ハリー・ポッターと翡翠の魔法使い   作:ごま丸

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新章突入です。
投稿が遅れてしまい、申し訳ありません。


第二章 賢者の石
第33話 はじめてのお泊まり会


 ホグワーツでの一年が終わり、夏休み期間に入ってからしばらく。

 七月も終わろうとしているある日の朝、レイブンクローの屋敷には魔法省大臣、コーネリウス・ファッジが訪れていた。

 ファッジがレイモンドが淹れた紅茶をおいしそうに飲んでいると、目の前に座るセリアがそわそわと落ち着きのない様子であることに気がついた。

 ファッジはセリアに尋ねる。

 

「セリア、どうしたんだい? ずいぶんと落ち着きがないようだが」

 

「あ、ごめんなさい、ファッジさん。実は今日、お友達が屋敷に遊びに来るんです。しかもお泊まりなんですよ」

 

 セリアは恥ずかしそうに頬を染め、しかし嬉しそうに微笑みながら答えた。

 その様子を見てファッジも笑みを浮かべる。

 

「そうかそうか、セリアがお友達を! めでたいね」

 

「はい! でも、ちゃんとおもてなしできるか不安で、なんだか落ち着かなくて……」

 

「そんなこと気にする必要はないよ」

 

 ファッジはそう言うと腕を伸ばし、セリアの頭を優しくなでた。

 

「セリアはセリアらしくすればいい。きっと、お友達もそう言うよ」

 

「ファッジさん……わかりました。私らしく頑張ってみます」

 

 セリアはにっこりと笑ってそう言った。

 それを見てファッジは頷くと、立ち上がって山高帽を被った。

 

「それでは私は行くよ。頑張るんだよ」

 

「はい、ありがとうございます。レイモンド、お見送りをお願いします」

 

「了解しました」

 

 応接室から出るファッジを見送った後、セリアは自室に戻り大切な親友を迎えるために、まず着替えを始めるのだった。

 

──────────

 

 ここはとある森の中にある二階建ての家。

 昼食を終えたリジーは、セリアからの手紙を手に持ってリビングの中を歩き回っていた。

 この手紙は移動キー(ポートキー)となっており、決められた時間になるとレイブンクローの屋敷へと運ばれるのだ。

 

「おいリズ、ちょっとは落ち着けよ。ずっと歩き回られるとうっとうしいぞ」

 

「あ、ごめんね兄ちゃん。でも、セリアのお家だよ? すっごくどきどきするよー」

 

 ロルフに言われて止まったリジーは、椅子に座りながらそう言う。

 

「きっとすっごく大きくて、見たことない物がいっぱいあるんだよ。緊張するなあ……」

 

「焦っててもどうせ時間になったら行くことになるんだし、気にしなけりゃいいじゃん」

 

「私は兄ちゃんみたいに能天気じゃないんだよ! って、わあ!」

 

 突然手紙が青白く光りだして、リジーは驚いて叫び声を上げた。

 

「お、そろそろだな。荷物ちゃんと持っていけよ?」

 

「う、うん!」

 

 リジーは慌てて立ち上がり、近くに置いていた荷物を持った。

 その間にも徐々に光が強くなっていく。

 

「それじゃ行ってくるね!」

 

「おう、楽しんでこいよ」

 

 リジーがロルフに手を振ると強くなった光が彼女を包み込み、やがて光が消えるとそこにはリジーの姿はなかった。

 リジーを見送ったロルフは、椅子の上でぐぐっと体を伸ばすと一人呟く。

 

「……よし、寝るか」

 

──────────

 

 山あいの小さな村にある大きな屋敷。

 その屋敷内の食堂で、朝ご飯兼昼ご飯を食べ終えたメグは手元の手紙を見下ろす。

 

「時間は……良かった、大丈夫みたい」

 

 移動キーとなっている手紙に記された時間はあと数分後で、メグは時間に間に合ったことに一安心する。

 メグは夏休みが始まってから、両親が仕事に行っている日は毎日昼近くまで寝るという生活を送っていた。

 ホグワーツに入学する前はいつも屋敷しもべ妖精であるネリーに起こされていたが、それではまずいと思ったメグは自力で起きるようにしていたのだが、なかなかうまくいかない。

 優しい祖父母はメグを起こすことはなく、ネリーも泣く泣く彼女を起こさずにいたが、二度寝三度寝を繰り返し、結局毎回昼近くに起きていたのだ。

 

