前日まで沖縄へ行っていました。
ウミガメが可愛かったです。めんそーれ。
セリアの過去知った三人は何も言わず、ただ涙を流しながらセリアを抱きしめていた。
それは馬車を降りてから特急に乗り、コンパートメントに入って三人が泣き疲れて眠ってしまうまで続いた。
チョウやマリエッタ、ケイティを始めたくさんの生徒が挨拶に来たのだが、その三人の様子に驚き、全員挨拶もそこそこにその場から去って行った。
三人はホグワーツ特急がロンドンに到着する直前に目を覚ました。
「あ、あの、リジー、そろそろ離してくれませんか……?」
「やだ」
泣き止んで特急を降りてからも、リジーはセリアを抱きしめ続けていた。
セリアが困ったように離れるよう促しても、リジーは首を振って拒み、抱きしめる手に力をこめた。
アイビーもメグもそれを止めることはなく、二人のトランクを持って特急を降りていた。
降車する生徒達の流れに乗って四人が駅のホームに出ると、すぐに四人の後ろに人影が現れた。
「お久しぶりです、お嬢様。お元気そうでなによりです」
「あ、お久しぶりです。レイモンドも元気ですか?」
「ええ、元気ですよ。お嬢様、そちらの方々は?」
レイモンドはアイビーとメグに目を向ける。
二人は突然現れたレイモンドに驚き固まっていた。
「はい! アイビーとメグ、私のお友達です!」
セリアがにこにこと笑いながら二人を紹介すると、レイモンドは優しい表情を浮かべ頷いた。
「そうですか。アイビー様、メグ様、初めまして。私はお嬢様の執事をしております、レイモンドと申します。お嬢様と仲良くしてくださり、ありがとうございます」
「も、もう、レイモンド。恥ずかしいのでやめてください……」
レイモンドが丁寧にお辞儀をしながら挨拶すると、二人は慌ててそれに答える。
「は、はい! アイビー・ベケットです! セリアにはよくお世話になっています!」
「メーガン・バークです。よろしくお願いします」
「よろしくお願いします。ところで……」
そこでレイモンドは、セリアを抱きしめ続けているリジーを見た。
「お嬢様、リジー様はどうなされたのですか?」
「えっと、みなさんにお母さんのことを話したんです」
「……そうですか」
レイモンドは一瞬驚いた後少し目を閉じ、再び深くお辞儀をした。
「皆様、これからもどうか、お嬢様をよろしくお願いします」
「はい!」
アイビーとメグが声を揃えて答える。
セリアは少し頬を染めながら、それでも嬉しそうに微笑んでいた。
「おーい、おっさん。やっと見つけたよ。勝手にいなくなるなよなー」
セリア達の元に、少しくたびれたローブを着た青年がやってきた。
「ああ、すまない。お嬢様の気配がしてな」
「出たよ、お得意の気配。意味わかんね」
「ロルフさん、お久しぶりです!」
「ようセリア。久しぶり」
セリアが挨拶すると、ロルフは気だるげに片手を上げて答える。
その会話が聞こえたのか、リジーがセリアの髪に埋めていた顔を上げた。
「あれ? 兄ちゃんの声?」
「ようリズぐふっ!」
「兄ちゃん兄ちゃーん!」
セリアから離れたリジーは一瞬で距離を詰め、ロルフに飛びついた。
ロルフは腹部にリジーの頭が激突しながらも、しっかりと受け止めた。
「馬鹿お前、死ぬかと思ったぞ」
「えへへ、ごめんね?」
「まったく……お帰り」
「ただいま! 兄ちゃん!」
ロルフがぐりぐりと押し付けられている頭を撫でると、リジーは嬉しそうに笑う。
その様子を見てアイビーとメグは目を丸くした。
「リジーがあんなに甘えてるなんて、なんだか新鮮だね」
「そうよね。いつもみんなを仕切ってくれてるのに、意外だわ」
「リジーはロルフさんとすごく仲良しなんですよ」
「うん、兄ちゃんすっごく好きだよ」
