ハリー・ポッターと翡翠の魔法使い   作:ごま丸

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投稿が遅れてしまいすみません。


第40話 トロール・二

 大広間を飛び出したセリアとメグは、地下の一番近い女子トイレを目指し走っていた。

 メグが走っている姿はかなり貴重だが、意外にもセリアに遅れることなく廊下を駆けている。

 

「とりあえず、リジーにこのことを伝えたら、寮に戻りましょう」

 

「ハーマイオニーは、どうしようか?」

 

「ハーマイオニーが、どこのトイレにいるのか、わかりませんが、地下にいるトロールと、遭遇する確率は、低いと思います」

 

「そう、だね。二人とも、トロールに会ってないと、いいんだけど」

 

 二人は息を切らして話しながら階段を下る。

 そのとき、かすかに甲高い悲鳴が聞こえ、さらに何かが壊れるような大きな音が響いてきた。

 

「セリア!」

 

「はい!」

 

 二人は目配せして頷き合うと、さらに走る速度を上げる。

 そしてようやく女子トイレが見えてきた。

 女子トイレの扉は開け放たれており、そこから土煙のような埃が舞い出ていた。

 セリアとメグは走ってきた勢いのままに女子トイレに飛び込む。

 その二人の目に映ったのは、立ち尽くしているロンとハーマイオニー、座り込んでいるハリー、そしてまさに今、トロールの棍棒を叩きつけられそうになっているリジーの姿だった。

 それを見た瞬間二人は素早く杖を抜き、同時に叫ぶ。

 

「インカーセラス! 縛れ!」

 

 呪文を唱えると二人の杖から魔法の縄が飛び出した。

 メグの縄は杖に繋がったままトロールの首に絡みつき、杖で縄を引っ張り首を絞める。

 セリアの縄は杖から何本も飛び出し、トロールの手足や体など様々な場所に絡みつき、トイレ内にある柱やパイプに繋がってトロールを縛りつけた。

 棍棒を振り下ろす体勢のまま縛られたトロールは、体を縛る縄を引きちぎろうとする。

 しかしメグに首を絞められ、苦しそうに動きを止めて棍棒から手を離した。

 棍棒は床に落ちて大きな音を立てながら転がる。

 動きを止めたトロールに、二人をはほっと息をついた。

 リジーは腰が抜けたのか、その場にへたり込んでしまい、荒い呼吸を落ち着けるように胸に手を当てていた。

 

「リジー!」

 

「っ、セ、セリア……」

 

 セリアがリジーの元に駆け寄ると、リジーはセリアを見上げ強張った笑みを浮かべた。

 

「あ、あはは……腰抜けちゃったよ……」

 

「リジー、無事ですか!? 怪我はしていませんか!?」

 

「うん、なんとかねー……二人のお陰だよ」

 

 それを聞いてセリアは安心したように微笑えむが、リジーの体の所々にすり傷があることに気づき、悲しげに顔を歪めた。

 メグはリジーの無事に一瞬頬を緩めた後、すぐに顔を引き締めトロールの警戒を続ける。

 セリアはトイレ内にちらりと視線を送り、ハリーやロン、ハーマイオニーを見て少し目を細めた。

 

「リジー、何があったのですか?」

 

「う、うん。えっとね……」

 

 リジーはセリアに、ここで起こったことを簡単に説明する。

 ハリーとロンが助けに来たと聞いてセリアが二人に目を向けると、二人は少し気まずそうに目を逸らした。

 

「……それで、ハリーがトロールの鼻に杖を刺してね。トロールが暴れて危ないってなったとき、ロンが浮遊呪文で棍棒を浮かばせて、トロールの頭に落として倒したんだよ」

 

「鼻に杖を……。それに、棍棒を頭にですか」

 

 鼻に杖を刺したと聞いて、セリアは想像して顔を少し青くする。

 ぶんぶんと首を振ってその想像を消し、セリアはハリーとロンの方を向いた。

 二人は今は並んで立っている。

 

「お二人とも、助けてくれてありがとうございました。ハーマイオニーも、無事で良かったです」

 

「ええ、ありがとう」

 

「い、いや……」

 

「結局、トロールは倒せなかったし……」

 

