鉄血の潜伏者   作:村雨 晶

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まだまだ過去編は続きます。といってもあと一、二話くらいですが。


鉄血での日常 2

 

今日の予定は午前が侵入者姉さんによる電子技術の講義、午後に夢想家姉さんが言っていた狩人姉さんによる隠密行動の実地訓練が行われる。

 

 

 

私は侵入者姉さんが待つ部屋へ急ぐ。

 

部屋に入ると中は様々な機器で埋め尽くされていて、モニターがたくさんつけられているコントロールシステムのようなものの前に侵入者姉さんは座っていた。

 

侵入者姉さんは私に気が付くと笑顔で手招きをする。

 

 

「いらっしゃい。今日はハッキングとクラッキングの講義よ。難解な防御プログラムならともかく簡単なものくらいは突破できないと敵地で苦労することになるでしょう?」

 

「それは分かりましたが…。この格好は?」

 

 

私は侵入者姉さんに近づいた途端に抱き上げられ、姉さんの膝の上に座らせられていた。

 

 

「うふふ。だってあなた、最近処刑人や狩人とばっかり話してるじゃない?私だって新しい家族と触れ合いたいのよ。それにこの姿勢ならあなたに教えやすいし」

 

「はあ…」

 

 

頭を撫でながら答える姉さんになんといっていい物か分からずにあいまいな返答をする。

実際背中を預けられるのはありがたいし、頭に胸が当たって変な感じはするけれど心地よい。なによりモニターが見やすいのでこのままでも問題はないだろう。

 

 

「じゃあ始めるわね?私が用意したファイアウォールを突破して目的のデータを抜いてちょうだい。最初に私がやって見せるからそれを覚えてね」

 

「はい。分かりました」

 

 

 

 

 

ある程度の休憩を挟みつつ講義は進む。

現在使用されている防御プログラムの仕様、突破方法や電子ロックの解除のコツなど諜報活動に役立ちそうな技術を中心に学んでいく。

この辺りは私の電脳にも搭載されているため戦闘よりはスムーズに覚えることができた。

 

 

「んー、筋がいいわね。これなら私と一緒に後方活動もできるわよ?」

 

「私はあくまで諜報活動がメインなので…。それに最後の防壁は突破できませんでした」

 

「ふふ。あれは私が作った最高傑作のひとつなの。そう簡単に突破されちゃったら私がショックよ」

 

 

侵入者姉さんが作った防御プログラム…。道理で手がかりもつかめないまま失敗したわけだ。

 

 

「落ち込むことないわよ?実のところ最後の問題は当然としてその三つくらい前の問題で行き詰ると思ってたの。でもその予想を超えてあなたは見事突破した。自信もっていいわ。…できるなら今からでも後方部隊に欲しいくらいよ」

 

「そういってもらえるとありがたいです。ですがやはりまだ未熟です。…私には足りないものが多すぎます」

 

「あまり思いつめないの。あなたは他のハイエンドモデルと違ってやるべきことが多いんだから成長が遅く感じるのは当たり前。やれることからやっていかないと足元を掬われるわよ?」

 

「…はい」

 

 

姉さんに励まされるがやっぱりできないことがあると不安になる。私のような新参者は特に。

 

私が落ち込んでいるのが分かったのか頭を撫でる姉さん。

そして私を抱っこすると歩き出した。

 

 

「い、侵入者姉さん!この格好は、恥ずかしい、です…」

 

「ふふ、普段はクールな顔が赤くなるの可愛いわね。さあ、おいしい物でも食べに行きましょ。頭も使ったし甘いものがいいかしらね」

 

「私達人形にそういうのは関係ないのでは…?」

 

「こういうのは気分が大事なの!」

 

 

私は結局抱っこされたまま食堂へと運ばれた。

その後侵入者姉さんにパフェをひな鳥のように食べさせられて嬉しいやら恥ずかしいやらでお昼の時間まで赤い顔で過ごす羽目になった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うう、侵入者姉さんめ、最後まであんな恰好で…恥ずかしい…」

