「お? おおっ? おおおっ?!」
七月のとある日の早朝、ふくろうから手紙を受け取ったリジー・スキャマンダーは、興奮のあまり全身を震わせていた。
ちなみに手を離していないので、手紙を運んできたふくろうもリジーと一緒に震えている。
「おっと、ごめんねふくろうさん。そうだ、クッキー食べる?」
迷惑そうにホー、と鳴くふくろうに気づいたリジーは動きを止め、謝りながら腰につけたポーチからクッキーを一枚取り差し出す。
クッキーをくわえて飛び去るふくろうを手を振って見送ると、リジーは家へと走って行った。
「兄ちゃん兄ちゃん! 兄ちゃーん!」
家へ飛び込みリビングの椅子にポーチを投げ捨てたリジーは、二階へと駆け上り兄の部屋の扉を連打する。
「うるせえ! 今何時だと思ってんだ!」
「六時だよ! おはよう!」
怒鳴りながら部屋から出てきた兄、ロルフにリジーは無邪気に笑顔を向けた。
「おはようじゃねーよ。こっちはついさっきおやすみしたばっかだっつーの」
ロルフはぼさぼさの髪をかき、眠たそうに目を瞬かせた。
「兄ちゃん、夜ふかしばっかしちゃだめだよ。それより見て見て! ホグワーツから!」
そんなロルフを気にも止めず、リジーはその顔に手紙をぐいぐいと押し付ける。
「押し付けてちゃ見えねーよ。……ああ、入学の知らせか。それで?」
顔からはがした手紙を読んだロルフが尋ねると、リジーは元気に答えた。
「ダイアゴン横丁に連れてって!」
「……今から?」
「うん!」
「あのなあ、まだ六時だぞ。こんな時間に店が開いてるわけねーだろ」
「えー」
ロルフが呆れたように言うと、リジーは頬を膨らませ不満の声を上げた。
「えー、じゃない。それに、俺はもう少し寝る。起こすなよ」
部屋へ戻ろうとするロルフだが、頬を膨らませ続けるリジーを見てため息をつく。
「はあ……起きたら連れてってやるから」
それを聞いたリジーは目を輝かせた。
「ほんと!? じゃあ早く起きてね!」
そう言ってリジーが階段を駆け下りて行く。
リジーが一階でヒャッホー! と叫んでいるのを聞いて、ロルフは苦笑しながらベッドへ戻った。
──────────
十一時を過ぎた頃にようやく目を覚ましたロルフが一階へ降りると、リジーはキッチンで料理をしていた。
「あっ! 兄ちゃんおはよー。ご飯すぐに出来るよ!」
「おー」
ロルフに気づいたリジーが元気に言う。
ロルフが適当に答えながら椅子に座ると、すぐに朝食が置かれた。
リジーも自分の分を置き席に着く。
「なんだリズ。まだ朝飯、いやもう昼飯か。食ってなかったのか?」
「兄ちゃんと食べようと思ってて。待ってたらお腹すいちゃったよ。クッキーは食べたけどね」
トーストをかじりながらのロルフの問いに答えたリジーは、口いっぱいにソーセージを頬張る。
「あんまり腹につめすぎるなよ? 満腹で姿あらわしはきついぞー」
ロルフは言うが、リジーは気にせず食べ続ける。
「大丈夫大丈夫。私をなめたらダメだよ? 兄ちゃん?」
なぜか自信満々なリジーを、ロルフは心の中でまあいいか、と呟き放っておくことにした。
しばらくしてリジーより先に朝食を食べ終えたロルフは、紅茶を飲みほすと切り出した。
「それじゃ、ダイアゴン横丁行くか」
「行く! 着替えてくる!」
リジーは朝食の残りを口に詰め込むと、自分の部屋へと走って行った。
「まったく、後片付けくらいして行けよ」
そう呟いたロルフは、一階へ降りて来る前に着替えを済ませている。
ロルフは杖を軽く振った。
するとテーブルの上に残っていた食器が浮き、キッチンへと飛んでいった。
ひとりでに洗われはじめた食器をぼんやりと眺めながらロルフが待っていると、着替え終えたリジーが戻ってきた。
「どう? 兄ちゃん?」
リジーはその場で一回転してロルフに聞く。
その動きで肩までの長さの明るい茶髪がさらさらと柔らかく揺れた。
活発そうな顔に大きな目は丸く、瞳は透き通るような緑色をしている。
上は明るいピンク色のパーカーで、紐が角度によって違う色に見えるようになっている。
下は黒い細身のパンツで長い脚が強調されており、銀色の刺繍で星座が描かれている。
腰にはポーチをつけて足にはスニーカーを履いており、全体的に動きやすそうな服装だ。
「できるだけマグルにまぎれても目立たない服装にしたんだけど、似合ってる?」
「あー、うん。いいんじゃね? マグルのいる所は通らないけどな」
「かわいい?」
「はいはい、かわいいかわいい」
「えへへ」
ロルフがおざなりに答えるとリジーは嬉しそうに笑った。
いつも適当なロルフだが、リジーに嘘をついたりしないとわかっているからだ。
「ほれ」
ロルフはどこからともなく巾着袋を取り出し、机の上に置いた。
中にはそれなりのお金が入っているようだ。
「どうしたの、このお金? まさか、危ないお金?」
驚いたリジーが聞く。
「ちげーよ。父さんと母さんが研究に行く前に置いて行ったんだよ。わざわざグリンゴッツに寄るのもめんどくさいだろうって」
ロルフが言うと、リジーはとたんに不機嫌な顔になった。
「なんだ、パパもママも忘れてるんだと思ってたよ。一緒にお買い物行きたかったな」
リジーは寂しそうに言う。
「俺のときなんか、一人で買い物行かされたんだぞ? それに比べればまだましだろ」
「うん……」
ロルフの言葉にリジーはいまだ寂しそうに答える。
それを見てロルフはため息をついて立ち上がり、リジーの頭を乱暴に撫でた。
「わわっ」
「俺が付き合ってやるから。だからそんなめんどくさい顔すんなよ」
ロルフはぶっきらぼうに言う。
「えへへ、うん!」
乱暴だがその手に確かな優しさを感じリジーが笑う。
「それじゃ、買い物行くか」
「うん!」
元気を取り戻したリジーは、ロルフの差し出した腕を掴む。
「距離あるから姿あらわし連続でするけど、大丈夫か?」
「大丈夫だって。なめたらダメだって言ったじゃん」
「そうかい。んじゃ、いくぞ」
「こい!」
言い終わるやいなや、パチン! という音と共にリビングから二人の姿が消えた。