ハリー・ポッターと翡翠の魔法使い   作:ごま丸

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投稿が遅くて申し訳ありません。


第24話 一年目のクリスマス休暇・二

 屋敷へと帰ってきてから書類の処理や色々な場所へ視察へ赴くなど、セリアは仕事をこなす日々を過ごしていた。

 特に数ヶ月ぶりに視察へ行くと、どの場所でもセリアは大歓迎を受けていた。

 小さなセリアは働く大人たちにとって、娘や孫のようにかわいらしい癒しの存在なのだ。

 そんな日々を遡りホグワーツから帰ってきた翌日のクリスマス、レイブンクローの屋敷では朝早くからクリスマスパーティーの用意が行われていた。

 セリアはレイモンドと共に飾り付けを行い、ルンとおばちゃんはパーティーのご馳走を用意している。

 

「レイモンド、頼みたいことがあるのですがよろしいですか?」

 

「なんでしょうか?」

 

 セリアが作業をしながら言う。

 レイモンドは、ここ最近セリアがよく考え事をしていたことを知っていたので、すぐさま返事を返した。

 

「屋敷の仕事のことなのですが、ホグワーツにいる間はまとめて送ってもらっていますよね」

 

「はい」

 

「それが思っていた以上に量が多くて。どうしたものかと考えていたんです」

 

 レイモンドはなるほど、と頷く。

 セリアは休日にまとめて書類の確認や署名などを行なっていたのだが、毎回かなりの時間をとられてしまっていた。

 

「何かいい案が?」

 

「はい。守護霊の呪文を覚えてみようかと」

 

 セリアがクリスマス飾りを作りながらそう言うと、レイモンドは一瞬止まってから聞き返した。

 

「守護霊の呪文ですか? しかしそれは……」

 

「難しいのはわかっています。けれど、先日メグのお父様が使っているのを見て、これしかないと思ったんです」

 

 守護霊の呪文の応用で声を送ることができるとは知っていたが、実際に目にしたことでよりその便利さに強く惹かれたようだ。

 

「それに使えて良いことはあっても、損にはならないはずです。お願いしますレイモンド、私に守護霊の呪文を教えて下さい」

 

「……わかりました」

 

 セリアの強い眼差しで見つめられ、レイモンドはそれを承諾する。

 

「それでは時間があればお教えします。しかし、守護霊の呪文はとても難しいです。すぐには覚えられませんよ?」

 

「わかっています。でも、リジーもアイビーもメグも、夢に向かって努力しているんです。私も負けられません!」

 

 セリアはやる気満々な様子で拳をぐっと握りしめた。

 それを見てレイモンドは優しく笑う。

 

「そうですか。ならば厳しくいきますが、よろしいですか?」

 

「どんと来いです!」

 

「泣いても手は抜きませんよ?」

 

「泣きません!」

 

 それからしばらく作業を行い、飾り付けは終了した。

 厨房ではまだ料理中のようで、とてもいい匂いが漂って来ている。

 

「それでは少し早いですが、お昼ご飯が済みましたら各所へクリスマスの挨拶に行きましょうか」

 

「わかりました」

 

 二人は昼食をとりに食堂へと向かった。

 

──────────

 

