「……ただいま」
「……ただいま」
二人別々に言って、家の扉を閉める。
ようやく家に帰ってこれた。
いつもと変わらない帰り道を歩いただけなのに雨の中、二人で一つの小さな折り畳み傘をさして帰ってきたからいつも以上に長く感じた。
正直、疲れた。
「待ってて。私の方がマシだから大きなタオル取ってくる」
「悪い、頼む」
靴はまだ履き替えず玄関に立ったまま、家の奥へと消える銀華を見送る。
本当なら自分で取りに行った方がいいけど、こうもずぶ濡れだと家に上がるに上がれない。
早く風呂に……いや、先に銀華に入ってもらうべきか。あいつも濡れたわけだし。
「はい、タオル」
「ありがとう」
タオルを受け取ると濡れたところを拭く。
水溜まりの水かけられたから汚いことには変わらないけど、これで少しはマシになった。
銀華も濡れたところ、胸元にタオルを充てて拭いているのか隠しているのかしている。
「じゃあ、そのまま先にお風呂先に入って」
「俺は後で入る。だから、銀華が先に入れよ。濡れてるんだから風邪でも引いたら大変だ」
「気持ちだけありがたく受け取って、その言葉そっくりそのまま返す。健太、ずぶ濡れになったんだから早く入る。あ……私の体調のことを引き合いに出すのはなしだから」
「……分かった。先に入るよ」
言うことはもっともだ。
ここで変に譲り合いみたいなことしていても埒が明かない。
大人しくして先に入ることにした。長風呂をするわけじゃないんだ。さっさと汚れを落として綺麗にして、早く出てしまえばいい。
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早々と風呂から出て、銀華と代わった後、部屋でゆっくりしていた。
散々な一日だった。
いろいろありすぎた。そういろいろ……銀華まで濡れて服が透けて……。
「……ッ」
頭を振りかぶって邪な考えを振り払う。
直近の衝撃的なことがあれだったから、思い出してしまう。
忘れろ、俺。あれは事故だったんだ。いつまでも覚えてたらいけない。
「……ふぅ」
一息ついて切り替える。
「暇だな……」
一息ついたのはいいけども、暇を持て余していた。
やれることはあるにはある。けど、何もやる気になれず暇してしまう。
「飯でも作るか」
寝転んでいたベットから起き上がる。
このままじっとしていても暇し続けるだけ。
いつもより早い時間にはなるが、ゆっくり夕飯を作るには丁度いいはず。
そう思い立ち部屋から出て一階のリビングに入った時だった。
「銀華?」
「……」
リビングに銀華がいた。
食卓でうつ伏せている。顔はうつ伏せ状態だから確認できないが呼びかけても返事がない。寝ているのか。
珍しい。昼寝をしているところなんて今まで一度も見たことがない。しかも、リビングでこんな。
何にせよ、こんなところで寝るのはよくない。非常時ということにして、銀華を軽く揺すりながらもう一度声をかけた。
「銀華、起きろ」
「ぅ~ん……? けん、ちゃん……っ」
「お、おい」
起きてはくれたが、よろけた。
寝ぼけているのか……けんちゃんっていつもの銀華じゃない呼び方してきたし。
それに頬が赤い。例えるなら、茹ったよう。もしかしなくても、これは。
「ちょっとそのままでいろ」
そう言って、リビングの棚を漁る。
目的のものを見つけると、銀華に渡す。
「ほら、これ」
「えっ、体温計……私、そんな計るほどの熱なんて……」
「いいから、計ってみろ」
どう見ても銀華には熱がある。
それも結構な高いはず。
だから、論より証拠。図れば正確な体温の高さは分かるだろうし、出た数字を見れば銀華も認めざるおえない。
そうじゃないと今みたいに中々認めないだろ。
「……」
諦めたように半ば渋々の様子で銀華は体温計で熱を測った。
待つこと数秒、すぐに結果は出た。
「……」
まず最初に自分で体温計を見た銀華は固まっていた。
それほどまでに高い熱ということか。
「見ていいか?」
「……」
渡された体温計を見た。
38.6℃。かなり高いな。
朝顔色が悪かったからそれが悪化したのか、雨で濡れたせいなのか。
よろけていたのも熱でぼんやりしていたから。何にせよ。
「熱あるだろ。部屋でゆっくり寝てろ」
「……でも、夕飯の準備とか洗濯物が」
「俺がやっておくから。気にするな」
「……」
こう言っても気にするのが銀華。納得はしてない顔している。
それでも今は部屋で寝るのが一番。ふらついていたわけだし、無理して悪化するのもよくない。
「……分かった。部屋に戻る」
沈黙の後、銀華はそう言った。
「ごめんなさい……迷惑かけて」
「謝ることはねぇよ。まあ、何かあればスマホのメッセでも言ってくれ」
「うん……分かった。ありがとう」
そう言って、銀華はリビングから出ていった。
ひとまずこれでいいか。大事にこしたことはない。
けど、さっき言ったことといい。