 

 

次の講義の場所である森の前で顔を赤くしたまま狩人姉さんを待つ。

先程の痴態のせいで頬の熱さが取れることはない。もしかしたら明日辺りに夢想家姉さんにこの件で弄られるかもしれない。

 

顔の熱が収まるのを待っていると狩人姉さんがやってきた。

 

 

「すまない、遅くなった。…どうした?顔が赤いが」

 

「な、なんでもありません!」

 

「そうか?…では隠密行動の訓練を開始する。内容は簡単だ。まず潜伏者は森の中で潜伏しろ。その際自身の痕跡を消し、追跡されないようにする。お前が森に入った30分後に私がお前を見つけるために森へ入る。仮に見つかったとしても私を撒くことができればそれでよし。しかし模擬弾が急所へ当たった場合は仕切り直しだ。質問は?」

 

「ありません」

 

「よし。では森の中へ入れ。…ああ、それと森の中には資材も隠してある。それを使って罠を作るのも許可する」

 

「分かりました。では行ってきます!」

 

 

私は森の中へ飛び込み、痕跡を残さないよう枝から枝へ飛び移る。

その際に見つけた資材を使って簡単なブービートラップを仕掛け、地面に降りた際には足跡など私の痕跡は消すように心がけた。

 

やがて私は高い木の上の葉っぱの中に身を潜めることに決める。

罠や痕跡は自分とは反対の方向へ仕掛け、今の場所へ繋がる痕跡はなるべく消した。

そう簡単には見つからないだろう、と私は葉っぱの中で状況が動くのを待った。

 

 

 

 

 

身を潜めてから20分ほど。もうそろそろ狩人姉さんが動く頃だ。

姉さんがここに辿り着くには大分時間がかかるだろう、と気を抜いていると、狩人姉さんが私の視界へ入ってきた。

 

 

(嘘…!?痕跡は真逆に向かうように残したのに!なんでこんな早く…。いやそれよりもここを動くべき…?どうすれば…)

 

 

予想外の事態に逃走を考える。

だけど考えがまとまらないうちに狩人姉さんと目が合った。

 

反射的にその場を飛び出し逃走を図る。

でもそれは目の前に現れた姉さんに阻まれた。

額に模擬弾を一発喰らう。

痛みに思わず頭を抑えると姉さんが近づいてきた。

 

 

「痕跡を逆方向へ残したのはいい判断だった。しかしあれではあからさますぎる。もう少し自然に残せ。それと痕跡も消しきれていなかったぞ。足跡を消すだけでなく、枝や小石に触れないように移動しろ。では次だ」

 

「は、はい…」

 

 

姉さんと共に開始地点へ戻る。

 

その後何度か訓練を繰り返したものの、狩人姉さんを撒くことは一度もできなかった。

 

 

 

 

 

 

「今回の訓練は終了だ。お疲れ様」

 

「あ、ありがとうございました…」

 

 

息も絶え絶えに返事をする。

あの後訓練を続けたものの、やはり狩人姉さんが動き始めた途端に見つかってしまい、逃げ出すことすら叶わなかった。

最後なんて隠れていた私の後ろに回り込んで銃を突き付けられたのだ。

隠密行動には絶対の自信を持っていただけにショックも大きい。

 

 

「最後のほうは良く隠れられていた。痕跡もほとんど残っていなかったし罠も効果的に配置されていた。実戦に出しても問題はないだろう」

 

「全部見破られた上に気付かないまま背後に回られては信じられません…」

 

「はは、許せ。なにせ予想以上に上手かったからな。つい本気を出してしまった」

 

「ははは…」

 

 

それはつまり本気を出されたら簡単に追いつめられるということではないだろうか。乾いた笑いしか出ない。

 

全くもって私の姉たちは強すぎる。

私が使われる場面などあるのだろうかと考える私なのだった。

 




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