「今日は何とか起きれて良かったよ……」

 

「お嬢様、お荷物を持ってまいりました」

 

「ありがとうネリー」

 

 メグの横に荷物を持ったネリーが現れた。

 荷物を受け取ったメグがネリーの頭をなでると、ネリーは嬉しそうにお辞儀した。

 すると手紙が青白い光を放ちはじめた。

 

「時間みたいだね。それじゃあ行ってくるね」

 

「はい、行ってらっしゃいませ」

 

 立ち上がったメグがネリーに言うと、ネリーは深々とお辞儀をしてメグを見送る。

 徐々に光が強くなってメグを包み込み、やがて光が消えるとメグの姿はなかった。

 

──────────

 

 メグの屋敷の隣に立つごく普通の一軒家。

 準備を整えたアイビーは時間を確かめると、荷物と手紙を手に立ち上がった。

 

「もうそろそろね。母さん、今夜はちゃんとご飯作ってよ?」

 

「んー」

 

 アイビーは、リビングにあるソファに寝転がりだらけきっている母、マーサに声をかける。

 アイビーが料理本を置いて行ったこともあり、マーサはクリスマス以降毎日ではないものの、料理を作るようになっていた。

 しかしアイビーが帰ってきてからはまったく作らなくなり、以前のように戻っていたのだ。

 マーサの気の抜けた返事を聞き、アイビーは深くため息をつく。

 

「心配しないでよ姉さん。母さんが作らなくても、僕が作るから。姉さんの書いた本のお陰で、少しは料理できるようになったからね」

 

 弟であるケビンがそう言うが、アイビーは首を横に振った。

 

「母さんを甘やかしちゃだめよ。それに、ケビンは学校に合格できたんだから、しっかりお勉強しておかないと。……本当は一緒にホグワーツに行けたら嬉しかったんだけど」

 

 ケビンは幼い頃から魔法が発現せず、七月に入ってもホグワーツから入学の案内が届くことはなかった。

 もっとも、ケビンは近くの大きな都市にある名門の学校に入学が決まっており、元々ホグワーツには興味はないようだった。

 

「僕は魔法にはあまり興味がないからね」

 

「でも、私は一緒に行きたかったなあ。それに頭のいい学校って聞くし、ケビンが勉強についていけるか心配なの」

 

「この子の学力なら、あれくらいなら全然大丈夫。余裕よ」

 

 アイビーが不安そうにしていると、ソファで寝転がりながらマーサが言った。

 

「母さんが言うなら、そうなんだろうけれど……本当に大丈夫?」

 

「うん、大丈夫。試験の問題もそれほど苦労しなかったしね。姉さんは心配せず、学校を楽しんできてよ」

 

 ケビンが微笑みながらそう言うと、アイビーは安心したように笑った。

 その時、アイビーが持つ手紙が青白く光りはじめた。

 

「わあ、びっくりした! えっと、そろそろ時間みたい。行ってくるわね」

 

「うん。行ってらっしゃい、姉さん」

 

「行ってらっしゃい」

 

「父さんによろしくね! それじゃあ!」

 

 青白い光がアイビーを包み込み、光がおさまると彼女の姿は消えていた。

 

「これが魔法か、すごいな……。ところで母さん、今日のご飯は僕が作ろうか?」

 

「……ううん、私が作るわ」

 

 マーサはのっそりとソファから立ち上がった。

 

「あの人、最近アイビーの料理をいっつも褒めてばかり……。だから帰ってきたら、おいしい料理を作って思い知らせてやるの」

 

「あはは、そっか。頑張ってね母さん」

 

「うん、頑張る」

 

──────────

 

 レイブンクローの屋敷の玄関ホールに、ひどく緊張した様子のセリアが立っていた。

 セリアはずっと懐中時計を見つめており、その時計が約束の時間がまもなく来ることを示していた。

 

「そ、そろそろですね……」

 

「頑張ってくださいね、お嬢様」

 

「はい……!」

 

 セリアがそう言った直後、玄関ホールに小さな青白い光が三つ現れた。

 その光は徐々に大きくなっていき、その奥に小さな影が見える。

 その影がだんだんと形を変えていき、やがて人影となった。

 そして一際大きく光り輝くと突如光がおさまり、そこにはリジーとメグ、アイビーが目を閉じて立っていた。

 目を開けた三人は玄関ホール内を見渡すと、セリアを見つけ笑顔を浮かべる。

 

