学年末試験が近づくにつれ、各教科で山ほど宿題が出るようになった。
その宿題の多さと徐々に近づく試験の重圧により、数多くの生徒が体調を崩して医務室のお世話になった。
セリアやメグはともかく、得意教科以外は並であるリジーとアイビーはもはや限界だった。
そうして厳しい日々が過ぎ、いよいよ試験当日がやってきた。
一年生の生徒達は初めての試験に緊張しながらも、必死に解答用紙に自身が一年間で学んだことを書き込んでいった。
また、いくつかの試験では実技もあった。
フリットウィックが教える呪文学では、メロンにタップダンスを踊らせることが課題となった。
多くの生徒が小刻みな動きをさせることに苦労する中、セリアは見事な踊りをメロンに行わせ、フリットウィックから拍手をもらった。
マクゴナガルが教える変身学では、ネズミを紅茶缶に変身させる課題だった。
きちんと密閉できて柄が美しい缶は高い点が、密閉できていなかったりネズミの毛の色が残っている缶は低い点が与えられる。
難易度は少し高めだが、マクゴナガルとの個別授業ですでに二年の終わり近くまで学んでいるリジーは、様々なネコ柄が楽しそうに踊る紅茶缶に変身させた。
これにはマクゴナガルも思わず笑顔を浮かべた。
スネイプが教える魔法薬学では、一年生の実技試験は毎年忘れ薬を調合する課題らしい。
しかし忘れ薬は一年生で学ぶ薬で最も調合が難しく、加えて試験中スネイプが生徒達の間を巡回するため緊張感は凄まじいものだった。
薬が完成した者からガラス瓶に入れてスネイプに提出していくのだが、アイビーは他の生徒が調合の手順の半分を過ぎた頃にはすでに瓶に薬を入れ、スネイプに提出していた。
あまりにも早いのでスネイプは厳しい表情で瓶の中を確認したが、薬は完璧な状態に仕上がっていた。
そんな精神力がどんどん奪われる試験を受け続け、ついに試験最終日。
最後の試験である魔法史の解答用紙が回収されビンズが試験終了を告げると、一年生達はこぞって立ち上がり歓喜の声を上げた。
中には感極まって泣き出している生徒もいるくらいだ。
「終わった! ついに終わったのね!」
「うん! やったよ! これでもう何も怖くないね!」
「私達頑張ったわよね、リジー!」
「お疲れ様、アイビー!」
リジーとアイビーはお互いを抱き締めながら健闘をたたえ合う。
試験勉強を彼女達はセリアとメグに手伝ってもらっていたのだが、こと勉強においては二人は一切妥協を許さず、その指導はかなり厳しかったのだ。
メグは毎回のように逃げようとするアイビーを拘束し、試験に出そうな内容を山ほど羊皮紙に書き込ませ続けた。
セリアも普段のほんわかとした雰囲気は消え去り、リジーが間違った答えを書くたびに辛辣に、しかし的確な助言をしてリジーの気力をがりがりと削っていった。
その鬼教師である二人もさすがに大変だったようで、互いに疲れた顔で微笑みあっていた。
これから試験結果が発表される一週間後までは自由な時間となる。
生徒達はようやく訪れた平穏な日々を、思い思いに楽しんでいた。
しかし全ての生徒が楽しんでいたわけではない。
クィディッチ最終戦を控えるグリフィンドール、ハッフルパフの両チームは、試験勉強の鬱憤をぶつけるかのように練習に打ち込んでいた。
クィディッチ最終戦の前日、ハッフルパフチームの最後の練習はセリア達四人も見学しに行った。
チームが行なったのは最低限の連携の確認のみで、練習は早く終わった。
「明日はもう試合だし、調整だけだったんだろうな」
「そうでしょうね……。グリフィンドールも同じようにしていたそうよ」
「それしても、明日はどうなるんだろうな……」
「伝説のシーカーを相手に、百点以上差をつけてさらにスニッチが必要だもの……難しいなんてものじゃないわ」
「俺達にできるのは祈ることだけか……」
「ええ……頑張ってみんな……!」
「頼むぞセド……!」
一緒に見学に来ていたスコットとアイビーは、真剣な顔で話し合っていた。
この二人はほとんど全ての練習を見学しており、チームを除いて最も強く勝利を望んでいる二人なのだ。
祈るように両手を組んでいる二人の横で、リジーも緊張した様子でセリアとメグに話しかける。
「いやー、なんだかすっごくどきどきしてきたねー……」
「そうだね……ハッフルパフはもう何十年も、優勝杯を手にしたことないらしいし」
「な、なんだか、学年末試験よりも緊張します……」
チームは最後に作戦の確認をしてから解散するとのことで、セリア達四人は先に寮に戻った。
メグはもじもじとしながらセドリックを待とうとしていたのだが。
「わ、私はその、セドリックを待とうかな……」
「お、メグも待つのか? なら一緒に待とうぜ!」
「……ブルクハルトさんも待つんですか?」