 ここはうねるような丘が複数続く山あいの小さな町。

 町のすぐ近くには大きな都市へ続く道があるが、この辺りには農業や畜産業を細々と行なっている家が多く、この町へわざわざ訪れるような酔狂な者はほとんどいない。

 しかしこの小さな町には、驚くほどに周囲から浮いている大きな屋敷が存在していた。

 屋敷の周りはぐるりと塀で囲まれていて、中の様子を伺うことはできない。

 また奇妙なことに、町に住む人々はこの屋敷に対し一切違和感を覚えていなかった。

 その不思議な屋敷の一室で、不釣り合いなほどに大きなベッドの上で丸くなって眠っている少女がいた。

 少女の頬にはふわふわとした赤毛がかかり、少女の寝息により揺れている。

 誰もが物音をたてるのを躊躇するほどに幸せそうに眠っている少女。

 しかし彼女のベッドへ近づく小さな影があった。

 小さな影の正体は、この屋敷に仕える屋敷しもべ妖精だ。

 屋敷しもべ妖精はふわりと浮かんでベッドに着地すると、柔らかいベッドに沈み込みそうな足を懸命に動かして少女の元へ向かう。

 そして少女のあどけない寝顔を見下ろし、申し訳なさそうな表情を浮かべた後に大きく息を吸うと、キーキーと甲高い声を上げた。

 

「お嬢様! お目覚めの時間でございます!」

 

 それは小さな体のどこから出ているかわからないくらいの大声だったが、少女は一瞬ぴくりと反応しただけで目を覚まさない。

 それから屋敷しもべ妖精は繰り返し同じ台詞を叫び続ける。

 するとようやく少女は布団の中でごそごそと動きだし、ゆっくりと上体を起こした。

 屋敷しもべ妖精は起き上がった少女にお辞儀をする。

 

「こほっ……おはようございます、メグお嬢様」

 

 起き上がった少女、メグはゆらゆらと体を揺らしながら眠そうな目をこすると、隣に立つ屋敷しもべ妖精の頭をぽんと撫でる。

 

「うん……おはよう、ネリー……。今何時?」

 

 メグが尋ねると、ネリーと呼ばれた屋敷しもべ妖精は撫でられ嬉しそうにしながらも、すぐさま答えた。

 

「まもなく十一時でございます、メグ様」

 

「そっか……お父さんは?」

 

「旦那様は朝早くお出かけになっておりましたが、間もなくお帰りになるそうです。メグ様と昼食をお召し上がりになりたいとおっしゃっていました」

 

「わかった……」

 

 メグはもぞもぞと這ってベッドから降りた。

 続いてネリーもふわりと浮かんでベッドから降り、指をパチンと鳴らした。

 するとメグの服が一瞬で変わり、今まで来ていたパジャマがネリーの手の中へ移動した。

 

「寝間着をお洗濯いたしましたら、すぐに昼食をご用意します。食堂でお待ちくださいませ」

 

「わかった。ありがとう、ネリー」

 

 メグがお礼を言うと、ネリーはぺこりとお辞儀をしてパチン、という音と共に去って行った。

 メグはまだ眠たそうな足取りで食堂を目指す。

 食堂の扉を開けると、そこにはすでに父親であるアーロンが座って新聞を読んでいた。

 

「やあ、おはようメグ」

 

「うん、おはようお父さん。出かけてたそうだけど、何かあったの?」

 

「今日はクリスマスだからね。ちょっと騒ぎすぎてしまった連中がいたので、それを抑える手伝いをしていたんだよ」

 

「そうなんだ。どんな騒ぎだったの?」

 

「ああ、ここからそう離れていない街だったんだけどね。連中何を思ったのか、クリスマスチキンを元気にしてね。街中をクリスマスチキンが走り回っていたんだよ」

 

「なにそれ? 変なの」

 

「それだけなら良かったんだが、連中はチキンにマグルを襲わせていてね。そのチキンがまたなかなかに凶暴で、さすがにまずいということで、私の元へ応援要請が来たということさ」

 

 アーロンが朝に起きていたおかしな事件について話していると、厨房からおいしそうな匂いが漂ってきた。

 そしてメグのお腹が鳴ると同時に扉が開き、昼食を乗せた台を押すネリーと、続いて一人の女性が入ってきた。

 女性はかなり小柄で、メグと同じ色の髪の毛は背中まで伸び、ふわふわとしていて柔らかそうだ。

 この女性はアーロンの妻でメグの母親のヘイリー・バークだ。

 

「お待たせいたしました、昼食でございます」

 

