ」

 

「お前達が運んできてお前達が回収しろ、しもべ共、ですって」

 

「よくやった、マレット」

 

 チャーリーとジェニファーは、そろってフリントを睨みつける。

 フリントは大きな体を居心地が悪そうにすくめ、スリザリンのテーブルへ食器を置きに行った。

 フリントが戻ってくると、ジェニファーは踵を返した。

 

「これで私達の用は終わりよ。一応スリザリン寮のみんなに顔も見せたし、お先に競技場へ行かせてもらうわ」

 

「ああ、また後で会おう。まあ今日勝つのは、僕達だけどな」

 

 チャーリーは去っていくジェニファーの背に向かって言う。

 するとジェニファーは立ち止まり、顔だけ振り向いた。

 彼女のその目には、静かだが激しく燃えるような闘気が満ちていた。

 

「勝つのは私達、スリザリンよ。もちろん今日の試合だけじゃなく、優勝杯もね」

 

「負けないさ。優勝杯は僕達の物だ」

 

 二人の視線がぶつかり合う。

 少しの間睨み合い、ジェニファーはチームを引き連れ大広間を去って行った。

 スリザリンチームが去ると、チャーリーはふう、と一息ついた。

 そして、会話に割り込むことができなかったチームメンバーを振り返り、笑いかけた。

 

「それじゃあ、行こうか?」

 

 そしてチャーリーは歩き出し、それに続いてグリフィンドールチームも大広間を出て行った。

 

「すごい迫力だったね」

 

「え、ええ……」

 

「はい。キャプテンのお二人共、凄まじい気迫でした」

 

「あんなに恐いチャーリー、初めて見たよ……」

 

 セリア達はひそひそと話す。

 両チームがいなくなっても、大広間の中は静まり返っていた。

 チャーリーとジェニファーは普通に話していたように見えていたが、どうやら周囲を威圧するような空気を作っていたようだ。

 

「なんだか、食欲がなくなってきたなー」

 

「そうですね……」

 

「ねえ、もう寮に戻らない? それで早く競技場に行って、いい席を取りましょう?」

 

「お、いいね。行こう行こう」

 

「まだデザート……」

 

「ほら、行くわよメグ。セリアもいい?」

 

「はい。行きましょう」

 

 四人は席を立ち、静かな大広間から出て行く。

 大広間を出ると、生徒だけではなく絵画の中の人物や、城を滑るゴースト達も興奮したようにひそひそと話していた。

 いよいよホグワーツ城の中の緊張は頂点に達した。

 まもなく、激闘が始まる。

 




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