ハリー・ポッターと翡翠の魔法使い   作:ごま丸

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投稿が遅くなり、すみません。


第21話 クィディッチ・決着

 スリザリンチームと同じく、グリフィンドールチームも集まり作戦会議をしていた。

 しかしスリザリンチームとは違い、グリフィンドールチームの空気はとても暗い。

 特にグリフィンドールのキーパー、ウッドが悔しがっていた。

 自分がチェイサーを止めることができなかったせいだと、顔をくしゃくしゃに歪めて謝っていた。

 

「気にするなよオリバー。正直僕も予想外だった。今回のマレット達は、これまでとまるで違う。僕のほうこそ、スニッチを掴めなくてすまない」

 

 チャーリーはウッドの肩を叩いて慰めながらそう言う。

 実際チャーリーは何度かスニッチを見つけていたのだが、フリントにより阻まれていた。

 性格には難があるが、フリントは優秀な選手でもあるのだ。

 

「ちくしょう、フリントのやつ。チャーリーをしつこく狙いやがって」

 

「そのせいでみんなをブラッジャーから守れなかった……くそっ」

 

 ビーターであるフレッドとジョージも、チャーリーをブラッジャーから守ることに気を取られて他の味方を妨害されていた。

 二人は悔しそうにクラブを握りしめる。

 

「二人もそんな顔をするな。お前達は悪くないよ。それにチェイサーのみんなも、マレット達を相手によくやってる。……みんな、聞いてくれ」

 

 チャーリーはそこで一度言葉を切り、メンバー達が注目するのを待つ。

 全員がチャーリーを見ると、チャーリーは再び口を開いた。

 

「フレッド、ジョージ、次からはもう僕を守るな。相手の妨害とみんなの守りに集中するんだ」

 

「はあ!? 何言ってんだチャー兄!?」

 

「そんなことできるわけないだろ!?」

 

 チャーリがそう言うと、フレッドとジョージが叫ぶ。

 他のメンバー達も同じく口々に反対するが、チャーリーは首を横に振る。

 

「お前達はみんなを守れ。そうじゃないと、僕らは勝てないんだ。……頼む、フレッド、ジョージ」

 

 そう言って頭を下げるチャーリーに、フレッドとジョージは何も言い返すことができなくなった。

 

「だ、だけど、もしチャーリーがブラッジャーに落とされたら、どうするの?」

 

 アンジェリーナが不安そうに言う。

 もしもチャーリーが怪我により退場したら、シーカー不在となり得点差はとてつもないものになるだろう。

 その場合グリフィンドールのクィディッチ優勝杯獲得の可能性は、確実に消えてしまう。

 

「大丈夫さ、僕は絶対に当たらない。そして絶対にスニッチを掴む。誓うよ」

 

 不安そうに自分を見つめるメンバー達を見渡して、チャーリーは続ける。

 

「僕を信じてくれ」

 

 チャーリーの固い意志を感じたメンバー達は、一瞬何か言いたげに口を開いたが何も言わずに黙った。

 チャーリーはメンバー達を見渡し、ウッドに目を止めた。

 

「ウッド、僕の代わりに指揮を執れ」

 

 突然チャーリーにそう言われたウッドは、驚いて大声を上げる。

 

「ど、どういうことだ、チャーリー!?」

 

「フリントは性格はどうあれ、優秀な選手だ。あいつに集中狙いされていちゃ、さすがにみんなの指揮を執るのは難しい。だからお前がやるんだ」

 

「そ、そんな……チャーリーの代わりなんて、俺には……」

 

 ウッドは顔色を真っ青にしながら俯く。

 いきなり大役を任され、その重圧に押し潰されそうになっていた。

 チャーリーは震えるウッドの両肩を掴み、自分の方を向かせる。

 

「お前は僕なんかよりも、よっぽどキャプテンの素質がある。お前だからチームを任せられるんだ。いいか、ウッド? よく聞け」

 

 チャーリーは揺れるウッドの目と自分の目を合わせて言う。

 

「次のキャプテンはお前だ」

 

 それを聞いたウッドは、愕然と目を見開く。

 それでもチャーリーがウッドと目を合わし続けていると、ウッドの目にだんだんと力がこもってきた。

 そしてウッドは覚悟を決めたのか、勇ましい顔で言った。

 

