もしも夢の続きが叶うなら   作:シート

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第一話 夢を見続ける幼馴染なアイツ

 取り戻せないもの、それが過去。

 

 時間は巻き戻せない。

 

 分かってる。だとしても、取り戻したい過去が俺/私にはある。

 

 例え夢でもいいから/ずっと見ていた夢の続きを見たいから。

 

 

 

 

 夜。

 バイトから帰って来て大体三時間。日付が変わって大体一時間ほど。

 

「そろそろ寝るか……」

 

 今丁度見ていたネット配信が終わり、硬くなった上半身を伸ばす。

 明日も朝から学校だ。そろそろ寝なければいけない。

 PCの電源を落として、椅子から立ち上がった時だった。

 ガチャっと一人でに部屋の扉が開き、中へと誰かが入ってこようとしていた。

 

「……うっ~んっ~……」

 

 入って来たのは可愛い系のパジャマに身を包んだ長い髪をリボンで二つ結びにした銀髪の女。同い歳。

 俺よりも可愛く綺麗な人形のように整った顔立ちをしたそいつは眠そうにしながら。というか、実際寝てる状態ながらゆっくりと更に奥、俺のベットへ歩いていく。

 これ(・・)は不定期ながらよくあること。来たってことは今夜はあの日か。

 部屋に来たのは慣れもあるからか別に気にしないが。

 

「扱けるなよ」

 

「ん……ああぁ~」

 

「っと」

 

 声をかけたのがよくなかったのか。

 案の定扱けそうになり、すかさず前から抱き止め受け止めた。

 

「あぅ、ぅぅ~……んん~……」

 

「落ち着いたか」

 

 小さな呻き声を上げたかと思えば、聞こえてくる寝息。

 歩いていたとは言え元からこいつは眠った状態だったが、更に深い眠りへとついたんだろう。

 落ち着いたようだし、この様子なら今日はこいつの部屋に戻しても大丈夫か。

 仕方なく抱きかかえた丁度その時。

 

「け~ん~ちゃ~ん~」

 

「うおっ!」

 

 体重を背中の方へとかけられ、バランスを崩し今度は俺が扱けた。

 幸い後ろにはベットがあったからクッション代わりになったものの、押し倒される形になった。実際今、上に乗られている。

 

銀華(しろは)。お前、起きて……いや寝てるんだろうが、とにかく大人しくしてくれ」

 

 目の前のこいつ銀華(しろは)こと白藤銀華(しらふじしろは)に一応声をかけてみたが無駄だろうな。

 ちなみにけんちゃんというのは俺、森本健太(もりもとけんた)が小さい頃こいつに呼ばれていた昔のあだ名。

 

「ん~……」

 

 銀華はのそのそと起き上がり、ベットに両手をつきながら俺を見つめる。

 二つ結びの髪が垂れる。

 眠そうに下がる瞼からはそっと碧い瞳が覗いてた。

 

「何だよ」

 

「ややぁ~けんちゃんいっしょにねよ~」

 

「分かったから大人しくしろってば。ほら寝るぞ」 

 

「ぉ~」

 

 曖昧な返事のようなものをする銀華を上からどかしてベッドの端、壁側で寝かす。

 一緒に寝ることはになるが今に始まったことじゃない。それにこの様子の銀華を部屋に帰せば、余計ぐずる。別のところ、床とかで俺が寝ようとしてもまた同じ。

 

「んん~な~にしとうのぉ~? はよきてー」

 

 眠そうな声で急かされる。

 風呂は帰ってきてすぐ入ったし、歯は二階へ上がる前に磨いた。目覚ましがちゃんとセットできているのを確認して、ようやく布団の中に入る。

 

「つかまえた~えへへ~」

 

 布団の入るなり、銀華が抱き着いてきた。

 今こんな小さい子供みたいでも体は歳相応。おまけにこいつはスタイルがいい。こんな密着していれば、当たるものは当たる。足まで絡めてくるな。

 振りほどこうものなら本気でグズり出すし、このままが最適解。大人しく寝るしかない。

 男だから当然の如く、グッとは来る。だが、こうなっている事情が事情なだけに素直に喜べない。むしろ、罪悪感みたいなもののほうが強い。何はどうあれ、役得なことには違いないんだけどなぁ……。

