もしも夢の続きが叶うなら   作:シート

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第三話 幼馴染なアイツはイルカの夢を見るのか

 あいつ……銀華が夜、部屋に来る頻度は疎ら。

 一日置きに来るときもあれば、毎晩続けてくる時もある。かと思えば、数日来ない時もあったりする。おかげで頻度が読めない。

 来る時間は大体、日付が変わって一時間ほど経ったいつも俺が寝る時間。銀華は遅くても二十三時頃には寝るらしいから、ああなるのは布団に入って一時間から三時間後、いわゆるぐっすり眠っている頃。もっとも、昼間とか朝はああならないからそれが幸いではある。

 ああなった銀華は脳が眠っている為、寝惚けているようで何というか幼い。まるで幼児化。昔、まだ小学校低学年、俺と凄く仲の良かった頃の銀華になる。

 いつもは俺が寝るのと合わせて寝てくれるが、たまにそうじゃない日がある。例えば今日みたいな。

 

「な~あそぼ~?」

 

「……」

 

 とっさに返す言葉が出なかった。

 いつものようにやってきたかと思えば、これだ。

 相変わらず眠そうにしてる癖に。

 

「いや、寝ろよ。いい子は寝る時間だ」

 

「やや~まだねぇへ~ん。あそぶの~!」

 

「無理するなよ。眠そうじゃねぇか」

 

「ねむくな~い!」

 

 頑固というか何というか。

 こうなった銀華は気が済むまでこのままだ。

 懐かしさに浸ってしまう。

 

「がっこうもばいともおやみなんやろ~?」

 

 この状態の銀華と普段の銀華と記憶を共有してる。

 だから、ある程度のことは分かる。明日から土日休みで俺のバイトが休みなことも。

 

「そうだけどさ」

 

「だったらええやろ。あそぼ~」

 

 ここで突き放して寝かせるのが、ベストなんだろうがそれはできない。

 寝てはいるが今の銀華はある意味で覚醒状態。

 突き放せばぐずられるのは目に見えているし、脳裏にあることがよぎって強気で出れない。

 

「仕方ない。ちょっとだけだからな。遊んだら寝るぞ」

 

「わ~い。ありがと~」

 

 折れるしかなかった。

 情けないというか、弱いな俺。

 まあ、満足して寝てくれればいいか。

 

「で、何して遊ぶんだよ」

 

「え~とね~あのね~あのね~わかんないっ」

 

「お前な……」

 

「にへへ~」

 

 眠そうな顔で嬉しそうに笑ってやがる。何が嬉しいんだか。

 ってか、まともな返答を俺は期待してしまったようだ。喋れても眠っていることには変わらない。寝言みたいなものだ。

 

「どうするかな……」

 

 考えてはみる。

 遊ばないなんて言ったら振出しに戻るが、何して遊ぶかは俺にもわからなかった。

 銀華と遊んだのなんてもう数年以上前のことだ。それに男子とは遊ぶことはあっても、悲しいことに同い年の女子とは遊んだことがない。本当、何して遊べばいいんだ。

 この銀華の精神年齢みたいなものに合わせるべきか。

 

「あっ! おえかきした~い」

 

「絵? あ~待ってろ」

 

「うんっ」

 

 遊びといえば遊びだがそうでもない気もする。

 何だ遊びたいって一人でもいいってことだったか……。

 プリンターから出した白紙の印刷紙と色鉛筆を渡す。

 

「よ~し」

 

 俺が普段使ってる机に座って銀華は絵を描き始めていく。

 眠気は全然あるようで手の動きはのろのろとして遅い。

 それを俺は横に立って眺める。

 

「けんちゃんはかかんの~?」

 

「見てるだけでいいよ。それに絵、得意じゃないし」

 

「え~けんちゃん、えのしょうとっとったのに~」

 

「絵の賞?」

 

「ほら~すいぞくかんにおるあしがびよ~んってながいかにさんのえ~」

 

「ああ……あれか」

 

 言われて思い出した。

 幼稚園の頃、近所の水族館にいる足の長い蟹……タカアシガニの絵を描いて表彰されたことがある。

 自分のことなのに言われるまで綺麗さっぱり忘れていた。今の銀華だからすんなり言われたのか。俺も思い出して分ったことがある。

 

「銀華も賞貰ってたよな。イルカ描いて。というか、二人一緒に大賞だったな」

 

「そ~やね~あのとき、めっちゃうれしかった~」

 

 まさか二人で一緒に取れるなんて思ってなかったから凄い喜んだのは思い出した。

 

「またすいぞくかんあそびにいきたいね~」

 

「……そうだな……」

 

 昔は暇さえあれば、二人でよく遊びに行っていた。

 だが、それも小学校高学年に上がる前行ったのが最後。

 まだ水族館は普通にあるけど、今更行くような歳でもない。こういっているのは寝てる銀華で起きてる銀華じゃないから、一緒に行くわけにもいかない。

 何だかな……。

 

「な~な~いるかさんじょうずやなーい?」

 

「ああ、うまいぞ。これならまた大賞取れそうだ」

 

「そーやろか? にへへ~」

 

 また眠たげな顔をして嬉しそうに笑う。

 あの頃みたいに銀華は、イルカショーをするイルカを描いていた。

 イルカとそれを観客席で見る客。客の中には幼い頃の俺達もいて、何とも言えない気持ちになる。どうしてこいつは……。

 

「さかな~さかな~さかな~」

 

 まあ強いて一言言えることがあるのなら。

 

「イルカ描きながらその歌はやめとけ」

 

「え~なんで~? すいぞくかんはおさかのてんごくやのに~」

 

