ハリー・ポッターと翡翠の魔法使い   作:ごま丸

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毎度毎度、投稿が遅くて申し訳ありません。
今回は少しだけ長めです。


第27話 一年目のクリスマス休暇・五

 クリスマスの翌日、ここはとある森の奥にある二階建ての家。

 その家のリビングで、リジーはロルフの腕をぐいぐいと引っ張っていた。

 

「兄ちゃん、早く早く!」

 

「分かってるから、引っ張るんじゃねーよ」

 

 今から出かける様子の二人だが、その服装はいつもと異なりローブや帽子ではなく、上下ともにマグルが着ている物だ。

 

「だって早く行きたいんだもん。楽しみ過ぎて早起きしちゃったよ」

 

「普段から馬鹿みたいに早起きだろ、お前は。俺は眠くて死にそうだぞ」

 

 ロルフの目は半分以上閉じており、体もふらふらと前後に揺れていた。

 しかしリジーはお構い無しにロルフを引っ張る。

 

「あーもう、分かったから。腕掴め」

 

「うん!」

 

 リジーがロルフの腕を掴むと、パチンという音と共に二人の姿が消えた。

 二人が姿あらわししたのは、ロンドンの人気のない道。

 誰にも見られていないことを確認し、二人は歩き出す。

 程なくしてたどり着いたのは、古くからある動物園だった。

 ロルフがマグルのお金を使って入場券を購入し、二人は入り口をくぐり抜けた。

 

「うわあ……」

 

 リジーは入り口でマグルの職員から受け取った園内の地図を見て、目を輝かせる。

 

「ほら、早く行くぞ」

 

「うん!」

 

 ロルフに言われ、リジーは元気に歩き始める。

 古い動物園だが、園内の建物はマグルの有名な建築家が建てたらしく、中々見事な物だった。

 二人はしばらく動物園を満喫し、昼頃になるとリジーが用意したサンドイッチを食べた。

 

「どうだ、リズ? 面白かったか?」

 

「うん! すっごく楽しかったよ!」

 

 ロルフが聞くと、リジーは満面の笑みでそう答える。

 

「そりゃ良かった」

 

 そう適当に答えるロルフだが、彼も動物園を楽しんだようで、珍しく年相応な笑顔で動物達を見ていた。

 最後のサンドイッチを飲み込むと、ロルフは時間を確認した。

 

「そろそろいい時間だな。そんじゃあ、今日の本命に行くか?」

 

「うん!」

 

 二人が向かった先には、ペンギンが飼育されている建物があった。

 複雑な形をした建物をペンギンが歩く姿はかわいらしく、その姿を見たリジーは思わず立ち止まってしまったが、ロルフに急かさせ再び歩き出す。

 ペンギンの施設を通り過ぎると、小さな用具入れのような建物があった。

 

「ここ?」

 

「ああ。ほら、入るぞ」

 

「あ、うん」

 

 ロルフは用具入れの扉を勝手に開けると、さっさと入って行った。

 リジーも慌ててロルフに続き、用具入れに入る。

 建物の中は二人入るだけで少し狭く、棚が一つあるだけだった。

 その棚にはオランウータンのぬいぐるみが座っていた。

 リジーがきょろきょろと室内を見渡すのをよそに、ロルフはそのぬいぐるみに近づき話しかける。

 

「施設の見学を予約していた、研究員のロルフ・スキャマンダーと妹のリズだ」

 

 ロルフが言い終わると、ぬいぐるみは顔を上げてロルフとリジーの顔をじっと見つめ、こくんと頷いた。

 

「リズ、少し揺れるぞ」

 

「う、うん」

 

 リジーがロルフの腕を掴むと、がたんと建物が揺れ、床が少しずつ下がっていった。

 あっという間に地面よりも低く下がり、二人の視界は真っ暗になった。

 床に揺られしばらくすると徐々に足元が明るくなり、広い空間に出た。

 二人は眩しくて一瞬目を閉じたが、すぐに明るさに慣れ目を開いた。

 

 

「うわあ……!」

 

「ここが魔法省魔法生物規制管理部動物課、魔法生物の生態研究ならびに飼育部門特別施設だ。バカみたい長いから、動物園って呼ばれてるけどな。いろんな所飛び回ってるけど、一応俺もここの所属なんだよ」

 

