ハリー・ポッターと翡翠の魔法使い   作:ごま丸

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投稿がかなり遅れてしまい、本当に申し訳ありません。
用事や試験が重なってしまい小説を書く時間があまり取れず、気がつけば三ヶ月近くも空いてしまいました。
これからはこんなに期間を空けずに投稿したいと思います。


第25話 一年目のクリスマス休暇・三

 山あいの小さな町にある大きな屋敷。

 その屋敷をぐるりと囲んでいる塀から少し離れて、一軒の家が建っている。

 屋敷の隣に建つ二階建てのその家は、何の変哲のない普通の家に見える。

 しかし、その家の住人は普通ではない。

 その家の中でキッチンに立ち、忙しなく動き回っている少女。

 腰まで流れるさらりとした金髪を一つにまとめ、エプロンを着けて料理をしているこの少女、アイビーは新米魔女だ。

 

「うん、おいしい」

 

 アイビーはスープを少し味見をして、にこりと笑いながら頷く。

 すると突如二階から大きな音が聞こえ、アイビーは驚いて頭上を見上げる。

 少ししてどたばたと足音が響き、二階から一人の男性がネクタイを締めながら駆け下りてきた。

 

「ど、どうしたの父さん? そんなに慌てて」

 

「お、おはようアイビー! いや、昼前には大学に行かないといけないのに、寝坊してしまったんだ! このままじゃ遅刻だよ!」

 

 驚いたアイビーが聞くと、アイビーの父親、ジャクソン・ベケットが切羽詰まったように答える。

 彼はこの町から少し離れた都市にある大学で教授を務めている。

 クリスマスである今日に加え明日は祝日で世間は休日なのだが、大学で少し問題があったようでジャクソンは昨日に続き出勤しなければいけなかった。

 まもなく時計は十時を回ろうとしており、都市までは車で一時間以上はかかるので、あまり余裕はないだろう。

 アイビーは洗面所へ駆け込んだジャクソンに尋ねる。

 

「父さん、朝ご飯食べる時間はある?」

 

「ないね!」

 

「分かったわ。サンドイッチを作るから、持って行って食べてね」

 

「ありがとう、アイビー!」

 

 アイビーが手早く作ったサンドイッチを包むと、洗面所からジャクソンが戻ってきた。

 

「父さん、スープだけでも飲んで行って。お腹が空いたままで運転すると、事故しちゃうわよ」

 

「でも時間が……」

 

「いいから、ほら!」

 

 アイビーはジャクソンの背中をぐいぐいと押して椅子に座らせる。

 娘の気迫に負けたジャクソンは渋々スプーンを手に取り、時計を気にしながらスープを口に運んだ。

 そして口に入れた瞬間目を見開くと、ものすごい勢いでスープを飲み始めた。

 瞬く間にスープを平らげたジャクソンは、満足気に息を吐いた。

 

「いやあ……すごくおいしかったよ、アイビー。料理の腕上がったね」

 

「すっごく料理が得意な友達がいてね。なんだかやる気になっちゃったの。サンドイッチも楽しみにしててね」

 

「もうすぐにでもお嫁さんになれるなあ……娘はやらんぞ! って言う練習をしておかないと」

 

「何を言ってるのよ。ほら、遅刻しちゃうよ」

 

「うわあ! い、行ってくる!」

 

 ジャクソンは慌てて家を出ると、車に飛び込んでエンジンを吹かす。

 

「気をつけて! 今夜はメグのお家でパーティーだから、遅れないでね!」

 

「わかってるよー!」

 

 走り去るジャクソンを見送ったアイビーが家に戻ると、一人の少年がキッチンに立ち紅茶を淹れていた。

 アイビーは少年に気がつくと声をかける。

 

「あ、起きたのねケビン。おはよう」

 

「おはよう。そりゃあれだけ騒いでたら起きるよ」

 

「それもそうね。母さんは?」

 

「まだ寝てるよ」

 

「まったく、母さんったら……」

 

 アイビーの弟、ケビン・ベケットは紅茶を手に椅子に座る。

 

「ねえ、私が学校に行ってる間もあんな感じだったの?」

 

「まあね……本当、姉さんがホグワーツに行ってから大変だったよ。父さん何回遅刻しかけたことか……」

 

「あはは……お疲れ様。すぐ朝ご飯用意するから待っててね」

 

 アイビーが聞くとケビンはため息を吐きながら答えた。

 アイビーは疲れた様子のケビンを労うと、再び朝食の準備を再開した。

 そして数分後朝食が完成する。

 ケビンはテーブルに並んだトーストに目玉焼き、ベーコン、ソーセージ、焼きトマトとサラダを前にして感嘆の声を上げる。

 

「ああ、久しぶりにちゃんとした朝ご飯を食べられる……。この所ほとんどトースト一枚とかだったんだよ」

 

「だからあんなに作ってあったジャムが全部なくなってたのね……。本当にお疲れ様。学校に戻る前にまた作っておくね」

 