「チャーリー……ああ、分かったよ! 俺に任せてくれ! やってやるさ!」

 

「よく言った!」

 

「痛い!?」

 

 チャーリーに思いきり背中を叩かれ、ウッドは勇ましかった顔を歪め情けない声を上げた。

 それを見て他のメンバー達は笑い声をあげ、チームの雰囲気が明るくなった。

 

「……みんな、準備はいいな?」

 

 チャーリーはチームメンバーの一人一人と目を合わせ、問いかける。

 メンバー達が力強い目でチャーリーを見つめ返すと、チャーリーは頷いて楽しそうに笑った。

 

「よし、それじゃあ、楽しもうか!」

 

「任せとけよチャーリー!」

 

「ああ、ぶちこんでやるさ!」

 

「おー!」

 

 フレッドとジョージがクラブを振り上げて叫ぶと、それに続いてメンバー達も大声を上げ箒に跨った。

 そして両チームのメンバーがそれぞれのポジションにつき、ホイッスルの鋭い音と共に試合が再開した。

 選手達が一斉に動き出すなか、空中でチャーリーとジェニファーがすれ違う。

 二人は少し視線を合わせた後、全く逆の方向へと飛んで行った。

 

「さて、試合再開です! まずクァッフルを手にしたのは、グリフィンドールチーム! ゴールへと突き進んで行きます! っと、しかし、スリザリンチームのチェイサーにクァッフルを奪われてしまいました……よし、いいぞ! フレッドだかジョージだか知りませんが、とにかく双子のウィーズリーが打ったブラッジャーが掠めてスリザリンチームがクァッフルを落とし、それをアンジェリーナが拾いました! そのままクァッフルを持ち、ゴールを狙います! 行けっアンジェリーナ!」

 

 力強くクァッフル振りかぶったアンジェリーナをスリザリンのビーターが狙うが、その前にジョージがそのビーターにブラッジャーをぶつけた。

 ブラッジャーがぶつかったスリザリンのビーターは、箒から落ちかけたがなんとかこらえる。

 そしてアンジェリーナがゴールを決め、ようやくグリフィンドールチームに追加点が入った。

 

「いいぞ、アンジェリーナ! よくやった! グリフィンドールの得点です! 現在百対二十、十分取り返せるぞ!」

 

「ジョーダン! 公平に実況ができないのであれば、マイクを取り上げますよ!」

 

「冗談きついぜ、マクゴナガル先生! ……あ、ごめんなさい、マイク取り上げないで! 真面目にやります、本当です! ……ふう、失礼しました、皆さん。しかし、先程までチャーリー・ウィーズリーを守っていた双子のウィーズリーが、それを止めてしまいましたね。勝負に出たグリフィンドール、ブラッジャーによりチャーリーが競技場に散るのか、スニッチを掴み大逆転をするのか、見逃せない試合が続きます! 頑張れ! グリフィンドール!」

 

「ジョーダン!!!」

 

 グリフィンドールの方がビーターの数が多くなったことにより、スリザリンチームのチェイサーの連携が少し崩れる。

 その結果グリフィンドールチームが少しずつ得点を重ねて、スリザリンチームとの差を縮めていった。

 しかしジェニファーはすぐに対応し、それまでグリフィンドールチームの妨害を優先させていたビーターを、チームメンバーの守りを優先するよう指示を変えた。

 そしてチェイサーの連携の速さをさらに上げ、ゴールを狙う。

 ウッドもゴールを守りながら果敢に声を上げ指示を出していたが、それでも純粋に実力で勝るスリザリンチームの方が優勢であり、すぐに縮まった差が広がっていく。

 チャーリーは、フリントが次々と打ち込んでくるブラッジャーを神技のような飛行で避けながら鋭く辺りを見渡していたが、スニッチは姿を現さない。

 スリザリンのシーカーは、味方が圧倒的に優勢な状況ながらもなかなかスニッチを見つけられず、徐々に焦りを募らせる。

 そのまま試合は長期戦になっていった。

 

「スリザリンチームの得点! 現在スリザリン二百二十対グリフィンドール八十! まだ、まだスニッチを掴めば勝てるんだ! チャーリー頼む、勝利を掴んでくれ!」

 