 二人が出た先には、驚くほどに広大な地下空間が広がっていた。

 その広さは地上の動物園とほぼ同じくらいだったが、歩いている人間はほとんどが研究員らしき魔法使いばかりだ。

 その研究員に案内されてごく少数の客がいた。

 施設内には檻や牧場が無数にあり、すでに多くの魔法生物の姿が見える。

 この施設は魔法生物の研究が最大の目的だが、一般の見学も受け入れている。

 見学は完全予約制で一日の受け入れ数も少なく、値段もそれなりのものになる。

 ロルフはクリスマスプレゼントとして、この日のために数ヶ月前から施設見学を予約していたのだ。

 リジーは地上の動物園に入ったときの数倍目を輝かせ、ロルフの服をちぎれるほどの力で引っ張る。

 

「すっごいよ! 早く見に行こう!」

 

「待て待て、まず事務所に行くぞ。母さんが待ってるぞ」

 

「うん!」

 

 二人は広い敷地内の建物へ向かう。

 この施設において建物は一つしかなく、ここに勤める全ての魔法使い達が集まっている。

 その建物の事務室に向かった二人は、施設の責任者兼主任研究員である母親に迎えられた。

 

「二人ともよく来たわね! 特にリズは初めてだものね。どう? すごいでしょう?」

 

「うん! ずっと来たかったから、本当に嬉しいよ!」

 

「ロルフにお礼言いなさいよ? この子リズが入学するからって、ずっと前から計画してたんだから」

 

「や、やめろよ母さん」

 

「ありがと兄ちゃん!」

 

「ぐふっ! だから、やめろって言ってるだろうが……!」

 

 飛び込んできたリジーの頭が鳩尾に突き刺さり、さらにぐりぐりと押し付けられてロルフは悶絶する。

 その様子を微笑みながら見ていた母親だったが、手を叩いて二人に注目するよう促した。

 

「ほら、仲がいいのはわかったから、こっち見なさい。ごめんねリズ、時間もあまり無いの。ついて来て」

 

 母親に言われ、二人は続いて彼女の研究室へと入った。

 広い室内は研究で使うと思われる道具や、数々の本や資料でとてつもなく散らかっている。

 研究室の惨状にリジーは半目になって母親を見上げる。

 

「ママ、ちゃんと掃除しなよ」

 

「確かにこれはひどいな」

 

「いや、その、しようとは思ってるのよ? でもこれはこれで、いい感じの配置になってるって言うか……」

 

 子供達に睨まれ彼女はしばし慌てていたが、一つ咳払いをして真面目な表情になった。

 

「こほん。リズ、ロルフ、一日遅れだけど、今からクリスマスプレゼントをあげます。けど、ただのプレゼントじゃないのよ」

 

「どういうこと?」

 

「まあまあ。それじゃあ付いて来なさい」

 

 母親は二人を研究室と繋がっている個室へ誘う。

 二人が続いて個室に入ると、母親は机の上に置いてある小さな籠を指差した。

 

「二人とも、あれが何か分かる?」

 

 籠の中にはふわふわとしたクッションが敷かれており、そこにとても小さな、小指の先に乗るほどの卵が置かれていた。

 それを見たリジーは首を傾げていたが、ロルフは難しい顔で卵を見つめて呟く。

 

「母さん、もしかしてこれ……?」

 

「さすがねロルフ。考えてる通りよ」

 

「まじかー……」

 

 母親が頷くと、ロルフは信じられないという表情を浮かべた。

 二人に置いていかれたような気分になり、リジーは不満気に叫ぶ。

 

「もー! 二人ともなんなのさー!」

 

「ごめんごめん。これはね、スニジェットの卵なのよ」

 

 母親は笑いながら言う。

 スニジェットは個体数が激減している、金色の小さくて真ん丸の鳥だ。

 それを聞いてリジーも驚きの表情になる。

 

「えっ本当に!? 卵なんて初めて聞いたよ!」

 

「私も、というよりも多分史上初でしょうね。保護区でも見つかったことはないそうだし。密猟者が逮捕されてスニジェットを保護したんだけれど、その個体は本当に残念なことに助からなくて……。保護して一週間くらいでね」

 

「そんな……」

 

「よし、そいつ殺そうぜ」

 