「み、みなさん、いらっしゃいませ! 今日は精一杯おもてなしを、きゃあ!」

 

「セリアー! 久しぶりー!」

 

 セリアの緊張しながらの挨拶は、凄まじい勢いで飛びついてきたリジーによって遮られた。

 そしてリジーに続き、メグとアイビーもセリアに飛びついて抱きしめる。

 

「本当に久しぶり! 元気だった?」

 

「会えて嬉しいよ」

 

「あ、あの、みなさん、離してください……」

 

 セリアはもみくちゃにされて苦しそうに声を上げるが、三人は気づかずに抱き締め続ける。

 レイモンドはその様子を面白そうに眺めて、しばらくしてから声をかけた。

 

「みなさん、そろそろお嬢様が限界なので、離してあげてください」

 

 レイモンドの言葉を聞いて三人はセリアから離れた。

 解放されたセリアは少しふらついていたが、ひとつ深呼吸をして微笑んだ。

 

「改めまして、みなさんお久しぶりです! お友達を招待するのは初めてですが、精一杯おもてなしします。よろしくお願いします!」

 

 そう言うとセリアは、スカートをちょこっとつまんでお辞儀をした。

 セリアの挨拶を聞いて三人はぱちぱちと拍手をする。

 

「それでは客室にご案内します。みなさん、ついて来てください」

 

「はーい」

 

 セリアは三人を連れて玄関ホールを出ると、階段を上がって二階へ向かう。

 三人は屋敷の中をきょろきょろと見渡しながら、セリアの後を続いて歩く。

 

「セリア、たしかお屋敷は二階建てなんだっけ?」

 

「はい。前にも言いましたけれど、地下がとても広いんです。後でご案内しますね」

 

「うん、楽しみにしてるよ」

 

「珍しい薬の材料とか、あったりするのかしら?」

 

「ええ。よろしければ、少し持ち帰ってくださってもいいですよ」

 

「本当!? わあ、すごく嬉しい!」

 

「セリアー、地下に珍しい動物っていたりするの?」

 

「えっと、動物はちょっと……。けれど近くにある林には、ボウトラックルがいっぱいいる木がありますよ」

 

「ボウトラックルがいるんだ! 知ってたら妖精の卵持ってきたのになー」

 

 おしゃべりしながら階段を上がり二階を進むと、いくつか扉が並んでいる廊下へ着いた。

 

「ここにあるのは全て客間です。お掃除はちゃんとしていますので、お好きな部屋を選んでください」

 

「みなさんが来るからと、お嬢様が頑張って部屋の掃除をしたのですよ」

 

「もう! 余計なこと言わないでください!」

 

「申し訳ありません。それでは私はこれで。お嬢様、頑張ってくださいね」

 

「はい、頑張ります!」

 

「失敗して泣いても、手助けしませんからね」

 

「泣きません!」

 

 セリアがレイモンドに文句を言っている様子を、他の三人は微笑ましそうに見る。

 その後三人はそれぞれ部屋を選び、持ってきた荷物を部屋に置いた。

 荷物を置いた三人は再び廊下に出る。

 

 

「それではお屋敷の中をご案内します。みなさん、行ってみたい所はありますか?」  

 

「はい!」

 

 セリアが聞くと、リジーが元気に手を挙げた。

 

「私、セリアの部屋見てみたいなー」

 

「わ、私の部屋ですか?」

 

 セリアは予想もしていなかったのか、驚いた表情を浮かべる。

 リジーの言葉にメグとアイビーも頷く。

 

「そうね、私も見てみたいわ」

 

「私も気になる」

 

 三人に期待の目で見つめられ、セリアは仕方なさそうに頷いた。

 

「わ、わかりました。どうぞこちらへ」

 

 歩き出したセリアに三人が続く。

 一つ廊下を曲がると二つ扉がある廊下に出て、奥は行き止まりだった。

 セリアは手前の扉の前で立ち止まる。

 

「ここが私の部屋です。何もない部屋ですが、どうぞ」

 

 そう言ってセリアは扉を開けた。

 セリアの部屋に入った三人は、辺りを興味深そうに見渡す。

 

「わあ、すっごく広いねー」

 

「うん、私の部屋の倍くらいあるかも」

 