「はいはい。それで、君達がアイビーとメグか?」
「あ、はい。アイビー・ベケットです」
「メーガン・バークです」
「おう、よろしく……ん?」
セリア達が話していると、どこからか白く輝くものが飛んできた。
周りの生徒達やその家族も珍しいのか、そろってその輝きを目で追う。
それはメグの目の前までくると、熊の形に変わった。
輝く熊が口を開くと優しく深い声が響いた。
「メグ、アイビーもいるかい? 私は先頭車両の近くで待っているから、こちらまで来なさい」
言い終えると輝く熊は消えていった。
それを聞いたアイビーとメグは、それぞれの荷物を持つ。
「呼ばれたから、そろそろ行くわね」
「はい、それではお休み明けに会えるのを楽しみにしています!」
「みんな、またね」
「うん! お手紙書くからね!」
「楽しみにしてるわ。レイモンドさん、ロルフさん、失礼します」
「おー」
「ええ、いい休暇を。それとメグ様、お父様によろしくお伝えください」
「え? はい」
アイビーとメグはトランクを手に、人混みの向こうに去って行った。
残されたセリア達も駅の出口に向かう。
レイモンドはセリアから荷物を受け取った。
「お嬢様、荷物を」
「ありがとうございます。ところでレイモンド、先程の呪文はまさか……」
「ええ、守護霊の呪文ですね。力のある魔法使いならば、あのように声を送ることもできるのですよ」
「やはりそうですか……」
セリアは顎に手を当て考え込む。
守護霊の魔法とは、吸魂鬼(ディメンター)やレシフォールドといった魔法生物を追い払うことができる唯一の魔法だ。
難易度の高さから扱える魔法使いの数は多くはなく、声を送るとなるとさらにその数は激減する。
そんなセリアとレイモンドの横で、ロルフもリジーの荷物を持つ。
「ほれリジー、荷物貸せ」
「ありがとー兄ちゃん。それよりさ、なんだかそのローブ、すっごくくたびれてるね?」
「あー、ほとんど着っぱなしだったからな」
「どんな生活してたのさ。ちゃんと食べてた?」
「死なない程度にはなー」
「もう、やっぱり! 今夜はいっぱい作るから、ちゃんと食べるんだよ!」
「はいはい。そうだ、父さんと母さんも夜には帰ってくるってさ」
「……そっか! えへへ」
四人はレンガの壁に隠された通路を抜け、駅から出た。
そこから人通りの少ない道まで進む。
「この辺りでいいでしょう」
「はい。リジー、またお休み明けに会いましょうね」
「うん、お手紙書くね」
「私もいっぱい書きます」
リジーがセリアを抱きしめると、セリアもそっと両手を回し抱き返す。
しばらく抱き合った後、名残惜しそうに二人は離れた。
セリアがレイモンドの、リジーがロルフの腕をそれぞれ掴む。
そしてセリアとリジーが手を振り合うと、パチン、と弾けるような音と共に彼女達の姿は消え去った。
──────────
パチン、という音と共に、レイブンクローの屋敷の玄関ホールにセリアとレイモンドの姿が現れる。
セリアが久しぶりの屋敷を見渡していると、扉が開き小さな影が飛び出してきた。
「お帰りなさいませ! お嬢様!」
セリアに飛びついたルンは、大きな目に涙をたたえながらセリアを強く抱きしめる。
セリアはルンの腕に優しく手を当て微笑む。
「ただいま帰りました、ルン。元気でしたか?」
「はい! ルンはとっても元気でいらっしゃいます!」
セリアが聞くとルンはにっこりと笑って答え、はっと我に返り慌ててセリアから離れた。
「も、申し訳ありません、お嬢様! 急に飛びついてしまい……!」
「いえ、大丈夫ですよ。私もとても嬉しかったです」
ルンが長い耳が床につくほど深くお辞儀して謝るが、セリアはにこにこと笑いながらそれを許した。
ルンはほっとした表情を浮かべると、レイモンドを見上げる。