 実況のリーがそう叫ぶが、諌めるはずのマクゴナガルも拳を振り上げながら試合に熱中しており、それを止める者はいなくなっている。

 と言うよりも、もはや観客席に実況を聞いている者はおらず、全ての観客が試合に釘付けになっていた。

 スネイプですら組んだ両手に力がこもっており、空を飛ぶ選手達を睨みつけていた。

 そして再びスリザリンチームが得点を決めたその時、チャーリーはついにスニッチを見つけた。

 スニッチはピッチの芝生の上をきらきらと飛んでいる。

 

「っ、やっと、見つけた!」

 

 チャーリーは空を切り裂くように滑空していく。

 慌ててスリザリンのシーカーも後を追うが、焦っていたこともあり完全に出遅れてしまった。

 

「行かせるか! ウィーズリー!」

 

 フリントはそう叫び、自身に向かってきていたブラッジャーをチャーリーへ目がけて強く叩き込んだ。

 観客席まで響くような鈍い音と共に、ブラッジャーは猛烈な速さでチャーリーへと向かっていく。

 チャーリーはそれをちらりと見て確認する。

 

(あれは、避けないと当たる。だが構うものか。骨が折れたとしても、必ず、スニッチを掴んでやる! ここで終わらせる!)

 

 ぐんぐんとブラッジャーがチャーリーに迫る。

 チャーリーもスニッチに近づいてはいるものの、それを掴む前にブラッジャーが彼に当たるだろう。

 いよいよブラッジャーがぶつかりそうになり、チャーリーはその衝撃に備えて強く箒の柄を握りしめた、その瞬間。

 

「こんの……舐めんなよ!」

 

 そう雄叫びを上げたフレッドが強く打ったブラッジャーが、チャーリーに迫るブラッジャーに激突し弾き飛ばした。

 その奇跡のような出来事に、クィディッチ競技場全体が驚きの声を上げる。

 

「おい、嘘だろ!?」

 

「へい! 余所見してていいのかよ!?」

 

「何っ? ぐわあ!」

 

 そして弾き飛ばされた先に待ち構えていたジョージが、そのブラッジャーをフリントに叩き込む。

 ブラッジャーを腹部に受けたフリントは、泡を吹きながら箒から落ちていった。

 

「行け! チャーリー!」

 

「決めてくれよ、兄貴!」

 

「ははは! まったくお前ら、最高の弟だ!」

 

 チャーリーは声を上げて笑い、必死に逃げるスニッチに迫る。

 そしてついに、その手にスニッチを収めた。

 

「取った!」

 

 チャーリーはピッチに降り立つと、スニッチを高々と掲げた。

 しかし、競技場は静まり返っていた。

 通常スニッチを掴むと、競技場は大歓声で沸き立つものだ。

 そして競技場に実況の声が響き渡る。

 

「……双子が奇跡のようなファインプレーを決めてくれた後、チャーリー・ウィーズリーがスニッチを掴みました。しかし……しかし、その直前、ジェニファー・マレットの得点がありました。試合終了です」

 

 そこでリーは一度言葉を切り、悔しそうに唇を噛んだ。

 そしてマイクを掴んで立ち上がり大声を上げた。

 

「二百四十点対二百三十点で、スリザリンチームの勝利です!」

 

 その大声をかき消すように、競技場から割れんばかりの大歓声が起こった。

 そのせいで観客席がぐらぐらと揺れ、慌てて教師陣が杖を振りそれを抑えていった。

 そんな大混乱のなか、長かった今年度のクィディッチ開幕戦は幕を閉じた。

 もうすでに日は沈み、空には星が瞬いていた。

 

──────────

 

 興奮して騒ぎながら生徒達が城へと戻って行く。

 しかしセリア達は、気が抜けたように呆然としながら観客席に座ったままだった。

 

「本当に、意味不明な試合だったな……」

 

「ええ……ただ一つ確かなのは、今まで見た中で一番すごい試合だったってことね……」

 

 スコットとアイビーは一気に全身の力が抜けたのか、まるで席と一体化したようにぐったりとしていた。

 

「世の中に、こんなにすごい物があったなんて……! 私、とても感動しました!」

 

「うんうん! すごかったね、セリア! チャーリーかっこよかったなー」

 

「はい、皆さんとてもかっこよかったですね! だけど旗を振りすぎて、少し手首が痛いです……」

 

