Fate/SEED Destiny 運命篇:聖女と悪魔 作:シャイニングさん
どうもこんにちは、シャイニングさんです。リアルが忙しくて1年近く放置してしまい、すみませんでした…。安易な声優ネタから始まったこの小説、果たしてこれからどうなっていくんでしょうか…。いや、本当に。
タグの原作改変ってのは、もうお分かりでしょうが種運命の原作のことです。この話は、作者の妄想が生み出したIFの話ですから、許して…ちょんまげ!
(爆発)
黄色のツインアイが無機質にこちらを、いや、シンを見ている。シンもまた、その鋭い目つきで天空に居座る機械の天使を睨みつけたまま、一歩も動かずにいる。その緊迫とした状況の中でジャンヌもまた、一歩も動けずにいた。下手に動けば格好の的になる上に、シンの足手まといになる。ここは相手の動きをじっくりと観察し、攻撃してきたところを躱して反撃するのが良いと判断する。
「シン君…。」
「黙ってろ。」
ジャンヌが声をかけるが、シンはそれを聞こうとしない。一度自分が倒した敵だからだろうか。シンは汗一つ流さず、呼吸も特に乱れていない。至って冷静そのもの。パッと見た感じだとそう言わざるを得ない。しかしその目、燃えるように赤いその眼に宿る感情は、とても冷静と呼べるものではなかった。
(怒り、諦め、憎悪…。複雑に混じり合った負の感情が、彼の中で渦巻いている。フリーダムは彼にとって仇であり、忌むべき敵。しかし、一度倒した敵に尚も執着を見せる理由とは一体なんなのでしょうか?)
シンの、どこか危うい様子がジャンヌには心配でならない。使命感でも、責任感でもない。彼は純粋な悪意をもってして、あのフリーダムを打ち倒そうとしている。悪魔、という言葉が相応しいだろう。
(ならば、そんな彼に味方をする私はさしずめ、悪魔に魅了された愚者…という所でしょうか。)
少しの自虐を込めた言葉を自分に浴びせる。しかし、ジャンヌはシンを見捨てるつもりは毛頭ない。今は自分たちは運命共同体なのだ。たとえ相手が悪魔でも、二度も助けられたからにはこちらも相手を助ける義務というものがある。
「来る!」
シンの掛け声とともに、上空のフリーダムが両腰に備えられている折り畳み式のレールガンを発砲して来た。シンもジャンヌも、初弾は難なく避けることができた。
「そんなもんに当たるほど落ちぶれちゃいない!」
そのままシンはフリーダムに接近し、アロンダイトを横から振りかぶる。フリーダムは急速に下降することでそれを回避した。
「甘い!」
巨大な剣を振るったことによる遠心力を利用し、シンはフリーダムに回し蹴りをくらわせることに成功した。
「…チッ、そう旨くはいかないか。」
しかしフリーダムはそれを読んでいたのか、左手の盾でシンの蹴りを受け止めていた。右手のビームライフルの銃口は、真っ直ぐにシンを捉えて離さない。
「はっ!」
「!?、うわっ!」
フリーダムが引き金を引く前に、ジャンヌが旗を投げつけたのだ。フリーダムはシンから離れて旗を回避し、シンはアロンダイトの背で旗を受け止める。
「大丈夫ですか!?」
「お前のせいで大丈夫じゃない!」
シンはジャンヌの行動に憤りを感じているようだ。無理もない。フリーダムが避けてくれなければ自分も旗の餌食になっていたのだから。
「大丈夫みたいですね。」
「けっ、よく言うよ!」
アロンダイトをしまい、シンは二本のブーメラン…フラッシュエッジを召喚する。一本はフリーダムに投げつけ、もう一本はビームサーベルとして使用するようだ。
「これならどうだ!」
暗雲を裂いて、ブーメランはフリーダムに直進する。その後ろに続くシン。彼の読み通り、フリーダムは左手の盾を構えて防御体勢に入った。ブーメランが盾に弾かれた直後に、間髪いれず盾を蹴飛ばす作戦だ。
「!、うおっ!」
突然、シンを拡散されたビームの弾幕が襲った。間一髪でビームシールドを展開して防ぐことができたシンだが、その顔は驚愕の色で染まっている。
「あれは!?」
フリーダムは盾を構えたが、それは単にフラッシュエッジを防ぐためではなかった。敵は盾についている銃窓に銃の砲身をセットし、そこからブーメランを狙っていたのだ。そして、ブーメランを破壊するのではなく、ビームライフルの弾をブーメランのビーム刃に当ててビームを分散させ、シンへの反撃としたのだ。
「…ビーム・コンフューズ。何だよ、お前もソレ出来るのかよ。」
ビーム・コンフューズはビーム・サーベル等の非実体刃の剣と、ビーム弾の銃を用いた広範囲攻撃だ。目標のある方向に剣を投げ、投げた剣のビーム刃にビーム弾を当てることで、一直線に進むビーム弾が分散してより広い範囲への不意討ち攻撃になる、という訳だ。しかし、これを行う際には幾つもの注意が必要となる。まず、剣(この場合はブーメラン)の実体部分にビームが当たってしまった場合、自分の武器である剣を破壊してしまうだけで攻撃にならない。また、剣やビームの角度が不安定だったり、剣が自分からあまり離れていない位置にある時に引き金を引いてしまえば、拡散したビームの雨を自分で浴びることになる可能性も否めない。要は諸刃の剣なのだ。
「しかし、フリーダムは…。」
シンが投げたので角度の調節も出来ず、自分に向かってきているので距離を離すことも出来ないブーメランに、シンへの反撃としてビーム・コンフューズを行ったのだ。恐るべき射撃の精密さである。また、拡散したビームの内の幾つかはフリーダムにも降りかかってきたが、それらは盾に防がれ消えた。盾を構えたのは恐らくこのためでもあったのだろう。予知能力にも等しい読みである。