 セリアがお礼を言うと、ハーマイオニーは素直に頷いたが、ハリーとロンはまだ気まずそうに口ごもっている。

 そのとき、メグが鋭く叫んだ。

 

「セリア!」

 

 その声にセリアが振り向くと、トロールが縄を振りほどこうともがいていた。

 メグの縄がトロールの首に食い込んでいるが、苦しげに顔を歪めながらトロールは強引に体を動かしている。

 このままだとそう時間もかからない内に、トロールは拘束を解いてしまうだろう。

 ハリー達やリジーが慌て出すが、セリアは顔色を変えずにトロールの前まで進む。

 トロールは目の前に来たいかにも非力そうな少女を睨みつけ、怒りに満ちた咆哮を上げる。

 

「セ、セリア、危ないよ!」

 

「大丈夫ですよ、リジー。……ウィーズリーさん、まだ攻撃できる魔法をあまり習っていない中、トロールの武器を利用して倒すという臨機応変な考えは、とてもすごいと思います」

 

 セリアに急に褒められたロンは、困惑するように目をぱちぱちと瞬かせた。

 ちなみに思いついた呪文をとっさに使っただけで、ロンは特に何も考えてはいなかった。

 

「しかし、少し足りませんね」

 

 セリアはそう言うと、杖を床に転がっているトロールの棍棒に向け、杖を振る。

 その動きは、先程ロンが使った呪文と全く同じ動きだ。

 トロールの棍棒は床から浮かび上がり、空中で回転を始めた。

 回転は初めはゆっくりで、やがてどんどん速くなっていく。

 杖を棍棒に向けて回転させながらセリアが言う。

 

「室内だと天井が高くなく、ただ落としただけではそれほど威力を出すことができません。ならば、棍棒を落とすのではなく、叩けつける方がいいでしょう」

 

 全員が呆然と回転する棍棒を見つめる中、セリアはトロールに話しかける。

 

「トロールさん、あなたに恨みはありません。けれど……」

 

 セリアは一度言葉を止める。

 トロールは目の前で回転する自分の棍棒を見て、本能的に危険を感じたのか、逃れようといっそう激しくもがく。

 それをメグが杖で縄を引き、動きを止める。

 そしてセリアは、トロールを射抜かんばかりの鋭い目つきで睨む。

 

「私の友を傷つけたことは、許しません」

 

 セリアはその言葉と共に大きく杖を振る。

 その動きに呼応して棍棒が大きく振りかぶり、回転する勢いのままトロールの頭を打ち抜いた。

 鈍い音がなり響き、トロールは白目を向いて気絶した。

 トロールが動かなくなったことを確認して、セリアとメグは魔法を解除して縄を消した。

 メグはセリアを見て小さく笑うと、親指をぐっと上げた。

 

「セリア、お見事」

 

「はい。お疲れ様です、メグ」

 

 セリアも親指をぐっと上げてそれに答え、微笑みを浮かべる。

 リジーは急いで立ち上がり、二人の元に駆け寄る。

 

「私も混ぜてー!」

 

「リジー、無事で良かったよ」

 

「メグ、助けてくれてありがとう! それにセリア、さっきのすっごいかっこよかったよ!」

 

「えへへ、ありがとうございます」

 

 三人がほんわかと話している様子を、ハリー達は未だに呆然としながら見つめる。

 そのとき、廊下から誰かが走ってくる音が聞こえてきて、全員が女子トイレの入り口を見る。

 セリアとメグが杖に手を添えて警戒していると、厳しい表情のマクゴナガルが飛び込んできた。

 その後に続いてスネイプとクィレルもやってくる。

 クィレルはトロールを見た瞬間、怯えた声を上げて座り込んでしまった。

 そしてスネイプが油断なく杖を構えながらトロールを調べ、マクゴナガルは厳しい表情のままセリア達を見渡した。

 

「いったい全体、あなた達はどういうつもりなのですか? 殺されなかったのは幸運でした。しかし、寮にいるはずのあなた達が、なぜここにいるのですか?」

 

 冷静だが怒気をまとわせながらマクゴナガルが言い、一年生の三人は身をすくめる。

 スネイプはトロールを調べた後、ハリーとセリアに素早く鋭い視線を向けていた。

 セリアがどう説明しようかと思案していると、小さな声がした。

 

「先生、私が悪いんです!」

 

