もしも夢の続きが叶うなら   作:シート

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第五話 幼馴染なアイツとの帰り道は夢のように移ろう

「そうだ、今日の天気」

 

 朝、学校に行く用意を早々と終え、銀華の用意が終わるのを待つ頃。

 頭の片隅に追いやられていたことを思い出して、今いる自室のPCで今日の天気を調べる。

 季節はもう梅雨。連日朝から雨が続いていたが、天気サイトによると今日一日だけはすっきり晴れるとの予報。

 どうせならバイトが休みの今日じゃなく、バイトがある明日とか明後日の方が晴れてほしかった。明日からはまた雨みたいだし。

 それでもまあ、晴れであることにこしたことはない。雨だと気が重たくなるし、銀華が体調を崩しやすくなる。

 

「準備できた」

 

 部屋をノックしてきた後、そう声をかけられ、PCの電源を落とす。

 荷物を持って部屋を出ると、すぐ傍に銀華がいた。

 制服の衣替え時期を経て夏服を着ている銀華。やっぱり……。

 

「何……?」

 

「いや……」

 

 返事に困った。

 やっぱり、銀華の顔色が悪いように見える。

 元気な時と比べて若干って程度だが、それを口にするのはよくないか。変に心配するのもよくないだろうし。

 

「ん……そう。分かった、大丈夫」

 

 何に対しての大丈夫なのかは分かった。

 聡い銀華のことだ。俺の心配は見抜かれているだろうし、心配したことを気にさせまいという為の大丈夫。そんな気がした。

 

「行くか」

 

「うん」

 

 俺達は学校へと向かった。

 天気予報は晴れ。実際に見た外の様子もすっきり晴れている。

 これなら、天気で体調が崩れることはないだろう。

 

 

 期待は裏切られるもの。

 天気予報は外れるもの。

 

「どうしたものかな……」

 

 ぼやいて教室から外の天気を見る。

 空は薄暗く、しとしとと降る雨。一日晴れの予報とは何だったんだ。

 しかしも降ってきたタイミングがホームルーム終わって帰ろうとした頃。狙って降ってきたみたいだ。

 

「お前も傘ない感じか。折りたたみ傘とかは?」

 

 帰る用意をした前の席の山田がそんなことを聞いてくる。

 山田の手にはちゃっかり折りたたみ傘が。

 

「ないよ。忘れた」

 

「ご愁傷様。まあ、今日は急な雨だったからな……他の奴も傘なし多いみたいだし。この分だと傘の貸し出しも終わってそうだ」

 

「だろうな。仕方ない、そればっかりは」

 

「先に言っておくけど俺の傘には入れないからな。男と相合傘は御免だ」

 

 なんてこと言うんだ。つられてその光景想像しちまった。

 

「入るかよ。そもそも家の方向逆じゃねぇか。雨が弱い今のうちに走って帰る」

 

「そうしろ」

 

 そうと決まれば帰る。

 山田と別れた後ダメ元で職員室を訪ねたが貸し出しの傘は終わっていた。

 やっぱり、走って帰るしかないか。

 そう言えば、銀華は……大丈夫か。朝家を出る時あいつも傘を持って出なかったが、折りたたみ傘ぐらい持ってるだろう。

 靴を履き替え、見た天気は変わってない。走るか。

 

「健太」

 

 思わず、扱けそうになった。

 声のした方を向けば、そこにいたのは銀華。

 丁度帰る時を同じくしたのだろう。靴を履き替え、手には折り畳み傘が握られている。

 

「銀華も帰りか?」

 

「うん……」

 

「それで何か用か?」

 

 何か言いたげな様子だが何だ。

 特に何か言われるようなことはないはずだ。

 

「傘ないんでしょ」

 

「まあ、そうだけど……今のうちに走って帰るからだいじょ――」

 

「だったら、一緒に帰ろ。傘入って」

 

「は?」

 

