もしも夢の続きが叶うなら   作:シート

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第四話 幼馴染なアイツは夢の外でも意外な姿を見せてくれた

「し~ちゃん、今日病院だったよね?」

 

「うん」

 

 朝、昼の弁当を用意してから今朝は俺が作った朝飯を食べていると隣でそんな会話が聞こえた。

 そう言えば、今日は月に一回ある銀華の定期診断の日だったか。

 

「忘れないように~」

 

「分かってる」

 

「健太君、付き添いよろしくね~」

 

「ああ」

 

「付き添いが終わったからって銀華ちゃん一人にするんじゃないぞ」

 

「分かってるって」

 

 母さんは毎回うるさい。

 そんなことするわけないだろう。

 

 定期診断に行くのは夕方。

 学校を終えた俺達は着替える為に一旦、家へと帰ってきた。

 そして、私服に着替えると二人でバスに乗って病院へと向かう。

 

「……」

 

「……」

 

 道中は毎度の如く静かだった。

 窓側に座る銀華は外を眺め、俺は俺でスマホの画面を眺める。

 車内が静かだからか会話なんてない。家からずっとこうで、今更特に喋ることはない。いつもの通院風景。

 いつもなのは着いてからも同じ。

 

「白藤さん、森本さん、こんにちはー」

 

「こんにちは」

 

「こんにちは」

 

 診察室の中へと先生に招かれ、銀華の後に続いて挨拶をする。

 

「えっと、前回の定期診断から体調の方はどうでしょうか」

 

「はい。特に悪いところはないです」

 

「それはよかった。では、次に――」

 

 銀華と先生のやり取りを後ろから眺める。

 特に何か問題あるようには見えない。

 なら、わざわざ診察室の中まで付き添う必要はないが、これにも訳がある。

 

「森本さん、白藤さんの夜、眠って動き出した時の様子はどうですか?」

 

「あ……えーと、ですね」

 

 銀華が寝ながら俺のところに来る時の様子を先生に報告する。

 俺の役目はこれだ。銀華は寝ている時に起きている時の記憶がないので俺が説明するしかない。

 何回目かになる定期報告。初めこそ恥ずかしさがあったが、回を重ねるごとに慣れてきた。そもそも相手は病院の先生で、銀華が入院していた時からの担当医。細かい事情まで理解してくれてるのはありがたい。

 

「そうですか、ありがとうございます……頻度は変わらずのようですが、凄く落ち着いているみたいですね。次の日に不調があるわけでもないですし……」

 

「はい」

 

「よしっと……じゃあ、引続き様子見ということでお願いします。一応、お薬の方は出しておきますね……森本さんも無理はなさらないように」

 

「はい」

 

「では、今日はこれで。次はまた一ヶ月後に。何かあればすぐ連絡下さい。お大事に」

 

「ありがとうございます」

 

「ありがとうございました」

 

 銀華に続いてそう言うと診察室を後にした。

 いつも通り、何事もなく定期診察は無事終わった。

 

 支払いをして薬をもらうと病院を出る。

 今日の予定はこれで終わり。

 外はというと夕日が沈みだして暗くなっている。そろそろ夕飯の時間だ。

 この後はもう予定はないから帰るだけだ。

 

「銀華、帰――」

 

 帰ろうと声をかけようとした時だった。

 

「銀華じゃん」

 

「やっほー銀華」

 

「あ……瑠奈ちゃん、芽衣ちゃん」

 

 声をかけてきたのは二人組の女子。

 銀華の知り合いみたいだ。うちの制服着ているし、クラスメイト辺りか。

 

「病院の帰り?」

 

「うん。二人は何してるの?」

 

「私らはご飯食べた帰り」

 

「今からカラオケ行くところなんだ。そうだ、病院終わったんなら一緒に行かない?」

 

「ごめん……帰って夜ご飯作ろうと思ってて」

 

「あーね」

 

