鉄血の潜伏者   作:村雨 晶

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過去編も終わりが近づいてきました。
平和な世界を書くのは楽しいし、潜伏者ちゃんの幸せそうな姿を見るのは嬉しいけど、この後悲劇が待っていると思うと思わず頬が緩んじゃいます(愉悦)


鉄血での日常 4

 

今日はお休みの日。

何も予定が入っておらず、私は時間を持て余していた。

 

今まで習った技術の復習は終わってしまったし、どうしようかな。

 

私は部屋を出てどこともなしに歩き始めた。

 

どうしよう。部屋を出てきたはいいけれど、やることが思いつかない。

夢想家姉さんのように趣味が多ければよかったのに。造られたばかりの私にはそんなものはなかった。

 

ダイナゲートと遊んでこようかな、と足をむけたその時、曲がり角で代理人姉さんとばったり出くわした。

 

 

「おや、潜伏者。こんな時間に会うのは珍しいですね」

 

「今日はお休みなんです。…代理人姉さんは何を?」

 

「私ですか?これから厨房に行ってお菓子を作ろうかと」

 

「…私もついていっていいですか?」

 

「もちろん。では一緒に行きましょう」

 

 

手を握られて一緒に歩く。

ちらりと代理人姉さんの顔を見る。綺麗で、表情だって冷たいようで温かい笑顔を見せてくれる姉さん。

私も強くなれば姉さんのようになれるだろうか?

 

そんなことを考えていると厨房に着いた。

そこには調理担当のスタッフだろう、何人かの女性が忙しそうに動き回っている。

 

 

「今日も一角をお借りします」

 

「ああ、代理人ちゃん、いらっしゃい。いつも通り好きに使っていいわよ。…おや、その子は誰だい?」

 

「…潜伏者と言います。新しく造られた戦術人形です。よろしくお願いします」

 

「あら、ご丁寧に。あなたも好きに使っていいからね」

 

 

女性スタッフに頭を撫でられる。

姉さん達とは少し違うけど、心地よかった。

 

 

「じゃあ始めましょうか、潜伏者」

 

 

代理人姉さんがエプロンを付けてキッチンへ立つ。…メイド服なのにエプロンを付ける意味はあるのだろうか?

 

 

「今日はクッキーを作りましょう。疑似砂糖ですがいい物が手に入ったので」

 

 

手際よくクッキーの素を作っていく代理人姉さん。

それをじっと見つめていると、姉さんが思いついたように笑みを浮かべた。

 

 

「あなたも作ってみますか?」

 

「え、でも…。私には調理プログラムはインストールされていません…」

 

「私もされていません。ここまでできるのは慣れですよ。あなたも作って処刑人たちに食べさせましょう」

 

「…処刑人姉さん達は喜んでくれるでしょうか?」

 

「ええ。きっと」

 

「分かりました。やってみます」

 

 

代理人姉さんの見よう見まねでクッキーを作っていく。

でもやっぱり姉さんのように上手くは行かなくて、綺麗な形の姉さんのクッキーとは対照的に随分と歪な形のものができてしまった。

 

 

「やっぱり難しいです…」

 

「最初はみんなそんなものですよ。それに…うん、美味しいです。これなら喜んでもらえると思いますよ」

 

「本当ですか…?」

 

 

自信のない私の問いかけに笑顔で頷く代理人姉さん。

 

焼きあがったクッキーを一緒に持ち、姉さん達がいるという部屋に行くことになった。

 

 

 

 

 

 

 

「皆さん、今日のお菓子が出来上がりました」

 

「お、来た来た。今日は午前が任務でよ、腹が減ってたんだ」

 

「ありがたく頂こう」

 

「私も一枚…っと」

 

「私も食べるー!」

 

「はしゃがないの、破壊者。私も貰うわね」

 

 

皆が思い思いにクッキーを取っていく。

綺麗なクッキーを取っていくなか、処刑人姉さんだけが歪な私のクッキーを手に取った。

 

 

「ん?代理人にしちゃあ随分不格好だな。まあいいや」

 

「あ、それは…」

 

 

処刑人姉さんの声に思わず声をあげる。

それに気づかず処刑人姉さんはそれを口に入れた。

 

 

「お、うめえうめえ。やっぱ代理人の菓子はうめえな!」

 

「ふふ、それは私が作ったものじゃありませんよ」

 

「あん?」

 

「それは潜伏者が作ったものです。あなた達に喜んでもらえるように、と」

 

 

代理人姉さんの言葉に処刑人姉さんが私に近づく。

思わず動きを止めた私を処刑人姉さんは抱き上げて一緒にソファへと座った。

 

 

「流石は私の妹だ!料理のセンスもあるとはな!」

 

「お前は料理が壊滅的だったろう、処刑人。火を噴きあげさせて出禁になっていたはずだが?」

 

「うるせえ!潜伏者の前でそれ言うなって言ったろうが!」

 

「ふふ、潜伏者を褒めるのはいいが食べないのか?私が食べてしまうぞ?」

 

「あっ、錬金術師の姉貴!潜伏者のばっか食ってんじゃねーよずるいぞ!」

 

「ちょ、ちょっとー!私も潜伏者が作ったクッキー食べたい!」

 

 

一気に騒がしくなる部屋の中。

処刑人姉さんがクッキーを確保しようと私を脇に置いたところで代理人姉さんが話しかけてきた。

 

 

「ね?みんな喜んでくれたでしょう?」

 

「はい。…あの、代理人姉さん」

 

「何ですか?」

 

「料理、教えてもらえませんか?もっと姉さん達に喜んでもらいたい、です」

 

「ええ。喜んで」

 

 

代理人姉さんが快諾してくれたところで処刑人姉さん達に視線を戻す。

錬金術師姉さんが得意げな顔でクッキーを頬張り、処刑人姉さんは床に拳を叩きつけて悔しがっていた。

狩人姉さんと侵入者姉さんはちゃっかり自分の分を確保し、二枚ほどしか食べられず半泣きになっていた破壊者姉さんは夢想家姉さんに一枚渡されて慰められていた。

 

戦術人形らしくな願いだけど、こんな平和な日々が続けばいいな、と私は処刑人姉さんを慰めながら思ったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、訪れる運命の日。

 

「潜伏者、君の初任務が決まった。人間人権団体に潜入し内部工作をお願いしたい。特に武器庫となっている部屋の破壊工作は念入りに」

 

「了解しました。最新のハイエンドモデルの実力を示します」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「潜伏者。任務を言い渡されたようですね。…もしあなたがその日のうちに帰って来れるようであれば裏門から入りなさい」

 

「分かりましたが…何でですか?」

 

「軍の上層部が来るようです。なんでも製作中のハイエンドモデルを視察するのだとか。あなたはまだカタログにも載っていない機密の人形。軍に目を付けられないよう、裏門からこっそり入るように」

 

「分かりました。…新しいハイエンドモデルですか。私の妹になるのでしょうか?」

 

「男性型と聞いていますから弟でしょうね」

 

「楽しみです。…ではそろそろ。任務の準備がありますので」

 

「ええ。お休みなさい」

 

 

 

 

 

 

この時、私はあんな出来事が起こるだなんて想像すらしていなかった。

 




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