「え、大丈夫? ……って、セリア、旗の上から半分は?」

 

「え? あれ? どこに行ったんでしょうか?」

 

「強く振りすぎて、どっかに飛んでっちゃったんだねー。そりゃ痛くもなるよ」

 

「そ、そんな、恥ずかしい……」

 

「おっちょこちょいだなー、セリアはー。うりうり」

 

「うう……突かないで下さい……」

 

 リジーに頬をぷにぷにと突かれ、セリアは顔を赤く染める。

 それをかわいく思ったリジーはセリアを抱きしめた。

 そんな微笑ましい二人の前では、スコット達と同じく燃えつきたように脱力したセドリックとメグが話していた。

 ただメグは、セドリックの横で大きな声を上げていたことを思い出し、今さら顔を赤くして恥ずかしがっていた。

 

「いや、本当に、すごかったなあ」

 

「は、はい、すごかったですね」

 

「うん。それにしても、僕はあのチャーリー・ウィーズリーを相手にしないといけないのか……」

 

 セドリックは呆然と呟く。

 今年からクィディッチチームの一員となったセドリックは、二年生ながらもシーカーの座を勝ちとっていた。

 しかし今回の試合を見て、チャーリーという存在の大きさと勝敗を左右するシーカーの重圧を、改めて実感していたのだ。

 メグは少し顔色を悪くするセドリックを見てしばらく逡巡していたが、意を決して彼の手を両手で握った。

 セドリックが驚いてメグを見ると、彼女は顔を真っ赤に染めながら叫ぶ。

 

「き、きっと大丈夫です! 私も、アイビーも、ブルクハルトさんも、みんながあなたを応援してます! あなたの力になります! だから……だから、自分を信じて下さい! セ、セドリック!」

 

 叫び終えたメグは、息を切らしながらも慌ててセドリックの手から両手を離し、恥ずかしそうに俯いた。

 

「その通りさセド! 俺達がついてるぜ!」

 

「そうよ! セドリックだってかなり優秀な選手なんだから!」

 

「チャーリーはすっごいけど、セドリックだってすっごいってこと、みんな知ってるよ!」

 

「私ももしできることがあるのなら、微力ですがお手伝いします!」

 

「みんな……」

 

 メグの声は当然全員に聞こえており、セリア達も次々にセドリックを激励する。

 それを受け、セドリックの顔がだんだんと明るくなっていく。

 

「みんな、ありがとう。優勝できるよう、頑張るよ!」

 

「いいぞ! セド!」

 

「セドリック、かっこいいわよ! ね、メグ?」

 

「え、う、うん、かっこいいです」

 

「メグ、君のおかげで勇気が湧いてきたよ。本当にありがとう!」

 

「い、いえ、そんな、私は……うぅ……」

 

 セドリックに笑いかけられ、メグはどんどん赤くなっていく。

 それをアイビーはにやにやと笑いながら見ていた。

 するとリジーが元気に手を上げて言った。

 

「よーし! それじゃあセドリックを応援しようってことで、寮でパーティーしようよ!」

 

「そんなことを勝手にしてもいいのですか?」

 

「ええ。クィディッチの試合の後は、どの寮もパーティーをして大騒ぎするそうよ。そうよね、スコット?」

 

「ああ。暗黙の了解みたいになってて、先生達も注意しないんだ」

 

「あんまり騒ぎすぎると怒られるそうだけどね。でもリジー、料理はどうするの?」

 

 アイビーがそう尋ねると、リジーはどんと胸を叩いて言う。

 

「任せて! 前に厨房の場所を聞いたから、屋敷しもべ妖精さん達に何かもらってくるよ! なんなら私が作るしね」

 

「私もお手伝いします!」

 

「よしそれじゃあ、セドの大激励パーティー、やるぞー!」

 

「おー!」

 

「ははは……お手柔らかに頼むよ」

 

 大盛り上がりで城へ向かうセリア達、セドリックは苦笑しながらもその後に続く。

 その帰り道アイビーはメグに近づき、耳元で囁いた。

 

「ねえメグ、セドリックと仲良くなれた?」

 

「う、うん……名前も、呼べるようになったよ」

 

 メグは真っ赤な顔でアイビーに答える。

 そんなメグを見てアイビーは優しく笑い、メグの頭を撫でる。

 

