目が覚めた。
起き上がって周りを見渡すとそこは病室のようだ。
最後の光景を思い出す。
忌々しいエルダーブレインの顔、夢想家姉さんからの攻撃、そして私を囲んだグリフィンの人形達。
てっきりそのまま破壊されるものかと思っていたけど、どうやら私は鹵獲されたらしい。
まさか武器を取り上げているとはいえ拘束もせずに寝かせておくとは思わなかったけれど。
「起きましたか」
扉が開き、人形が入ってくる。
確かこの人形は、スプリングフィールド、だったか。
「傷はペルシカさんが直しましたが、大丈夫ですか?痛みはありませんか?」
「大丈夫です。…何故私を壊さなかったのですか」
彼女は困ったように笑い、私の頭に手を乗せ、撫でた。
私はそれを振り払う気力もなく受け入れる。
「指揮官からのお願いです。『私を助けてくれた人形だから酷いことはしないでほしい』と」
「甘いですね。私は鉄血ですよ?」
「それでも、あなたが指揮官を助けてくれたのは事実でしょう?」
「……」
言い返せずに沈黙する。
あの指揮官を助けたのは事実だし、それが私の「未練」だったのは間違いない。
「ありがとうございます、指揮官を助けてくれて」
「礼を言う必要などありません」
私を撫でていた手をどかし、スプリングフィールドと向き合う。
しかし彼女の優しい目に見つめられてすぐにそらしてしまった。
「ふふ。指揮官、呼んできますね」
気恥ずかしさで目をそらしていると、また頭を撫でられる。
そして彼女は部屋から出て行った。
「はあ…」
ダメだな、と思う。
久し振りに好意的な人物に会って気が緩んでしまっている。
私は、エルダーブレインを破壊しなければならないというのに。
「え、えーっと、こんにちは…」
自分を戒めているとドアが開き、おずおずと私が助けた女性が入ってくる。
「き、気分はど「何故、助けたのですか」…」
目を泳がせておずおずと話しかけてきた彼女の言葉を遮って目を向ける。
彼女はグリフィン所属の人間のはずだ。いくら助けられたとはいえ鉄血の、しかもハイエンドモデルを匿って無事で済むとは思えない。
「お礼を、言いたくて」
「…そんなことのために?馬鹿ですかあなたは」
「えへへ、同僚からも向いてないってよく言われる」
「褒めてないですよ…まったく」
照れくさそうに笑う彼女に毒気を抜かれ、視線を逸らす。
「あなたは私が鹵獲した鉄血の人形ってことで上には報告してあるの。協力的で情報を何か引き出せるかもって。…だからね」
彼女は私の手をつかみ、私の目を覗き込むように顔を近づける。
「私に、話してくれないかな。なんで鉄血と戦ってるのか。あなたは一体何者なのかを」
まっすぐな瞳で私を見つめてくる。
これで私を陥れようと演技をしているのだとしたら相当な役者だ。
「…私の事情を話すのは構いません。現状では喋る以外に選択肢は無さそうですし。ですが、条件があります」
「条件?」
「現在の鉄血の指揮を行っているハイエンドモデル、エルダーブレインを私がこの手で殺すこと。その手助けをすることです」
「…分かった。グリフィンとしては鉄血の壊滅は最終目的だからね。それを総括してるハイエンドモデルは倒さなくちゃいけない。あなた自身が殺せるかどうかは…どうにかしてみるよ」
私の条件に返事をした彼女は近づけていた顔を離し、手を差し伸べる。
差し伸べられた手の意味が分からずに首をかしげるとじれったそうに彼女が口を開いた。
「自己紹介。これからは協力者になるんだから名前を知りたいんだけど?」
「…潜伏者(スニーカー)。斥候、および暗殺のために作られたハイエンドモデルです」
「潜伏者ちゃんね!私はレイラ。レイラ・ナカムラ。ここ、S09地区支部の指揮官だよ。よろしくね」
握り返した手をぶんぶんと振り、輝くような笑顔に、私は迎えられたのだった。