「レイモンド様、お嬢様のお荷物をお運びします」
「ああ、頼む」
「待ってください」
レイモンドがルンにトランクを渡そうとすると、セリアはそれを制しトランクを受け取った。
「私が自分で運びます。二人はお仕事に戻って下さい」
セリアがそう言うと、雷が落ちたかのような衝撃がレイモンドとルンを襲った。
ルンはあたふたとしながら何も無い所で躓き、いつも冷静なレイモンドも驚きのあまりに口がぽかんと空いたままだった。
「……二人とも、何ですかその反応は?」
そんな従者二人を半目で睨み、セリアは不満そうに言う。
「い、いい、いえ! ルンは大丈夫です!」
「申し訳ありません……ですがあまりのことで、現実とは思えないのです……」
「もう! 失礼ですよ、二人とも! ホグワーツで過ごして、私はみなさんに頼りすぎていたと思ったんです。だから、できることは自分でやりたいんです!」
セリアはぷんすかと怒りながらトランクを持ち階段へ向かう。
それを呆然と見送っていたレイモンドとルンだが、慌ててその背中に声をかけた。
「お嬢様、夕食の用意が済みましたらお呼びします」
「わかりましたっ!」
二階へ上がったセリアは廊下を進み、自室を目指す。
そして自室の扉を開けて中に入ると、ゆっくりと見渡した。
教室程の広さがある室内の半分を本棚と様々な物が詰まった戸棚が占め、残りの半分にセリアの机やタンス、ベッドなどがある。
セリアはベッドの横にトランクを置くと、ベッドにころんと寝転んだ。
寝転んだまま深く息を吸い、セリアは微笑みながら呟いた。
「ただいま」
──────────
パチン、という音と共にリジーとロルフは森の中に姿を現す。
二人の目の前には自分達の家があった。
それを見たリジーはにっこりと笑うと、ロルフの袖を掴んで走りだす。
「ほら兄ちゃん、早く行くよ!」
「こら、引っ張るな」
扉を吹き飛ばす勢いで家に駆け込んだリジーは、家の中をぐるりと見渡した。
室内のあちらこちらにはうっすらと埃が積もっていた。
「うーん、やっぱりちょっと汚れてるねー。掃除しなきゃ」
「はあ? 今からかよ。久しぶりに帰ってきたんだし、後でいいだろ」
「汚れてちゃ休めないでしょ。ほら、兄ちゃんも手伝ってよ。パパとママが帰ってくるまでに綺麗にするよ!」
「めんどくせーなぁ」
引っ張り出した箒と雑巾を手にしたリジーに急かされ、ロルフは渋々手伝いだす。
ロルフが魔法であらかた汚れを取り除き、リジーが細かい所を掃除する。
数十分で二人は掃除を終え、ロルフはぐったりとソファに座り込んだ。
「あー、疲れた……」
「お疲れ、兄ちゃん。手伝ってくれてありがとね」
ロルフにお礼を言うとリジーはキッチンへ向かう。
「おいリズ、何してんだ?」
「夕食の準備だよ。久しぶりにパパとママに食べてもらうんだもん。すっごいご馳走作らないとね」
「ちょっと待て」
ふんす、と気合十分なリジーだが、ロルフはそれを制する。
「帰ってきてからずっと動いてるだろ。ちょっとくらい休憩しろよ」
「でも……」
「いいから。ほれ、こっち来い」
不満そうなリジーをロルフはソファをぽふぽふと叩きながら呼ぶ。
それに吸い寄せられるように、リジーはロルフの隣へ腰を下ろした。
「ほらほら、休め休め」
「うー……家事が残ってるのにゆっくりするなんて、落ち着かないなー」
「久しぶりのわが家なんだ。休んでもいいんだよ」
「……うん、そうだね」
ロルフの言葉に頷くと、リジーはこてん、と体を傾けてロルフの膝に頭を乗せた。
リジーの頭にロルフは手を乗せる。
「兄ちゃん、撫でてー」
「おう」
「えへへ」
ロルフに撫でられリジーは上機嫌に笑う。
「兄ちゃん、お料理手伝ってね?」