 

「すぅ……すぅ……んふふ……」

 

 隣からは規則正しい寝息が聞こえてくる。

 暗がりでも幸せそうな寝顔してるのが分かる。

 自由だな。昔のことを思い出す。

 

「寝るか……」

 

 ぽつりとぼやいて思考するのをあきらめる。

 疲れた。寝てしまおう。

 俺も眠った。

 

 

 遠いところで音が鳴っている。

 聞き慣れた音。朝を告げるスマホのアラーム音だ。

 音の方へと手を伸ばしたが、音は鳴り止んだ。止められたか。安心してると今度は入れ替わるように声が聞こえてきた。

 

「きて……起きて……」

 

 声と共に体を揺すられる。

 揺れに意識の覚醒を促され、まぶたを開いた。

 

「起きた。おはよう……健太」

 

「……銀華。おはよう……」

 

 最初に見えたのは隣で上半身だけ起こしている幼馴染、銀華の姿。

 相変わらずの無表情。そうだった。昨日はあの日で一緒に寝たんだった。

 いつも通り、先に起きてアラームを止めたのも銀華だろう。

 

「はい」

 

「おう」

 

 スマホに手を伸ばそうとしていると銀華からスマホを渡された。

 時間を確認するとほぼ起きる予定の時間。

 起きるか。決心すると銀華は一足先にベットを抜け出していた。

 

「朝の用意しよ」

 

「おう」

 

 そう言って部屋を出ていく銀華の後をついていく。

 どこまでもクールな様。銀華は何も言わない。一緒に寝ていることも、抱きついて寝ていたことも。

 本当今に始まったことじゃないし、銀華が振れないのなら俺からは触れられない。

 でも、昨夜のことが今に始まったことじゃないにしても、まるで夢でも見ていたのかようだ。銀華にしたら、夢みたいなものなんだろうが。

 

 一階に降りると顔を顔を洗う。

 

「はい」

 

「おう」

 

 先に顔を洗い終えていた銀華からタオルを受け取り、顔を拭く。

 

「朝ごはん作る」

 

 そう言い残して銀華はリビングへ。

 一緒に起きた日は銀華が朝ごはん、それから弁当を作ることになっている。別に決めたわけじゃないが、いつの間にかそうなっていた。別々に起きた日は俺が作ることになっている。

 銀華が朝ごはんを作ってくれてる間、俺は洗濯機から洗濯物を取り込んで、干したりタンスに直したりする。

 それが終わるとリビングへ。机の上には朝飯が用意されていた。白ご飯に出汁巻き卵にウィンナー、それから味噌汁。もう弁当まで用意されていた。

 

「食べて」

 

 既に席についている銀華の向かい側へと座る。

 

「いただきます」

 

「いただきます」

 

 俺に続いて銀華もそう言うと二人で朝飯を食べ始めた。

 

 静かでゆっくりとした朝。

 俺達の間に会話はない。あるとすれば、食器の音が小さくあるぐらい。

 リビングにいるのは銀華と俺の二人だけで親の姿はない。

 

 というのも銀華と俺の母親二人は昨日から一泊二日の旅行。今日の夕方には帰ってくるはず。

 親父は二人揃って同じところへ単身赴任中でシェアハウスしているとのこと。仲のいい親同士だ。

 それも親も幼馴染というのがデカいんだろう。銀華と俺の母さん同士が小さい頃からの幼馴染で、銀華と俺の親父同士もまた小さい頃から幼馴染。親がそんな感じで幼馴染だから、銀華とも幼馴染。産れた日が一日違うけど、本当に産れた時からの付き合い。

 こうして半年前から同居しているのも親父達が単身赴任するにあたって、母さん達は仕事の関係でついていくことが難しく。銀華はある事情でそう簡単に地元を離れるわけにもいかず、かといって女子供だけおいて単身赴任するのは……という時にお互いの家が一緒に住めば心配も少なく、お互い助け合えるということでこうして銀華と俺の家で同居してる。