「おう! いっつもセドと城に戻ってるんだ!」
「帰ります」
「え、なんでだよ!?」
スコットが驚いて声を上げるが、メグは彼を半目で睨みつけてから観客席から去っていった。
「なあアイビー、メグはなんで怒ったんだ?」
「はあ……やっぱりスコットはだめね」
「だからなんで!?」
呆れたようにアイビーに言われ、スコットは助けを求めてセリアとリジーを見る。
しかしリジーはアイビーの言葉に頷いており、セリアは苦笑いを浮かべていた。
メグのセドリックへの想いは、すでにセリアとリジーにも知られてしまっているのだ。
「メグを追わなきゃだし、私達は帰るわね。スコットはそこでなんでだめだったのか考えてなさい」
「ばいばい、スコット!」
「失礼します」
「えー……」
残されたスコットはハッフルパフチームが解散するまで、一人観客席で頭を悩ませていた。
そして練習が終わり一時間程たって、セドリックが更衣室から出てスコットの元へやってきた。
「お待たせスコット。それじゃあ戻ろうか」
「うーん……。お、セド、お疲れ! 調子はどうだ?」
「うん、思ったよりもいつも通りに飛べたよ」
「良かったじゃん。これは勝ったな」
「あはは、それはどうかなあ」
二人は話しながら城を目指して歩く。
しかしスコットがたびたび腕を組んで頭を捻っていたので、気になったセドリックはスコットに尋ねた。
「うーん……?」
「スコット、どうしたんだい? なんだかさっきから唸ってるけど」
「ああセド、聞いてくれよ。さっきこんなことがあったんだけど……」
スコットは先ほどの出来事をセドリックに話す。
「……って感じで、みんな帰っちゃったんだけどさ。俺、何がだめだったんだ?」
「うーん……? なんでだろう? 別にスコットにおかしい所はなかったように思うんだけど……」
二人はそろって首を傾げる。
スコットはともかく、セドリックも女の子の気持ちというものにはかなり鈍感らしい。
考えても考えても理由がわからず、結局二人は考えるのをやめた。
「とりあえず謝ればいいんじゃないかな? 僕も一緒に謝るよ」
「セド……! やっぱりお前はいい奴だな!」
スコットは顔をほころばせながらセドリックの肩を組み、セドリックも笑顔でそれを受け入れた。
それから二人は少し無言で歩く。
「……明日、厳しい試合になるな」
「……ああ。僕達ハッフルパフの戦いは、いつもそうだよ。よく劣等生が集まる寮なんて言われるけど、そんなの関係ない。勝つ。それだけだ」
「おう! セドならやれるぜ!」
二人は拳をぶつけ合いながら笑う。
その後寮に戻った二人は、談話室で読書をしていたメグに謝罪をした。
メグは顔を赤く染めながらひとしきり慌てた後、スコットを睨みつけて寝室へと逃げて行った。
そして再びアイビー達にため息を吐かれ、残された二人は訳がわからないといった様子で顔を見合わせた。
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クィディッチ最終戦、グリフィンドール対ハッフルパフの試合当日。
クィディッチ競技場には全校生徒に加え、ダンブルドアも含め全教員が集まっていた。
スリザリンが連覇を伸ばすか、グリフィンドールがついに栄冠を手にするのか、はたまたハッフルパフが数十年ぶりの優勝を飾るか。
先が読めない状況に、今年のクィディッチ最終戦はここ数十年で最大の盛り上がりを見せていた。
「いよいよね……」
「うおー! セド頑張れ!」
「どきどきしますね……!」
「そうだねー。セドリックのかっこいい所、見れたらいいね。ね、メグ」
「う、うん、そうだね」
急にリジーにそう言われて、メグは顔を赤く染めながら答えた。
その頃両チームの更衣室では、最後のミーティングが行われていた。
──────────
「さて、みんな準備はいいか?」
チャーリーが他のメンバーを見渡してそう言った。
グリフィンドールのメンバー達は頷き、キャプテンの言葉を待つ。
「……今日は、僕の最後のクィディッチの試合になる。僕はクィディッチの選手にはならないからな」
その言葉に、双子以外のメンバーに動揺が走る。
特にウッドは全教科落第だったかのような顔だった。
「こんな直前に言うことじゃないかもしれないな。けど後で教えるのも、なんだか違うと思ったんだよ。まあ僕の自分勝手だな」
そう言ってチャーリーは笑う。
「ま、でもいつもと同じだよ。みんな変に気負わず、いつも通り楽しんで、ついでに勝とう」
彼がそう言うが、他のメンバーはまだ動揺したままで何も言えなかった。
その中でフレッドとジョージが立ち上がり、おどけたような声を上げた。
「へいへい、みんな! 何辛気臭い顔してるんだよ!」
「そうだそうだ! 特にウッド! トロールが悩んでる顔みたいになってるぜ!」
