毎年聞かれるほしいもの
毎年伝えるおなじもの
そうなったのには理由があって…
(2014年9月、Pixivさまにて初公開)
「お誕生日、なにがほしい?」
9月5日、今日は夏の暑さが戻ってきて久々の強い太陽の光。歩いているだけで頭がくらくらしてくる。
さえぎる物がなにもない通学路。まぶしさにどうしても目を細めてしまって歩きづらい。
そんな時に聞こえてきたマナの言葉。
私はお行儀が悪いと思いながらも手のひらでひさしを作り、マナへと顔を向ける。
「ね、なにかほしいもの、ある?」
まるで、自分の誕生日であるかのように嬉しそうな顔をするマナ。
私の答えは決まっている。
それは、毎年同じお願い。
「マナと一緒にいる時間」
口にすると、自分の言葉に恥ずかしくて顔が赤くなりそう。
でも、マナはもっと嬉しそうな顔をして「うん、いいよ」って答えてくれるから、恥ずかしさよりも嬉しさがあふれてくる。
「ありがとう」
私も満面の笑顔で答えた。
毎年同じお願いになったのは、小学校3年の誕生日に起こったある出来事が理由だった。
この日の夜ご飯は、特別だからってパパもママもいて、私の好きな物ばかり揃って、プレゼントにその時一番欲しかった本をもらえて、とても幸せな時間だった。
でも…それは食後のケーキを切ろうかというちょうどその時。
突然に鳴るママの携帯電話。
少しだけ困った顔をすると席を立って電話に出る。
あの「医療用」の電話が鳴るとき、ママは決まって病院に駆けつけるのを知っている。
せっかくの私の誕生日なのに何で今日なの? なんでこの時間に鳴ってしまうの…?
行かないで、って思わずわがままを言いたくなってしまう自分を押さえて、電話を終えたママのそばによる。
「ごめんね、六花」
その言葉に私は「やっぱり」って思う。
「病院に戻らないと」
残念そうな顔のママ。私も同じ顔をしていたと思う。そして、パパも残念そうな顔。
でも、私はママのお仕事が好きだから。素敵なお仕事だし、私の憧れだから、わがままは言えない。
「気をつけて、ママ」
バッグを手渡すと、私の頭を優しく撫でてくれる。
玄関から出て行くママは、最後にもう一度だけ顔をのぞかせて、
「本当に…ごめんね、六花」
そう言うと扉を閉めた。
ぱたり、と響いたあとに残る静けさ。それは、ばたばたとしていた時には気づかなかった寂しさを急に感じさせて、徐々に私の心を覆いつくしていく。
「六花、ケーキを食べよう」
リビングから届く優しいパパの声がとても遠くに聞こえる。
私は寂しさに押しつぶされそうになって、そして、どうしたらいいかわからなくて、今までの楽しかったリビングに戻る気にもなれなくて…扉を開いて外に出てしまった。
十五夜が終わったばかりのお月様はまだ明るく外を照らしてくれている。
でも、月の光に青白く沈む街の景色は、まるで冬のようで寒々しく感じる。
そして、自分も全身が仄青く染まり街中と全く同じ色に沈んでいるのに気づいて、このまま街中に自分が消えてしまいそうな気持ちになる。
私はその怖さに一歩も動けなくなってしまった。
家に戻った方がいいのかな?
そう思ったけど、ママがいないおうちは寂しい。
でも、外にいたらどうなってしまうかわからなくて怖い。
どうしたらいいの? どうすればいいの?
私はどうすることもできず、ただ、月の光に全身を照らされて、全身仄青く光らせて、立ちつくしていた。
地面を見つめて、青く染まる足元を見つめて、小さくため息をついたその時、私の腕を優しく握りしめる手があった。
突然のことに驚いたけど、その手が優しかったから、暖かかったから、そして、私の腕と同じ青い色をしていたから、ふりほどこうとは思わなかった。
そして、視線をゆっくりとその手からたどっていくと、優しい顔をしたマナ。瞳に明るく黄色い月が映り、暖かさを感じる。
ゆるやかに風が吹いて、マナの髪が揺れる。
マナはなにも言わない。私もなにも言えない。
ただ、じっと私を見つめるマナ。私も見つめ返すだけ。
瞳に映る明るい黄色から視線がはずせなかった。
しばらくそうしていたかと思うと、マナは手をすべらせて私の手を握る。
そして、ゆっくりと歩き出す。マナの家に向かって。
優しいけど、有無を言わせないようなマナの力。
私は導かれるようにマナの家の玄関をくぐった。
「あ、と…おじゃまします…」
蛍光灯に照らされる玄関に入ると、それまでの沈みそうな気持ちが消えて、いつもの自分に戻るのを感じた。
それと同時に沢山の心配ごとが頭に浮かんだ。
勝手に家を出てきちゃったけど大丈夫だったかな?
パパは心配していないかな?