「ああ~」

 

 二人して俺を見てくる。

 な、何だ……内心、身構えてしまう。

 目が笑ってやがる。もっと詳しく言うなら、ニヤついたような感じ。

 何が言いたいかは分かったような気がする。

 

「噂の健太君ね」

 

「噂?」

 

「こっちの話。っと、自己紹介するわ。私は……」

 

 二人に自己紹介された。

 クラスメイトというのは正解で、友達みたいだ。

 

「俺は森本健太。クラスは一組で」

 

「知ってる。銀華から話は聞いてるから」

 

「うんうんっ」

 

「そう、なんだ……」

 

 と言うしかできなかった。

 からかわれてる気分だからか他意がある気がしてならないが、銀華が変なことや余計なことを言うとは思えないから、言葉のままの意味なんだろう。

 

「邪魔したら悪いから私らそろそろ行くね」

 

「銀華、また今度遊ぼう」

 

「うん、また今度」

 

「じゃあ銀華、頑張って!」

 

「銀華、ふぁいとー! 森本君、銀華のことよろしくね!」

 

 彼女達は去っていった。

 何か凄いこと言われたが……。

 

「……」

 

 言われた本人である銀華は気にしてない様子。適当に流すべきだな。

 

「……帰るか」

 

「先に帰ってて。私、スーパーで夜ご飯の買い物してくる」

 

「えっ?」

 

 思わず、聞き返してしまった。

 

「ほら……冷蔵庫の中何もないから。明日の弁当とかの具材買っておきたいし」

 

「冷蔵庫の中何もないのはそうだけど……何も別に一人じゃなくてもいいだろ」

 

「だって、付き添いで疲れたでしょう? 買い物ぐらい一人で行けるから。それに……さっきのこともあるし……」

 

 気にしてないと思ったがやっぱり、気にしてたか。

 

「気にするのは分からなくはないけど、こういう風にからかわれることなんて昔、よくあっただろ」

 

「そう、だけど……私達はもう高校生。小さい時とはいろいろ違う。それに昔……ごめん、何でもない」

 

 言いかけてやめた言葉の後に銀華が何を言うつもりだったかは理解した。

 卑怯な言い方だとは分かっている。昔からこんな風にからかわれることはよくあったとは言ったけど、気にしなかったのは本当に小さな頃。それこそ、男女の違いを意識する前。男女の違いを意識してからはそうもいかなくなった前科が俺にはある。

 小さい頃とは違う。歳を重ねて高校生となった俺達の違いは多くなって、あんな風にからかわれると気にしない訳もいかないか。

 それでもだ。

 

「銀華が気にするのなら無理にとは言わないけど……それでもやっぱり、お前を一人にはできねぇよ」

 

「……いいの……? その……昔みたいなこと言われたりしても……」

 

「そん時はそん時。言いたい奴には言わせておけ。言われ慣れてるよ。それに母さんにもお前を一人にするなって言われてるしな」

 

 母さんのことを出すのは情けないが、建前はやっぱり欲しかった。

 

「……今はそれでええか……言われ慣れとぉもんね」

 

「そういうことだ。じゃあ、行くか」

 

「ん……」

 

 俺達はスーパーへと足を進めた。

 

 

 スーパーに着くとカートにカゴを乗せ銀華と見て回る。

 

「朝と昼作ってもらったから今夜は私が作る。健太は何食べたい?」

 

「銀華が食べたいのでいいよ。俺はな――」

 

「何でもはダメ。私は健太の食べたいものが知りたい」

 

 言い終えるよりも先に言われてしまった。

 食べたいものか……改めて聞かれるとそうすぐには出てこない。

 今丁度、出来合い惣菜があるコーナーにいるからこんなのでいいけど、そういうことじゃないよな。

 

「う~ん……そうだな……あっ、肉じゃが食べたい」

 

「肉じゃが……分かった。じゃあ、肉じゃがにあう献立は……」

 