 ちゃんと聞こえはしたが、聞き間違えかと思った。

 銀華も聞き間違えられたと思ったらしく、また同じことを言ってくる。

 

「一緒に帰ろ。傘入って」

 

「聞こえてるから。いいって、気を使わなくて。二人で入れるような大きさじゃないし。第一、二人で一つの傘なんて使ってたら……」

 

 そう言って俺は周りに目をやる。

 多いってほどじゃないが、同じように今から帰ろうとしている奴は普通にいる。

 銀華と俺のことを気にしてない奴がほとんどだが、中にはちらちら見てるのもやっぱりいる。

 あんまり目立つことは……。

 

「言いたい奴には言わせておけ。言われ慣れてるよ」

 

「ぐっ……銀華、お前な」

 

「ふふっ」

 

 何処か勝ち誇ったように銀華が小さく笑った。

 それは前、俺が言った言葉。

 忘れたわけじゃない。それとこれとは違うと言いたいが、それを言われると返す言葉がない。

 銀華もそれを分かって言いやがった。ずりぃな、まったく。

 

「早く帰ろう。雨強くなるかもしれない。濡れて風邪でも引かれたらいろいろ困る」

 

 意外に頑固で我が儘な銀華の一面が顔を出してくる。

 こうなった銀華は譲らない。

 

「……分かった。傘、入れてくれ」

 

「ん……どうぞ」

 

 傘に入れてもらい一緒に帰ることにした。

 勿論、多少なりと周りの目が刺さったような気がしなくはなかった。

 

 

「もっと近くに寄らないと肩びしょびしょになるよ」

 

「これでいいんだ」

 

「よくないでしょう」

 

 家までの帰り道。

 雨の中、二人で一つの傘に入りながら帰っているが、折り畳み傘は一人用。

 二人で入るのは狭く、どうしてもどちらかが濡れる。

 幸い背の関係上、傘は俺が持っているから銀華が雨に濡れることはない。代わりに俺の肩は濡れるが、銀華はそれが気に食わないようだ。

 

「人も少ないのに何気にしているの。昔はよく相合傘してたじゃない」

 

「昔っていつだよ」

 

「幼稚園とか小学校低学年の頃」

 

「……昔の話だろ……」

 

 覚えがありすぎて返しが情けないことしか言えない。

 

 昔みたいにってのはやっぱ、気が引ける。

 銀華が言ったその頃は男女の違いを分かっていても、意識してなかった頃。

 だからこそ、平気なそんなこと出来てたわけで……こんなに近いと腕とかが当たったりして、感触が気になるし。雨の匂いのほうが強いのに近いから銀華のいい匂いがして、ドキドキしてしまう。 

 いや、これだと俺だけが変に意識しているみたいで嫌だ。自意識過剰だろ。

 隣、内側にいる銀華はパッと見そんなこと気にしてないから尚更。

 

 ついてないな。

 天気予報に裏切られて雨は降るわ。傘はないわ。後、いろいろあるわ。

 雨のせいで銀華はそうでもなさそうなのに、俺のほうがしんどくなってきた。

 一つぐらいいい事あっても……。

 

 車が通りすぎる音。

 次に車が通ったところ。俺達からして横の辺りにある水溜まり。

 そして、それが跳ねて飛んでくる結構な量の水。

 それらがあまりにも一瞬のこと過ぎて反応できなかった。

 

「うわっ……!」

 

「きゃっ……!」

 

 物の見事に水たまりの水をかぶった。

 車はそんなこと知るわけもなく通り過ぎていく。

 

「クソッ……」

 

「大丈夫、じゃないよね……」

 

「見ての通りだ」

 

 ずぶ濡れ。

 これじゃあ、走って帰ったのと変わらなくなってしまった。

 ついてなさすぎる。

 

「銀華は濡れたりしてないか?」

 

「うん、大丈夫」

 

 せめてもの救いは俺が道路側にて、銀華の盾になれたこと。俺みたいにずぶ濡れになるようなことは免れて……。

 

