冷酷で、恩義や人情をわきまえず、恥などを知らない人のこと。
5月4日
「くくく、危うく死にそうになったが。九死に一生とはまさにこのこと。まさか落書きを消すために使っていた洗剤と漂白剤が混ざり合って毒ガスが発生。その毒ガスが電話ボックスに入ってくるとは……」
昨日自分に振りかかった不幸な出来事を思い出して、
「だがしかし! 私が男に成りすましたおかげで自殺しようとした女は絶望し命を絶ったに違いない。平和のない世界を作ると言う私の第一歩が今度こそ成功したというわけだ!」
ニヤリと笑いグッと握り拳をして自らの成功を確信する零和。しかし真相は自殺志願者の女は自殺の相談ではなく男が
そしてもし零和が男に成りすまさなければ、本来相談するはずだった男は電話ボックスで死亡し、その婚約者が
だが零和が成りすましたことにより「心変わりしたのかな」と勘違いした男はその後プロポーズした女性と結婚し、心理カウンセラーとして第二の人生を順調に歩み、多くの人を救っていく。
つまり男に成りすまさなければ零和の平和のない世界に近づいたのだが、そのことを知らない零和は「グフフ」と可愛らしい少女がするとは思えない不気味な笑みを浮かべる。
「さてと。私の崇高である壮大な平和のない世界への第一歩を祝福する意味でどこかで食べるとしよう」
そう言って零和は近くのファミレスに足を運んだ。
「ふう、食った食った」
妊婦と誤認してしまいかねないほど腹を膨らませた可愛らしい少女はこれまた可愛らしい少女のイメージが崩壊するように爪楊枝で歯に詰まった肉を取り出す。
「さてと……ん?」
会計を済ませようとした零和の目に留まる。そこには自信のなさそうな男が水を運んでいる姿があった。
名札を見ると名前の上に『新人アルバイト』と書かれてあった。
それを見て零和はニヤリと笑う。
(そうだ、あの男にクレームを言ってやろう。そうすればあの自信のない男はさらに委縮してしまうに違いない!)
目をつけた男が近くを通りかかった時、零和は声をかけた。
「おい、そこの店員!」
「わ、私でしょうか!?」
「なんだその水は? そんな水を客に出すつもりか?」
「え、それはどういう……ッ!?」
零和に指摘されて見る見るうちに顔が青ざめていく店員。そんな店員を見て零和は心の中でほくそ笑む。
(ククク、突然意味も分からず意味が分からない指摘を受けてパニックを起こしているのが手に取るように分かるぞ。さぁ、もっと私に恐怖に染まっていく姿を見せろ!)
だが男の次の行動に零和は固まった。
「お客様、誠にありがとうございました!」
「へ?」
男は上司らしき男を連れて零和の元に戻ると、上司らしき男は
「お客様、本当にありがとうございました!!」
と先ほどの男以上に頭を下げた。
「え……」
何のことかわからずポカーンとする零和に上司らしき男は
「これはお気持ちです。次回もぜひ店にお寄りください」
といって数千円分の割引券を零和に手渡した。
「あ、また来させていただきます」
何が何なのか分からない零和は平和のない世界を作るためにやってきた破壊者とは思えない礼儀正しいお辞儀をすると店を後にした。
零和は知らなかった。新人アルバイトが持っていたコップの中身が水ではなく洗剤だったということに。そしてその水を誤って子どもが飲んでしまい緊急搬送。この誤飲事件がきっかけで店が潰れてしまうはずだったことを。