「でも、棚がいっぱいあるのね」

 

「お仕事の書類は、ほとんどこの部屋で保管しているんです。その他にも色々と大事な物もあるのですが、棚にはあまり触らないでくださいね。魔法で保護していますので」

 

 広い室内に立ち並ぶ棚の間を抜け、クローゼットやベッドがある場所まで進む。

 机の上は珍しく綺麗に片付いていた。

 

「ここでセリアは寝てるんだねー」

 

「あ、漫画がいっぱいあるね。ちょっと読んでみたいかも」

 

「あら? あまり服はないのね。セリアかわいいのに、もったいないなあ」

 

 三人に自分の生活空間を好き放題に見られ、セリアは恥ずかしそうに頬を染める。

 

「あ、あの、それくらいで許してください……」

 

「わあ! ごめんねセリア!」

 

 やがてセリアが耐えきれなくなって震える声でそう言うと、三人は慌てて部屋を出た。

 

「ふう、ごめんねセリア」

 

「ごめん」

 

「ごめんなさい」

 

 部屋を出ると三人は口々にセリアに謝る。

 

「いえ、大丈夫ですよ。それでは、次はどこをご案内しましょうか?」

 

「私は外の林に行ってみたいなー」

 

「私は地下で珍しい本を見たいよ」

 

「えー。地下より外の方がいいよ」

 

「ううん、こんな機会あまりないし、本を読むべきだよ」

 

 リジーとメグの意見が分かれて言い合いになり、セリアはおろおろと慌てる。

 

「うーん、地下の魔法薬の材料も気になるし、林の植物も気になるわ……。あら? セリア、あの奥の部屋は何の部屋なの?」

 

 地下か林かで迷っていたアイビーは、奥にある扉に気がついてセリアに尋ねる。

 尋ねられたセリアは一瞬体を強張らせると、少し迷ったように答える。

 

「えっと……あの部屋は、お父さんが使っていた書斎です。お母さんはあの部屋でレイブンクローの仕事をしていたんですが、亡くなってからは私も入っていなくて……」

 

 セリアの答えを聞いてアイビーは顔色を真っ青にして、言い合っていたリジーとメグも口を閉じた。

 

「あ、あの、本当にごめんなさい。私、無神経で……」

 

 アイビーが震える声でそう言うが、セリアは静かに首を振った。

 

「……私も、そろそろ乗り越えないといけないと思っていたんです」

 

 セリアは小さな声でそう言うと三人を見渡した。

 

「ご案内しますね」

 

「セリア、いいの?」

 

 リジーに心配そうに聞かれてセリアは頷く。

 

「リジー、メグ、アイビー。力を貸してください」

 

「セリア……うん、わかったよ」

 

「任せて」

 

「わかったわ」

 

 四人は奥にある扉の前まで進む。

 セリアはゆっくりと数回深呼吸をすると、扉に手をかける。

 しかし手が震えだし、扉を開けることができない。

 セリアは扉を開けようと必死で力を込めるが、その分震えが大きくなっていく。

 セリアが悲しげに顔を歪めていると、彼女の震える手に三人の手が重ねられた。

 

「セリア、私達がいるよ」

 

 リジーがそう言って、メグとアイビーも力強く頷く。

 その言葉を聞いてセリアの手の震えが止まり、彼女は再び息をつくと、手に力を入れる。

 少し鈍い音が響いて扉が開かれた。

 その部屋にセリアはゆっくりと足を踏み入れる。

 セリアの父、ジェイドの書斎は天井がとても高く、その天井に届くほどの本棚が扉の左右の壁にあった。

 扉から見て正面には大きな窓があり、日の光が入って灯りがついていない室内を明るく照らしている。

 その窓の前には大きな机があり、書類や羽ペン、封蝋の道具などが置かれていて、まるで普段から使われているかのようだ。

 セリアに続いて部屋に入った三人は、書斎の中を物珍しそうに見渡す。

 

「本棚、すっごく大きい……」

 

「しかも、外国の本ばかりだね」

 

「全然読めないわ……」

 

 セリアは部屋の中を進んで机に歩み寄り、机を優しく撫でる。

 そして机についている小さな傷に気がつくと、その傷に触れて微笑んだ。

 その時、突然室内に声が響いた。

 

「お嬢様」

 

「きゃあ!」

 