「けれど、私たちは…!」
「こいつをぶっ倒して、先に進む!」
圧倒的な敵を前にして尚、二人の闘志が尽きる事はなかった。ここがどこで、何故自分たちが召喚されたのか。それを知るまで、死ぬわけにはいかない。その思いが、二人に力を与え続けた。
『…』
フリーダムは一度動きを止め、こちらの様子を伺っているようだった。きっと、次の一手を考えているのだろう。今度はこちらから攻めたいが…。
「空飛べないアンタにはどう頑張っても太刀打ちできる相手じゃないぜ。」
ゆっくりとシンが降りて来る。皮肉めいた言いようだが、彼の言っていることも事実だ。
「しかし、だからと言って私だけ何もしない訳にはいきません。先程のような方法で何とかサポートできればいいのですが…。」
「いや、さっきみたいなサポートはやめて欲しいぞ。」
やれやれと息を吐くと、シンはビームライフルを召喚してジャンヌに投げる。急に武器を投げられたジャンヌは、少し慌てて何とかビームライフルを受け止める。想像していたより重かったのか、少し体勢を崩すも落としはしなかった。
「え、えっと…これを私に?」
「使い方は簡単だ。そこの筒で狙って引き金を人差し指で押すだけでいい。」
聖女に銃を使うことを強要するとはとんでもない悪魔だな、とシンは自分で自分を貶すように笑っていた。確かに思うところはあるが、今は緊急事態なのでそんなことも言っていられない。
「いいか?どうせアレには俺と違って中に誰もいない。まぁ、アンタなら分かってるだろうが、人間がいるかどうかは魔力を見れば大体分かる。人間だろうとサーヴァントだろうと、中に誰かいるなら多かれ少なかれ特有の魔力の反応があるからな。」
「ええ、あのフリーダムの内部からは魔力の反応が感じられません。さしずめ、魔力で外側から操っている人形、といったところですね。」
フリーダムと交戦して分かったこと。それは、フリーダムの装甲からは魔力の反応が確認できるが、人がいるであろう内部からは全く感じられない、ということ。即ち、このフリーダムはシンの鎧とは違って誰かが纏っているものではないということだ。
「まぁ、外から操ってこんなに強いんなら言うことは特にないけどな。」
そう言って、再びアロンダイトを構え直すシン。その動作が目に入ったのか、フリーダムはその蒼き翼を広げ、高起動戦闘特化『ハイマットモード』に切り替わる。このまま高起動で奇襲を仕掛けてくるのかと身構えたシンだったが、フリーダムは向かって来なかった。
「!、あいつまさか!おいジャンヌ、さっきザムザザーの時にやった宝具を使え!」
「!?は、はい!」
シンに急かされ、いそいそと旗を掲げるジャンヌ。上空では、フリーダムがハイマットモードのままビームライフルをこちらに向けている。そこから腰のレールガンを展開し、さらに翼の後ろから二門のキャノン砲を肩に載せるように出してきた。計五本の銃口がこちらを向いている。何を始めるかは一目瞭然だ。
「『
ジャンヌが宝具による結界を展開したと同時に、五本のビームが二人に襲いかかる。ザムザザーのビーム砲など比べ物にならない威力に、思わず旗を手放しそうになってしまった。
「っ!っく…!」
「危ない!ったく、しっかりしろよ。」
シンが横からジャンヌを支えることで、何とか二人は耐えることができた。
「くそ、『ハイマットフルバースト』か!」
『ハイマットフルバースト』は、高起動戦闘特化のハイマットモードと、一斉射撃形態『フルバーストモード』の合わせ技だ。展開した十枚の翼を放熱機関やショックアブゾーバーとしても利用しつつ、空中から前後左右上下全方位への高火力射撃を可能とした、フリーダムの切り札だ。まともに食らってしまえば、受肉した肉体は一瞬にして蒸発してしまうだろう。その上、フリーダムは核エンジンによって無尽蔵のエネルギーを得ることが出来るため、これだけの威力を秘めた攻撃を続けざまに行うこともできる。
「フリーダム…厄介な相手ですね。」
このままではジリジリとフリーダムに押されて、そしていつか魔力が枯渇すれば敗北は必至だ。
「畜生!これでも食いやがれ!」
「っ、シン君!?ヤケになってしまってはダメです!」
シンはやけくそ気味にフリーダムへブーメランを投げようとする。それでは先程のように、ビームコンフューズによる反撃を食らうだけだ。ジャンヌはシンを制止しようとするが間に合わず、ブーメランが一直線にフリーダムへと向かって行く。やはり、フリーダムはブーメランにビームライフルの照準を合わせたようだ。このままでは上空から分散したビームの雨を浴びせられてしまうだろう。
「だと思ったよ!」
何と、シンは手に持っていたアロンダイトをブーメランに向かって一直線に投げ飛ばしたのだ。アロンダイトはブーメランを弾いてそのままフリーダムへと突進して行った。流石にこれは予想外だったようだが、敵は向かって来た大剣を難なく躱して、再度攻撃を仕掛けようとビームライフルを構えようとした。
「そこだっ!」
しかし、フリーダムがアロンダイトに気を取られている隙にシンは高速で接近していた。そして、取り出したもう一つのブーメランをサーベルモードにして、フリーダムの胴体を一刀両断した。
「成る程!流石ですね!」
動きの止まったフリーダムに、容赦なく追撃を食らわせるジャンヌ。純白の装甲が次々と砕け散っていく。
「はっ、アンタも結構えげつないことするんだな。」