「私も殺したかったけど、アズカバンで終身刑になったわ。それで保護していた場所を掃除しようとしたら、卵が三つ見つかったのよ。二つは見つけたときに死んでしまっていたけれど、一つだけ生きていた。それがこの卵よ。すごく貴重だから二人に見せてあげようって、お父さんと決めたのよ。孵化して元気になったら、スニジェット保護区に送る予定よ」

 

 母親の言葉を聞きながら、二人は再びしげしげと卵を見つめる。

 その様子に母親は自慢気に聞く。

 

「どう? すごいでしょう?」

 

「うん、すっごい。本当にすっごいんだけど……」

 

 リジーは研究室と同じく散らかっている室内を見渡し、深くため息を吐いた。

 

「部屋が汚すぎて、集中できないよ。ママ、さすがに酷いよこれ」

 

「あ、あー……。そ、そうだ、ロルフ。休暇明けのお仕事について話があるから、ちょっとついて来てくれない?」

 

「え、やだよ。もっと見ておきたい」

 

「いいから! ついて来なさい!」

 

「あーもう、めんどくせーなあ」

 

 リジーが言うと、母親はロルフを押して部屋から出て行ってしまった。

 リジーは再びため息を吐き、卵の上にそっと手をかざした。

 卵の周囲はほのかに温かく、温度が一定に保たれるような魔法がかけられているようだ。

 さらに一定の間隔でクッションの表面が動き、卵の位置や向きを変えていた。

 鳥は卵を温める際に、卵を回転させて中身が偏らないようにする転卵という行動をしており、それを再現しているのだ。

 

「ちっちゃいなあ。スニジェットの雛なんて聞いたことないけど、元気に育ってくれるといいな……。それにしても散らかり過ぎだよ。そうだ、掃除でもしようかな」

 

 リジーは卵から目を離し、掃除道具を探し始める。

 

(全然見つからない……。もしかして掃除道具、置いてない? 信じられない……ん?)

 

 どこからか音が聞こえたような気がして、リジーは手を止め辺りを見渡す。

 しかし何も聞こえない。

 

(気のせいかな?)

 

 リジーは掃除道具探しを再開しようとしたが、またしても小さな音が、先程よりもはっきりと聞こえた。

 

「なんだろう?」

 

 リジーがきょろきょろと見渡す間にも、こんこんという音はかすかに聞こえ、音が鳴る間隔も徐々に短くなってきた。

 

「こ、怖いんだけど……。あ、そうだ! もしかして……!」

 

 何かに気づいたリジーが慌てて籠を覗き込むと、卵が僅かに震えており、そこから音が響いていた。

 

「うわわ、どうしよう! ママ達を呼ばないと……!」

 

 リジーがおろおろとしていると、ぱし、と今までとは違った音が鳴り、卵に小さなひびが入った。

 ひびは少しずつ広がっていき、やがて小さな小さな嘴が見えた。

 リジーが我を忘れて見つめる中、一度音が止んだ後に一際大きな音が鳴り、ついにスニジェットの雛の顔が見えた。

 雛はさらに卵を割り、金色の体をぐいぐいとねじりながら卵の外へ出た。

 そして体をぷるぷると振って羽を伸ばし、リジーを見上げて小さく鳴いた。

 

「うわぁ……すっごく綺麗……輝いてるよ……」

 

 リジーがその特徴的な赤い目と見つめ合っていると、不意に雛がふわりと飛び上がり室内を猛烈な速度で飛行し始めた。

 

「わあ! 待って待って! 待ってよー!」

 

 リジーは飛び回る雛をどたばたと追いかける。

 雛ながらもスニジェットは素早く、なかなか捕まえられなかったが、徐々にその速度が遅くなってきた。

 どうやらまだ雛であるためか疲れたようだ。

 そして一瞬の隙を突き、リジーは両手で包み込むようにして雛を捕獲した。

 

「捕まえた! 良かったー……って、両手で掴んじゃったけど、大丈夫!?」

 

 リジーは捕獲して安心したのもそこそこに慌てて手の中の雛を見たが雛に怪我はなく、それどころかどこか満足気に小さく鳴いていた。

 そこでようやくリジーが安心していると、扉が開き怪訝そうな表情を浮かべた母親とロルフが入って来た。

 

「すごい音が聞こえてたけれど、どうしたの……って何これ! 部屋がぐちゃぐちゃに……わあー! スニジェットが孵ってる!」

 

「おいおい、まじかよ……!」

 

「あ……」

 