 セリアは悲鳴を上げ、他の三人も飛び上がって驚いた。

 声の正体は、いつの間にか部屋の中央に立っていた屋敷しもべ妖精、ルンだった。

 

「ル、ルン? 突然どうしたんですか?」

 

 セリアが尋ねると、ルンは恭しくお辞儀をした。

 

「突然申し訳ありません。お嬢様にお渡しするものがございます」

 

 ルンはそう言うと指を鳴らし、どこからか小さな手帳と手紙を取り出した。

 ルンが手帳と手紙を丁寧に差し出し、セリアは動揺がおさまらないままにそれを見つめる。

 

「えっと、急ぎのお仕事ですか?」

 

 ルンはセリアの問いに首を横に振る。

 

「いえ、こちらはジェイド様から贈られたものでございます」

 

「え……」

 

 セリアは目を見開いて驚く。

 

「ジェイド様はわたくしに、お嬢様が十一才になられて書斎へいらっしゃったら、こちらをお渡しするようにご命令されました」

 

「お父さんが……」

 

 セリアが手帳と手紙を受け取ると、ルンは再び恭しくお辞儀をした。

 

「それでは、確かにお渡しいたしました。わたくしは仕事に戻ります」

 

 ルンはそう言うと、音もなく姿くらましをして去って行った。

 書斎には呆然と立ち尽くすセリアと、どうしたら良いのか分からない三人が残された。

 

──────────

 

 しばらくしてセリア達は書斎を出た。

 

「セリア、それどうするの?」

 

 メグが尋ねる。

 セリアは手に持った手帳と手紙を見下ろし、少し悩んだ後に答えた。

 

「ひとまず、部屋に置いてきます」

 

「え、いいの? セリアのパパからのお手紙なんでしょ?」

 

「すぐに読んだ方がいいんじゃない?」

 

 リジーとアイビーがそう言うが、セリアは首を横に振る。

 

「いえ、今はみなさんをご案内しないと。それに後で時間があるときに、ゆっくりと読みたいですしね。すみませんが、少し待っていてください」

 

 セリアは自分の部屋に足早に向かう。

 そしてすぐに部屋から出てきて三人に微笑んだ。

 

「それでは行きましょう」

 

 それから四人が一階に降りると、階段の下にはレイモンドが立っていた。

 

「お嬢様、少し時間がかかっていたようですが、大丈夫ですか?」

 

「はい、大丈夫ですよ。……レイモンド、お父さんの書斎に入ってきました」

 

 セリアの言葉を聞いて、レイモンドは目を見開いて驚愕の表情を浮かべた。

 

「それは、本当に……?」

 

「はい、やっと一歩踏み出せましたよ。それと、少し不思議なことがあったんです」

 

「不思議なことですか?」

 

 セリアは書斎であったことをレイモンドに話す。

 レイモンドはそれを難しい表情で聞いていた。

 

「彼がルンに……。まあ彼のやることは予測できないからな。手紙は読んだのですか?」

 

「いえ、後でゆっくり読みますよ。今からみなさんをご案内します」

 

「そうですか」

 

 レイモンドはそう言うと、三人を見て頭を下げた。

 

「お嬢様を支えてくださり、ありがとうございます」

 

 その言葉に三人は困ったような表情で答えた。

 

「私達なんにもしてませんよ」

 

「はい、何もしてません」

 

「セリアが頑張ったんです」

 

 三人の答えを聞いてレイモンドは嬉しそうに笑う。

 

「本当に、みなさんがお嬢様の友達となってくれて良かった。心からそう思いますよ。お嬢様、しっかりご案内するんですよ」

 

「はい、任せてください」

 

 レイモンドは頷くと去って行った。

 

「それではみなさん、まずは外からご案内しますね」

 