「ああ、ご苦労様」

 

「お腹空いた……」

 

 テーブルの横までカートを押してきたネリーは、ぺこりとお辞儀をする。

 それにアーロンが頷いて答えると、ネリーはテーブルの上に料理を並べていく。

 ヘイリーはメグの元まで向かうと、メグの頭を軽く小突いた。

 

「痛っ、何するのお母さん?」

 

「あんた、休みだからってだらけすぎよ。何時だと思ってんの?」

 

「一応午前中には起きてるし……」

 

「ネリーが起こさなきゃ一日中寝てるでしょうが。そんなので学校でやっていけてるの?」

 

「だ、大丈夫だよ。遅刻なんてしたことないもん」

 

「まったく、あんたを毎朝起こしてくれてるっていう子に申し訳ないよ」

 

 メグは小さくなりながら反論するが、ヘイリーの説教は止まらない。

 ネリーが昼食を並べて終えお辞儀をして退室すると、アーロンはまあまあ、と言いながらそれを制する。

 

「この子も久しぶりに帰ってきて、少し気が抜けているだけさ。それにこの子がどれだけ勉強熱心かは、君も知っているだろう? この子なら大丈夫さ」

 

「けどねえ……」

 

「ほら、昼食が冷めてしまうよ。こんなにおいしそうなのに、冷めてしまったらネリーにも申し訳ないだろう?」

 

「……それもそうね。ごめんなさい、二人とも」

 

「私もごめんなさい。ちゃんと起きれるよう頑張るよ」

 

 ヘイリーとメグが謝りあって、張り詰めていた空気が弛緩する。

 アーロンは穏やかな笑顔を浮かべると、グラスを持って少し掲げる。

 

「それでは頂こうか」

 

 それから三人は、ネリーによって完璧に仕上げられた昼食を堪能した。

 そして昼食が終わると、ナプキンで口元を拭ったアーロンがメグに言う。

 

「それでは少ししたら行こうか。準備はできているかい?」

 

「うん、あとは着替えるだけだよ」

 

「そうか。それならもう着替えてきなさい」

 

「わかった」

 

 メグは食堂を出ると足早に自分の部屋へ向かった。

 ヘイリーは食後の紅茶を一口飲むとため息をついた。

 

「まったく、自分の好きなことなら動きが早いんだから」

 

 今日はクリスマスで、魔法界全体がお祭り騒ぎになる。

 それは魔法省も例外ではなく、この日は最低限の職員を残しほとんどの部署が休日となるのだ。

 なので国際魔法協力部に勤めるヘイリーも、今日は屋敷にいた。

 アーロンはこの休日を利用し、メグを闇祓い本部の見学に誘ったのだ。

 もちろんメグは二つ返事で了承し、この日をとても楽しみにしていた。

 

「そうだね。好きなことに一直線な所は、君に似たんだと思うよ。少し周りが見えなくなってしまう所も含めてね」

 

「そんなことないわよ」

 

 アーロンが微笑みながら言うと、ヘイリーは口を尖らせてそっぽを向いた。

 ヘイリーはメグが退室してアーロンと二人きりになると、どこか不機嫌そうにしていた。

 するとアーロンはおもむろに手を伸ばし、ヘイリーの柔らかい髪の毛を撫でた。

 

「せっかく午前中に散歩でもしようかと言っていたのに、行けなくてすまなかった」

 

「別に、気にしてなんかないわ」

 

 ヘイリーはつっけんどんに返すが、アーロンの手を払わないでいた。

 アーロンは彼女の髪を撫で続ける。

 

「代わりと言ってはなんだが、本部に脅は……もといお願いをして、明日一日休日になったんだ」

 

「……私も、明日は休みよ」

 

「ああ、だからもし君が良ければ、明日デートしてくれないか? どうかな?」

 

 アーロンが顔を見ようとするがヘイリーは顔を逸らして逃れ、怒ったような口調で言う。

 

