ハリー・ポッターと翡翠の魔法使い   作:ごま丸

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先日初めて感想を頂きました。
嬉しかったです。


第9話 九月一日・ホグワーツ特急

 ホグワーツ特急は街を抜け、現在はのどかな田舎を走っている。

 窓を閉めたコンパートメント内でセリアとリジーは隣り合って座っていた。

 

「私はずっとお仕事でした。こんなに忙しいのは初めてでした……」

 

「そっかー、大変だったんだね。私は兄ちゃんのお手伝いしたり教科書読んだりしてたよ」

 

「お兄さんのお手伝いですか。そういえばロルフさんは、どのようなお仕事をされているのですか?」

 

「魔法生物の研究だよ。兄ちゃんは新種を見つけるのが一番の目的みたいだけどね。ちなみに、パパとママも研究してるんだー」

 

「なるほど、やはりご家族は魔法生物関係のお仕事をされているんですね。それに新種の発見ですか。すごいです」

 

「そう簡単に見つからないけどねー。あ、そうだ。セリアは予習した? 私は教科書は読んだけど、呪文はまだ使ってないんだよね。兄ちゃんに止められちゃって」

 

「お仕事が忙しくてあまり……けれど、レイブンクローの名に恥じないよう、頑張りたいです。リジーはどの教科が気になっていますか?」

 

「私は変身術かなー。私の杖って、変身術に適している、らしいし。それに、ちょっと目標もあるしね」

 

「目標ですか?」

 

「えへへ、内緒。それよりセリアはどの教科が気になってるの?」

 

「そうですね、私は……」

 

 そのとき、こんこんとコンパートメントのドアを叩く音が響いた。

 二人は顔を見合わせ、セリアが「どうぞ」と応じる。

 するとドアが開かれ、そこには三人の少女が立っていた。

 

「あの、ここ空いているかしら? 他のコンパートメントが全部埋まっちゃってて」

 

 真ん中に立っていた黒髪の可愛らしい少女が尋ねる。

 どうやら特急の中を歩き回ったらしく、三人とも疲れた表情をしていた。

 

「セリア、大丈夫?」

 

「ええ、構いませんよ。どうぞ入ってください」

 

「本当に? ありがとう! ほら、二人共入って」

 

 三人の少女達は口々にお礼を言いながら、コンパートメントへ入ってきた。

 セリアとリジーも協力して三人分のトランクを荷物棚へしまうと、三人はセリアとリジーの対面の座席に座った。

 ようやく座ることができたためか、三人ともほっとした顔をしている。

 

「あらためて、本当にありがとう。もうくたくたで……」

 

 真ん中に座った先ほどの少女が言うと、他の二人もうんうんと頷いた。

 かしこまっている三人を見て、リジーは気にしなくてもいいと手を振る。

 

「困ったらお互い様だよ。三人は多分新入生だよね? 私達もなんだー。お名前聞かせて?」

 

 リジーがそう聞くと、先ほどの少女がまず口を開いた。

 

「ええ、私はチョウ・チャンよ。よろしくね」

 

 次に他の二人、ブロンドの巻き毛の少女とチョウと同じく黒髪の、こちらは少し気が強そうな少女がそれぞれ名乗る。

 

「私はマリエッタ・エッジコムよ。よろしく」

 

「私はケイティ・ベルよ。よろしくね!」

 

 三人が名乗り終えると、次にリジーが口を開いた。

 

「うん、三人ともよろしくね! 私はリジー・スキャマンダーっていうんだー。なんと、あのニュート・スキャマンダーの孫なのだ!」

 

 胸を張りながらのリジーの自己紹介を聞いた三人は驚いたように声をあげる。

 

「それって本当?」

 

「すごーい!」

 

 驚く三人の様子に得意げだったリジーは、ふとセリアがずっと喋っていないことに気づいた。

 トランクを棚に片付けた後、セリアは持ち前の人見知りを発動させ、座席の端っこに座り体を縮こませていたのだ。

 

「ほら、セリア! ちゃんと自己紹介しないと!」

 

「わ、わ、引っ張らないでください」

 

 リジーに引っ張られたセリアは、対面の三人に見つめられ緊張で体を強張らせる。

 しばらくおろおろと慌てていたが、リジーが大丈夫だと言うように頷くとふう、と息を整え背筋を伸ばし姿勢を正した。

 セリアの雰囲気が変わり、コンパートメント内の空気が引き締まる。

 そしてセリアが口を開く。

 

「初めまして、チャンさん、エッジコムさん、ベルさん。私は、セリア・レイブンクローと申します。同じコンパートメントになったのも何かのご縁です。これからどうぞ、よろしくお願いします」

 

 セリアは座ったままで胸に手をやり、優雅に会釈をしてにこりと微笑んだ。

 その雰囲気にのまれた三人は、声を出すこともできずぼうっと顔を赤らめてただセリアを見つめる。

 そのままコンパートメントは沈黙につつまれた。

 

