今から三百年以上前のこと。この頃の世界は、人、鬼、神、天使が共存していた。当然国によっては差別が起きていたが、その差別が戦争を引き起こすような事態になるほど過激なものはなかった。
そして現在で、奇跡は起きた。
この世で唯一平和であると謳われている国、蓮の国。その中の一つビャクレンで三人の少年が歩いていた。透き通るような青い空、空気さえも穢れのない街だった。道の途中で立ち止まると、三人の旅人のうちの一人が深呼吸をした。黒と毛先が真紅に染まった長髪に、血のような真っ赤な瞳と漆黒の瞳をした童顔の少年、暁修羅だ。その隣で修羅に倣って深呼吸をした白と紫の狩衣と切り揃えられたセミロングの黒髪とアメジストのような紫の瞳の少年、#砂隠__スナガクレ__#シャオ。その後ろで街並みを興味深そうに見回す水鏡色の長髪をゆるく一つに束ねた同色の瞳の二人と比べて断然幼い小柄な少年、#鏡國鳳魔__キョウゴクホウマ__#。この三人で旅をしていた。穏やかな雰囲気のリーダーの視線の数キロメートルほど先に、洞窟が見えた。ここに来るまでは、結界が張られてあるのか見えなかったが、この街に入れば容易にその洞窟の姿を見ることが出来た
「あそこかな・・・」
「リーダー?」
「向こうに洞窟があるんだよ。シャオ、見えてる?」
「私を誰だと思っているのだ」
「だよね~」
修羅は苦笑を浮かべながらそう言った。上から物を言ってくるシャオは、人間ではなく、この世のあらゆるものを司る神たちを統べる神帝だ。偉そうな口を利いてくることは長い付き合いである修羅と鳳魔からすれば慣れたものだが、知らないもののなかには一部、腹を立てる者もいるが、それでも大多数の者に嫌われないのは、本人の雰囲気だろうと修羅はいつも思っている
「ここだよね」
「洞窟ですよね?」
「ここに何かあるんだよね」
この街に何かがある、と言ってここまで連れてこさせたのは彼らの見た目だけは若いボスだ。修羅たちの前に現れたのは、ただの洞窟だ。シャオも領域系の眼を持つ鳳魔も、洞窟の中に何かがいる、と言った。
「こんなところに住んでいる人いるの?」
「まあ、あの方が仰るのですからいるんでしょうね」
修羅たちは、シャオを先頭にして洞窟のなかへ入っていった。その瞬間、目の前が真っ白な光で覆われた。反射的に目を瞑り、目を開けてみれば、そこは楽園とも呼べるような美しい世界が広がっていた。しかし、どこか閉塞感がある。光の下で輝く緑も、キラキラと様々に色を変える青も、穢れのない美しいものだった。そんな世界の中心にユグドラシルのような大樹が生えていた。下には真っ白な屋敷が建っていた。
「すごいなこれ・・・」
「誰か居らんか?出てこんか!」
「ちょっとシャオさん!そんないきなり偉そうに催促します?」
鳳魔の言葉も聞かず、シャオは屋敷の扉を開けて入って行ってしまった。二人も仕方なくシャオに付いて行った。
「勝手に入ってすみません・・・」
鳳魔は申し訳なさそうに言った。
「おや、何方です?」
突然背後から声が聞こえ、三人は弾かれたように振り返った。そこにいたのは、この世のものとは思えないほど美しい人だった。夜色の長髪と翡翠色の瞳の性別不明、種族も不明の美しい人。
「あ、勝手に入ってすみません、俺は暁修羅っていいます。この二人は黒髪のセミロングのほうが砂隱シャオ。水鏡色の子が鏡国鳳魔」
「私はエデン・フィルアリアのアースと申します」
エデン・フィルアリア。修羅は、その呼び名を聞いたことがある。
「あ、楽園の守護天使だ」
修羅がそう言うと、アースが可愛らしく拍手をした。楽園の#楽園の守護天使__エデン・フィルアリア__#とは、宇宙に存在する天体の#核__コア__#であり、『鳥籠』と呼ばれる場所に住まう神聖天使だ。その身分は、下手をすれば神よりも上だ。ただ、その天使の姿を見た者はまだ誰もいないという。その存在は、邪な欲を持つ組織が狙っていて、血眼になって探しているという。その存在が今、修羅たちの目の前にいるのだ。
「君が種族言ったし、俺たちも言わないとね。俺は、鬼神のシュラだ」
修羅は、鬼神なかでも群を抜いた破壊力を持つ鬼で、闇の組織も恐れるほど。仲間の鬼は、憧れとして見るが、人間は怖がる。そのため、鬼神という身分にいる者のみ、その姿を潜める。
「私は、全神界の主神帝砂隱シャオだ。よろしく」
シャオは、神に恐れられるはずなのだが、性格と人の良さから神から慕われ、仲間も多い。ただ、やはり人間からすれば神帝はやはり畏れ多い存在になってしまう。
「僕は、#世界図眼__ワールド・アイ__#を持つただのしがない発明家、鏡国鳳魔です」
ワールド・アイを持つ時点で、ただのという言葉を使うのは適切ではない。謙虚のつもりだろうが、ほとんど無意味だ。
「あれ?鳳魔くん自分から喋れるの?」
「この人は、あなたたちと同様、眩しいくらい優しいですよ」
喋れなければ、修羅が代わりに紹介しようと思っていたのだ。しかし、トラウマから対人恐怖症で、警戒心の強い鳳魔が自分から名乗ったのだ。付き合いの長い二人も驚いた。
「みなさんお若いのにすごいですね」
アースは、キラキラと瞳を輝かせ、そう呟いた。アースはそう言うと、クルリと一回転した。すると
──バサッ!