「ミス・グレンジャー? それはどういう意味ですか?」

 

「わ、私、トロールを倒そうと思ったんです。トロールについては、本で読んで色々知っていて。だけどだめで……。たまたまトイレに来たリジーが助けてくれたんです」

 

 ハーマイオニーはマクゴナガルの視線に怯えながらも、一生懸命に口を動かしている。

 セリアは真面目なハーマイオニーが嘘をついていることに驚きながらも、口を挟まずに黙っていることにした。

 

「リジーはボタンをネズミに変身させて、トロールの気を引いてくれました。けれど私、気が動転して、悲鳴を上げてしまったんです。それでトロールが私達に気がついて、危なくなった所で、ハリーとロンが来てくれたんです」

 

 ハリーとロンにマクゴナガルがじろりと目を向けると、二人はびくりと飛び跳ねた。

 

「ハリーはトロールの鼻に杖を刺して、ロンはトロールの棍棒を浮かせてトロールの頭に落として、トロールを気絶されてくれました。でも、トロールが目を覚ましてしまって、リジーが襲われそうになりました。そこに、セリアとメグが駆けつけてくれました」

 

 次にマクゴナガルは、セリアとメグにじろりと目を向けた。

 セリアとメグはその視線に、ハーマイオニーの話が事実であると頷くことで答えた。

 

「二人は魔法で縄を出して、トロールを縛りつけました。そしてセリアがもう一度トロールの棍棒を浮かせて、今度は空中で回転させて勢いをつけてから、トロールを攻撃しました。それでトロールが倒れたんです。みんな、誰かを呼ぶ時間がなかったんです……。みんなが来てくれなかったら、私は死んでいました」

 

 最後まで聞いたマクゴナガルは、眉間に皺を寄せながら目を閉じ、しばらく考えこむ。

 そして一度ため息を吐いて口を開いた。

 

「なんという愚かなことを……。ミス・グレンジャー、トロールを一人でどうにかできるなど、なぜそのようなことを考えたのですか?」

 

 マクゴナガルに問われて、ハーマイオニーは何も言わずにうなだれる。

 

「ミス・グレンジャー、あなたには失望しました。グリフィンドールは五点減点です。怪我がないのなら、寮へ戻りなさい。生徒達が中断になったパーティーの続きを、寮で行なっていますので」

 

「はい……」

 

 ハーマイオニーは女子トイレから出て行った。

 マクゴナガルは次にハリーとロンの方に向き直る。

 

「先程も言いましたが、あなた達は運が良かった。しかし一年生でトロールと対決できる生徒は、そうはいません。一人五点ずつあげましょう。この件は、校長先生にもご報告しておきます。帰ってよろしい」

 

 マクゴナガルにそう言われ、ハリーとロンは頷いて女子トイレを出て行った。

 次にマクゴナガルはセリア達の方を向いた。

 

「実は私が地下でトロールの捜索をしていたら、ミス・ベケットが私にミス・スキャマンダーとミス・グレンジャーの二人が、トロールのことを知らないと教えてくれました」

 

「アイビーが……」

 

 それを聞いてリジーは驚いたように呟く。

 二人がトロールのことを知らないと聞いていたということは、先程のハーマイオニーの言葉は嘘だと気がついているはずだ。

 しかしマクゴナガルは頷くと、ほんの少し微笑んだ。

 

「運が良かったのは事実ですが、トロールによく対処しました。軽率な行動ではありますが、見事でした。なので一人五点、差し上げましょう。もちろん、ミス・ベケットを含めてです」

 

 思わぬ展開に三人は驚き、しかし嬉しそうに顔をほころばせる。

 

「ミス・スキャマンダー、あなたは怪我をしているようなので、一度医務室に行くといいでしょう。私が付き添いますので、ミス・レイブンクローとミス・バークは寮に帰りなさい」

 

「わかりました」

 

「失礼します」

 

 セリアとメグは素直に頷いたが、リジーは早く戻りたかったのか、少し嫌そうな顔をした。

 

「……それほど時間はかかりません」

 

「はーい……」

 

 マクゴナガルが呆れたようにそう付け足すと、リジーは渋々といった様子で頷いた。

 

「それではリジー、先に戻っていますね」

 

「待ってるから、早く戻ってきてね」

 

「うん!」

 