「ありがとう姉さん」

 

 朝食を終えた二人は並んで食器を洗う。

 

「姉さん、この後はどうするの?」

 

「お買い物に行くわ。昨夜は冷蔵庫の中を見て、本当に驚いたんだから」

 

 昨夜帰宅したアイビーは早速夕食を作ろうとしたのだが、冷蔵庫にはほとんど食材が残っておらず仕方なく外食したのだった。

 残っていた数少ない食材は朝食で使い切ってしまったので、現在冷蔵庫は空っぽだ。

 

「僕も行こうか?」

 

「ううん、大丈夫よ。もし荷物が多くても、お店の人に配達を頼むから。ケビンはお勉強頑張ってね」

 

「そっか。他に手伝えることはない?」

 

「そうねえ……。母さんを起こしてくれると助かるんだけど」

 

「無理だね」

 

「そうよね」

 

 二人はそろって天井を見上げてため息を吐く。

 その後ケビンは自室に戻り、アイビーは準備を整え家を出た。

 向かう先は多くの店が立ち並ぶ通りだ。

 アイビーは買い物鞄を手に、まずどの店に向かおうか思案しながら歩く。

 

「あらアイビー、おはよう。朝から買い物?」

 

 すると、前方から歩いてきた小柄な女性がアイビーに声をかけてきた。

 女性に気づいたアイビーは立ち止まる。

 

「あ、おはようございます、ヘイリーおばさん。はい、もう家に食べ物が残ってなくて……」

 

 声をかけてきたこの小柄な女性は、メグの母親であるヘイリー・バークだ。

 ヘイリーはアイビーの言葉を聞いて目を丸くする。

 

「家に食べ物が残ってないって……マーサはどうしてるの?」

 

「あはは……多分まだ寝てます」

 

「まったく、あの子は昔と変わらないわね」

 

 ヘイリーは怒ったような顔でため息を吐く。

 アイビーは苦笑いしながら話していたが、ふとヘイリーがどこか不機嫌であることに気づいた。

 

「おばさん、何かあったんですか?」

 

「えっ? どうして?」

 

「えっと、なんだか嫌なことがあったような顔をしている気がして……。勘違いでした?」

 

「あー……。ねえアイビー、聞いてくれる?」

 

「はい、私で良ければ」

 

 二人は並んで歩き出す。

 通りへと歩いていると、多くの町民、特におじいさん達が親しげにアイビーに声をかけてきた。

 アイビーはその一つ一つに笑顔で答える。

 

「アイビーは人気者ねえ。学校でも男の子達が放っておかないんじゃない?」

 

「近くにセリアっていう美人すぎる子がいるから、全然ですよ……」

 

「レイブンクローの子ね。いつか会ってみたいわ」

 

「それでおばさん、何があったんですか?」

 

「ああ……」

 

 ヘイリーは少し口ごもると話し始めた。

 

「今日はクリスマスでしょう?」

 

「はい、そうですね」

 

「それで、私もアーロンもお休みだったのよ。だからお散歩でもしようって約束したの」

 

「わあ……素敵ですね!」

 

 アイビーはきらきらと目を輝かせるが、ヘイリーが沈んだ表情になったことに気づいた。

 

「えっと、どうなったんですか?」

 

「今朝急な事件があったみたいで、アーロンに応援要請が来たの。そのせいで出かけられなくなって……。仕事だししょうがないってわかっているんだけど、一緒に出かけるなんて本当に久しぶりだったから、その……」

 

「うわあ……」

 

 ヘイリーは俯き加減にぽつりぽつりと話す。

 普段は小柄ながらもてきぱきと行動する、アイビーが理想とする大人の女性であるヘイリーだが、今は恋に悩む年頃の少女にしか見えない。

 その姿が現在片思い中のメグと重なり、アイビーは親友の母親を思い切り抱きしめたい衝動に駆られた。

 

「アイビー? どうしたの?」

 

「な、なんでもありません」

 

 ヘイリーに不思議そうに声をかけられ、アイビーは湧き上がる衝動を必死に押しとどめて答える。

 

「おばさん、その事件が解決してからお出かけはできないんですか?」

 

「今日はこの後、メグを闇祓い本部に連れて行く予定なのよ。それに私もパーティーの準備があるし」

 

「ああ、そう言えばメグ、すごく楽しみにしてましたね……。それじゃあ明日は?」

 

「私は休みなんだけど、アーロンは仕事なのよ。だから今日しか無かったのに……」

 

 ヘイリーは再び沈んだ表情になった。

 それを聞いたアイビーはどうしたものかと思案する。

 そしてしばらく無言の時間が過ぎ、アイビーが口を開いた。

 

「おばさん、明日おじさんとデートしましょう」

 

「でも明日は仕事が……」

 

「そんなの関係ないです。お休みなのに仕事に行ったおじさんが悪いんですから」

 

「だ、だけど、アーロンを困らせたくないわ」

 

「困らせちゃえばいいんですよ! かわいい奥さんに困らされて、嫌な旦那はいませんから!」

 