一度フリーダムから離れ、アロンダイトを回収したシンはジャンヌの容赦ない追撃に苦笑いを浮かべている。
「やった…?」
「いや、まだだ。まだ終わっていない。」
流石に手ごたえがあったと見るジャンヌ。ところが、ジャンヌは即座に戦いがまだ終わっていないことを悟った。フリーダムは確かにその装甲をビームサーベルで切り裂かれ、さらにビームライフルの追撃でボロボロだ。しかし、ボロボロになったフリーダムの装甲が少しずつ剥がれ落ちていき、中からまた新たな装甲が姿を現してきた。
「…やっぱ、お前も来るよな。『ストライクフリーダム』。」
「『ストライクフリーダム』!?」
十枚の翼は、八枚の統一された形に。装甲の関節部は濁った黄金色。腹部にビームの砲口が剥き出しになっていて、腰のレールガンには二丁のビームライフルが掛けられている。ジャンヌは、自分が見た夢では倒されて終わったフリーダムの新たな姿に驚愕を隠せないでいた。
「アンタは、俺がフリーダムを倒した『その先』までは見ていない、って言ってたよな?」
新たなフリーダムを前にしても、一切怖気付かずにシンはジャンヌに問う。
「はい。では、フリーダムはシン君が倒した後、また復活して現れた、ということですね?」
「そうだよ。『悪夢』は、まだ終わっていないのさ。…今だってそうだ。」
ふう、と息を吐くと、シンは真剣な表情になってジャンヌに顔を向けた。
「兎も角、アイツを倒さない限り俺たちに道はないんだ。そして、あのストライクフリーダムは生半可な気持ちで勝てるような相手じゃない。何せC.E.最強と謳われたフリーダム、その後継機だからな。生前、俺は何度もアイツに負けた。でも、それは俺が一人で戦っていた時だけだ。二人でアイツに挑めば、まだ食らいつける。」
「ええ。ここで立ち止まらない為にも、協力して勝ちましょう!」
グッと握った拳を、シンに突き出すジャンヌ。シンは少し間の抜けた顔をしたが、フッ、と笑って自分の拳をコンと当てた。そして、すぐさまストライクフリーダムに向き直ると、二本のフラッシュエッジでフリーダムに斬りかかった。しかし、ビーム刃が敵に届く直前にストライクフリーダムのツインアイが光り、関節部が輝きを放つ綺麗な黄金色になった。起動したのだ。そして、ストライクフリーダムはフラッシュエッジのビーム刃を体を逸らすことで躱してみせた。
「でしたら、これならどうですかっ!?」
ジャンヌはビームライフルを使って後方射撃で援護する。しかし、それでも敵に当たるには速さが圧倒的に足りないようだ。無駄のない最小限の動きで避けるストライクフリーダム。ビームは遥か彼方へと飛んでいった。
「速い!?」
「こいつは装甲を捨てて圧倒的な機動力を得た機体だ!大抵の攻撃は当たらないつもりでいろ!」
シンも負けじとフラッシュエッジやアロンダイトで応戦するが、ストライクフリーダムは武器一つ構えることなく降りかかる攻撃を躱していく。
「…なめやがって。今の俺たちには武器を出すまでもないって…そう言いたいのかよ、アンタは!」
怒りに満ちたシンの瞳が、一層鮮やかな光を映したかと思うと、最初に会った時の死んだような暗い赤色へと変わった。それを見計らってか、ストライクフリーダムは腰に備えてある二本のビームサーベルを逆手で構える。どうやら敵も、戦闘態勢に入ったようだ。
「…種?」
シンの目に宿った一瞬の光。それがジャンヌには、赤く輝く種が弾け散ったかのように見えた。
「ジャンヌ!誤射の心配はいらない。今から七十秒間は、俺ごと撃ち抜くつもりで引き金を引け。それから七十秒後、あそこの建物に向かって六発、あとはこっちでやる。」
敵から一度距離をとったシンが指さしたのは、二人がさっきまでいた家屋と道を挟んで向かい側にある家だった。しかし、あまりにも唐突で、尚且つ無茶苦茶過ぎる命令にジャンヌは混乱している。
「え…あの、それはどういう…。」
「頼んだ!」
そう言ってシンはすぐさま、ストライクフリーダムへの猛攻を再開する。
「ちょっ…!いえ、分かりました。」
少しの間固まってしまったジャンヌだったが、シンの言葉通り標準をシンの背中に合わせて発砲する。ジャンヌは生前、フランス軍の前線に立って旗振りをしていた。その中で敵軍兵士に刃を向けたことも少なくはなかったが、自身が進んで強敵を打ち破ってきたわけではない。そう、ジャンヌはシンとは違い軍人でなければ兵士でもない。圧倒的な強さを誇る敵と戦い慣れていないのだ。
(だからこそ、私が今やるべきことは…!)
敵のことをよく知っていて、尚且つ戦いに慣れているシンの言ったことを信じ、彼の命令には必ず、できる限り誤差のないように応える。それが勝利のための最低条件だ。シンはビーム弾をギリギリまで引き付けてから、ストライクフリーダムに当たるように体を逸らす。それでも、敵に当たることはない。
「うおおおおおっ!」
五秒経過。ストライクフリーダムは尚もシンのフラッシュエッジやアロンダイトを悉く躱し、両手のビームサーベルでシンに反撃を仕掛ける。シンも何とか避けはするが、敵の狙いが的確な上に、先に攻撃をしているためにスキが出来てしまっている。一見、一進一退の攻防のようだが、ストライクフリーダムはシンの攻撃を受けていない。逆にシンは、避けようとする度に体のどこかをビームサーベルが掠っている。この状況で、果たして自分は本当にこのままシンを狙って撃っていいのか、ジャンヌは躊躇してしまう。
(…いえ、そんなことではあの強敵には勝てない!)
