てな訳でもしょもしょ進めていきます。
〜Out side〜
キーボードを打つ音が響く。
「時雨さん、これ。」
「あぁ、ナノマシンへの転用の件ですね。進捗としては90%と言ったところです。」
「どこで詰まってるんですか?」
「詰まっていると言うよりは加工に時間がかかると言うところですね。トライに時間がかかるだけで理論自体に間違いはないようです。」
「と言うことは……」
「加工が終われば完成となるでしょう。」
時雨と呼ばれた女も男……織斑秀十もキーボードを打つ手を止めない。目線もモニタから動かさない。が、秀十は抑えきれないと言わんばかりに口の端を歪める。
「今日中にはできないでしょうし今日はもう帰宅されては?もう20時ですし……奥さんとお子さんもお待ちでしょう?」
「っと、もうそんな時間かぁ。」
そう言って秀十は帰り支度を済ます。
「じゃあお言葉に甘えてお先に失礼します。」
「えぇ、お疲れ様です、織斑主任。」
閉まった扉の向こう。部屋の中で女は笑う。
加工に時間がかかるのは本当だが今日できないなんて嘘っぱちだと。
〜桜叶side〜
「さて、どうしたもんかねぇ。ねぇ?アレスさん。」
「どうしたも何もないですよ。50ページもあるんですからまだ読み終えてません。」
「あ、それは失敬。にしても驚いたなぁ。」
束ちゃんが時結晶に変化をもたらしたのが一昨日。で、レポートとして文書を出したのが昨日の夜。
24時間にも満たない。どころが学校の時間、睡眠や食事の時間を考えるとはるかに短い。短すぎる。
「三輪さん三輪さん。束ちゃんに書き方ってどれくらい教えた?」
「必要な情報の種類と最低限のマナー程度です。」
「しかもほぼ記憶と思考から引っ張り出してるのでしょ……この文章。」
レポートには計測できていた固有振動数についてと窪みについて、その窪みによって迷路が作られていることやその迷路が一定周期で変化するということが書かれていた。
それはいい。が、問題は社外に持ち出せないはずの情報もふんだんに盛り込んで書かれていることだ。
「語彙、考察における思考力、文章の構成。彼女本当に天斗と同級生?」
「それは社長が一番ご存知かと。」
「まぁそれはそうだ。……と、アレスさん。」
「……なんですか?」
読んでるところ申し訳ないけど
「国に束ちゃんのことってどれくらい伝えてる?」
「……非常に頭がいい少女が解析に参加しているとだけ。」
「なるほど。」
ならいいかぁ……。あと篠ノ之束さんへの報酬何か考えないとなぁ。
〜束side〜
レポートは送ったけどしばらく来ない方がいいと言われたので道場で素振りをする。
「……束。」
「?どうしたのお父さん。」
「少し鋒がブレている。ここのところあまり振れてなかったのだろう?」
少し見ただけでここ数日素振りもできていなかったことを言い当てられる。
「うん……。少し忙しくて……。」
「そうか……。なぁ、束?」
「どうしたの?」
珍しく少し不安そうに……。何かを探るような
「私は束に篠ノ之道場を継げるよう、様々なことを教えてきたつもりだ。」
「うん。」
お父さんから教えられたことは多い。
礼節から始まり剣術、神楽舞、無手などの古武術。まだ十全に扱うことはできないけど全部覚えた。
「そして束はそのほとんどを吸収している。そうだろう?」
聞きつつも確信を持った問い。
「うん……。一度教えてもらったことは記憶はしてるよ。まだできないこともあるけど……覚えてる。」
「……うん。それで……だな……。」
「?」
「それは……正しかったのだろうか……。」
「どういうこと?」
自分の子供に対してじゃない。
「束がどんなことをしてたか……桜叶さんから逐一報告をされていたんだがな。」
「うん。」
桜叶さんとの約束の一つ、親を心配させないために必要と思ったことは報告するというものに当たるものだろうなー。
「その、なんだ……私には詳しいことは分からなかったが……桜叶さんの話を聞くと束がとても活き活きしてると感じたんだ。」
「うん……すごい難しくて……楽しかったよ。」
「それでな?私がしていたのはただのエゴだったのかもしれないと思ってな。」
「エゴ……?」
「この道場を継いでほしい。私はそう思って束に稽古をつけてきた。でもそれは束の感情を無視したものだったのかもしれない、と思ってな。」
「それは……違う、と思う……。」
本当は違うと言い切れればいいんだろうけど言い切れない。それは私の物心付く前から行われてきた習慣に近いものだから。それでも
「私は稽古が大変だとは思ったことはあるけど、嫌だと思ったことはないしそれがお父さんとの大事なつながりだと思ってるよ。」
「束……。」
「だから、これからも稽古……ご指導の程よろしくお願いします。」