 不思議な関係だとは我ながら思う。

 

「ごちそうさまでした」

 

「お粗末様。ごちそうさま」

 

 俺の後に銀華が続いてそう言い食べ終えた食器を流しへと運ぶ。

 洗い物は俺の担当。とは言っても食器は軽く流してから食器洗い機へ入れるだけだが。

 そうしている間に銀華の姿はなかった。歯を磨いて、登校の用意をしに行ったんだろう。

 俺も歯を磨いて、登校の用意をした。もっとも男の用意なんてすぐ終わる。家を出る時間までの部屋で潰していると部屋の戸がノックされた。

 

「用意できた。行ける」

 

 扉越しに聞こえてくる銀華の声。

 時間は少し早いがそろそろ出るか。

 部屋から出ると廊下に銀華はいた。学校の制服を着て、綺麗に梳かした髪を下ろしている。

 

「忘れ物ないか?」

 

「持った。そっちは? お弁当持った?」

 

「大丈夫。持った。じゃあ、行くか」

 

「ん……」

 

 戸締りをして家を後にする。

 俺達の住むところは丘にある住宅地で、学校までは下りに歩いて二十分ほど。

 今日も今日とて春の陽気を感じ、向こう側にはチラリと海が見える。このまま真っすぐいけば地元でも有名な水族館に行ける道から逸れて、別の住宅地へと入る道を進む。

 二人並んで歩くが会話はない。それが嫌というわけでもない。お互い。多分、銀華もそう。

 嫌だったらこんな風に一緒に登校はたりしないだろう。

 第一、一緒に生活してるとわざわざ話すようなことは……していうなら。

 

「そうだ。学校はどうだ? 少しは慣れたか?」

 

 まるで新入生に聞くような問いかけ。

 銀華は俺と同い歳で同じ高校二年生。こうして一緒に登校するのはまだ一ヶ月経つかどうかレベル。

 でもまあ実質、新入生みたいなもの。今年の春、銀華は復学という形で編入してきた。

 

「少しは慣れた。周りの人もよくしてくれるし……でも、私は白藤銀華だから。やっぱり……うん」

 

 言葉を濁すだけで続かない。

 言いたいことは伝わって来た。

 それもそうか。有名人だからな、銀華は。

 

「そうか。どんな些細なことでも大丈夫だから困ったこととかあれば言ってくれ」

 

「ん……ありがとう」

 

 俺が出来ることは限られているが出来ることはやっていこう。

 困りごとを言いやすい頼れる男であるのはもちろん、言いにくいこともあるだろうから気にかけるのは怠ってはならない。

 

「でも、健太がそんな気を張る必要ない」

 

「そうか……そうだな」

 

「ん……」

 

 小さく返事。

 気を張りすぎるのもよくない。するにしても悟られないようにしなければ、かっこつかない。

 俺の中で銀華のイメージは離れ離れになっていた時間のせいか、幼いころのままだがこいつももう高校生。

 昔のままじゃないんだ、何もかも。

 

「それに……」

 

 ぽつりと言い出し、こっちに顔を向ける。

 

「また、健太と同じ学校に通って、こうやって一緒に通ているだけで毎日が楽しい」

 

 ふっと笑ってみせた銀華の笑みには懐かしさを感じた。

 

 そうしていると学校に着いた。

 同学年でも流石にクラスは別なので別れる。

 

「じゃあ、また」

 

「うん」

 

 自分の下駄箱に向かい履き替える。

 

「……」

 

 昇降口を通り過ぎようとしているとまだ下駄箱前にいる銀華の姿がいる。

 履き替えてすらない。ぼさっと立ったまま何かあった様子。トラブルとかそういうのではなさそうだけではなさそうだけど。

 それに手には何か持っているような。

 

「銀華、どうかしたか?」

 

「何でもない」

 

 と言って銀華も上履きに履き替えていた。

 本当に何事もなかったかのよう。

 気にはなるが、自分のクラスへと向かうしかなかった。

 

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