「別に、今日のことを許す訳じゃないけど。でもあなたがどうしてもって言うなら、付き合ってあげてもいいわよ?」

 

「ああ、どうしても頼むよ」

 

「そ、そう。それじゃあ明日は空けとくわ。あなたが頼むから、仕方なくよ?」

 

「分かっているよ。ありがとう、ヘイリー」

 

「そっ、それじゃあ私は部屋に戻るわ」

 

 早口で言ったヘイリーは顔を逸らしたまま立ち上がり、食堂をそそくさと出て行った。

 ちなみに廊下に出たヘイリーは、火照った自分の両頬に手をあて、にへらと笑っていた。

 食堂に残ったアーロンは紅茶を飲み干すと、一人楽しそうに笑う。

 

「まったく、かわいいなあヘイリーは」

 

 それからしばらくして、屋敷内の暖炉の前には着替えたメグとアーロン、それを見送るヘイリーとネリーがいた。

 

「メグ、準備はいいかい?」

 

「うん、早く行こうよお父さん」

 

 メグはそわそわと体を動かしており、見るからに落ち着きがない。

 

「わかったわかった。それじゃあヘイリー、ネリー、留守を頼むよ」

 

「ええ、行ってらっしゃい。メグ、ちゃんとお父さんの言うことを聞くのよ」

 

「わかってるよ」

 

「旦那様、メグ様、行ってらっしゃいませ。パーティーの用意をしてお待ちしております」

 

「ああ、そうそう。アイビーが料理を手伝ってくれるって言ってたわよ」

 

「本当? やった」

 

「それは楽しみだ。早く帰らないとな」

 

 アーロンが暖炉に煙突飛行粉(フルーパウダー)を撒き、エメラルド色の火が燃え上がる。

 

「それじゃあ行ってくるよ。メグ、しっかり後についてくるんだよ」

 

「うん」

 

 アーロンは火の中に入り行き先を告げる。

 

「魔法省」

 

──────────

 

 煙突飛行を終えたアーロンは暖炉から出る。

 出た先はとても長く広いアトリウムで、黒い木で作られた床と壁は見事に磨き上げられている。

 天井には絶え間なく変化し続ける記号があり、まるで大きな掲示板だ。

 そして左側の壁にはいくつもの金張りの暖炉が設置され、アーロンと同じように魔法使いや魔女が現れている。

 その反対の右側の暖炉では、数人が出発のために暖炉へ入っていっていた。

 アーロンが少し待つと暖炉の火が高く上がり、メグがやってきた。

 暖炉から出たメグは、魔法省のアトリウム内を見渡して感嘆の声を上げる。

 

「こっちだよ。ついて来なさい」

 

「あ、うん」

 

 メグはアーロンのついて行きながらも、周りをきょろきょろと見渡す。

 アトリウムの中ほどには噴水があり、魔法使い、魔女、ケンタウルス、小鬼、屋敷しもべ妖精の大きな黄金の像がいくつも立っていた。

 その噴水の底ではシックル銀貨やクヌート銅貨が光っている。

 どうやらこのお金は《聖マンゴ魔法疾患傷害病院》に寄付されるそうだ。

 二人は噴水の前を通り黄金のゲートへ向かって進む。

 

「こんなに広いんだね」

 

「普段はもっと人が多くてね。朝はまともに動けないこともあるくらいだよ」

 

「へえ。あそこで座っている人は何?」

 

「あの人は守衛だね。外来者などはあそこで用件を言って、杖を登録しないといけないんだよ。……なんだかぼんやりしているな……」

 

「私はしなくていいの?」

 

「ああ、私が付き添っているから大丈夫だよ」

 

 黄金のゲートの先は小さなホールになっており、そこには二十機以上のエレベーターが並んでいた。

 

「魔法省の中はエレベーターで移動するんだよ。ここも朝は大渋滞さ」

 