 セリアとメグはリジーに手を振って言うと、女子トイレを出て寮に向かう。

 寮に向かう道すがら、二人はどちらともなく疲れたように息を吐いた。

 

「本当に、間に合って良かったよ……」

 

「そうですね……。あともう少しでも遅れていたらと思うと、ぞっとします」

 

 落ち着いているように見えていたが、実は二人はかなりいっぱいいっぱいだったのだ。

 二人は重い体を引きずるように歩き、それほど離れていない寮に到着した。

 樽の山を「ハッフルパフ・リズム」で開くと、すぐそばでアイビーが待っていた。

 落ち着かない様子で立っていたアイビーは、二人の姿が見えた瞬間に駆け寄ってきた。

 

「二人とも、無事だったのね! 良かった……。あれ? リジーは一緒じゃないの? まさか……!」

 

 矢継ぎ早に言うアイビーを、メグが背伸びして彼女の頭を撫でて宥める。

 

「アイビー、落ち着いて。リジーは大丈夫だから。すぐに戻ってくるよ」

 

「本当?」

 

「はい。すり傷が何ヵ所かあったので、今は医務室に。マクゴナガル先生が付き添ってくださってますので、安全です」

 

「そうなの……良かったあ……」

 

 二人の言葉を聞いて、アイビーは安堵のため息を吐きながらその場にしゃがみ込んだ。

 待っている間ずっと気が気でなかったのだろう、体に力が入らない様子だった。

 セリアとメグはそんなアイビーの頭を撫でて慰めていたが、やがてアイビーは勢いよく立ち上がった。

 

「わっ」

 

「きゃあ!」

 

「落ち込んでる場合じゃないわね! リジーはすぐ戻ってくるんでしょう? だったら、料理を取っておいてあげないと! 談話室に料理が運ばれてきて、パーティーを再開してるのよ!」

 

 そう言うとアイビーは足早に談話室に駆けていき、セリアとメグは驚いて少し固まっていたが、顔を合わせて微笑み合う。

 

「それでは行きましょうか」

 

「だね」

 

 談話室の中は大勢の生徒達で賑わっていた。

 そしていくつか並んだ長机にはご馳走が並んでおり、生徒達が思いおもいにそのご馳走を楽しんでいた。

 セリアとメグが空いている場所を見つけて座ると、両手にご馳走の乗った大皿を持ったアイビーがやって来た。

 そしてその後ろに二人、同じように大皿を持った男子生徒がいた。

 

「二人とも、料理を持ってきたわよ!」

 

「ありがとうございます、アイビー。けれど、なぜセドリックさんとスコットさんも?」

 

 大皿を机に置くセドリックとスコットに、セリアが不思議そうに尋ねる。

 それにセドリックとスコットは笑いながら答えた。

 

「セリア達が談話室にいないことにセドが気がついてな。アイビーに聞いたら、トロールのことを知らないリジーを助けに行ったって言うじゃないか」

 

「僕らも行こうと思ったんだけど、アイビーが先生に言ったから、きっとすぐに戻ってくるからって、僕らを止めたんだよ」

 

「そうだったんですね……心配をおかけしてすみません」

 

 セリアは頭を下げて謝る。

 セドリックは慌てて手を振ってそれを止めた。

 

「いや、謝らないでいいよ! 二人は正しいことをしたんだから」

 

「おう。けど、あんまり心配かけんなよ? 無事だったから良かったけどさ」

 

「はい」

 

「二人とも心配してたから、無事だったって伝えたのよ。それでリジーの分の料理を取るって言ったら、二人とも手伝ってくれたの」

 

 アイビーがそう言って机の上の大皿を指さす。

 四つある大皿にはご馳走が山盛りだ。

 

「こんなに食べ切れるでしょうか?」

 

「大丈夫! リジーならぺろりと平らげるわよ。ね、メグ?」

 

「え? あ、う、うん」

 

 突然アイビーにそう言われたメグは、口ごもりながら答える。

 メグはセドリックがやって来てから、顔を赤らめて恥ずかしそうにずっと俯いていたのだ。

 

「よくトロールと戦えたね? 僕には無理かもなあ」

 

「い、いえ、セリアもいたので……」

 

「だなあ。トロールってどんなのだった?」

 

「すごく大きくて、なんだか変な匂いがしましたよ」

 