 銀華は肉じゃがの具材や他の具材、必要な物を選んではカゴに入れていく。

 

「これだとこっちのほうが安いけどこっちのほうがいい……よし、こっち」

 

 牛肉一つにしてもちゃんと考えて選んでる。

 しかも、決断するのは速い。

 流石というべきなのか。慣れてる。

 

 そう言えば、こんな風に銀華と買い物するのは初めだ。

 小さい頃には一緒にお使い行ったことは何度もあったが、今日のお使いレベルじゃない。ガッリ買い物。

 意外。そして、初めて見る知らない銀華の姿。

 

「特売の卵も今日は二つ買える」

 

 おひとり様一つ限りとテラシがつけられた特売の卵がカゴの中へ二つ。

 言うならば、主婦の買い物みたいだ。

 

「焼き魚、白身魚よりかは鮭のほうがいいよね」

 

「ああ。どっちかって言うとそうだな」

 

「分かった」

 

 好みを把握してくれているのは腐っても付き合い長い故か。

 

 にしてもカゴの中が段々増えてきた。

 冷蔵庫の中は空だから多くなるのは仕方のないことで、一応俺という男手がいるから荷物持ちには困らないだろう。

 しかし、気になったことが一つできた。

 

「なぁ……普段、買い物はどうしてるんだ?」

 

「どうって何が……?」

 

「その……今日ほどは買わないだろうけど、それでも結構な荷物になるだろ? 母さん達は遅くて車ないし、俺も普段バイトでいないから」

 

 母さん達が車で食材を買ってくることはあるにはある。たまにだけど。

 普段は銀華が買い物に行っているっぽい。

 家からスーパーは近いと言えば近いが荷物持って歩きだとちょっとしんどい距離。途中小さめの坂もあるし。

 

「自転車だよ」

 

「あの坂をか……」

 

「行きは漕いで登ったりするけど、帰りは降りて押すからそこまで大変じゃない。坂終ったら自転車ならすぐだから」

 

「そうか……まあ、呼んでくれたら荷物持ちぐらいする」

 

「……頭には入れておく。でも皆が働いて仕事してるなら、家事と買い物が私の仕事だから。何もしてないのはしんどい」

 

 そういうもの……なんだろうな。

 でも、銀華がスーパーの袋詰んで自転車漕ぐのか。

 何と言うか。

 

「あ、レジこっち並ぶ」

 

「混んでるけど……」

 

 必要な物を全てカゴに入れてレジに来たが、銀華は混んでる列に並んだ。

 

「こっちでいい。こういう時まず見るのはレジに並んでる人数じゃなく、並んでる人の買い物カゴを見ること」

「はい?」

 

 キリッとした目つきで銀華が何やら語り出す。

 

「向こうの列は、並んでる人数は少ない。でも、一人一人の買い物の量が多いからきっと時間かかる」

 

「……ま、まあ、そうだな」

 

「レジ係の人の処理速度にも差がある」

 

「……た、確かに?」

 

「……そういうこと」

 

「……そうか……」

 

 納得のいく説明。

 おっしゃる通りだ。

 よく買い物してるからこその知恵なのは分かった。

 

「――円になります」

 

「はい。ポイントカードあります」

 

「はーい、お預かりしまーす」

 

「袋いりません。マイバックあります」

 

「ありがとうございまーす」

 

 スームズな。

 いや、スームズすぎるやり取り。

 マイバックまで用意してんだ。この感じなら常備してそうで本当……。

 

「今、所帯じみててるって思った」

 

「……思ってねぇよ。偉いと思ったんだ」

 

「偉い……顔に書いてるけど……そういうことにしといてあげる」

 

 平然を努めたけど、肝がきゅっと細くなるぐらいヒヤっとした。

 俺が分かりやすいのか。

 付き合いの長さからくるものなのか。何にせよ、こうすぐ見抜かれるのは考え物だな。

 


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