「良かったわね、メグ。それにしても、ずっと顔真っ赤じゃない。それじゃあセドリックも気づいちゃってるかもね?」

 

「え! そ、そんな……本当に!? ど、どうしたらいい、アイビー!?」

 

 焦ったメグがアイビーに縋り付くと、アイビーは悪戯っぽく笑う。

 

「あは、冗談よ!」

 

「な! 酷いよアイビー!」

 

「ふふふ、ごめんねメグ。でもそんな反応だと、すぐに気づかれちゃうわよ?」

 

「それは……」

 

 アイビーの指摘にメグはばつが悪そうな顔をする。

 

「まあ私も協力するから、なんとか慣れるようにしなさいよ?」

 

「う、うん。ありがとう」

 

「どういたしまして」

 

 まだ顔が赤いメグがお礼を言い、それにアイビーは微笑んで答える。

 その後セドリックとハッフルパフチームを激励する会が談話室で開催された。

 それは怒っていくつかの魔法植物と共に突入して来たスプラウトが、全ハッフルパフ生達を寝室に放り込むまで続いたのだった。

 

──────────

 

「みんな、お疲れ様。今日はゆっくり休んでくれ」

 

 時間は少し戻り、試合終了後のグリフィンドールチームの更衣室。

 沈んだ表情で選手達が寮へ戻る中、着替え終えたチャーリーは更衣室に残っていた。

 他の選手達がいなくなると、チャーリーはタオルを頭に乗せたまま俯いて座っている双子の元へ向かう。

 

「ほら、二人とも。はやく着替えて寮に戻れよ。初めての試合だったんだし、ちゃんと休むんだぞ?」

 

 チャーリーの声に二人が顔を上げると、その顔は悔し涙で濡れていた。

 ジョージが震える声で言う。

 

「ごめん、チャーリー。俺が、フリントなんて放っといてマレットを狙っていたら、引き分けだったのに……」

 

 そしてフレッドも震える声で続く。

 

「俺も、そうだよ。もっとみんなを守れてたら、負けなかったんだ。俺達のせいで負けたんだよ……」

 

 そこで二人の目に涙が浮かんできて、二人は再び俯いた。

 チャーリーはそんな二人を両手で抱きしめた。

 

「お前達のせいじゃない。フレッドは奇跡みたいなプレーを見せてくれたし、ジョージだってブラッジャーが弾かれる位置を完璧に見極めていた。二人の息が合ってたからできたんだし、普通のビーターじゃできないよ」

 

 そう言ってチャーリーは二人を離す。

 二人が顔を上げると、チャーリーは笑って続ける。

 

「実を言うとな、スニッチを見つけとき、勝てないって思っていたんだ」

 

 チャーリーの告白に、フレッドとジョージは驚いて目を見開く。

 

「ど、どう言うことだよ……?」

 

「スニッチを掴むまでに、点差が百五十点以上になるって分かっていたんだ。だけど僕は構わないって思った」

 

「……なんでだよ?」

 

 二人が問いかけると、チャーリーは目を閉じて少し考える。

 そしてゆっくりと話しだした。

 

「あそこでスニッチを見逃しても、その後点差を縮めることはできないかもしれない。むしろ点差が広がる可能性の方が高い。だったらもし負けるとしても、点差をできるだけ小さくした方が良い。他の人はそう思うだろうし、それが普通だろうな」

 

 そこでチャーリーは一度言葉を切り、首を横に振った。

 

「でもそんなのは関係ない。僕はただ、相手が強くて圧倒的な点差があったとしても、僕の納得のいく形で試合を終わらせたかった。……それに、マレットには負けたくない。それだけなんだよ」

 

 チャーリーの言葉に、フレッドとジョージはよくわからないという表情で首を傾げる。

 涙が止まった二人の頭にぽん、と手をやり、チャーリーは笑いながら言う。

 

「まあ、二人が責任を感じる必要は無いってことさ。そんな顔はせずお前達はいつも通り悪戯をして、みんなを笑わせてくれよ」

 

 そしてチャーリーは箒を手に更衣室の出口に向かう。

 

「チャーリー、どこ行くんだよ?」

 

「軽く飛んでから寮に帰るよ。お前達はさっさと寮に戻るんだぞ」

 