「……そうか。分かった。」
ずっとお父さんと続けてきた絆みたいなものだと思う。というかそうだといいな。
〜桜叶side〜
「桜叶さん、お待たせしました。ようやく読み終わりましたよ。」
「お疲れ様ですハスターさん。読んだ感想としては……?」
「まず鉱石についてですが……レポートにもありましたがエネルギー源として使うにはあまりにも不安定すぎるかと。」
「不安定ですか。」
「えぇ。固有振動数が変動する。これによってエネルギーの質まで変動してしまう。電気エネルギーだと思っていたものが熱エネルギーに変化してしまっては電子レンジは動きません。」
これは束ちゃんのレポートにも書かれていたしエネルギーの放出を計測した際にも各計測器が周期的に動いたことからも出された結論だ。
「そして、篠ノ之束という人物についてですが……天才……の一言で片づけることすら烏滸がましい天才と感じました。」
「天才。ねぇ。」
「瞬間的に見たもの、聞いたことを記憶できる人間というのは確かに存在します。が、彼女はその性質を扱い切れているように感じます。それに……未知への対応、拡張もできるかと。」
「それに関しては同意見です。彼女は10聞いて10を理解し100へと拡張ができる。私はそう思っています。」
「やはり……。」
「そしてここからは本人にも言ってませんが……」
「彼女への報酬……ですか?」
「はい。」
アレスさんもどうしたものかと言った顔で唸る。わかる。わかるよぉ。まーじでどうしよう。
「一応……彼女の所属としてはどうなってるのでしょう?」
「一時的な研究員……バイトに近い形ですね。ウチに籍はないけど形式としては入っている。そんな感じです。」
「……これは世界初の快挙となります。ルクーゼンブルグ公国そのものの価値が上がる可能性がある出来事。……おそらく国王直々に報酬が支払われる可能性が高いです。」
「なるほど……。……ん?」
「どうしました?」
「いや……束ちゃん1人で外国に放り出すわけにもいかないよなぁと。」
天才と言われても彼女は子供なんだし、最大の功労者といえど……うーん。
「1人……?桜叶さん来ないつもりなんですか?」
「え?僕も行けるんですか?」
「私は
「あー……完全に結果出せなかったから行けないかと。」
「それに保護者は必要でしょう?」
「最悪自費で行こうかと。」
「経費使いましょうよせめて……。」
「あっ。忘れてた。」
「はぁ……。」
まぁ行けるならいいや。アレスさんの冷たい視線からは逃げとこう。
〜束side〜
桜叶さんから電話がかかってきた。
「束ちゃん今大丈夫?」
「はい、大丈夫です。」
「連絡事項としては明日会社に来てほしいだけなんだけど……」
「わかりました。10時からでいいですか?」
明日は土曜、学校もないから朝から行ける。
「うーん、柳韻さんと来てほしいんだ……。」
「お父さんと……」
「今柳韻さんいる?」
「います。呼びますね。」
「お願いします。」
電話を保留にしてお父さんを呼びに行く。
「桜叶さんが?」
「うん。明日お父さんと直接会って話がしたいみたい。」
「珍しいな……大体メールが来るだけだが……。」
そう言ってお父さんは電話を取る。
「もしもし、変わりました柳韻です。…………はい、…………はい、それはもう……はい、明日は昼からになってもよろしいですか?……ありがとうございます。それでは失礼します。」
桜叶さんの声は聞こえないけどお父さんは明日の昼から何か……多分桜叶さんの会社に行くんだろう。約束をしていた。
「束、明日の昼桜叶さんの会社に来てくれと言われたが……」
「そうなんだ。」
「桜叶さんの会社で何か失礼なことはしてないだろうな……?」
「そんなことしてないよ。大丈夫。」
それは自信を持って言える。
「……ふっ、だな。桜叶さんも穏やかだったし何か別のことだろう。明日は稽古を早めに切り上げなくてはな。」
多分鉱石についてだろうけど……まだ言えないよね。
14話目「夢への一歩」を読んだ方へ質問です。今回視点切り替えの数が多いかなと思ったのですが皆さんからしたらどうでしたか?
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多くて読みにくい。
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多いけど読める。
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ちょうどいい。
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少ない。