 二人が話しているとちょうどエレベーターがやってきた。

 降りてきたのは無精ひげを生やした魔法使い一人のみで、その魔法使いはアーロンを見ると片手を上げた。

 

「やあアーロン」

 

「やあエリック。今から守衛の仕事かい?」

 

「ああ、交代で今から終業までな。クリスマスだと言うのに、まったく……。君はどうしたんだ? 闇祓いはほぼ全員休みだと思ったが」

 

「娘が闇祓いを目指していてね。今日は人も少ないし、見学に来たんだよ」

 

「それはいい。その子か?」

 

「ああ。私の自慢の娘だよ」

 

 褒められて嬉しそうに少し頬を緩めたメグは、ぺこりとお辞儀をする。

 

「はじめまして、メーガン・バークです」

 

「へえ、君に似ずかわいらしい子じゃないか。ヘイリーに良く似ている」

 

「お母さんを知ってるんですか?」

 

「有名だよ。あの小さな体で、外国の魔法使い達と対等以上に渡り合っているからな。優秀だよ彼女は」

 

 母親であるヘイリーも褒められメグはにこにこと笑い、アーロンはそれを温かく笑って見下ろす。

 

「エリック、時間はいいのかい?」

 

「と、まずい、そろそろ行かないと。それではまたな、アーロン、メーガン」

 

「ああ、それでは」

 

「頑張ってください」

 

 守衛を見送った二人はエレベーターに乗り込んだ。

 エレベーターはがらがらと鎖を鳴らしながら上へ動きだす。

 すると五階で扉が開き落ち着いた女性の案内音声が響く中、紙飛行機が数機飛び込んできた。

 メグはエレベーターのランプの周りを飛び回る紙飛行機をしげしげと眺める。

 

「この階でお母さんは働いているんだよ」

 

「そうなんだ……。ねえお父さん、この紙飛行機は何?」

 

「ああ、これかい? 魔法省内の連絡メモだよ。昔はふくろうを使っていたそうだが、糞が問題でね。これに変わったんだよ」

 

「へえ……面白いね」

 

 その後二人は二階の魔法法執行部で降りた。

 ここは魔法省で一番大きな部署で、法律に関する、もしくは取り締まる部局が複数存在する。

 二人は窓がたくさん並んだ廊下に出た。

 廊下を進んでいると、メグは窓から空が見えることに気がついた。

 

「お父さん、地下なのに外が見えるよ」

 

「窓に魔法がかけられているんだよ。魔法ビル管理部が毎日天気を決めているんだ」

 

 しばらく廊下を進むと、先に大きな樫の両開き扉が現れた。

 

「あそこが闇祓い本部だよ」

 

「あそこが……」

 

 メグは緊張と期待が混ざった表情を浮かべる。

 扉を抜けるとそこはとても広い空間で、間仕切り壁で区切られた小部屋がいくつもあった。

 

「闇祓いには一人一人小部屋が与えられている。今日は人が少ないが、普段はもっと騒がしいんだよ。許可を貰ったので見るのはいいが、何も触ってはいけないよ」

 

「わあ、すごい……」

 

 メグは興奮したように本部の中を見渡す。

 小部屋の中は壁に手配書が貼ってあったり書類が山になっていたり、勝手に羽ペンが何かを書いていたりとなかなかに慌ただしい。

 本部には片手で数えられるほどの闇祓いしかおらず、アーロンはそれぞれに挨拶をしている。

 メグが興味深そうに小部屋を覗いていると、アーロンが彼女を呼んだ。

 

「何? お父さん……あれ?」

 

「げ、お前までなんでいるんだよ……」

 

 やってきたメグを嫌そうに顔をしかめて迎えたのは、現在ホグワーツで闇の魔術に対する防衛術を教えているデレク・クーパーだった。

 

「どうして先生がここに?」

 