躊躇いも心配もかなぐり捨て、ひたすらにビームライフルの引き金を引くジャンヌ。狙うのは勿論、シンの背中だ。どんな作戦かは分からない。だが、シンは自分に「頼んだ。」と言い、自分はそれに「分かった。」と言った。ならば、後は言われた通りにやるだけだ。
『…』
一五秒秒経過。この頃から、シンがビームサーベルを完全に避けられるようになってくる。何度か斬られそうになった時もあったが、その度にジャンヌの放ったビーム弾がストライクフリーダムに直進する。それを避けるため、シンへの攻撃の手を止めざるを得ない。
「へっ、攻めて来れないかよ?そりゃあそうだろうな!」
最初は彼の言った作戦が無茶苦茶だと思ったが、ジャンヌはここに来てようやくシンの意図を理解する。確かに無茶な作戦だが、シンがアロンダイトやフラッシュエッジでの接近戦を挑み、ストライクフリーダムがそれに応じたのが大きい。二人の距離はさほど離れておらず、ビームライフルを発砲すればシンをも巻き込みかねない。しかし、彼は最初から自身も撃たれることを踏まえた動きを意識することができている。よって一か所に止まらず上下に、左右に、前後に動き回ってストライクフリーダムを翻弄する。対してストライクフリーダムは、シンの攻撃を躱してその隙を突いたような動きをしている。シンの攻撃を避けられても、反撃の一手はその後ろから放たれるビーム弾を避けるために封じられてしまう。
「となると、敵の目標は…!」
『…』
三十秒経過。このままではまずいとストライクフリーダムは、ビーム弾を躱してシンから大きく距離を取り、ビームサーベルをしまって八枚の翼の青い部分を射出した。よく見るとそれは、八基の砲台のようにも見える。そして、砲台の欠けたストライクフリーダムの背部ユニットからは、青白い光が翼の形に広がってゆく。形は違えど、シンの背中についている機械から形成されている光の翼と同じだ。シンはそれを愕然とした表情で見ていた。
「『スーパードラグーン』!?大気圏下なのに…!」
シンが『スーパードラグーン』と呼んだ全八基の砲撃兵器は、それぞれがストライクフリーダムの下を離れて自由に空を飛び回り、様々な角度、方向、距離からジャンヌにビームを放ってきた。避けようがない集中砲火を浴びてしまう。
「なっ…!おい、大丈夫か!」
シンがこちらに振り返ろうとしたが、ストライクフリーダムは腰から二丁のビームライフルを取って攻撃してきたために返事を待つ暇もない。
「こちらは問題ありません!」
もくもくと立ち込める煙の中から、砂埃にまみれたジャンヌが顔を出した。十発以上は食らったはずなのに彼女が受けたダメージはなぜかあまり大きくなかったようだ。
「…ったく、つくづく人間城塞だよアンタ。」
「対魔力スキルの恩恵と言ってください!それと、あのスーパードラグーンなるものは浮遊魔術が施されています。重力が働いていてもアレには関係ないんです。」
シンの吹っ掛けてきたちょっかいと、彼が先ほど抱いていた疑問にさらりと答える。どうやら効果は本物らしい。ジャンヌへの攻撃は意味がないと考えたのか、ストライクフリーダムはスーパードラグーン八基全ての砲門をシンに向ける。
「まぁ、さっきの様子を見るにそっちを心配する必要はなさそうだな!」
スーパードラグーンからの砲撃と、ビームライフルの迎撃に苦戦しているが、シンは余裕を崩していないようだった。無闇にストライクフリーダムに近づくのではなく、持ち前の機動力で襲い来るビームをひたすら躱す。ジャンヌはというと、変わらずシンに標準をシンに合わせて発砲する。シンをも上回る機動力を持っている敵を直接狙うよりも、シンの周囲を取り巻く浮遊砲台を撃墜する方が確実だと踏んだからだ。
(…流石ですね。これだけ撃っても掠りもしないとは…。)
どれだけ撃っても、ストライクフリーダムやシンはおろかスーパードラグーンにすら掠りもしない。シンの瞬発力に脱帽するとともに、敵の異常なまでに洗練された操作能力に舌を巻く。
(しかし、無人のストライクフリーダムに加えて八基ものスーパードラグーンを操るとは…。これほどまでに優れた人間が、一体何のために私たちを攻撃するのでしょうか…?)