「なら、よかっ……た……」

 

「どうかし……あ……」

 

 あるものを見て俺が固まった。そのことに気づいた銀華は俺の視線を追った。

 視線の先には俺が盾になりきれず、跳ねた水溜まりの水をかぶった銀華の胸元がある。狙ったみたいに濡れているのはそこだけ。濡れたそこは透けてしまっていた。

 

「……ッ」

 

 バッと両腕で銀華は自分の胸元を抱きしめて隠す。

 同時に俺は、目を反らした。

 

「っ、悪い!」

 

「大丈夫……事故だから、気にしないで」

 

 銀華の声は落ち着いていた。

 事故だから自分も気にしてないといった感じ。

 しかし、目をそらした時に一瞬だけ見えた銀華の顔は赤かった。

 

 それよりも兎も角、今は歩くことが先決。

 じっとしてるのはマズい。

 

「早く帰ろう。家まで後ちょっとだ」

 

「そうだね」

 

 家がある地区まで帰ってこれた。

 家はすぐそこだ。

 

 

 家がある地区まで帰ってこれた。

 もう家はすぐそこ。

 

 失敗した。

 下駄箱で心配そうに空を見る傘のない“けんちゃん”を見つけた時はチャンスだと思ったのに。

 相合傘を渋るけんちゃんにそれらしいこと言って、無理強いさせたからなのかな。

 けんちゃんの弱いところを突くのは私の悪い癖。

 

 でも、けんちゃんと相合傘をできてよかった。嬉しい。

 数年ぶりの相合傘。小学生低学年以来。

 朝登校する時と変わらず会話はなくて、あるのは雨が降る静かな音ぐらい。

 小さな折りたたみ傘に二人で入っているから、雨の降る外と区切られてるみたいで傘の中はまるで二人だけの世界みたい。

 なんてらしくもないことを考えちゃった。浮かれてるんだろう。

 

 けんちゃんは遠慮気味だけど傘の中にはちゃんと入っている。

 そして傘の中は狭いから、腕とかが時々少し触れ合う。

 それがドキドキする。顔が赤くならないように全神経集中させてた。

 小さな頃は全然意識してなかったのに、今は意識してる。けんちゃんを男の子として……。

 けど、意識するだけで私からも何も言えない。何もできない。こんな近くいるのに、動くのは眠っている時に姿を見せる小さな頃の私。

 今、隣にいるのに私は何もできない。今の私だって、本当はもっと近くに行きたい。こんな微妙に間がある距離じゃなく、腕を組めるぐらい近く。

 もっと話したい。たくさん感謝してることから、昔みたい一日の出来事とか些細なこととかを。

 でも、どうあれ私からも何も言えない。何もできない。恐くて、近づこうとすればまた離れてしまいそうで。

 

 そんな風に私が恐がって臆病だから、バチが当たった。

 道路にある水たまりの水が車に轢かれて跳ねた。

 それがけんちゃんにたくさんかかった。結果、けんちゃんはずぶ濡れ。走って帰ったのと変わらなくちゃった。

 けんちゃん、本当にイラっとした顔した。

 

 それだけで済めばよかったのに私も濡れてしまった。

 濡れたのが胸元っていうのがバチが当たった証拠。

 夏の制服だから薄く、濡れて下着が透けてしまった。それをけんちゃんに見られた。

 見られたのは事故だから大丈夫、気にしてない。めっちゃくちゃ恥ずかしいけど。それに、見られるのならもっと可愛いのつけてればよかったと意味不明なことを思ってしまう。

 そのことでまたけんちゃんにも気を使わせてしまったし、いろいろと本当に失敗。

 

 本当、雨の日は嫌い。

 今朝は一日晴れるから雨の日だと悪くなる体調も持ち直すかと思ったのに。

 家を出る前、けんちゃんに顔色気づかれたのがいろいろなことの予兆だったのかな。

 

 気分が沈んでいく。

 何だかだんだんしんどくなってきた……。

 

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