「クリスマスの間は学校では特に仕事がないからね。休暇が終わるまで、ここで事務作業をさせているんだよ」

 

 クーパーは憮然とした表情を浮かべ書類に何かを書き込んでいる。

 机にはいくつもの書類の山があり、終わりがまったく見えない。

 

「お父さん、どうして先生にそんなに厳しいの?」

 

「ああ、それはね……」

 

「おい、お前には関係ないだろ」

 

 メグが不思議そうに聞くと、クーパーはそれを遮ろうとする。

 しかしアーロンは気にせず続けた。

 

「彼は優秀な闇祓いなのだが、少しやりすぎる傾向があってね。追跡中に何人も怪我をさせていたんだ。それが何度注意しても直らないので、丁度教師を探していたダンブルドアに相談したんだよ」

 

「それで先生をすることになったんだ……」

 

「……別に悪党なんだから、少しぐらい怪我させてもいいじゃないっすか」

 

 クーパーが不満げそうにそう言うと、アーロンは呆れたようにため息をつく。

 

「まったく、いつまでもそうだと闇祓いを除隊させられるぞ? 君はいい加減に程度というものを知りなさい」

 

「はあ……わかりましたよ」

 

「いっそのこと教師に転職したらどうだい? 授業も高学年の生徒には好評らしいじゃないか」

 

「嫌っすよめんどくさい。何が嬉しくてあんなガキどもの相手なんて。一年限りって条件、絶対忘れないでくださいよ?」

 

 クーパーが気分が悪そうに言うと、アーロンは苦笑しながら頷いた。

 

「わかったわかった。そうだ、スクリムジョールは今いるかい?」

 

「局長は今来客の相手してますよ」

 

「そうか、なら少し待っていないと」

 

「いや、大丈夫だと思いますよ? その来客ってそいつもよく知ってるやつなんで」

 

 クーパーは、すっかり蚊帳の外になり小部屋の散策を再開していたメグを指差す。

 

「私ですか?」

 

「おう。だから挨拶しに行ってこいよ」

 

「デレク。一つ聞くが、私達を追い出したいから適当なことを言ってるんじゃないだろうな?」

 

「んな訳ないっすよ。あとで叱られるのもめんどうですし」

 

「そうか。それでは私達は行くが、手を抜くんじゃないぞ? メグ、来なさい」

 

「うん。それじゃあ先生、失礼します」

 

「おう、さっさと行け痛っ!」

 

「それと、もう少し口の聞き方にも気をつけなさい」

 

「すいませんっした……」

 

 アーロンはクーパーにげんこつを落とすと歩き出した。

 小部屋の並びを抜けると、立派な扉が現れた。

 その扉の横には、「闇祓い局局長・ルーファス・スクリムジョール」と書かれた表札がかかっていた。

 

「あそこは闇祓いで一番偉い人の部屋だからね。行儀良くするんだよ」

 

「う、うん」

 

 二人が扉をノックしようと近づくが、その前に扉が開いた。

 そこから出てきた人物に驚きメグは声を上げる。

 

「セリア!」

 

「メグ!? なぜここにいるんですか?」

 

「お父さんに見学に連れてきてもらったんだよ。セリアは?」

 

「私はスクリムジョールさんに、クリスマスパーティーの招待状を届けに来たんです」

 

「そう言えば茶飲み友達だって言ってたっけ」

 

「もう! そうじゃないって言ったじゃないですか!」

 

「ごめん、冗談だよ。メリークリスマス、セリア」

 

「メリークリスマスです、メグ!」

 

 メグとセリアは手を取り合い、わいわいとはしゃぐ。

 それをセリアに付き添っていたレイモンドが微笑みながら眺め、そのレイモンドを驚愕の表情でアーロンが見る。

 

「レ、レイモンドさん……ほ、本物ですよね?」

 

「ああ、アーロン。随分と久しぶりだな」

 

