ハリー・ポッターと翡翠の魔法使い   作:ごま丸

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第2話 ダイアゴン横丁へ

「いつも通りとは言ったけれど、少しはお洒落するべきかな?」

 

 セリアが呟く。

 ここは屋敷の二階にあるセリアの自室。

 広々とした室内には多くの戸棚や本棚が並び、大きな机の上には本や書類、さらにはマグルの漫画雑誌までもが乱雑に積まれている。

 床には本や書類に加えガラス瓶や植物の束、その他よくわからない物などが散らばり、まっすぐに歩くことができないほどだ。

 さらに服を選ぶためか、クローゼットは全開でタンスも全ての段が飛び出ており、ベッドの上には引っ張り出した衣服が山のようになっている。

 

「ふう……こんなものでいいですよね」

 

 そんな中で身支度を整えたセリアは、鏡の前に立ち自分の姿を確認する。

 低めの背丈、人形のように整った顔立ちに明るい青緑の、いわゆる翡翠色の瞳の目は目元がきりっとしている。

 窓から入る日の光を浴び、一切のくすみも無いゆるくウェーブがかった銀髪がきらきらと輝き、背中までのびている。

 透き通るように白い肌は、まるで肌そのものが微かに光っているかのようだ。

 胸元にリボンがある白いブラウスにふんわりとした黒いスカートは膝下まである。

 白いハイソックスに足を通し、靴には黒い飾りリボンがついている。

 ブラウスと靴についているリボンはセリアのお気に入りだ。

 

「ちょっと白黒すぎたかな? まあ時間もあまりありませんし、これで行きましょう」

 

 そう言って鞄を手に取り部屋を出ようとしたセリアだが、扉を出たところでふと足を止め部屋の惨状を見渡す。

 

(ちょっと散らかりすぎかな……。ルンにあまり迷惑はかけたくはないですね)

 

 セリアは杖を取り出し、意識を集中させ空中で払うように動かした。

 すると、部屋に散乱している物がひとりでに動きだした。

 本や漫画雑誌は本棚へと戻り、書類はまとめて重ねられ、床に散らばっていたものは開いたままになっていた戸棚へ並べられる。

 山のように積まれていた服もタンスやクローゼットへと納まる。

 しばらくしてすべての物が片づいたことを確認したセリアは、杖を下ろしてふう、と息をついた。

 

(ルンなら指を一度鳴らすだけですぐに片付けられるんでしょうね……。やっぱりまだまだ難しいです)

 

 杖を鞄にしまい一階へ降りると、すでにレイモンドとルンが待っていた。

 

「ごめんなさい、遅れてしまいました」

 

「問題ありません。お洋服とてもお似合いですよ、お嬢様」

 

 謝るセリアに気にしてないようにレイモンドが答える。

 

「ありがとうございます。ところで、ダイアゴン横丁にはどう行くのですか?」

 

 褒められて嬉しそうに少し笑ったセリアが聞くと、レイモンドは暖炉を見やり言う。

 

「今日は行きは暖炉を使いましょう。食後すぐに姿あらわしだと、少し気分が悪くなるかもしれませんので」

 

「わかりました」

 

 セリアは頷くと、暖炉の上に置いてある鉢を取り中を確認した。

 

「煙突飛行粉(フルーパウダー)が少なくなっていますね……。今日ついでに補充しましょう」

 

 セリアは粉をひと握り取ると暖炉の火にふりかけた。

 すると、暖炉の火はエメラルド色に変わり激しく燃え上がった。

 その火の中になんのためらいも無く入ったセリアは、振り向いて言う。

 

「それでは先に行きます。ルン、お屋敷のことは任せました。それと、晩御飯はクリームシチューがいいです」

 

「お任せください、お嬢様!」

 

「私もすぐに参ります。到着されたら動かずお待ち下さい」

 

 ルンとレイモンドの言葉に頷くと、セリアは小さく息を吸いはっきりと叫んだ。

 

「ダイアゴン横丁!」

 

──────────

 

 くるくると回転するような浮遊感がおさまると、そこは薄暗くあまり広くはないが、暖かく居心地の良さそうな場所だった。

 パブ《漏れ鍋》である。

 

「ミス・レイブンクロー! お久しぶりです」

 

 暖炉から出たセリアが服を軽くはたき少しついたすすを落としていると、カウンターにいたしわくちゃ顔で腰の曲がった店主のトムが声をかけてきた。

 

「こんにちは、トムさん。お久しぶりです」

 

 答えるセリアの後ろで暖炉の火がエメラルド色に輝き、レイモンドが姿を現した。

 

「お待たせしました、お嬢様」

 

 セリアとレイモンドの顔を交互に見てトムが尋ねる。

 

「おや、レイモンドさんも。お二方お揃いで、本日はどのような用事で?」

 

 暖炉から出てきたレイモンドもすすを落としながらトムの問いに答えた。

 

「やあトム、久しぶり。実は今朝、ホグワーツから手紙が届いてね」

 

 レイモンドの答えにトムは得心がいったとばかりに頷いた。

 

「ああ、ミス・レイブンクローも今年いよいよ入学ですか! なんとまあ、おめでとうございます!」

 

 トムの祝福の言葉に嬉しそうにセリアは微笑んだ。

 

「ありがとうございます、トムさん」

 

 するとトムはカウンターの中で忙しなく戸棚を探りだした。

 

「いやあ、めでたい。お祝いに一杯、お酒などいかがですかな?」

 

「お酒……」

 

 お酒と聞いて目を輝かせ始めたセリアを見てレイモンドが言う。

 

「だめですよ、お嬢様。トム、子供に酒を出そうとするな」

 

「いえいえ、冗談ですよ。ところで、これからお買い物ですかな?」

 

 まったく悪びれた様子のないトムを軽く睨み、レイモンドが答える。

 

「ああ、だからこんな所で喋っている暇はないんだ。お嬢様、行きましょう」

 

「あ、はい。それではトムさん、失礼します」

 

 レイモンドが歩き出し、セリアはトムに一礼してからその後に続いた。

 裏庭へ向かう二人にトムは声をかけた。

 

「良い一日を」

 

──────────

 

 セリアとレイモンドは数本の雑草とゴミ箱しかない裏庭へ出て、レンガの壁の前に立つ。

 このレンガを決められた順番で叩くことで、ダイアゴン横丁へと続く道が開くのだ。

 レイモンドは杖を取り出し壁を叩こうとするが、セリアが立ち止まり俯いているのに気づいて手を止めた。

 

「あの、レイモンド……」

 

「お嬢様、どうなされました?」

 

 レイモンドはもしや煙突飛行で酔ったか、と心配そうに尋ねる。

 するとセリアは顔を上げ、覚悟を決めたかのように言った。

 

「お酒、少しくらいなら飲……」

 

「だめです」

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