やはり私の先生は間違っているようで間違っていない。   作:黒霧Rose

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9話 二代目は実行委員

夏休みも過ぎ、二学期が始まったある日、私は『文化祭実行委員』に抜擢された。

 

 

ここで私には2つ、不安なことがある。

 

1つ、F組の相模さんが実行委員長になったことだ。立候補の際、『自身の成長ができたらと思います』と言っていたけれどその後に周囲の人と『ノリでなっちゃったー』と話していたので、とても不安だ。

 

 

2つ、比企谷先生が居ないことだ。比企谷先生は文化祭の1週間前くらいまで長期出張ということで栃木県に行ってしまっている。なんでも、向こうの高校の授業を見学したり、同じ国語科教員と話し合いをすると言っていた。

 

正直になろう。比企谷先生が居ないと、私は少し寂しく感じてしまう。学校の廊下を歩いてもすれ違うことはなく、職員室に行ってもアホ毛を生やした後ろ姿を見ることができない。なんと言っても部室が居心地が悪いとまではいかないにしても、なんだか満たされないような気持ちになる。

 

本来なら、奉仕部への窓口は比企谷先生が担当してくれているのだが、比企谷先生が居ない今、代わりに平塚先生がその窓口を担当してくれている。

 

 

「ねぇゆきのん、文化祭期間中の部活はどうする?」

 

隣に座っている由比ヶ浜さんが話しかけてくる。彼女が居なかったら、本当に部室の居心地が悪くなっていたところだったわ。

 

「そうね、比企谷先生も居ないのだし・・・」

 

気付けばまた比企谷先生の名前を出している。

 

本当に私はどうしてしまったのかしら?

 

「じゃあやっぱり」

 

 

コンコン

 

 

由比ヶ浜さんがなにか言おうとしたところで部室のドアがノックされた。

 

「しつれーしまーす」

 

入ってきたのは件の相模さんだった。

 

「なにか用かしら?」

 

「あのさ、雪ノ下さんは知っていると思うけど私、委員長になってさ。それで失敗とかしたら怖いし、私のサポートとかお願いできない?」

 

やはりね。ここにあなたが来た瞬間からそうくると思ったわ。

 

「私は実行委員なのだから、あなたのサポートになると思うのだけれど」

 

「それなんだけどさ、副委員長になってくんないかなーって。そうすればよりサポートできる、みたいな」

 

・・・どうしようかしら。確かにそれは活動理念に反してはいない。

 

「・・・分かったわ。そういうことなら依頼を受けましょう」

 

「ホント?やった。じゃ、よろしくね」

 

そう言って、相模さんは部室から出て行ってしまった。

 

「ねぇゆきのん、部活は中止にするって話だったじゃん!」

 

由比ヶ浜さんがそう言いたくなる気持ちは分かる。けれどもう受けると言ってしまったのだから仕方ないのよ。

 

「私は実行委員なのだから、ね」

 

「それでも、なんかおかしいよ」

 

由比ヶ浜さんはそう言った。

 

 

 

ねぇ比企谷先生、私の判断は間違っているのかしら。

 

 

 

 

 

結論から言おう、相模さんは実行委員長には相応しくない人だった。会議に遅刻してくる、仕事も甘い、指示もあまり的確ではない。

 

それを見かねた私は、自分が率先して指示出しをしていた。正直、活動理念に反してしまっていると思う。けれど、文化祭を実行できないのは一人の生徒として容認できないと、自分に言い訳をしていた。

 

 

「ひゃっはろー!」

 

そんな中、私の姉である雪ノ下陽乃が文化祭実行委員に現れた。

 

最悪ね。

 

「どうして姉さんがここに?」

 

「あ、雪ノ下さんごめんね。偶然会ってさ、私が有志で出てくれないかってお願いしたんだ」

 

生徒会長の城廻先輩がそう言う。きっと姉さんのことだから、計算していたんだわ。こうなるように。

 

「およ?雪乃ちゃんじゃん!てことは八幡先輩も居るのかな?」

 

そう言って周囲を見渡す姉さん。

 

「比企谷先生なら栃木に出張に行ったわ。帰ってくるのは来週辺りかしら」

 

「なんだ、つまんないの」

 

本当にガッカリした表情をする姉さん。どうして彼のことになるといつもの『仮面』は無くなってしまうのかしら?

 

「それで、雪乃ちゃんは委員長やってるの?」

 

「いいえ、違うわ」

 

実行委員長なら、と伝えようとしたところで会議室の扉が開いた。

 

「遅れてすみませーん」

 

登場したのは相模さんだった。

 

「あ、はるさん。この子が委員長の相模さんです」

 

城廻会長は相模さんを姉さんに紹介する。

 

「・・・へぇ」

 

久しぶりにそのモードの姉さんを見たわ。最近は比企谷先生と居るからかその『仮面』は見ていなかったのだけれど、こう見ると本当に恐ろしいわね。

 

「あ、あの、えっと・・・」

 

なんだか嫌な予感がするわね。

 

「・・・うん!そうだね!やっぱり実行委員長たるものクラスの方含めて文化祭を楽しまなきゃね!」

 

あら?そこまで警戒しなくてよかったのかしら?

 

「あ、はい!」

 

元気づけられた様子の相模さん。

 

「それで、有志の件だけどいいかな?」

 

「はるさんはね、あの伝説の文化祭の実行委員長だったんだよ!」

 

城廻会長がそう付け加える。これはもう確定かしらね。

 

「そういうことでしたらお願いします!」

 

ほら、こうなるでしょう?

 

 

相模さんはいきなり会議室を見渡し、

 

 

 

「みなさん!思ったんですけど実行委員のペースを少し落として、クラスの方にも参加していいというのはどうでしょうか!?」

 

 

 

これはマズイわね。早急に取り下げてもらわなければ取り返しのつかないことになる。

 

「相模さん、今このペースを維持するべきだわ。これからなにがあっても対策を取れるように」

 

「いいじゃん、仕事の方だって回ってるんだしさ」

 

私が全部を言う前に遮られてしまう。

 

「そうだね!実行委員の人たちもクラスの方も楽しみたいもんね!」

 

姉さん、余計なことを・・・。

 

 

 

 

そうして翌日から、会議室は全体の3分の1ほどの出席しか居なくなってしまった。

 

 

 

 

 

「比企谷先生、どうすればいいの」

 

どうしようもなくなってしまった私は彼に電話をかけていた。

 

『・・・あのアホ後輩が。はぁ〜、なんでこう俺が居ない時に面倒なことばっかり起きるのかね』

 

比企谷先生は呆れたような口調で文句を言う。文句を言いたいのは私も同じよ。

 

「このままでは、確実に文化祭は潰れるわ」

 

もはや可能性の話ではない。このままあの状態が続けばそれは確定事項になる。

 

『だろうな』

 

「・・・」

 

なにもできない。

 

『雪ノ下、文化祭実行委員の出席名簿を作っておけ』

 

「え?」

 

『これはもう活動理念がなんだとか言っている場合じゃない。それは分かるな?』

 

「え、ええ。私もそう思うわ」

 

『だからもう仕方ない、俺が動く』

 

この言葉は私が聞いてきたどの言葉よりも安心感があった。彼なら、彼にならとそう思ってしまう。それくらい心強い言葉だった。

 

『とりあえず、火曜日の夜にはそっち着くと思う。くれぐれも無理はしないように』

 

「そうすることにするわ」

 

『じゃ、頼んだぞ』

 

「ええ、ありがとう」

 

そう言うと、電話は切れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

次の週の火曜日、私は過労で倒れたのだった。

 


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