 それから四人はレイブンクローの屋敷の探索を楽しんだ。

 林ではボウトラックルがたくさん住んでいる木に向かい、人懐っこいボウトラックルばかりだったのでリジーが驚いていた。

 アイビーは周囲の植物を興奮しながら見ており、ときおり歓声を上げていた。

 メグはたくさんのボウトラックルに体によじ登られて、嬉しそうに微笑んでいた。

 しばらく林で遊んだ後、次は地下室に向かった。

 地下は二階層になっていて、上が書庫、下が倉庫という構造だ。

 ちなみに書庫の奥にはもう一つ部屋があり、そこには代々レイブンクローが研究してきた資料の全てが保管されている。

 書庫に足を踏み入れたメグは目を輝かせて周囲を見渡し、すごい勢いで駆け出して行った。

 リジーは、セリアに変身術に関する本が多い本棚へ案内してもらい、嬉しそうに動物もどき(アニメーガス)の本を手に取った。

 アイビーも複雑な魔法薬がたくさん載っている本を見つけ、瞬く間に没頭して読みはじめた。

 四人は読書を夕方になるまで続け、リジーのお腹が鳴ったことを合図にして、地下から上がった。

 夕食にはルンとおばちゃんが作った豪華な料理が用意され、そのすばらしい食事を心ゆくまで楽しんだ。

 ちなみに、夕食を持ってきたルンにセリアが書斎でのことを聞いたが。

 

「ジェイド様の書斎でございますか? ルンは今日ずっと、お屋敷のお仕事をなさっていました! 特に今夜のシチューは、とてもお上手でございます!」

 

 どうやらルンは覚えていない様子だった。

 夕食を終えると、おばちゃん特製のケーキがデザートとして振る舞われ、アイビーはそのケーキを食べ感激していた。

 ちなみに甘い物好きなメグは、二つもケーキを食べた。

 食後は先ほど行けなかった倉庫に向かい、保管されている珍しい物を見学した。

 

「セリアー、この壺に入っている水は何?」

 

「それは命の水という物です。賢者の石から精製される水で、それを飲み続けると不老不死でいられるんです。大昔にご先祖様が、研究のために少し分けていただいたそうです」

 

「この燃えている木は?」

 

「グブレイシアンの火の枝という物です。ご先祖様が開発した永遠の火の呪文という魔法があって、試しに使ったときの火が今も燃え続けているんですよ」

 

「この小さな金属の容器に入っているのは何かしら?」

 

「それに入っているのは、バジリスクという魔法生物の毒です。とても強力で普通の容器だと耐えきれないので、その容器は小鬼(ゴブリン)族に依頼して作ってもらったそうです。小鬼製の鋼には、鋼を強化する物質を吸収するという特性があるんですよ」

 

 リジー達は紹介される品々のすさまじさに驚きっぱなしだ。

 そんな刺激的な倉庫見学を終え、四人はそれぞれシャワーを浴び、就寝前のお茶会を始める。

 

「えっと、みなさん、どうでしたか? 楽しんでいただけましたか?」

 

 紅茶を一口飲んだセリアは、少し不安げにそう言う。

 それに対し三人は満面の笑みで答えた。

 

「うん! すっごい楽しかったよ! それに珍しい物もいっぱい見れたし!」

 

「そうだね。あんなにいろんな本が読めるなんて、すごく良かった。また読ませてね」

 

「本当に楽しかったわ。貴重な魔法薬の材料ももらえたし、最っ高よ!」

 

 三人の答えにセリアは安心したように微笑んだ。

 

「不安でしたけれど、喜んでもらえて嬉しいです!」

 

「明日はダイアゴン横丁でお買い物だねー」

 

「まあ、新しい教科書もあまり多くないから、そんなに忙しくはないけどね」

 

「私はローブが小さくなっていたから、新しく作り直さないと」

 

「あ、私もー」

 

「私、去年のローブぴったりです……」

 

「私もだよ、セリア……」

 

「だ、大丈夫よ二人とも! まだ成長期が来てないだけだから!」

 

「アイビーはどんどん成長してるよね……身長も、それ以外も……」

 

「ちょっと、どこ見てるのよ! それにリジーの方が成長してるでしょ! 色々と!」

 

「リジー、羨ましいです……」

 

「セリアはちっちゃくてかわいいから、そのままでいいんだよー!」

 

「私ももっと大きくなりたいです!」

 

 四人のお茶会は長く続き、四人が同時にあくびをしたことを合図にベッドへと向かった。

 

「それではみなさん、おやすみなさい」

 

「うん。みんな、おやすみー……」

 

「おやすみ……」

 

「おやすみなさい……」

 

 セリアは三人が客室へ入ったことを見届けると、自分の部屋へ入って奥へ進み、椅子へ座って父からの手紙を手に取った。

 

「お父さん、読ませてもらいますね」

 

 それからセリアは手紙を読みはじめ、セリアの部屋の灯りが消えたのは真夜中を過ぎてからだった。

 

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