「へえ、どんな匂い?」

 

「なんというか……魔法薬学で使った雑巾を、干さずにずっと放置していたような……」

 

「うわ、めっちゃ臭そうじゃん!」

 

「最悪じゃない! 鼻がおかしくなりそう!」

 

「そんな匂い嗅ぎたくないなあ……。メグ、鼻は大丈夫?」

 

「は、はい、なんとか……」

 

「体に匂いとか付いてないよな?」

 

「そんなのついてません。放っといてください」

 

「やっぱりメグ俺に冷たくない!?」

 

「いや、普通に最悪よ、スコット」

 

「僕も今のはひどいと思うよ?」

 

「えっと、良くないと思います」

 

「ごめんなさい!」

 

 セリア達が話していると、リジーが寮に戻ってきた。

 リジーは談話室内を見渡してセリア達を見つけると、ぱっと笑顔を浮かべて走ってきた。

 

「ただいまー!」

 

「お帰りなさい、リジー!」

 

 セリアが自分の隣にリジーを誘い、彼女も迷わずそこに座る。

 

「リジー、本当に無事で良かったわ! リジーの分のお料理取っておいたわよ」

 

「うん、心配かけてごめんね、アイビー。それに、お料理ありがとう! もうお腹が空いて大変だよー」

 

 それから会話を楽しみつつ、セリア達はパーティーを楽しんだ。

 話題は主に先程のトロール騒ぎについてで、セリア達の活躍をアイビーだけでなく、ハッフルパフ生全員が聞きたがった。

 セリアとメグは注目されて少し恥ずかしそうにしながらも、生徒達に聞かれるままに話した。

 特にセリアが棍棒でトロールを倒した部分では、生徒達は「おー!」と声を上げて拍手喝采だった。

 そして最後に全員に五点が送られたと聞いて、生徒達は爆発したかのような大歓声を上げて、セリア達を担ぎ上げかねない勢いになった。

 ちなみにリジーは話しながらも食べる手を止めず、なんと山盛りになっていたご馳走大皿二皿分を一人で平らげていた。

 こうしてパーティーは盛り上がり、日付が変わるまで続いたのだった。

 そして長かったパーティーが終わり、四人は寝室に戻ってきていた。

 

「ふあー、お腹いっぱいだよー」

 

 ごろりとベッドに転がりながら、リジーは幸せそうに呟いた。

 

「私が取っておいてなんだけど、よくあれだけ食べられたわね……」

 

「おいしかったから、仕方ないよ!」

 

 力強く言うリジーに三人は思わず笑い声を上げる。

 メグは少し考えるような顔をして、セリアに尋ねた。

 

「ねえ、セリア。セリアって無言呪文が使えるの? それにさっきのインカーセラス、すごかったね?」

 

 尋ねられたセリアは少し驚いたように目を開いたが、すぐに小さく笑いながら答えた。

 

「一応レイモンドに教えられて、最低限身を守れるように鍛えていたんです。もし襲われても、あんな風に相手を縛っておけば、レイモンドかルンを呼ぶことができますので」 

 

 セリアの答えにメグとリジーが感心したように声を上げた。

 

「それと無言呪文ですが、まだまだ修行中です。今はまだ使い慣れている浮遊呪文と、近い位置の物を呼び寄せ呪文で引き寄せられるくらいで……」

 

「十分過ぎるよ。すごいなあ……」

 

「セリア、すごいのねえ。でも、メグもできるわよ、きっと」

 

「うん。帰ったら、お父さんに頼んで修行しようかな」

 

「セリアはやっぱり、すっごいんだねー」

 

 口々に褒められ、セリアは顔を真っ赤にして照れる。

 そして話を逸らすようにリジーに話しかける。

 

「リ、リジー、もう怪我は大丈夫ですか?」

 

「あ、うん。マダム・ポンフリーがあっという間に治してくれたよー」

 

 そう答えるリジーだが、何故か口元が緩んでいて嬉しそうだ。

 

「リジー、何かあったの?」

 

 アイビーが首を傾げながらそう聞くと、リジーは「ふっふっふ」と笑った。

 

「えっとね、医務室に送ってくれてるときに、マクゴナガル先生に色々聞かれたんだー。トロールの気を逸らすために、ボタンを変身させたって言ったでしょ?」

 