そして二人はチャーリーの前に行き、真剣な表情で彼を見上げた。
「任せとけよ兄貴。俺達が勝たせてやるよ」
「チャー兄は楽しく飛んでおけばいいぜ」
チャーリーは驚いて二人を見下ろし、そして満面の笑みで二人の頭をがしがしと撫でた。
初めての試合では悔しさで涙を流し俯いていた二人が、今は強い目で自分を見上げている。
そのことがチャーリーにはとても嬉しかった。
「そうだ! 任せとけチャーリー! 絶対勝つぞ!」
「おう! 野郎ども、やるぞ!」
「ちょっと、女の子もいるんだから!」
「そうよそうよ!」
気を取り直したメンバー達も、口々に声を上げ始めた。
それをチャーリーは嬉しそうに見渡し、拳を掲げた。
「よーし! それじゃあみんな、頼むぞ!」
「おう!」
気合十分にグリフィンドールチームは更衣室を出て、競技場の中心を目指した。
──────────
「いよいよだ。みんな、俺から特に言うことはない。ハッフルパフに優勝杯を! 勝つぞ!」
「おー!」
ハッフルパフチームのキャプテンが檄を飛ばし、メンバー全員が声をそろえて答える。
そして試合開始まで各々が準備をする中、準備を終えたセドリックは目を閉じて座っていた。
手強い相手に厳しい勝利への条件。
しかし彼は自分でも驚くほど緊張はしておらず、心は静まっていた。
(うん、いい調子だ)
セドリックは目を閉じたまま頷く。
一年前、新入生だった彼が一番楽しみにしていたのは、クィディッチだった。
普段のセドリックはわがままなど一切言わず、常に人のことを考えて行動できるとても良くできた子供だ。
セドリックを両親は溺愛し、彼もまた両親を愛していた。
そんな彼が唯一わがままを言うのは、クィディッチのことだった。
試合があると知れば見に行きたがり、箒屋に行けば目を輝かせて箒を見て、欲しいとねだる。
セドリックの父、エイモス・ディゴリーは彼の唯一のわがままに応え、全てを与えた。
試合に行きたいといえば魔法省でのコネを使いチケットを手に入れ、箒が欲しいと言えば笑いながら高級な箒を購入する。
さらに家の近くに小さなクィディッチの練習場を作るほどだ。
そんなセドリックが、入学してから楽しみで仕方がなかったクィディッチの試合、その開幕戦。
毎年開幕戦はグリフィンドールとスリザリンの伝統の対決なのだが、セドリックはわくわくしながら試合を見に行った。
噂で聞いていたグリフィンドールのシーカーとスリザリンのチェイサー、一体どれほどの選手なのか楽しみだった。
そして試合が始まり、圧倒された。
箒と一体になったように、まさに神業としか言えない飛行を見せるチャーリー・ウィーズリー。
目にも止まらない、誰にも止められない連携を見せるスリザリンのチェイサーと、それを指揮するジェニファー・マレット。
それは今まで見てきたどの試合よりも、セドリックを惹きつけた。
その試合が心に焼きついたまま二年生になって、ようやく自分の箒を持ち込めるようになり、セドリックはクィディッチチームの予選に参加した。
他の参加者を遥かに上回る飛行を見せた彼は、見事にシーカーとなり試合でも活躍した。
そして今日、ついにあのチャーリー・ウィーズリーと対決するのだ。
しかも、彼と同じシーカーとしてだ。
「よし、時間だ。みんな、行くぞ!」
キャプテンの声が響き、セドリックは目を開けて立ち上がった。
彼は箒を手に、メンバー達が気合十分に更衣室から出る後に続く。
更衣室から出ると、割れるような完成に包まれた。
頭上には赤と黄の二色に綺麗に分かれた観客席が見える。
そして対面の更衣室から、紅色のローブをまとった七人の影が出てくる。
両チームは同時に更衣室の入り口から飛び立ち、審判であるフーチが立つ競技場中心を目指す。
箒から降りた両チームは向かい合って並び、お互いを好戦的な目で睨んだ。
「両チームキャプテン、握手」
チャーリーとハッフルパフのキャプテンが強く握手して、他のメンバーは箒に跨る。
「それでは正々堂々戦うように」
両チームの箒を握る手に力が入る。
割れるように騒々しかった観客席も、それが嘘であったかのように静まり返っていた。
そんな中、不意にセドリックとチャーリーの目が合った。
(チャーリー・ウィーズリー、伝説のシーカー……。だけど、緊張はない。恐れもない。そうだな、むしろ……)
(セドリック・ディゴリー。二年生だけど、すごく優秀なシーカー。自分を見てるみたいだ、なんてな。うん、そうだな……)
偶然にも二人は心の中で同じことを思う。
(楽しみで、仕方がない!)
「試合開始!」
スニッチ、ブラッジャーが解き放たれ、甲高いホイッスルの音が静寂を切り裂き、復活した大歓声の中を両チームの選手が飛び立つ。
いよいよクィディッチ最終戦が始まった。