 二人がそれぞれ仰天している中、雛は我関せずといった様子で相変わらず嬉しそうに鳴いていた。

 

──────────

 

「なるほどねえ……。これからどうしようかしら……」

 

 リジーに事情を聞いた母親はそう呟いて、雛を見つめながら考え込む。

 雛はリジーが説明している間は室内を飛んだりリジーの元へ戻ったりを繰り返していたが、現在はリジーの手の中で丸い体に頭を埋めるようにして眠っていた。

 ちなみにロルフは説明中、ずっと雛を観察していた。

 

「ねえ、どうしてこの子はこんなにおとなしいのな? スニジェットって警戒心が強いんだよね?」

 

 リジーは眠る雛をそっと撫でるが、雛は全く起きる様子もなく安心しきっていた。

 リジーの問いに雛を見ながらロルフが答えた。

 

「それは多分、刷り込みだな」

 

「でも最初は逃げたよ?」

 

 ロルフの答えにリジーが首を傾げると、ロルフは腕を組んで続けた。

 

「スニジェットの雛は生まれた瞬間から飛べるみたいだし、最初に逃げた雛を捕まえた動物を親と思うのかもしれない。まあスニジェットの生態なんて謎だらけだから、仮説でしかないけどなー」

 

「へー……」

 

 言い終えると、ロルフは雛の観察を再開した。

 リジーも再び雛を撫で始めると、考え込んでいた母親がようやく顔を上げた。

 

「よし。リズ、その雛育てなさい」

 

「ええ!」

 

「はあ!? 何言ってんだよ!」

 

 母親の爆弾発言に二人は驚きの声を上げ、雛は目を覚まして小さく鳴いた。

 しかし母親は二人を手で制すると、雛を見つめて話しだした。

 

「確かにスニジェットの生態は謎に包まれていて、どうなるかわからないわ。でもさっきのロルフの説に私は賛成だし、もうそうなら雛はリズを親だと思ってるわ。……だとしたら、生まれて間もない雛から親を離すのは愚行よ。もしスニジェットの保護区に戻しても、その雛は死んでしまうかもしれない。……動物は一度人間と接したら、野生への復帰は困難になる。二人ともわかってるでしょう?」

 

 母親の言葉を聞いてロルフは黙り、リジーは手の中の雛を見下ろす。

 片方の手のひらの半分もない雛は、リジーと目を合わせると首を傾げて、小さく鳴きながらリジーの指に体をこすりつけた。

 リジーはその小さな雛を撫でると、意を決したように顔を上げた。

 

「うん、わかった。私、この子を育てるよ!」

 

「よく言った! 偉いわよリズ!」

 

 母親はリジーの頭をくしゃくしゃと撫でながら褒める。

 しかしロルフは難しい表情で母親に尋ねた。

 

「でも大丈夫か? そんなこと母さんの一存で決めて?」

 

「この施設の最高責任者の私に、不可能はないわ! 魔法生物規制管理部にも誰にも、文句なんて言わせないわよ」

 

「うわー、これが権力ってやつかよ。やだなー」

 

 首を振りながらロルフはそう言うが、その口元は笑いを堪えていた。

 リジーは雛を顔の前まで持ち上げ笑いかける。

 

「よろしくね!」

 

 雛はそれに答えるように、今までで一番大きな鳴き声をあげた。

 

──────────

 

 その後母親が関係者に連絡を入れ急遽会議が開かれ、そこで母親はリジーへ雛を預けることを提案。

 もちろん最初は否定意見が多かったが、ロルフの説を上げながらの母親の説明で、最終的に定期的に報告をすること、もし死亡させたら全責任を母親が取るという条件のもとにリジーが雛を育てることが認められた。

 その会議があまりにも長く続いたため、二人の帰宅は翌日の夕方になった。

 もっとも、二人は施設の見学を満喫していたので、全く退屈をすることはなかった。

 

「すっごい施設だったね! 色んな動物と会えて楽しかったよ!」

 

「俺もゆっくりと見たのは始めてだったから、すげー楽しかったよ」

 

 地上の動物園を出た二人は、姿あらわしした道へ到着した。

 昨日と違う点は、リジーの手に小さな籠があることだ。

 一切の衝撃、振動を通さない、温度調整もできるその籠の中では、スニジェットの雛が眠っている。

 

「リズ、そいつの名前はどうするんだ?」

 