そして、一つの純粋な疑問が頭の中に沸き立つ。敵の目的とは一体何なのか。仮拠点としていた廃屋を奇襲して来たかと思えば、フリーダムの状態の時は積極的に攻めてくる様子ではなかった。自分たちを試している?それこそ何のために、という話だ。まして、自分とシンはこの空間に来て初めて知り合ったのだ。試す理由などないはずだ。考えれば考えるほど、謎が謎を呼ぶ。そうこうしている内に、約束の七十秒まであと十秒となっていた。
(…落ち着いて。他のことを考えていられる場合ではありません。)
「…灰の身体は罪の証明。」
八秒。上空で戦っているシンの詠唱が聞こえてくる。宝具を使うのだろう。もう一度、指示されたターゲットを確認し、ビームライフルに目を配る。
「兵器は殺戮と平和のため。」
六秒。ダメ出しでもう三発ほど撃ってみるが、やはり当たらずビームは空を割く。ストライクフリーダムは依然として、シンの方に狙いを定めている。
「そして、血涙は散って逝った人達のために!」
二秒。ビームライフルの照準を目標地点に合わせ、ジャンヌは先の見えない不安と疑問に押しつぶされそうになりながらも、引き金を引く指にゆっくりと力を入れる。
「今!」
「『
約束の七十秒。シンが宝具の名を叫ぶと、彼の全身が突如として現れた灰に包まれてその姿が視認できなくなる。ジャンヌは彼に指示された通り、ビームライフルを六発、間髪入れずに叩き込む。撃った際の反動もあり、五発目の時点で身体が吹っ飛びそうになったが、何とか耐えきることができた。ビームライフルによって建物は跡形もなく爆破し、爆炎によって周囲の視界が灰に染まっていく。
ガキン
暗い灰色一色の世界に、鈍い金属音が響き渡る。
やがて灰も薄れていき、中から人影…というには武骨すぎるシルエットがその姿を現した。
「あれは…デスティニーガンダム?」
ここでジャンヌはふと思い出す。最初にシンに助けられた時、彼はあの姿だった。灰色ベースの全身に、腹部に赤、胸部と肩は青の鋼鉄の巨人。額に二本の角と顎に赤い突起物のついた特徴的な顔をしており、二つの目の下には血涙を思わせる赤いラインが通っている。何よりも目を引くのは、背中より生えている翼だ。刺々しい真紅の翼からは鮮やかなマゼンタ色の光がさらに大きな翼を象っていて、全体的に暗めな色との対比になっている。
「…流石に、不意打ちでも簡単にはやれないか。」
機械の鎧を纏ったシンのぼやき声が聞こえてくる。砂埃が消え、周囲の視界が晴れると、少し離れた場所にストライクフリーダムが佇んでいた。よく見ると、左の腕が取れてなくなっている。
「けど、アンタのお陰で左腕一本取ることができた。…感謝してやるよ。」
仮面に覆われているその顔を見ることはできないが、彼はきっと笑ってくれているのだろう。その声は、不思議と明るいように聞こえた。
「いいえ、シン君と私、2人で力を合わせた成果です。私1人が褒められるようなことではありませんよ。」
そう言って、ビームライフルを彼の手に返す。
「しかし、お気持ちはありがとうございます。」
ジャンヌもまた、凛々しい笑顔で彼に応える。
「…へっ、それじゃあいくぞ!」
「はい!」
そうして、2人はフリーダムに向かっていく。ストライクフリーダムは空に逃げようとしたが、そうはさせまいとデスティニーが上から大剣を振り下ろす。すんでのところでそれを躱し、右手のビームライフルの照準を彼に合わせる。
「はっ!」
間髪入れずにジャンヌが旗を振るい、ストライクフリーダムの腹部に直撃する。ミシミシと機械のきしんだ音がして、ストライクフリーダムは後方に吹き飛ばされた。そのまま撤退するつもりか、スーパードラグーンのビームで弾幕を張り、2人を寄せ付けまいとしている。
「逃すかぁっ!」
高速機動によってビームの雨を見事にすり抜け、ストライクフリーダムの後頭部を掴んで地面に叩きつける。
「…フリーダムは確かに強かった。だけど…!」
起き上がろうとする敵の翼を、シンは荒々しく引きちぎった。
「だけど、アンタは『キラ』じゃない!」
「…!」
シンのその言葉に、ストライクフリーダムがほんの僅かに反応したかのように見えた。翼をもがれても尚、敵は立ち上がろうとした。しかし、シンは容赦なくフラッシュエッジをその背部に突き刺し、その全身を地面に磔にする。
「アンタは…!アンタは一体何なんだぁぁぁ!」
そして胴体にビームライフルを突き立てると、彼はビームの反動を気にも留めずに一心不乱に銃弾を叩き込んだ。抵抗しようとしていたストライクフリーダムも、5発目を超える頃には全身がバチバチと火花を上げ、動き出す素振りを見せなくなった。にも関わらず、シンは攻撃の手を止める素振りを見せなかった。
「…っ!シン君、いくらなんでも__。」
「黙れ!もうこいつを、こいつが動き出さないようにしないといけないんだ!全部こわさなきゃ、こいつはまたころしにくる…!」
制止しようとかけよったジャンヌの方を見ることなく、シンは彼女の言葉を掻き消した。怯える子供のように、彼の声は震えていた。ビームライフルを投げ捨てると、シンは背中の大剣を引き抜いた。禍々しい光を魅せるその剣が、より一層の輝きを放ち__。
「シン!」
大剣を握る彼の手を、ジャンヌはしっかりと握りしめた。大剣から放たれていた光が、うっすらと消えていく。
「はっ…ジャンヌ・ダルク…!俺は、俺は…がっ!?」
突然、シンが顔を押さえて苦しみだした。剣を立てて膝をつき、今にも倒れてしまいそうである。
「シン!?どうしたのですか!」
「ルナ…く、そ…俺は、俺はもう絶対に…!」
何やらブツブツと呟いているようだが、ジャンヌにはそれが聞き取れなかった。
「気を確かに!…とにかく、一度ここから離れましょう!」
何か拭いようのない不安を感じ、ジャンヌはシンの腕を肩に担いで立ち上がった。身体は細身とはいえ、重厚な鎧を身に纏った自分より一回り大きな男性を抱えて歩くのは決して楽ではないが、彼を置いていく、という選択肢は彼女にはなかった。
「さ、さわるな!」
しかし、シンはジャンヌを振り払って倒れ込む。よく見ると、怯えながら暗闇の中を凝視していた。
「うああっ!…誰だ、アンタは誰だ…!」
「えっ?一体どうし…っ!あなたは!」
シンの向いている方に目をやると、そこに仮面の男…ラウ・ル・クルーゼがいた。いつの間にか、周囲の景色も赤黒く不気味なものから嵐の海上となっていた。荒れ狂う海の上に、揺さぶられることなく立っていることから、これが幻覚の一種だということが分かる。
「ククク…辛いか?苦しいか?しかしそれは罰だよ、シン君。その程度の力であの愚かな世界を救うことができると思い上がった挙げ句、多くの命をその手にかけた君に対する当然の罰だ。」
「なに、を…!」
「ククク、君には少し大人しくしていてもらおうか。」
クルーゼがシンに触れると、彼は糸の切れた人形のようにピクリとも動かなくなった。今度は、夢ではない。クルーゼの声が、言葉が、しっかりと聞こえる。
「ラウ・ル・クルーゼ!貴方の目的は何なのですか?なぜ私の前に現れるのです?」
ジャンヌの問いに、クルーゼは不気味な笑みを浮かべて答えた。
「フフフ…私は君たちに興味があるのだよ。救おうとした祖国に切り捨てられた聖女ジャンヌ・ダルクと、平和な世界を作ろうと戦い、世界の守護者に否定された兵士シン・アスカ。君たち2人が、『彼等』に対してどのような選択をするか、ね。高みの見物で申し訳ないが、今からでも楽しみだよ。」
「彼等…?それは一体、誰のことを言っているのですか?」
「すぐに分かるさ。この空間が何なのかも、君がここに来た意味も。何故ならば、彼の背負いし罪が全てを知っているのだからな!」
「…罪?」
まるでシンが、何か悪いことをしてしまったかのような物言いにジャンヌは違和感を覚えた。復讐に手を出してしまったとはいえ、ジャンヌから見て生前のシンは明らかに世界の被害者であった。では罪とは何か。あのフリーダムを撃ち落としたことであろうか?