 そしてそれを聞いたマクゴナガルは、感心してリジーをかなり褒めてくれたらしい。

 

「それでね、次からもっと段階を上げて教えてくれるんだって! いよいよ、体を変身させるんだよ! 楽しみだなー」

 

 輝くような笑顔で話すリジーに、セリア達もつられて笑顔になる。

 

「すごいです、リジー!」

 

「本当ね!」

 

「体を変身させるのは、本来もっと先に習うことだよ。難しいと思うけど、頑張ってね」

 

「頑張るよー!」

 

 お喋りしていた四人だが、色々と騒動があったため疲れていた。

 そのため電気を消すとすぐに全員眠りについた。

 

──────────

 

 四人が就寝して数時間後、真っ暗な寝室でセリアはベットから身を起こした。

 そして水差しからカップに水を入れると、三人を起こさないように静かに寝室を出た。

 セリアは通路を進み談話室に向かう。

 談話室は暖炉の火が完全に消えてきたが、地面と同じ高さの窓から星あかりがさしており、ぼんやり薄暗かった。

 セリアはふかふかした肘掛け椅子に座ると、何もない場所に声をかけた。

 

「ルン」

 

「お嬢様、お呼びでしょうか!」

 

 呼びかけるとすぐに目の前に音もなくルンが現れた。

 

「ルン、こんな時間にすみません。それと、もう少し声を抑えてください」

 

「申し訳ありませんっ、お嬢様っ」

 

 慌てたようにルンがひそひそと言うと、セリアは微笑んで頷いた。

 そしてすぐに真剣な表情になる。

 

「ルン、伝言があります。なるべく早く伝えたいので、ふくろうだと少し遅くて」

 

「ルンは大丈夫ですっ」

 

 セリアはゆっくりと話しだす。

 

「レイモンドに、今年ホグワーツに預けられた物が何なのか、探るように伝えてください」

 

「かしこまりましたっ。レイモンド様にお伝えしますっ」

 

「ありがとうございます。ルン、起こしてしまってすみません。でも帰ったら、ちゃんと寝てくださいね。伝えるのは明日でもいいですので」

 

 セリアがお礼を言いながらルンの頭を撫でると、ルンは嬉しそうに満面の笑みを浮かべる。

 

「ルンにお任せください! おやすみなさいませ!」

 

「だ、だから、声を抑えて……」

 

 しかしセリアが言い終わる前に、ルンは音もなく姿を消した。

 

「だ、誰も起きていませんよね? 良かった……」

 

 セリアはそう呟くと、肘掛け椅子に深く座り直して窓から外を眺めた。

 窓の外では地面に生えた柔らかそうな草が、夜風でさらさらと揺れている。

 

「こういうときのために、早く守護霊の呪文を使えるようにならないとなあ……」

 

 セリアはカップに入れた水をゆっくりと一口飲む。

 

(ホグワーツにトロールが紛れこむなんて、考えられない。しかも千年以上そんなことなかったのに、今回たまたまなんてこともあり得ない)

 

 セリアは口元に手を当ててさらに考え込む。

 

(だとしたら、なんであり得ないことが起こったのか。普段のホグワーツと違うことと言えば、城に持ち込まれたという「何か」)

 

 再び一口水を飲み、カップの中の水は半分を切った。

 

(今回のトロールは、「何か」を狙った者の仕業? だとしたら、その犯人は城の中にいるはず。外から城に手を出すなんて、できないだろうし。その犯人が誰なのか……)

 

 セリアは一気にカップをあおり、水を全て飲み干す。

 

「とりあえず、「何か」の正体を知る必要がありますね」

 

 そう呟くと、セリアは小さく欠伸を浮かべる。

 しばらく外を眺めていたが、やがて眠気がどんどん強くなってきたため、彼女は寝室に戻り再び眠りについた。

 ちなみに屋敷に戻ったルンは、そのままの勢いで就寝していたレイモンドに突撃してセリアの言葉を伝えた。

 怒ったレイモンドにぐるぐる巻きにされて放り投げられたが、ルンはセリアからの命令を遂行できて、誇らしそうににこにこ笑っていた。

 

 




初めて戦闘っぽい描写を書いた気がしますが、読みにくかったかもしれません。
次は早く投稿できるよう頑張ります。
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