「えへへ、もう決めてるんだー。帰ったら言うよ」

 

「そうかい。それじゃ腕掴め」

 

 パチン、という音と共に二人の姿が消え去った。

 

──────────

 

 年が明けて数日後、ホグワーツへ戻る日が来た。

 特急が出る一時間以上前に、リジーとロルフはキングズ・クロス駅にいた。

 

「兄ちゃん、よくこんなに早起きできたね?」

 

 リジーが尋ねる。

 リジーは平気そうだがロルフはとてつもなく眠たそうな顔をして、足元もふらついていた。

 

「あー……お前に言っときたいことがあってなー……セリアのことなんだけど……」

 

「セリアのこと?」

 

 リジーが訝しげに言うと、ロルフは顔を振って眠気を払い話し始めた。

 

「おっさんから聞いた話だ。お前に話していいか昨日聞いたら、いいって言われてな」

 

 リジーがロルフの話を聞いておよそ十分後、ヘイリーと共にメグとアイビーがやってきた。

 アーロンは忙しく見送りにこれず、ヘイリーも挨拶もそこそこに仕事へ向かった。

 

「久しぶりねリジー!」

 

「元気だった?」

 

「うん、元気だったよー。そうだ、私の新しいペットを見せてあげるね」

 

「どれどれ……わあ、小さい鳥ね! かわいい!」

 

「かわいい……なんていう鳥なの?」

 

「スニジェットだよー」

 

「嘘!?」

 

 三人がわいわいと話してる横で、ロルフは柱に寄りかかって眠っていた。

 それから数分後に、レイモンドとセリアがやってきた。

 

「みなさん、お久しぶりです!」

 

 三人の姿を見て、セリアは輝くような笑顔で駆け寄る。

 

「私が最後だったんですね……待たせてしまい、すみません」

 

「あはは、全然待ってないわよ。久しぶり! セリア!」

 

「クリスマスぶり、セリア」

 

 アイビーとメグが挨拶を返す中、リジーはセリアを引き寄せてぎゅっと抱きしめた。

 

「リジー、どうかしたんですか?」

 

「んーん、なんでもないよー。久しぶりセリア。会いたかったよ!」

 

「私も会いたかったです!」

 

 二人は抱きしめあい、周囲はそれを微笑ましそうに眺める。

 

「みなさん、お久しぶりです。それにしても、ご友人を待たせてしまうとは……お嬢様、いけませんよ」

 

「え? で、でも、レイモンドが忘れ物をしたって……」

 

「人のせいにしてはいけません。お嬢様、お詫びにコンパートメントを確保してきてください」

 

「ええ! そんな!」

 

「ほら、泣いていないで早く!」

 

「泣いてませんよ! もう!」

 

 レイモンドに急かされセリアは頬を膨らませながら特急へ向かい、それをリジーも追いかける。

 

「セリアー、私も手伝うよ! あと新しいペット見せてあげるー」

 

「新しいペットですか? 見たいです!」

 

「スニジェットなんだけど」

 

「ええ!? スニジェットですか!?」

 

 二人が特急へ入っていくと、レイモンドはメグとアイビーの方へ振り向いた。

 

「さて、厄介払いできました。アイビー様、メグ様、お嬢様について、お二人にお伝えしておきたいことがあります」

 

「セリアのこと、ですか?」

 

 アイビーが聞き返すと、レイモンドは頷いて話し始める。

 

「みなさんはお嬢様の昔の話を聞いたのですね?」

 

「はい」

 

「それについて、少し付け加えたいことがあるのです。お嬢様はどのように話していましたか?」

 

「えっと、お父さんが亡くなってからお母さんが家の仕事をしていて、少しずつお母さんの体調が悪くなって、そしてその……」

 

「お母さんも亡くなって、すごく落ち込んだけれどいろんな人に助けられて、自分は幸せで、私達と友達になってくれてありがとう、と言ってくれました」

 

「私達も同じ気持ちです! ねえメグ?」

 

「うん、もちろん」

 

 二人の言葉を聞き、レイモンドは嬉しそうに微笑んだ。

 

「お嬢様に素晴らしい友人ができて、嬉しく思います」

 

「その、付け加えたいことって……?」

 

「はい……お嬢様は、とても泣き虫なのですよ」

 

 レイモンドが言うと、変な沈黙が広がった。

 

「え、えっと……そうなんですか?」

 