もしかして、銀華も早めに夕飯の準備しようと考えていたのだろうか。
その為にリビングに降りて来たのはいいけど、熱でぐったりしてしまったと。
いつからあんな熱出していたのかまでは分からないけど、俺もリビングに降りてこなかったら、ずっとぐったりしたままかもしれなかった。
そう思うと怖いな。朝釘は刺されたけども、もっと気にかけてやるべきだった……。
・
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・
あの後、母さん達に銀華のことは知らせた。
『分かった。お母さん達、今日も遅くなるから銀華ちゃんの看病しっかりしなさい』
『し~ちゃんの看病よろしくね。健太君も体には気を付けて』
とまあ、いつもの調子。
熱が高いとはいえ、ひどい病気でもないんだ。
家に銀華一人でいるわけじゃないから、親の反応なんてこんなものだろ。
にしてもだ。
「看病か……」
何をしたらいいんだろう。
そりゃ昔、何度か銀華の看病はしたことあるけど。
とりあえず、様子を見に行くぐらいはするべきか。夜ご飯のこともある。
「銀華?」
部屋の前まで来て、ノックしてから声をかける。
「……」
返事は返ってこない。
寝ているのだろうか。勝手に入るのは流石によくないだろう。というか、気が引ける。まあ、何度も勝手に入ったことはあるがあれは事情が事情な上に寝ている銀華を部屋に戻す為だったわけで……。
「健太?」
一人であれこれ考えていると銀華が部屋から顔を出していた。
寝起きだろうか。パジャマを着ていて、髪型は夜寝る時にする二つ結びだ。
「悪い……起こしたか」
「ううん、大丈夫。何かあった……?」
「ちょっと様子を見に」
「そう……とりあえず、入って……」
言われて、中に入る。
長いするのはよくないな。最後見た時とあまり顔色が変わってない。
熱もそんなに下がってないだろう。
中に入ると自分はベットに腰かけるつもりなのか。銀華が俺の為に部屋の椅子をベットの前へと動かさそうとしてくれた。
「いいって立ってるから。それより銀華は横になってろ」
「……でも……分かった」
銀華がベットに入って布団をかぶる。
「一応母さん達には連絡入れておいた。遅くなるって」
「そう……」
「それで体調のほうはどうだ? 吐き気とかあったりしてないか?」
「まだ熱は下がってないかも。身体がダルい以外は平気。吐き気はない」
「そうか……解熱剤とか熱さまシートぐらい持ってくるべきだったな」
看病しろと言われていて様子見に来たのに手ぶらはなかった。
銀華の熱が高いのを知っているなら尚更。
もっと気にかけてやるべきだったと思った矢先にこれとは気の効かない。
「気を使わなくて大丈夫。一晩寝たら熱も下がると思うから、看病もいい。ただでさえこんなに迷惑かけてるのに」
「それこそ気を使をなくて大丈夫。体調崩してるわけなんだしさ、こんなときぐらい、な。それにほら、昔はどっちかが風邪ひいたりすると看病しあっていただろ? 今更だ」
しまった。
言った後にそう思った。
俺のほうから昔の話を持ち出すなんて、それこそ今更だ。バツが悪い。
それにこれじゃあ、返って銀華に気を使わせてしまう。言うにしても、もっと別のことを言えばよかった。
「分かった……お言葉に甘えてもいい……?」
それは救いの一言だった。
「お、おうっ……! 何かしてほしいことがあれば、どんなことでも言ってくれ。今何か食べたいなら、おかゆでも作ってこようか」
「ごはんはいい。何かぬるい飲み物と熱さまシート欲しい。冷蔵庫のお茶レンジでちょっと温めてくれるだけでいい。熱さまシートは冷蔵庫の一番上の段の右側にあるから」
「わ、分かった。すぐ取ってくるっ」
「ふふっ、ゆっくりでいいから」
急ぎ気味で部屋を出る後で銀華が笑ったのが分かった。
そりゃそうか。これじゃあ、親に手伝うことを貰って喜ぶ小さな子供みたいだ。
それに結局、銀華に気を使わせてしまったけど、それでも体調を崩した銀華の為に何かできるのはよかった。
一階のリビングで冷たいお茶をぬるくなる様にレンジで温めると、熱さまシートと一緒に銀華へ届けた。
「ありがとう。ん……」
お茶を飲んで一息つく銀華。
忘れないようにこれも渡す。
「後ほら、熱さまシート」
「ん……ありがとう。よい、しょ」
ベットの脇にあるサイドテーブルにお茶を置くと受け取った熱さまシートのビニールを剥がす。
「ふぅ……冷たい」
額に熱さまシートを張った銀華は気持ちよさそうに顔をしている。
水分も取って熱さまシートを張ったからこれで熱も下がっていくだろう。
「そろそろ戻るわ。また、何かあれば言ってくれ」
「うん……ありがとう。ちゃんと治す」
「そうしてくれ。お大事に」
銀華の部屋を後にする。
まだ何かしたい欲があるけども、これ以上は迷惑になる。
今はこれのぐらいが充分だろう。
…