「どれだけの時を越えようと、こことは違うどこかであろうと、人は生きている限り必ずどこかで失敗をし、後悔し、そして救いを求める!もしもあの時、もしもあの時…!しかし、どれだけ願おうと時間は戻らない!祈っている内に時間は過ぎ去り、あとに残るのは絶望だけだった!皆同じだ!私や彼とてその1人に過ぎないのだよ!」
嵐の中を逃げ回る青いモビルスーツ。それを追いかける一機の悪魔…デスティニーガンダム。ビームライフルを連発しているが、手元がぶれているためか擦りもしない。
「逃げるなよ!投降しろ!」
デスティニーガンダムから発せられるシンの声には、明らかな困惑とともに縋るような悲しみを帯びていた。
「シンやめろ!踊らされているんだ、俺たちは!」
青いモビルスーツに乗っているであろう男が、必死にシンを説得しようとしている。しかし、その声はシンには届かない。
「あんたが悪いんだ…アンタが裏切るからぁ!」
天使を撃ち落とした時のように、大剣を青いモビルスーツに突き刺し、嵐の海へと突き落とす。男は仲間だったのだろう。しかし、裏切るということはそれ程大切な理由があるということの筈だ。それをシンは聞こうともしなかった。
「戦争がない、平和な世界を作るんだ…。」
魔法の呪文のように、繰り返し呟く生前のシン。自身が利用されているということにすら気づかず、狂ったように『議長』という名の男の言葉を盲信して彼は戦い続けた。
「やめろ…見るな、見ないでくれ…!」
「シン…あなたは…。」
彼とて、多くのモノを失ってきた末に求めた理想だ。争いのない、平和な世界という願望。むしろそれは人として尊敬すべき立派な理想だ。しかし、彼は自身の力がそんな世界を作ることができると過信している。それはある意味「罪」と呼べる業なのかもしれない。
「罰は決して、軽いものでは済まされない。」
クルーゼの言葉を皮切りに、シンの敵味方問わず多くの人間がその命を散らしていく。ビームライフルやビームサーベルでコックピットを撃ち抜かれ、骨も残らず蒸発した者や、爆発によって全身を火傷した者など、数多くの命を犠牲にしてもまだ争いは終わらない。
「…っ!あれは!」
穏やかな青い海の上、ビームやミサイルなどの銃弾が飛び交う灰色の空にその姿を現した、黄金の天使ストライクフリーダム。
「くっそおおおっ!」
デスティニーが大剣を振り回して挑みかかるも、片手でそれをいなされて蹴り飛ばされてしまう。友軍機だろうか、ダークグレーのガンダムが背中のビーム砲でストライクフリーダムを狙い撃つが、それも左手のビームシールドで防ぎきった。
「キラ・ヤマト!貴様の存在は許されない!」
その言葉に、ストライクフリーダムは一瞬動きが鈍くなる。その隙を突いてガンダムはストライクフリーダムに急接近し、ビームジャベリンを引き抜いた。
「君は…!」
ストライクフリーダムのパイロット…キラは何か悪いものを思い出したかのように少しだけ目つきを細める。
「分かるだろう!俺はお前によって殺されたラウ・ル・クルーゼの同一存在。アル・ダ・フラガの出来損ないのクローンの1人だ!」
「レイ…?」
ダークグレーのガンダム…『レジェンド』のパイロットの少年の言葉が、シンには飲み込めていないようだった。レジェンドがストライクフリーダムに肉迫する中、デスティニーは動きがぎこちない。
「何をしているシン!動きが悪いぞ!」
「クルーゼ?クローン?…何だよ、それ!どういうことなんだよ!」
「そのままの意味だ!俺は所詮どこかの誰かのために生み出され、そして寿命が短いと分かれば切り捨てられ、長くない生のなかですら何の意味も持たない存在だった!」
ビームサーベルとの鍔迫り合いによって生じたエネルギーの波が、周囲の空間を蹴って広がっていく。その勢いに、デスティニーは耐えきれずに吹き飛ばされてしまう。
「だがラウは俺に自由を与えてくれた!議長は…ギルは俺に、残された命を生きていく道を与えてくれた!俺の寿命は持ってあと数年…だが2人のためにも、俺はお前を撃つ!」
レジェンドは至近距離からバルカンを撃ち、その衝撃でストライクフリーダムはビームサーベルを手放した。トドメだと振りかざしたビームジャベリンを、腰のレールガンで弾き飛ばす。
「チィ!」
レジェンドはデスティニーの方に目をやるが、シンが混乱しているためか動く気配がない。
「シン!しっかりしろ!」
そんな…レイがクローンで、しかももう数年で死ぬ…?