「はあ、しょうがねーな」
ロルフはめんどくさそうに言うが、その口元は優しく緩んでいた。
──────────
アイビーとメグはトランクを持って人混みを進み、特急の先頭を目指す。
「メグ、人混みに流されないでね」
「わかってるよ」
二人が進んで行くと、遠くにきっちりとローブを着込んだ一人の長身の男がいた。
その男は細身ながらもがっしりとした体つきをしており、短く真っ黒な髪と精悍な顔立ちから、かなり若々しく見える。
しかしその表情はとても柔らかく、周囲を安心させる穏やかな空気を放っていた。
その男は近づく二人に気がつくと、片手を上げて挨拶をした。
「お帰り、メグ、アイビー。元気そうで良かったよ」
「うん、ただいまお父さん」
「おじさん、お久しぶり!」
二人はにっこりと笑って答える。
この男はメグの父親であるアーロン・バークだ。
アーロンは大きな手で二人の頭を撫でる。
「お母さんが忙しいそうで、代わりに私が迎えに来たよ。お父さんは残業で、迎えに来れないのがとても悔しそうだったよ」
「そうだったんですね。それにしても、しょうがないわね母さんは……」
アイビーはため息をつきながら呟く。
アイビーの母親は引きこもりがちで、家を出たがらない。
なのでおそらく、忙しいと言ったのも嘘だろう。
人のいいアーロンは疑わず、たまにこうして都合良く使われてしまうのだ。
二人を撫でたアーロンは頭から手を離すと、二人のトランクを受け取った。
「それでは帰ろうか。人が多いから、私のローブをしっかりと掴んでおきなさい。特にメグは小さいんだからね」
「一言余計だよ」
アイビーとメグがローブを掴むと、アーロンは人混みを物ともせず悠々と進む。
しばらく進むとマグルが使用する駅のホームへ出た。
少し人の数も減ったので、三人は並んで歩く。
「帰ったら学校の話を聞かせておくれよ」
「わかった」
「近くにいたんだし、セリアとリジーを紹介すれば良かったわね」
「ああ、手紙に書いていたお友達だね?」
「うん」
メグは嬉しそうに笑い、それをアーロンは優しい表情で見つめる。
「リジーはいつもみんなをまとめてくれるんです。それにお料理もすごく上手で」
「アイビーよりも上手なのかい?」
「悔しいけれど、いつか追いついてみせます!」
「セリアはすごく頭がいいんだよ。私も負ける気はないけど」
「なるほど、さすがはレイブンクローの子だね。頑張るんだよメグ」
「うん。あ、そう言えば、セリアの執事さんがお父さんによろしくって言っていたよ」
メグがそう言うと、アーロンは怪訝そうに首を傾げる。
「本当かい?」
「うん。だよね、アイビー?」
「ええ」
アーロンは考え込んでいたが、心当たりがないようで首を横に振った。
「誰だろう……名前はわかるかい?」
「レイモンドさんだよ」
「レイモンド? いや、まさか……その人の姓は?」
「たしか、アッカーソンだったような……おじさん?」
それを聞いたアーロンは、驚愕の表情を浮かべ思わず立ち止まっていた。
今まで見たことのない父親の様子にメグは驚く。
「お父さん? どうしたの?」
「あ、ああ、すまないね」
メグに声をかけられ、アーロンは再び歩き出す。
「知っているんですか? おじさん?」
「ああ、昔少しね。それにしても、あの人がレイブンクローの子の……いや、不思議ではないか……」
アーロンはぶつぶつと呟きながら、心ここに在らずといった様子だ。
アイビーとメグは顔を合わせ、首を傾げる。
「っと、この辺りでいいだろう。二人とも、しっかりと掴まりなさい」
人気のない道に出ると、アーロンはアイビーとメグにそう言う。
二人がしっかりとローブを掴んだことを確認すると、パチン、という音と共に三人の姿が消え去った。