「そうだけどそれは魚食べる歌だから」

 

「ぶ~ぶ~」

 

 なんてくだらないやりとりをしていると時間は過ぎていく。

 

「う~ん……むにゃ……」

 

 銀華は次何を描こうか考えていると本格的に舟を漕ぎだし、ついには座ったまま眠ってしまった。

 ようやく電池が切れたみたいだ。これなら銀華を部屋に戻しても大丈夫か。事情が事情とは言え、一緒に寝るようなことはできるだけ避けたい。

 嫌とかそういうのじゃなくて、年頃なわけだし。

 

「よしっ……」

 

 毎回お約束になりつつある言い訳もとい建前もとい決意をして、椅子で寝ている銀華を抱き上げる。

 決意した割にはあっさりと抱き上げれた。おまけに軽い。余計なお世話だが、ちゃんと食べているのか心配してしまうほどだ。

 

「すぅ……すぅ……」

 

 熟睡してるみたいだし、これなら今日は部屋に帰せる。

 指で何とか部屋の扉を開けて、銀華の部屋に連れていく。

 中に入って、ベットを見つけるとそこに銀華を寝かせた。

 

「すぅ……んっんん、すぅ……」

 

 起きる気配はまったくない。

 遊び疲れて熟睡してよくあったな。

 なんてことを思いつつ、布団をかけてやる。

 すると、手を軽く掴まれた。掴んできたのは他の誰でもない銀華。

 まだあれが続いてるのか。

 

「銀華、大丈夫だから手を」

 

「ンー……ヤ、だ……」

 

 掴んでくる手をやんわり解くとむにゃむにゃと言ってきた。

 寝ぼけているのか、これは。というか、どっちの銀華だ。寝ている時の方か。判断つかない。

 声色が寂しそうなのが心苦しくなるが、ずっとこのままってわけにもいかない。

 落ち着いてもらえるようにもう片方の開いた手で銀華の頭を撫でた。

 

「ん……」

 

 次第に落ち着いてくれたのか、手を離してくれた。

 ちゃんと眠ったのを最後確認して、自分の部屋に戻った俺も寝た。

 

 

「はぁ……」

 

 目が覚めて、スマホで時間を確認して溜息をついた。

 時刻は真昼間。なんという爆睡。今日は土日休みだから問題はないけど、それでも寝すぎだ。遊び疲れていたのは俺のほうだったか。

 目は覚めたので、下に降りる。腹減った。顔を洗い終えると、飯を食べにリビングに入った。

 

「歌……?」

 

 台所のほうから歌が聞こえる。

 歌と言っても鼻歌だけど歌っているのは銀華だった。

 

「~♪ ♪~♪」

 

 銀華が鼻歌なんて珍しい。

 というか、初めて聞くかもしれない。

 しかも、歌っているのが昨日、眠っているときに銀華が歌っていたあの魚の歌。

 寝ている銀華は普段の銀華と記憶とかを共有しているが、普段の銀華は寝ている時の銀華の記憶がないらしい。

 そう聞かされていたが、そうじゃなかったってことなのか。

 

「はぅっ!?」

 

「あ……」

 

 こっちを向いた銀華に気づかれた。

 凄い驚いた顔している。鼻歌、聞いていたの気づかれたよな。

 何だか、盗み聞きしたみたいでバツが悪い。かといって、聞いてましたとこっちからいうのも何か違う感じだし。

 

「あー……それ、昼飯か?」

 

 気まずさに耐え兼ね、目についた昼飯のことを口に出した。

 そこにあるのはスパゲッティ。見た感じ、たらこスパゲッティっぽい。出来立てだ。

 

「そう……そろそろ起きてくる頃だと思って作ってた」

 

「それは助かるよ。もしかして、銀華も今から?」

 

「うん、一緒に食べた方が後片付けとか一辺にできるから」

 

「そうか」

 

 話はここでおしまいにして、渡されたスパゲッテを受け取って席に着く。

 

「いただきます」

 

「いただきます」

 

 俺の後に続いて向かいに座る銀華もそう言って食べ始める。

 静かな食事。それはよくあることなのに気まずさが物凄い。

 母さん達は休みだが、家にいないみたいだ。まあ、おそらく。

 

「お母さん達なら朝から遊びに行った」

 

「あー……やっぱりな。だろうと思った」

 

「うん」

 

 元気な母親達だ。

 子供の俺達よりもよく遊びに出かけてる。

 

 銀華と会話できたのはこの一瞬。

 また途切れてしまう。無理に会話する必要はないが、この気まずさは辛い。

 さっさと食べて部屋に戻るか。

 

「あの……」

 

「え?」

 

「さっきの……鼻歌、のこと気にしないで。びっくりして恥ずかしかったけど……嫌とかそう言うのじゃないから……」

 

「そ、そうか……分かった」

 

 本人がそう言うのなら俺が気にするのはよくない。

 銀華から話してくれたのも気を使わせてしまったみたいだし、普段通りを努めよう。

 

「起きてからあの歌ずっと頭から離れなくて……やっぱり、昨日の私が……?」

 

「ああ……昨日、部屋に来てた。あの歌、歌いながら水族館のイルカ描いてたよ。ほら、あそこの」

 

「ああ、あそこ。だからなんだ……そう……」

 

 銀華は一人勝手に納得した様子。

 頭の中であんな懐かしい歌がずっと流れでもしてたら気になるわな。

 

「昔行ったこと、夢で見たのもそのせいなんだ」

 

「夢……?」

 

「ううん……何でもない」

 

 そう言われると俺からはこれ以上のことは聞けない。

 その後は何事もなく休日を過ごした。

 

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