「シン!今はフリーダムに集中するんだ!」
そんな…だって、レイは士官学校のときから俺とルナといつも一緒で、成績は筆記も実技も俺なんかより全然凄くて、テスト前はノート貸してくれたり、俺が教官に逆らったときも真っ先に謝ってくれて…そんなレイが、クローン?あと数年で死ぬ?
「くそっ、システムにエラーか!」
いやだ、どうして、レイが死ななきゃいけないんだ。もう誰も、誰にも死んで欲しくなんてなかったのに。父さん、母さん、マユ、ステラ…僕はどうして、こんなにも弱いんだ。
「シン__!」
尚も動かないデスティニーを放って置いて、ストライクフリーダムはレジェンドの動きを封じようと接近し、ビームサーベルを引き抜いた。
「っ!」
レジェンドは回避しようとしたが間に合わず、右腕と背部の右側を切断されてしまう。
「…!ここまでか__だが!」
「なっ!?」
残された左腕と両足を使い、レジェンドはストライクフリーダムに掴みかかった。
「撃て、シン!」
「…えっ?」
その言葉に我に帰るシン。ストライクフリーダムは何とか引き剥がそうと抵抗するが、レジェンドは絶対に放すまいとしがみつく。
「撃つんだ!早く!」
このままデスティニーがストライクフリーダムを撃てば、レジェンドもただでは済まない。そんなことは一目瞭然だった。
「そんなこと、できるわけ…!」
「『争いのない、平和な世界』を作るんだろう!」
「__!」
「ならば躊躇うな!シン!俺に構わず撃て!俺を呪縛から解き放ってくれ!」
そんなこと、そんなこと…!
「くそおおおおおっ!」
シンの一撃は、見事にストライクフリーダムの胴体を貫いた。爆発の中に、レジェンドとレイの姿が消えてゆく。
ナチュラルもコーディネイターも関係ない、皆が安心して暮らせる平和な世界を目指していた。でも、そこにレイの居場所はなかったのか?いや、それは俺のことか。だって、今の俺はただの兵器と変わらないじゃないか。
「悲しいなぁ…。彼は世界のためにそれこそ人生の全てを捧げる覚悟で戦ったというのに、戦争は彼から全てを奪っていく。家族も、友も、心の拠り所も…愛する人も、そして自身の命さえも!」
場面は変わり、宇宙空間。赤いガンダムにデスティニーは一方的に押されていた。親にしつけられる子供のように、シンは敵わないような相手に1人懸命に戦っていた。
「シン!お前が本当に欲しかったのは、そんな力か!」
「違うよ!違うけど、でももう俺は選んだんだ!議長の作る世界の方が平和だって!だからそのために戦い続けるって!争いをなくさないと、そうじゃないと、死んじゃった皆が可哀想じゃないか…!」
心の奥底に刻まれてしまった、願望という名の呪い。それは彼から大切なものを奪っていくことで際限なく肥大化してしまったのだ。
「シン!もうやめて!」
シンが赤いガンダムに突撃しようとした時、一機のガンダムが2人の間に入った。女性の声。きっと彼の思い人に違いない。傷つき心を壊してしまった彼を嘆き、尚も戦おうとする彼を止めようとしたのだろう。
「!?うわぁぁぁっ!ステラ!マユ!やめろぉぉぉ__!」
しかし、シンは攻撃の手をやめなかった。それどころか、悪夢でも見ているかのように悲鳴を上げ、右手に鮮やかな光を宿し__。
「ぅ、ぁぁ、ルナ…俺が、俺のせいで、そんな…。」
キラキラと、機体の残骸が星のように煌めいて流れていく。
「うぅぅぅあぁぁぁぁぁ!」
けたたましい奇声を上げ、赤いガンダムに凄まじい速度で挑みかかる。最早彼の目には、敵など見えてはいないのだろう。
「この…馬鹿野郎!」
赤いガンダムはビームジャベリンで迷いなく、コックピットである胴部を貫いた。閃光の業火に包まれて、デスティニーは爆発する。
「…これが、シン・アスカの罰だったと?」
確かに、彼はただの被害者という訳ではない。平和な世界という曖昧な夢にすがるあまり1人の人間を盲信し、彼の下戦争に加担し多くの人をその手にかけたことは紛れもない罪だ。彼を侮辱したり、軽蔑したりする者もいよう。
「救いの手すら、差し出す必要はないと?」
しかしこれでは、余りにも救いがなさ過ぎる。なぜ、争いを嫌い皆の平和を願った少年がこのような目に遭わなければならないのか。理不尽に怒り立ち上がった少年が、このような悲劇を背負わなければならなかったのか。疑うことをしなかったから?多くの人を手にかけたから?それならば、それならば__。
「…なぜ、私は救われたのですか?」
自分とて主を、祖国を信じ多くの人を殺した。でも、自分のこの手には多くのものが溢れている。希望が確かに残っている。彼の中には、一体何が残っているというのだろう。
「…その答えを望むのは、罪深いことなのでしょう。」
気がつけば、目から涙が溢れ出ていた。憐みの涙だ。そんなもの、絶対に彼は喜ばないし受け入れない。こんなもので救われはしない。しかし、止められはしなかった。これは傲慢だ。裁定者ジャンヌ・ダルクの、人としての傲慢。周囲はいつの間にか元の赤黒い廃墟が広がっていて、クルーゼの姿もなくなっていた。
「…。」
ゆっくりと、倒れていたシンが起き上がる。
「シン!大丈夫ですか!?」
慌てて涙を拭き取り、彼の元へ駆け寄っていく。クルーゼの目的は分からないが、彼の言うことを信じるならもうすぐ誰かが会いに来るはずだ。それまでに、万全の状態にしておいた方がいいだろう。