「セリア、硬い」

 

「ひゃあっ!」

 

 このままでは埒があかないと思ったのか、リジーがセリアの脇腹を指で突いた。

 突かれたセリアは不意打ちに驚いて声をあげたが、そのおかげでコンパートメント内の空気がゆるんだ。

 三人の顔色も元に戻り、ゆっくりと深呼吸をした。

 

「も、もう! 何をするんですか!」

 

「だってさー、硬いんだもん」

 

 怒るセリアだがリジーは全く悪びれる様子はなく、そんな二人をチョウ達はくすくすと笑いながら眺めていた。

 セリアはまだ頬を膨らませていたが、おかげで緊張が解けたのか、先ほどのように縮こまることはもうなかった。

 

「三人はお友達なの?」

 

「ええ、マリエッタもケイティも親が魔法省で働いてて。昔から三人で遊んでいたのよ」

 

「魔法省ですか。もしかして、エッジコムさんのお母様は煙突飛行規制委員会にお勤めを?」

 

「え? ええ、そうだけど。どうして?」

 

「はい。お仕事でお会いしたことがあるんです。お母様はお元気ですか?」

 

「ええ、とっても元気よ。成績が悪かったら呪いを送るって言ってるくらいにね」

 

「セリア、呪いを送るとかできるの?」

 

「はい、できますよ。封筒や手紙に魔法を閉じ込め、開けたり触ると発動するようにするんです。ただ、結構難しいですよ」

 

「へー、全然知らなかったや」

 

「ねえ、セリアとリジーって、クィディッチは好きなの?」

 

「私、クィディッチはあまり知らないんです」

 

「私もあんまり知らないなー。三人はどうなの?」

 

「そうなの……。私とチョウはクィディッチが大好きなのよ! ね、チョウ」

 

「ええ! 特に私はトルネードーズってチームが大好きで。ただ、マリエッタはクィディッチにあんまり興味ないみたいね」

 

「クィディッチになると二人は面倒くさくなるのよね……」

 

 チョウとケイティをマリエッタはうんざりした顔で見る。

 そんなマリエッタを尻目に、チョウとケイティは大盛り上がりだ。

 

「ホグワーツの寮にもクィディッチチームがあるし、絶対に入りたいわ!」

 

「ただ、一年生は自分の箒を持つことはできないらしいの。残念だわ」

 

 それからしばらくクィディッチの話を続けていると、こんこん、とまたしてもコンパートメントの扉が叩かれた。

 扉が開かれると、そこには色とりどりのお菓子などが大量に積まれたカートを押す魔女が立っていた。

 

「車内販売ですよ、いかがですか?」

 

 お菓子を前にした少女達は、それぞれお金を手に通路に飛び出しカートへと群がる。

 

「あれ? セリアは買わないの?」

 

「いえ、私は最後に買いますよ」

 

 リジー達が大量のお菓子を抱えて席に戻ると、セリアもお金を手に通路へと出た。

 セリアはカートの商品をしげしげと眺める。

 

「それでは……大鍋ケーキと百味ビーンズ、かぼちゃジュースをお願いします」

 

「はいはい、どうぞ」

 

「ありがとうございます。代金です」

 

「はい、確かに。……お嬢様、行ってらっしゃい。楽しんでくださいね」

 

「ええ、行って来ます。おばちゃん」

 

 魔女はセリアにウインクをすると、カートを押して去っていった。

 セリアが戻るとそれぞれが購入したお菓子を開けて広げており、コンパートメントの中はちょっとしたパーティー会場のようになっていた。

 

「おかえりー、セリア。何買ったの?」

 

「大鍋ケーキと百味ビーンズ、あとは飲み物ですよ」

 

「うげ、百味ビーンズかー……。この間のアイスでちょっとトラウマだよ」

 

「実はレイモンドは、百味ビーンズが好きなんですよ」

 

「あら、百味ビーンズが好きな人がいるなんてびっくりね。マリエッタなんて、小さい頃百味ビーンズのはずれに当たって気絶したこともあるのよ」

 

「余計な事言わないで、チョウ! ケイティだって昔、百味ビーンズを食べて吐いたことあるわよ!」

 

「ちよっと、内緒にしてって言ったじゃない!」

 

 お菓子と言う起爆剤を投与された少女達の話題は尽きず、気がつけば随分と日が傾いてきた。

 

「もうすぐ着くかな?」

 

「なんだか特急の速度もちょっと遅くなってきた気がするわ」

 

 チョウの言葉が終わると同時に、車内放送が流れてきた。

 

『あと五分程で到着します。荷物などは後ほど学校に送りますので、そのまま降車してください』

 

「あら、もう着くのね」

 

「結構早かったわね」

 

「みなさん、学校に着く前にローブに着替えないといけませんよ」

 