「お久しぶりです。まさかあの人の娘さんの執事をしていたとは、思いもしませんでした。……闇祓いにお戻りにはならないのですか?」

 

「彼との最後の約束でね。この子を私は生涯守り続けると誓ったんだ。だからすまないが、戻ることはできない」

 

「なんだ、何の騒ぎだ?」

 

 少し騒ぎすぎたか、局長室から白髪混じりの黄褐色の髪をたてがみのように生やした魔法使いが出てきた。

 細縁眼鏡の奥で鋭く光る黄色がかった瞳とその身に纏う威圧感に、メグは驚き少し怯える。

 しかしセリアはその魔法使いを恐れることなく見上げる。

 

「す、すみません、スクリムジョールさん。偶然お友達に会い、つい大きな声を出してしまいました……」

 

 セリアが申し訳なさそうに言うと、魔法使い、ルーファス・スクリムジョールの威圧感は途端に消え、まるで孫を前にした祖父のような笑顔を向ける。

 

「そうかそうか、それなら仕方ないな。その子が友達か?」

 

「はい!」

 

「は、はじめまして、メーガン・バークと言います。今日は父に連れられ、闇祓い局の見学をさせていただいています」

 

「バークの子か。礼儀正しいお嬢さんだ。いい娘を持ったな、バーク」

 

「ありがとうございます、局長。お騒がせしてしまい、申し訳ありません」

 

 スクリムジョールがそう言うと、アーロンは軽くお辞儀をして返す。

 

「かまわん。今朝はクリスマスだというのに、出動してもらってすまなかったな。明日はゆっくり休むといい」

 

「ありがとうございます。ところで局長、レイモンドさんのことはご存知で……?」

 

「ああ、毎年こうして会っているからな。わざわざ言うことでもないので、周りには言っていなかったが」

 

「そ、そうでしたか……」

 

 スクリムジョールがあっさりと言うと、アーロンは動揺したままで答えた。

 そのやりとりをレイモンドは楽しそうに見ていた。

 

「バーク、アッカーソン、せっかくの機会だ。中で紅茶でもどうだ?」

 

「それでは私がお淹れしましょう」

 

「は、はい! よろこんで」

 

 不意にスクリムジョールが誘い、レイモンドはすぐさま応じアーロンは上ずった声で返す。

 

「ということだ。すまないがセリア、少しお友達と話していてくれるか?」

 

「はい! ありがとうございます、スクリムジョールさん!」

 

 セリアが微笑みながら言うと、スクリムジョールはセリアの頭を撫で局長室へと戻っていった。

 それにレイモンドとアーロンが続き、セリアとメグは二人残された。

 

「まさかお休み中に会えるなんて、思っていなかったです」

 

「うん、びっくりしたよ。セリア、招待状って毎年渡しに来ていたの?」

 

「ええ、お母さんは屋敷からなかなか出られませんでしたので、小さな頃からレイモンドと一緒に」

 

「そっか……でも、ふくろうを使わず毎年手渡しなんて、大変だね」

 

「この招待状は少し特別なんです。見てみますか?」

 

 セリアは手に持った鞄からカードを取り出してメグに渡す。

 受け取ったメグはそれをじっくりと眺め、魔法がかけられていることに気づいた。

 

「これって……?」

 

「この招待状は移動キー(ポートキー)なんですよ。時間が来ると、お客様を屋敷まで運んでくれるんです。屋敷は保護魔法がかけられていて、普通の方法では行くことができないんですよ」

 

「へえ、すごいなあ。……って、宛先魔法省大臣だ……」

 

「はい、招待状はファッジさんにお渡しする分で最後です。後はお屋敷に帰って、パーティーの準備をお手伝いするんです」

 

「私の屋敷もパーティーの準備中だよ。アイビーが料理を手伝ってくれてるんだ」

 

「アイビーのお料理ですか……ホグワーツでは食べる機会がありませんでしたね」

 