 どんどん熱くなっていくアイビーに押されヘイリーは後ずさりし、道の横に立つ塀まで追い込まれた。

 アイビーはヘイリーに覆い被さるように塀に手をつく。

 ヘイリーが小さく悲鳴をあげるが、アイビーには聞こえない。

 

「いいですかおばさん、おじさんにこう言うんですよ! お仕事と私、どっちが大事なのって!」

 

 アイビーの勢いに押され、思わずヘイリーは首をこくこくと縦に振る。

 それを見て満足気に頷いたアイビーは、軽く涙目になっているヘイリーにようやく気がついた。

 

「わあ! す、すみませんおばさん! 私ったら一人で盛り上がっちゃって!」

 

「いえ、いいのよ……」

 

 慌てるアイビーの前でヘイリーは胸に手をあて息を整える。

 

「ふう……アイビーの言う通りね。せっかくの休みなのに、仕事に行った彼が悪いのよ」

 

「えっと、私が言うのもなんですけど、本当に大丈夫なんですか?」

 

「大丈夫大丈夫、たまにはわがままを言っても許されるはずだわ。うん」

 

 ヘイリーは自分に言い聞かせるように何度も頷く。

 アイビーは少しそれを不安そうに見ていたが、ヘイリーが歩きだしたので慌てて後に続く。

 

「アイビー、相談に乗ってくれたお礼に何でも買ってあげるわ」

 

「え!? そんな、悪いですよ!」

 

「いいからいいから」

 

 それから二人は共に買い物をした。

 ヘイリーは宣言通りにすべての代金を払おうとしたのだが、アイビーはそれをどうにか止めた。

 しかしそれでは納得できないヘイリーは、ジャムの材料にと大量の果物を購入しアイビーに押し付けた。

 

「あの、ありがとうございます、おばさん」

 

「いいのよ。本当は全部払いたかったんだから。でも、ジャムが完成したら少し分けてね?」

 

「はい!」

 

 購入した大量の食材はヘイリーが魔法で運んだので、アイビーは配送を頼むことなく帰宅することができた。

 

「おばさん、果物だけじゃなく荷物まで運んでもらって、ありがとうございます」

 

「気にしないでいいわ。ねえ、マーサまだ寝てるんだったら、叩き起こしてパーティーには絶対に遅れないよう言っておいてくれる?」

 

「あはは、わかりました。言っておきます。そうだ! おばさん、パーティーのお料理お手伝いしてもいいですか?」

 

「え? ええ、もちろん構わないけど、どうして?」

 

「お友達にお料理がすごく上手な子がいて、その子に追いつくためにも練習したいんですよ。だからお願いします」

 

「そういうことね。ぜひ来てちょうだい。メグもきっと喜ぶわ」

 

「ありがとうございます! それじゃあ、また後でお家に行きますね」

 

「ええ、それじゃあまた後でね」

 

 ヘイリーと別れた後、アイビーは購入した食材を片付けて二階へ向かう。

 そしてある部屋の扉の前まで行くと、ノックもせずに扉を開けると部屋に入って行った。

 カーテンが引かれ薄暗い部屋の中、ベッドの上に布団を被っている影がある。

 アイビーは勢いよくカーテンを開けて布団に手をかけると、思いきり布団を引きはがした。

 

「痛っ」

 

 すると引きはがされた布団から人影が落ちてきた。

 アイビーは腰に手を当て、その人影に怒鳴りつける。

 

「母さん! いつまで寝てるのよ! 早く起きなさい!」

 

「んー? ああ、朝ね……。おはよ」

 

 ベッドに転がっている人影はぼんやりと言った。

 その正体はアイビーの母親、マーサ・ベケットだ。

 マーサは緩慢な動きで身を起こすと、ベッドの上に海のように広がっている豊かな金髪を蓄えた頭をがりがりとかき、布団から這うようにして出てきた。

 立ち上がったマーサは背が高く、アイビーの頭は彼女の胸より少し低い。

 

「おはようじゃないわよ。もうお昼よ? 何時まで起きてたの?」

 

「うーん……空が明るくなってたのは覚えてるわ」

 

「夜更かしじゃなくて徹夜じゃない! もう! 早く着替えてよ!」

 

「はいはい」

 

 マーサは面倒くさそうに答えると、服を脱ぎ捨て下着姿になった。

 下着姿でタンスをごそごそと漁る母親を見て、アイビーは顔を真っ赤に染めながら叫ぶ。

 

「ちょっと! いきなり脱がないでっていつも言ってるでしょ!?」

 

「下着は着けてるわ」

 

「だから……! もう! 早く降りてきてよ!」

 

「行っちゃった……」

 

 アイビーは真っ赤な顔のままそう言うと、部屋を飛び出して行った。

 マーサはそれを見送った後不思議そうに頭をかき、下着も外してタンス漁りを再開した。

 

 




短くて申し訳ありません。
それでは良いお年を。
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