「あ、忘れてた。……ってセリアいつの間に着替えてたの!?」

 

 どたばたと少女達が着替えたり片付けたりしている間にも、特急はどんどん速度を落としていく。

 

「これで最後……あっ!」

 

 いよいよ特急が停止する直前、チョウがトランクを閉めようとした際にローブのポケットに入れていたお菓子が滑り落ち、中身が床に散乱してしまった。

 

「ご、ごめんなさい! 私片付けるから、みんなは先に降りてて!」

 

 もう特急は停まって他の生徒達は降車を始めており、今から片付けていたら確実に遅れてしまうだろう。

 泣きそうになるチョウを前に、リジーとマリエッタ、ケイティはどうしていいかわからず足踏みする。

 しかしセリアはチョウに歩み寄り、肩を抱いて立たせた。

 

「大丈夫ですよ、チョウ。任せてください」

 

「セリア……?」

 

「リジー、お菓子の袋を広げて持っていてくれませんか?」

 

「え? う、うん」

 

 リジーは落ちていた袋を拾い広げた。

 四人が見つめる中セリアは杖を抜き集中すると、空を払うように杖を振る。

 すると散乱していたお菓子は巻き上がり、瞬く間に袋の中へと飛び込んでいった。

 全てのお菓子が収まるとセリアはリジーから袋を受け取り、きっちりと袋の口を閉じた。

 

「ふう、これでよし。あとでちゃんと捨てませんとね。さあ、早く降りましょう。……みなさん?」

 

 セリアは声も出さずに立ち尽くす四人を見て、不思議そうに声をかけた。

 すると、せきを切ったように四人は一斉に驚きの声を上げる。

 

「ちょっと、セリア! 今魔法を!」

 

「それに呪文も使わないなんて!」

 

「すごい! すっごいよセリア!」

 

「セリア、ありがとう!」

 

「あう……みなさん、早く降りないと……」

 

 四人に揉みくちゃにされセリアがうめく。

 そうしている内にもう通路に生徒の姿がなくなっていた。

 そのことに気付いたセリア達は、慌てて通路へ飛び出し特急から降りた。

 

「イッチ年生! イッチ年生はこっち! これで全部かー?」

 

 多くの生徒はホームから出て行っているが、新入生と思われる小さい影が一ヶ所に集まっていた。

 そこに大声をあげて新入生を呼んでいる人物がいたのだが、明らかに大きさがおかしい。

 縦におよそ人二人分、横に三人分はあるかもしれない。

 その謎の大男に怯えながらもセリア達は近づいていき、リジーがおそるおそる尋ねた。

 

「あの、私達も新入生なんですけど……」

 

「ん? そうかそうか。ならこれで全部だな。みんな俺に着いてこーい!」

 

 大男は真っ黒なコガネムシのような目を瞬かせてセリア達を見て頷き、ずんずんと歩き出した。

 背丈が大きければ歩幅も大きいので、新入生達は小走りで大男に着いて行く。

 ぐねぐねとした暗い道をセリアは何度も転びそうになりながら、その度にリジーに助けてもらっていた。

 しばらく進むと、まるで海のように広い湖のほとりへと出た。

 岸にはいくつものボートが停まっている。

 

「四人ずつボートに乗るんだ!」

 

 新入生が息を切らしながら全員集まると、大男が大声で言った。

 新入生達は息も整わないままにボートへ向かう。

 

「セリア、一緒に乗ろー」

 

「はい」

 

「私達は別のボートに乗るわ」

 

「うん、分かった。また後でね」

 

 セリアとリジーはチョウ達三人と別れてボートに乗った。

 新入生達が全員ボート乗ったのを確認した大男は、一人でボートに乗り込んだ。

 

「出航!」

 

 大男が叫ぶと、すべてのボートがひとりでに動きだした。

 新入生達を乗せたボートは滑るように湖面を進んでいく。

 少しすると、目の前に蔓のような草が垂れ下がった岩が現れた。

 その草の下をくぐり抜けボートは進む。

 

「頭、下げぇー!」

 

 大男の号令と共に新入生達は皆頭を下げる。

 

「うわあ……!」

 

 セリアとリジーは同時に感嘆の声を上げた。

 いくつもの高い塔がそびえ立ち、深い歴史を思わせる城壁。

 何世紀に渡り幾人もの魔法使いが学んで来たであろう古代の城、ホグワーツ城。

 その荘厳な姿が月の光に照らされ浮かび上がった。

 

「セリア!」

 

「はい!」

 

 セリアとリジーは笑顔で頷き合う。

 新入生達を乗せたボートは、ホグワーツ城に向かい進んで行く。

 

(ホグワーツ城……ついに、来たんだ……!)

 

 セリアは喜びと興奮で震える両手でロケットの鎖を強く握りしめた。

 もう間も無く、ボートは岸へとたどり着く。

 新入生達の大きな大きな希望を乗せて。

 

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