FAIRY TAIL~杖遣いの魔導師の物語~ 作:塩谷あれる
「はぁ…なんかもう、色々疲れちゃった…」
あの後、店を出たルーシィは、その道で魔法専門誌『週刊ソーサラー』を買ってへたりとベンチに座り込んだ。無理も無い。この数十分の中で色々と驚くことが多すぎた。
「まーた
ペラ、ペラと雑誌をめくっていくと、またも
「あ、これ…
「
「へぇー…君、
「!!!」
突如後ろから声をかけられ、身構えるルーシィ。そしてそれは、正解だったと言えるだろう。何せその声の主は、先程クラウトが話題に出し、気をつけろと言っていた男だったのだから。
「サ…
「いや~探したよ……君のような美しい女性を是非我が船上パーティーに招待したくてね」
「こ、来ないで!」
ルーシィは咄嗟に腰の鞭を取り出した。
「おいおい、別にそんな風に身構えなくたって良いじゃないか。ただ僕は君をパーティーに誘おうとしただけだよ?」
「とぼけないで!あたし、知ってるんだから!アンタが
キッ、と
「おやおや…どうやら君は、知ってはいけないことを知ってしまったみたいだねェ。どこでそれを知ったのかは知らないが、いけない子だ…」
そう言うと
「ぐっ…何、これ…」
「秘密を知られたからにはただじゃあおかないよ、お嬢ちゃん。君には少し眠ってて貰う」
あまりにも強烈な眠気。全身に鉛のように重い何かがのしかかり、思考がたちまち鈍っていく。最早、立っていることも覚束ない。
(ダメ…寝たら、あたし、も…)
必死の抵抗も虚しく、ルーシィはその場に倒れ込んでしまった。それを見て
「ククク…見れば見るほど上玉だ…
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「…う、う~ん…あっ!!こ、ここは!?」
暗い部屋の中でルーシィは目を覚ました。自分の体を確認すると、どうやら手足を縛られていることがわかる。鍵は回収されていないようだが、これでは身動きは出来なさそうだ。
「ここ、どこ…?」
「船の上よ。あのクソッタレ魔導士の、ね」
「え?」
突然聞こえた声に振り向くルーシィ。するとそこには、控えめながらも高価そうな服に身を包んだ、ルーシィと大して年齢も変わらなそうな少女がいた。後ろ手で手を縛られており、ルーシィよりは体の自由度は高そうだが、ドアを開けることすらできない状況では、逃げることは難しそうだ。
「貴方、は?」
「私はリーゼ。あのクソッタレに騙された女よ…貴方と同じ…では、無いかもしれないけどね」
リーゼと名乗った少女は、どこか皮肉めいた笑みを浮かべて言った。その顔には、皮肉の他にも、諦めの感情も見える。
「あのクソッタレはこの船を使ってボスコとかカ=エルムとか…そこら辺の隣国に攫った人達を奴隷として売り捌いてるみたい」
「奴隷…なら、なんで貴方はここに?」
「わからない…って言いたいところだけど、思い当たる節はあるわ。まぁ私、こう見えてもちょっと名のある家の娘なのよ」
ホントにちょっとだけどね、とリーゼは呟き、それから続けた。
「もしあのクソッタレが私を利用しようとしてるんなら、多分お父様にでも掛け合って身代金でも頂こうって算段なんじゃないかしら。それか、自分のやってることの隠蔽を手伝わせてるか…まぁ、どちらにせよロクでもないけどね」
リーゼの話を聞いて、ルーシィは先程のクラウトとの会話を思い出していた。先程彼は、確かに言っていたのだ。とある名家の当主が、娘の捜索、及び犯人の捕獲をギルドに依頼した、と。
(そっか…この子が、クラウトが言ってた『名家のお嬢さん』なんだ)
そこまで考え、ルーシィはある一つのことに気がついた。
(そう…そうだ!よくよく考えたら、クラウトの仕事は『
船上パーティーは夜に行われる。恐らく彼も、そのタイミングで仕事を始めるだろう。
(夜まで耐えれば、助けが来る─!)
希望があることを理解したことで、若干心に余裕ができたルーシィであった。
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時は過ぎて、まだ涼やかな風の吹く夜。フィオーレ全体を見ても広大な面積を持つハルジオンの港と、そこを根城とする数々の船。その中でも一際目立つ客船に、多くの若い娘達が群がっていた。その中心には、どこかで見たような薄っぺらでキザったらしい笑みを浮かべた魔導士がいる。
「よし、アレで間違いはなさそうだな…さっさと仕事を終わらせるか」
『ねェねェクラウト』
「なんだよミケ、どうかしたのか?腹減ったんだったら後にしろよ」
そんな船と人集りを、そのそばの船の陰から見ていたクラウトとミケだったが、急にミケがその形の良い耳をピン、と立ててクラウトに話しかけた。
『ボクは腹ぺこキャラじゃないヨ!じゃなくテ、さっきあの船の周りの魔力反応を
「二つか…魔力のデカさはどうだ?使う魔法の性質…は範囲外だから無理だが、そっちはわかるだろう?」
『片っぽは、そうだネ。昼間のあの女の子位の、平均を下回る位の魔力カナ。もう片方は更に小っちゃいネ。市販のちょっと高めな魔道具と同じ位』
「んー、ま、それ位なら大丈夫だァな」
そんな、まるでこれから遊びに行く友人同士のような気の軽さで話し合う一人と一匹。その表情に、凡そ緊張、怯え、そんなものは微塵も見えなかった。
「じゃ、そういう訳だ。行くぞミケ。
『オッケークラウト。いつも通り行コウ』
クラウトは、自分の頭をすっぽり包むようにローブのフードを被り直す。その途端、二人の姿は跡形もなく消え、ただ少しばかりの風が流れていくだけだった。
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