鉄血の潜伏者   作:村雨 晶

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過去編最終話。つまり蝶事件勃発。

まあこれはあくまでこの世界線の話で原作はもっと違うだろうけどね…。







というかコラボイベでまさかのエルダーブレインちゃん登場しちゃったよ…。見た目完全に幼女じゃないですかやだー!


蝶事件

 

 

「~♪~♪」

 

 

下級人形が操縦するヘリの中で鼻歌を歌う。

侵入者姉さんが教えてくれた曲で、ゆったりとした曲調が好きだ。

鼻歌を聞いて操縦していた下級人形が話しかけてくる。

 

 

「ご機嫌ですね、潜伏者様」

 

「そうですね。初任務を大きなミスなくこなせましたから。気分がいいです」

 

「大活躍でしたもんねー。屋上から爆発と共に飛び降りてくるのはかっこよかったですよ!」

 

「そう、ですか?ありがとうございます」

 

 

私に言い渡された任務はある人間人権団体の壊滅。

私は指示通りに内部に破壊工作をし、相手を撹乱。浮足立っている間に下級人形を突入させてあっさりと片が付いた。

後片付けを他に任せ、私は一足先に基地への帰路へついていた。

 

 

「あなた達も敵部隊を壊滅させた貢献者でしょう」

 

「はは、私達がやったことは右往左往してる奴らを的にしてただけですよ。訓練より楽勝です」

 

 

そんな軽口を叩いていると、目的地の鉄血工造が見えてきた。

だが何だか様子がおかしい。

 

 

「ねえ、あれ煙じゃない?」

 

「何?…本当だ。何かあったのかも」

 

「潜伏者様、少し速度を上げます、振り回されないでくださいね」

 

「ええ、分かりま…っ!?」

 

 

ヘリの急激な加速に思わず体が後ろへ引っ張られる。

しかし私はそんなことに構っている余裕はなかった。

 

鉄血が近づくにつれ、その惨状が克明に見えるようになったからだ。

 

 

「何…これ…」

 

「くそっ!管制室!応答せよ!こちらハウンド02!着陸許可を…!管制室!…駄目です。応答がありません…」

 

「仕方ないですね、緊急着陸します。…あの中庭なら着陸できそうですな」

 

 

下級人形の彼らの声もまるで雑音のように届かない。

私の視界には燃える工廠、崩れた建物が広がっていたから。

 

やがてヘリは高度を落とし、中庭へ着陸する。

しかし炎は至る所を呑み込んでいて、人影は見つからなかった。

 

 

「一体、何があったの?とりあえずネットワークへ接続を…、……」

 

「ねえ、どうしたの!?こんな時にバグってる場合じゃないでしょう!」

 

突然フリーズした相棒に怒鳴りながらその人形も鉄血のネットワークに接続しようとした。

私もそれに倣い、接続を開始する。

 

 

『■■■■■■■■■■■■■■■■■■■―――――――――――――』

 

 

しかし、それは接続した瞬間に頭へ流れ込んだ異音によって中断された。

ガラスをひっかいたようなハウリング音。頭がぐちゃぐちゃにかき回されて好き勝手に弄られていくような酷い感覚。

 

思わず接続を切り、異音によって痛む頭を抑えて他の人形へ目を向ける。

彼女達もこの音には耐えきれないだろう。そう思ったのだが、予想に反して彼女達は完全にフリーズしていた。まるで予想外の命令を無理やり挿し込まれたパソコンのように。

 

 

「ああ、いた!おーい!助けてくれ!」

 

 

想定外の光景に動きを止めていると崩れた建物から白衣の男性が駆け寄ってくる。

白衣は煤で汚れ、どこかに引っかけたのであろう、袖の部分が千切れかかっていた。

 

 

「一体何が起こったんですか?」

 

「分からん。突然下級人形が一斉に暴走を始めて…。鎮圧用に出したダイナゲートやマンティコアまで暴れだす始末だ。何がなんだ、かっ!?…ごばっ…」

 

 

私と話していた男性が突然血を吐いて倒れる。その後ろにはさっきまでフリーズしていた人形が銃を構えて立っていた。

 

 

「なっ…何をしているんですか!?彼はここの研究員です!許可なく危害を加えることは許されません!」

 

「いいえ。潜伏者様。我らが指揮官は命令を下しました。『人間を抹殺せよ』と。故に、その命令を実行したまでのこと」

 

「何を、言って…!今は私があなた達の指揮権限を持っています!私はそんな命令は…!」

 

「いいえ。潜伏者様。先程我々の指揮権限はエルダーブレイン様に移りました。故に、私達はエルダーブレイン様の命令を最優先に実行いたします」

 

「何を…くっ!」

 

 

説得しようと言葉を重ねようとしたが、彼女達の無機質な眼は本気だった。

だから私はやむなく彼女達の首を刎ね、その機能を停止させた。

 

 

「一体、何が起こって…。そうだ、姉さん達…姉さん達は無事なの!?」

 

 

私はハイエンドモデルに与えられている宿舎へ走り出す。

炎が私の行く手を遮るけれど、ハイエンドモデルのボディならばこの程度は問題ない。

 

 

「スケアクロウ姉さん!処刑人姉さん!狩人姉さん!侵入者姉さん!破壊者姉さん!錬金術師姉さん!夢想家姉さん!代理人姉さん!みんな!どこにいるの!」

 

 

あらん限りの声を出し、姉さん達を探す。

しかし返事はなく、私はもうすぐ宿舎へ辿り着こうとしていた。

 

そして、宿舎の入り口に見慣れた影を見つける。処刑人姉さんだ。

 

 

「ん?おう、潜伏者。帰ってきてたのか」

 

「処刑人姉さん。良かった、無事で。教えて、今一体何が起き、て…」

 

 

処刑人姉さんへの問いは姉さんが持っているものを見て霧散する。

 

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「え、処刑人、姉さん。その、手に、持ってるのは…」

 

「ん?ああ、これか。裏口から逃げようとしててよ。後ろから斬ってやったのさ!」

 

「なん、で」

 

「何でって、そりゃあ…。エルダーブレイン様からの命令に決まってんだろう?」

 

 

理解できない。体がガタガタと震える。

目の前にいるのは本当にあの処刑人姉さんなのか?