こんな夜遅くにお邪魔して大丈夫だったのかな?
きちんとマナのパパとママにご挨拶しないと…
そんな沢山のことが頭の中に浮かぶけど、そのままマナの部屋まで連れられてしまう。
私を引いていくその手は、強くはないけど暖かさと優しさにあふれていて、だんだんと心配ごとは消えてしまった。
マナの部屋は、外から月がのぞいていて青く染まっていた。マナに腕を握られるまでの私みたいに。
うながされて、青白い部屋をゆっくりと歩き、部屋の真ん中にあるクッションに座る。
それと同時に灯りがともされる。
私はまぶしくてぎゅっと瞳を閉じてしまう。
と、マナに正面から抱きしめられてしまった。
マナの暖かさが体に流れ来るような感じ。
そのあまりの暖かさに、優しさに、涙があふれてきた。
マナの背中に腕を回す。すると、マナは優しく背中を撫でてくれる。
暖かすぎて、優しすぎて、もう我慢できず、マナの服が濡れてしまうことも気にせず、声を上げて泣いてしまった。
「せっかくの誕生日なのにね」
マナは私の手をぎゅっと握り、瞳を見つめながら言う。
まだ、少しだけしゃくりあげていた私は、涙を手で拭きながら、何度も、何度も、うなずいた。
本当は寂しかったこと。本当はママにもずっと一緒にいてほしかったこと。一緒にケーキを食べたかったこと、全部、全部、マナに伝えた。
マナはひとつひとつ、優しく受け止めて、沢山なぐさめてくれた。
そのマナの優しさに、ずっと続く涙を止めることができなかった。
「ね、六花」
優しい声が耳元でささやかれる。
私はマナの胸に抱かれたまま、顔を上げる。
「あたしが、来年も再来年も、ずっと、ず~っと、六花のお誕生日に必ず一緒にいてあげる」
私は嬉しさと驚き、半分半分の気持ちになる。
「本当…?」
「うんっ!」
マナの優しさに満ちた顔、強い意志を感じる声。
あまりの嬉しさに、もう一度、マナの胸に顔を押しつけて泣いてしまった。
それから毎年、ずっとマナは約束を守ってくれた。
小学校高学年になって児童会に入って忙しくなっても、中学校で生徒会に入り沢山の仕事に追われるようになっても、沢山のお願い事をされて学校中を走り回っても、プリキュアになって沢山の出来事が起こっても…必ず誕生日の夜には私とふたりだけの時間を作ってくれた。
マナのお部屋で、私は夢や目標、沢山の新しい気持ちを伝える。
マナは優しい顔で聞いて、助言を、そして、応援をしてくれる。
その時間は、とても尊く、とても大切な、そして、とても大好きな時間。
お話のあとにはマナが一生懸命作ってくれたケーキ、そして、丁寧にいれてくれた紅茶。
その気持ちが、優しさが、とても嬉しかった。
今年もマナは約束を守るって言ってくれた。
とても嬉しいし、楽しみ。
だけど…心配事がひとつ、私の頭の中に浮かぶ。
それは、来年、それぞれ違う学校に行くことになったら誕生日の夜はどうなるのか。
お互い、時間が合わなくなってすれ違うようになってしまったら、今まで過ごしたような誕生日はもう訪れないんじゃないかって、そんな心配事。
それは仕方のないことだって、いつかは訪れることだって頭の中ではわかっているけど…
「六花? 遅刻するよ」
その声で考え事から戻ると、マナは少し先を歩いていた。
慌てて駆け寄ると、マナは私の手を握ってひっぱる。
その手から流れ込んでくるマナの優しさは昔と変わらないのに気づき、私は私の本心に気づく。
これからもずっと、この暖かさに導かれて、ずっと一緒にいたい。
毎年、毎年、これからの誕生日も、ずっとマナに一緒にいてほしい。
頭の中には沢山のわがままな言葉が出てくるけど、マナの夢はとても素敵で、私も応援したいから。
私のわがままでマナの夢がかなえられないのは嫌だから。
だから、わがままは言わない。
その分、一緒に過ごすのは最後になるかもしれない今年の誕生日は、わがままを沢山言ってしまいそう。
そんなことを思いながら、マナの手に導かれて校門をくぐった。
優しいマナの手に、不安な将来に、あふれる涙を拭いながら。
「六花」
玄関で靴を履き替えようとしゃがむと、不意に呼びかけられる声。
私は見つからないように涙を拭って顔を上げると、マナの背中が目の前に。
「大丈夫だよ」
背中越し、強い意志を感じる言葉。
「あたし、絶対に約束を守るから」
振り向いた顔は自信に満ちた大好きな顔で、
「信じて!」
私は全部気づかれていた恥ずかしさよりも、マナのその言葉に嬉しさがあふれてしまう。
私は何度も何度もうなずく。その、マナの言葉に。
嬉しさの涙を頬にこぼしながら。