 アイビーが動揺しながらそう返すと、レイモンドは真面目な顔で続けた。

 

「ええ、泣き虫だったのですよ……お母様が亡くなるまでは」

 

「え……」

 

「昔からよく泣く子でしたよ。そしてお母様や屋敷しもべ妖精に、いつも慰められていました。そしてお母様が亡くなられ、お嬢様は部屋に篭りきり、数日ずっと泣いていました。食事も通らないほどに」

 

 レイモンドは悲しげな目で話し続ける。

 

「さすがに心配になり、様子を見ようかと相談していると、お嬢様は部屋から出てきたのです。そしてこう言いました。もう大丈夫です。私はレイブンクローの当主です。まだまだ未熟ですが、力を貸してください、と。私達は喜びましたよ。お嬢様が立ち直ってくれたと。もう安心なんだと……。それは間違いでした」

 

「すぐに気がつきましたよ。どれだけ仕事が忙しくなっても、どれだけ勉強が難しくなっても、転んでも、苦手な物を食べても、怖い話を読んでも、驚かせても、あの子は泣かなくなりました。以前ならば、確実に泣いていたのに」

 

「それからあの子は今日に至るまで、私達に一度も涙を見せたことがありません。私達はみんな、あの子が悲しみを押さえ込んでいるのだろうと、ずっと心配してきました。しかし何もできずにいた……。学校へ入学するときも、不安だったのですよ」

 

「しかし、あの子には素晴らしい友人ができました。この休暇で屋敷に帰ってきたあの子は、以前のあの子に近づいていたのです。入学する前が暗かった訳ではありませんが、比べ物にならないほど明るく、元気に……。それを見た私達が、どれほど嬉しかったことか」

 

「長々と話してしまい、申し訳ありません。リジー様には、彼から伝えてもらいました。……みなさん、お嬢様のことを、どうかよろしくお願いします」

 

 レイモンドは、いつの間にか目を覚ましていたロルフへ頭を下げた。

 そしてアイビーとメグに向かっても頭を下げる。

 アイビーとメグは目に涙を浮かべながら、強く答える。

 

「はい、もちろんです! 私達が支えます!」

 

「ええ、いっぱい笑って、いつか一緒に泣いて、あの子とずっと一緒にいます!」

 

 二人の強い決意を聞き、レイモンドは安心したように頷いた。

 それを黙って見ていたロルフは、ふと気になったことをレイモンドに尋ねる。

 

「なあおっさん、セリアをよくいじめてるのは、我慢せずに泣いてもらいたいからか?」

 

「いや? それは私が楽しいからやっているだけだよ」

 

「そうかよ……」

 

──────────

 

 私はセリアと手を繋いで空いてるコンパートメントを探しながら、さっきの兄ちゃんの話を思い出す。

 悲しくても泣けないって、どんな気分なんだろう……きっと苦しいよね。

 別にセリアを泣かせたい訳じゃないけど、ずっとため込んで苦しいくらいなら、泣いて欲しいと思う。

 ……私には、ずっと一緒にいることしかできないだろうなあ。

 けど、一緒に笑って、怒って、哀しんで、……それで、いつか一緒に泣けるといいな。

 

「リジー! コンパートメントを見つけましたよ!」

 

「やったね! それじゃみんなを呼びに行こっか!」

 

「はい!」

 

 ああ、でも、このかわいい子の泣く顔なんて、やっぱり見たくないなあ。

 笑顔が一番だよね、うん。

 見るとしても、嬉し涙でいいや。

 コンパートメントを確保した私達は特急をでて、みんなの所へ向かう。

 レイモンドさんの話も終わってるよね。

 まあでも、これからもみんなで楽しく学校生活をしていけばいいんだよ。

 いつも通りいつも通り。

 みんなと合流して特急に乗り込んで荷物を載せ終わると、少しして汽笛が鳴って特急が動き始めた。

 よーし、久しぶりのホグワーツ、みんなで楽しむぞ! 

 




ロルフとリジーの両親は名前が判明していないので、悩みましたが設定しないことにしました。(多分ほとんど出番ないでしょうし)
スニジェットの設定はほとんどオリジナルです。
私の文章力の拙さのせいで、クリスマス休暇にこんなに話数をかけてしまい申し訳ありません。
ここからは少し駆け足で原作に入れるよう努力いたしますので、応援していただければ嬉しいです。
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