「リジーがすごかったからね。でもアイビーの料理も、すごくおいしいんだよ。正直お母さんの料理より好きだし」

 

「いいなあ……食べてみたいです」

 

「特にお菓子がおいしいよ。今度ホグワーツでも作ってもらおうか」

 

「うわあ、とても楽しみです! そういえばメグ、今日は見学をしに来ているんですよね?」

 

「うん。魔法省に来たのも初めてなんだけどね」

 

「それなら、一緒に見学してもいいですか? これまでお仕事で来ていましたので、あまり見て回る機会もなくて……」

 

「もちろんいいよ。行こう、セリア」

 

「はい!」

 

 それから二人は闇祓い本部を探索した。

 途中会った闇祓い達に任務の話や学校でどのような勉強をしていたかなど、闇祓いを目指す上でしておいた方がいいことをメグは真剣な表情で聞いていた。

 そうして約一時間後、局長室から三人が出てきた。

 

「レイモンド、お帰りなさい」

 

「お待たせしました、お嬢様」

 

「待たせて済まないな、セリア。退屈ではなかったか?」

 

「いえ、とても楽しかったですよ」

 

「そうかそうか」

 

 スクリムジョールは笑いながら、出迎えたセリアの頭を再び撫でる。

 

「バーク、私はそろそろ帰宅するので、他の闇祓い達にももう帰るよう伝えておいてくれ」

 

「わかりました」

 

「頼む。メーガン、十分見学できたか?」

 

「は、はい、とても充実した時間でした」

 

「それは良かった。聞くところによると、君はとても優秀だそうだな。これからも期待しているよ」

 

 スクリムジョールはメグの肩を軽く叩き、ローブを翻して大股に歩いて去って行った。

 それを見送ったレイモンドは時計を取り出し時間を確かめる。

 

「お嬢様、そろそろ大臣に招待状をお届けしませんと」

 

「分かりました。それではメグ、私はもう行きますね。バークさん、あまりお話できなくてすみません。失礼させていただきます」

 

「うん、また学校でね」

 

「これからも娘をよろしくお願いします」

 

「お父さん!」

 

「ふふ、こちらこそよろしくお願いします。それではまた」

 

 アーロンが笑いながら言うと、メグは怒ったように声を上げる。

 それにセリアは微笑んで答えると歩き出し、レイモンドも二人にお辞儀をしてセリアの後に続く。

 

「メグ、みんなに帰るよう言ってくるから、少し待っていなさい」

 

「わかった」

 

 他の闇祓いが全員部屋を去ったことを確認すると、アーロンとメグは闇祓い室を後にした。

 二人は再びエレベーターに乗りアトリウムを目指す。

 エレベーターを降り守衛に挨拶した後、噴水の横まで来るとメグが立ち止まった。

 

「お父さん、ちょっと待って」

 

 メグはそう言うとポケットを探り、数枚の銅貨と銀貨を取り出した。

 そして噴水に走り寄りそれを投げ入れた。

 

「メグが募金するなんて、珍しいね」

 

「将来きっとアイビーが働くだろうし、私もお世話になるかもしれないから、今からでも力になりたくて」

 

「ふむ、そういうことなら私も入れないとな」

 

 アーロンはそう言うと、ポケットからガリオン金貨を取り出して噴水に投げ入れた。

 

「よし。それじゃあ帰ろうか。パーティーの準備も手伝わないといけないしね」

 

「わかった。今日はありがとうお父さん。最高のクリスマスプレゼントだったよ」

 

「喜んでもらえて私も嬉しいよ。これからも頑張りなさい」

 

 アーロンに頭を撫でられ、メグは恥ずかしそうに頬を染めながらも微笑む。

 アーロンもそれを見て微笑み、しばらく撫でた後に暖炉へと向かう。

 そして二人は暖炉に入りエメラルド色の火と共に魔法省から去って行った。

 

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