音を立てて翼を見せた。八枚の羽、一対ずつ色が違うのだ。赤、青、緑、黄色だ。それぞれの色が象徴する属性がある。赤な火。青は水。緑は風。黄色は土。つまり、この天使は四つの属性が使えるということになる。
「あなたたちは何をお使いに?」
「結構色々使えるけどね。俺は主に破壊と火と雷だよ」
鬼神は、属性は影だ。何よりも光と闇に近い稀有な存在だ。影は単純に万物の影を操ることも出来るが、破壊に秀でている。そして炎は赤ではなく黒だ。影の属性と融合し、黒く変色する。その熱はマグマに匹敵する。
「僕は時空です」
「私は光と風と水とか」
「私は、影と闇以外は使えますよ」
この中にいる者は、大体のものは使えるが、究極の属性と呼ばれるものは、光属性は光のみ。影属性は影のみと決まっているのだ。
「俺たち、組織に属してるんだ」
「組織ですか?」
「俺達の他にもあと何人かいるんだけど 、みんなで光と闇の均衡と平和を維持するための組織」
修羅たちの役目は主に平和を維持することだ。均衡はボスの役目である。
「この国に組織の本部があって、やっと帰って来れたところ」
「組織のおかげでこの国が安泰なのですね」
「うぅーんとね、俺らのボスのおかげ」
「何という強く優しい守護かと感心しておりました」
いつまでも続く恐ろしいほど強力な結界は、この国から闇の存在を拒んでいたのだ。霞んでいたのは、この国の周りに見えない結界があったからなのだ。アースはようやく納得した。しかし、その強力な結界を張った本人はボスである
「君は、ずっとここにいるの?」
「はい」
「出たいって思わないの?」
「いつも思います。しかし、出られないのです」
出たいと思っていても、出る術が無かったのだという。そのため、永遠とも思えるような期間ここにいたのだ。その寂しさは、誰も理解できないものだ。この場所にたった独り。この場所に気づいてくれる者もいない。そんななか、とうとう現れたのだ。
「よし、一緒に行こう」
「え?」
「自由になろうよ!」
修羅は、目の前にいる天使に手を差し伸べ、明るく言った。後ろの二人も、コクリと頷いた。アースはその時、この少年がリーダーであると察した。この穏やかで優しい雰囲気や行動が、仲間を守って来たのだろう。そう思ったのだ。
「じ、ゆう?」
「鳥のように籠の中に閉じ込もってどうすんの?君には綺麗な翼があるじゃない!その翼は、君を自由にするためにあるんだから」
「・・・!・・・」
これまで、ただこの狭い場所で飛び回るためだけに使っていたこの翼で、鳥かごから飛び出し空に飛び立とう。修羅はそう言った。あまりにも強い言葉。
「あ、りがとう・・・」
「ふふっ、さ、行くよ!」
修羅は、アースの手を引いてシャオがここだと言う洞窟の出口まで走った。そして、またしてもあの白い光。目を開ければ、そこはビャクレンだった。
「こ、れは……」
「これが外の世界だよ」
あの場所よりも果てしなく広い空に、永遠に続いているように見える道。見たこともないような建物が林立していた。
「あまり翼広げないでね?」
「分かってますよ」
「あ、リーダー」
ビャクレンの旅館から現れたのは、組織の三人の仲間。深海のような髪に緋色の瞳をした少年キルア。彼は、この世で唯一無二ともいえるアストラルを操る存在。毛先を巻いた金色の髪に翡翠色の双眸の少女白城輝夜。彼女は、見目麗しい美少女ながら、大国随一の剣豪で姫君だ。そして、鳳魔と瓜二つの銀髪とアイスブルーの瞳の少年は鏡國耀魔だ。彼は組織一の腕を誇る医師で、鳳魔の双子の兄である。
「ボスに導かた先にこの子がいたよ」
「宜しくお願いします」
恭しくお辞儀をするアースに驚きながらも、他のメンバーもよろしくと笑顔で迎えた。
この日、奇跡は起きた。
全てのコアが揃ったのだ。そして、幕は上がった。
───
首都スイレンの寺の縁側で優雅にお茶を啜る青年がいた。その青年は、年中枯れることなく咲き続ける蓮池の、薄いピンクから濃いピンクへとグラデーションとなっている蓮を見つめていた。
「ふむ、よかった。無事に保護できたようだな」
一つの蓮の上に朧気な光が灯っていた。そこに映像が映し出されているのだ。この光から修羅たちの状況を把握した。可憐な天使を無事に保護した様子を見、その後彼らがキルアたちと合流したところで映像を遮断した。
「鬼神のコア、神のコア、人のコア、天使のコアが揃ったか。ふふっ、#闇__テネーブル__#たちよ、そう簡単には侵略させぬ」
柔らかいそよ風が頬を撫で、黒から白のグラデーションとなった髪を遊ばせる。その風に触れるように手を翳すとその風からウサギのような生き物を召喚した。
「其方の役目は天使の援護だ」
「はーい」
可愛らしく手を挙げるウサギを優しく撫でてやるとそっと膝の上に置いた。
「さてと、#宇流__ウル__#」
「はい」
呼びかけると瞬時に傍らに黒髪に青のメッシュが入った若い男性が現れた。その男性を手招きをし、耳元で呟いた。
「頼んだぞ」
「承知いたしました」
「無理はするな」
主の気遣いに頷きで応えると、男性はその場からすぐに立ち去った。
「お、帰ってきたようだな」
青年は少し覚めてしまったお茶を上品に啜り、お土産でもらったお茶菓子に手を付け始めた