「っ!?」
なぜ、自分でもそうしたのかは分からない。啓示とは違う、悪寒というべきものだった。頭の中で、一つの命令が喧しく鳴り響いていた。その命令__シンから逃げろという警告に従うように、ジャンヌは彼に向かうその体を一歩引かせた。そして目の前を、一筋の閃光がよぎる。
「うっ!」
腹部に強い衝撃が走り、後方に大きく吹き飛ばされた。前方には、大剣を右手に携え足を振り上げたシン…デスティニーの姿。
「…どう…して…!」
いかに防御力の高いルーラーと言えども、無防備に近い状態でサーヴァントの一撃を食らえば十分なダメージとなる。そしてそれ以上に、味方のはずのシンからの攻撃というものが、彼女に精神的な負荷を与えた。
「ぅぅぅ…!くそぉぉぉぉぉ!」
光のない紅の眼に映るのは、生前果たせなかった平和な世界という理想か、それとも地獄と呼ぶに相応しいこの現実か。正気を失った1人の狂戦士は雄叫びの後、静かにこう告げた。
「ジャンヌ・ダルク。お前は、ここで死ね。」
それは悪魔でも機械でもない、1人の人間の哀しい悲鳴だったのかもしれない。仮面の下に隠された絶望と涙は、最早誰にも止めることは叶わない。
「それでも…私は!」
誰一人、世界すらも彼を救わぬというのなら、自分がその手を離すわけにはいかない。それこそが、彼女の揺るぎない信念だった。世界に絶望しなかった人間としての責任だった。聖女は旗をその手に握りしめた。どんなに悲しくとも、明日は必ずやってくると信じて__。
『
EXランク対人(自身)宝具
C.E.73年時点での最新技術を惜しみなくつぎ込んだ、C.E.世界最強機体の一角『ZGMF-X42S デスティニー』を基にしたEXランク対人(自身)宝具。基となるデスティニーは人型機動兵器だが、これは魔術によって作られた機械の鎧となっている。核エンジンとバッテリーを組み合わせた『ハイパーデュートリオン』と呼ばれるハイブリットエンジンによって無尽蔵のエネルギーを生み出すことができたという逸話より、宝具展開中は内包する全ての武器を無制限に使用できる上に、機体内部で自動的に魔力を生成することができるので他宝具の連続使用も可能。しかし、操縦者であるシンへの負担が余りにも大きく、長時間使用し続ければ精神崩壊を引き起こしシンが暴走してしまう危険性を孕んでいる。
『SEED(EX)』
Superior Evolutionary Element Destined-factor=「優れた種への進化の要素であることを運命付けられた因子」。ヒトの大いなる可能性を象徴する種。シンの「怒り」の感情をトリガーに発動する。全能力値を大幅に上昇させ、怒りに縛られながらも冷静な判断力を得ることができる。また、このスキルは未知なる可能性を秘めており、今後更なる能力が開花することが予想される。
『コーディネイター(D)』
常時発動スキル。遺伝子操作によってあらかじめ強靭な肉体と優秀な頭脳、様々な才覚を持って生まれた新人類の証。ナチュラル(遺伝子の操作を受けていない人間)と比べあらゆる点で優れた結果を残したが、それ故に彼らを見下すようになり、これが後に大戦の引き金を引く原因となる。スキルとしては、基本能力値の一部を上昇させ、肉体への弱体無効、さらに戦闘以外にも様々なことを一通りこなすことができる。
『怒れる瞳(A+)』
自身の身に降りかかる悲劇に対する怒りが生み出した、シン・アスカという人間を象徴するスキル。シンの紅の瞳が、敵の中の恐怖心を引き出し、行動を制限する。
『狂化(EX)』
『狂戦士』のクラススキル。シンは生前、激化する戦場の中で精神に異常をきたし発狂したものの、『人々が笑って暮らせる、争いのない平和な世界を作る』という意志を片時も忘れることはなかった。戦争以前の人格を強く引き継いでいることもあり、普段は冷静で大人しく、意思疎通も可能である。しかし、狂化の度合いは決して低いわけではなく、その凶暴性は知人や友人すら手にかけることも厭わない。
『騎乗(EX)』
生前、機動兵器のパイロットをしていたことから得たスキル。しかし、それ以外はバイクや車など、『人の手によって作られた機械の乗り物』しか操縦したことがないので、彼の場合は上記のモノ以外には適応されない。
『不屈の意志(C)』
争いのない平和な世界を作る、というシンの確固たる意志を表すスキル。しかし、その意志は様々な思惑や知人との死別を経て少しずつ歪められていった。肉体的、精神的ダメージに耐性を持つ。
シンの嫌いな食べ物…酸っぱいもの全般、貝類、
なん…だと…!
次回予告
こんな戦いに、一体何の意味があるというのですか!?
心のどこかで、気づいていたんだと思う。議長は間違っているかもしれない、って。それでも俺は…僕は、止まることを許されなかった。
あらあら、お美しいことですわね。…吐き気がするくらいに!
『争いのない、優しくて温かい世界』。それはシン、君が何より求めたものだったね。しかし、そんなものはどこを探してもありはしないさ。少なくとも、私と『彼』の目にそんな世界は映らなかった。
それでも、私は自分の信じた正義を貫きます!
次回Fate/SEED Destiny④ここにある正義
俺だって、…守りたかったさ。俺の力で全てをな。