 そう言うとチャーリーは箒に跨り、夜空を舞い上がっていった。

 

──────────

 

「ふう……」

 

 チャーリーはクィディッチ競技場を出て、湖のほとりに降り立った。

 そしてそこに寝そべり、湖を漂う大イカやそれを追う水中人(マーピープル)をぼんやりと眺める。

 しばらく眺めていると、空から箒に乗った生徒が降りてきた。

 

「……よう、マレット」

 

「こんばんは、ウィーズリー。こんな所で何をしているのかしら? 風邪をひくわよ?」

 

「もう帰るところだったんだよ。マレットこそ何をしているんだ?」

 

「散歩をしていたら、たまたまあなたがいたのよ」

 

 そう言ってジェニファーはチャーリーの横まで来ると、膝を折り上品に座った。

 そのまま二人そろって湖を見つめる。

 

「……負けたわ」

 

 ぽつりとジェニファーが呟く。

 チャーリーがジェニファーを見ると、彼女は少し悔しそうな表情を浮かべていた。

 

「何を言ってるんだ? スリザリンの勝利じゃないか」

 

「わかっているくせに。あなたに負けたと言ってるのよ、ウィーズリー」

 

 チャーリーが言うと、ジェニファーは彼を睨みつけながら答えた。

 チャーリーは彼女から目を逸らした。

 

「今回の試合、私の総得点は百四十点。それが分かっていたから、スニッチを掴んだんでしょう」

 

 ジェニファーがそう言うと、チャーリーは観念したように答えた。

 

「ああ、そうだよ。君に負けたくなかったからスニッチを掴んだ。スリザリンに負けたとしても、君には負けたくなかった」

 

「自分が納得いく形で、試合を終わらせようとしたのね?」

 

「……ああ、そうさ」

 

 そこで会話が途切れ、少しの間沈黙が広がった。

 

「……あなたの気持ち、分からないでもないわ」

 

 ふとジェニファーがそう言う。

 チャーリーは彼女を見ずに言葉に耳を傾ける。

 

「自分が満足する試合をしたい。私はいつもそう思っている」

 

 ジェニファーは立ち上がり、寝そべるチャーリーを見下ろす。

 

「けれど私は、勝利をした上でそうしたいと思っているの。そこがあなたとは違うわ、ウィーズリー」

 

 そして彼女はチャーリーに背を向けると、箒に跨った。

 そして思い出したかのように振り返る。

 

「そう言えば今回の試合に、プロチームのスカウトマンが来ていたみたいよ。おそらくだけど、明日には数通お手紙が届くでしょうね」

 

「ああ、噂通り来てたのか。しかし、負けたチームのキャプテンにスカウトなんてくるかな」

 

「必ずくるわ。あなたは、私が知る限り最も優れた選手なのだから」

 

 そう言うとジェニファーは、軽く地面を蹴り少し浮かび上がった。

 

「私は卒業したらプロチームに入るつもりよ」

 

「へえ、そうなのか。まあ君なら十分通用するだろうな」

 

「あなたはどうするの? ウィーズリー?」

 

「そうだなあ……」

 

 ジェニファーが問いかけると、チャーリーは少し考えた後に答える。

 

「迷ってる。クィディッチは好きだけど、他にもやりたいことがあるんだ」

 

「そう……」

 

 それを聞いたジェニファーは小さく呟くと、箒の柄を握り直した。

 

「私はもう帰るわ。もう冷えるし、あなたもはやく帰るのよ」

 

「わかってるよ」

 

 チャーリーがそう答えると、ジェニファーは飛び去っていった。

 チャーリーは再び湖をぼんやりと眺めだす。

 大イカ達はいなくなっており、湖の周辺には他の生き物の姿はない。

 揺れる草木と水の音を聞きながら、チャーリーは目を閉じる。

 

(クィディッチ以外で僕のやりたいこと、それは……)

 

 目を閉じていたチャーリーは、やがて湖のほとりで寝入ってしまう。

 十一月の夜はかなり冷えるので、当然のように彼は風邪をひいてしまい、翌朝スカウトの手紙を直接受け取ることはできなかった。

 このことはホグワーツ城内に瞬く間にひろまり、こうして伝説のシーカー、チャーリー・ウィーズリーの伝説がまた一つ増えたのだった。

 

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