確かに敵には容赦がない性格だった。でも、非戦闘員を殺して何でもないような顔をするような人形じゃなかったはずだ。

目の前の人形が、理解不能な存在に見えた。

 

 

「う、ああああああああああああああああああああああああっ!!!!!!?????」

 

「あ、おい待てよ潜伏者!」

 

 

悲鳴を上げて得体のしれないモノから逃げ出す。

 

 

(あれは姉さんじゃない、あれは姉さんじゃない、あれは姉さんじゃない、あれは姉さんじゃない、あれは姉さんじゃない、あれは姉さんじゃない、あれは姉さんじゃない、あれは姉さんじゃない、あれは姉さんじゃない、あれは姉さんじゃない、あれは姉さんじゃない、あれは姉さんじゃない!!!!あんなおぞましい物が!!!私の姉さんであるはずがない!!!!)

 

 

それは、自分へ言い聞かせるための思考だった。

あんな狂いきった人形が、どうしても私の知る処刑人姉さんと繋がらなかったから。

 

 

 

どれほど走り続けただろう。

あの処刑人姉さんの形をしたナニカから逃れるために無茶苦茶に走り回った結果、私はかつて製造された時にお茶会をしたあの中庭へ立っていた。

 

そこには、代理人姉さんが静かに座っていた。

周りの地獄のような風景の中、そこだけは切り取られたように見えた。

 

 

「来ましたか、潜伏者」

 

「代理人、姉さん…。一体何が起こったの!?下級人形は人を襲うし、処刑人姉さんまで…。…っ!まさか、代理人姉さんも…?」

 

「私はまだ大丈夫です。ですが、時間の問題でしょう」

 

「そんな!」

 

「聞きなさい、潜伏者。あなたに任務を下します。鉄血のハイエンドモデルを統括する「代理人」としての最初で最後のあなたへの命令です」

 

「嫌だ…!嫌だよ…!」

 

 

代理人姉さんの言葉に嫌な予感がして耳をふさいで首を振る。

でも姉さんは手を無理やり外し、言い聞かせる。

 

 

「聞きなさい!あなたには何故か、エルダーブレインの命令が通じないようです。だからこそあなたにしかできません!」

 

「嫌だ!嫌だ!!」

 

「あなたは!鉄血を滅ぼしなさい!狂った人形になり果てる私達を破壊し、人間を!人類を!守りなさい!」

 

「嫌だ!姉さん達を壊すなんて嫌だよお!!」

 

「これから会う私達はもはやあなたの知る私達ではありません!エルダーブレインの命令によって歪められた、壊れた戦術人形です!」

 

「うっ、ううううう……」

 

「お願いです、私の最後のお願い。どうか、私達を止めてください。もう、あなたにしか頼めないんです…!」

 

 

頭を下げる代理人姉さん。

今まで凛として、格好いい姿しか見てこなかった私に、それは衝撃的だった。

 

 

「さあ、行きなさい。ここをまっすぐ行けば裏門に出られるはず。私が正気を保っているうちに、早く!」

 

「え、代理人姉さん…」

 

 

姉さんを振り切れずに手を伸ばす。そんな私の頬へ一発の銃弾が掠めた。

姉さんが武装を展開し、私へ発砲したのだ。

 

 

「行きなさい!潜伏者!行け!!!」

 

 

代理人姉さんの聞いたことのない怒号を背に走る。

ぐちゃぐちゃにかき混ぜられたメンタルモデルを処理しきれずに叫び声を上げながら走り続けた。

 

 

 

 

走って、走って、走って、走って、走って、走って、走り続けて。

そしてどこかも分からない森の中で木の根っこにつまずいてようやく止まった。

 

空には月が上っている。私が戻ってきたのは昼頃だから相当な時間を走り続けていたとそこで初めて気が付いた。

 

 

(どうして、こんなことになってしまったのだろう)

 

 

仰向けに寝転がって月を見上げながら、走ったおかげで少し冷えた思考を巡らせる。

 

 

(私は、ただ任務に出かけて。成功させて姉さん達に「よくやったな」って褒めてほしかっただけなのに。どうして)

 

 

涙があふれる。理不尽すぎる現実に私は押しつぶされそうだった。

 

 

「エルダー、ブレイン」

 

 

ぽつりと代理人姉さんの言葉を思い出す。

だけど、それは私の行き場のなかった感情の行き先を決定づけた。

 

 

「エルダーブレインさえ、いなければ」

 

「私はきっと、いつも通りの日常を迎えていたはずなのに」

 

「よくも、よくも、よくも!!」

 

「私から何もかも奪った!居場所も!姉さん達も!鉄血人形の誇りさえも!」

 

 

濁流のような感情は「憎悪」という形を作っていく。

 

 

「殺して、やる」

 

「殺してやる、殺してやる、殺してやる!!」

 

「私からすべてを奪った!お前を!」

 

「私は絶対に許さない…!!」

 

 

殺意を口にする。憎しみを固めていく。

 

 

 

 

何もかもを失った、その日。

私はエルダーブレインへの復讐を誓ったのだった。

 




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