やはり私の先生は間違っているようで間違っていない。   作:黒霧Rose

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10話 二代目は初代を見る

午後5時過ぎ・・・放課後ね。このまま家で休んでいては、仕事が進まなくなる。せめて、比企谷先生が戻ってくるまで繋いでいないと。

 

水曜日、私は過労が原因とされる熱で学校を休んでいた。

 

けれど、体が熱くて集中ができない。

 

 

ピーンポーン

 

 

家のインターホンが鳴った。こんな時に一体誰?

 

ヨロヨロになりながら、カメラを見に行く。

 

 

そこに居たのは、眼鏡姿の比企谷先生だった。

 

 

 

 

 

「さて雪ノ下、学校を休んだ言い訳を・・・なんて言ってる場合じゃねぇな。おおかた、無理して体調崩したんだろ。ったく、無理すんなって言ったじゃねぇか」

 

比企谷先生は寝室のドアの前に立って私と話している。寝室に入ってこない辺り、やはり気遣いができるのね。

 

「まぁ、過ぎたことを言っても仕方ねぇか。それで、頼んでたものは?」

 

「ええ、一応」

 

先生に頼まれていたもの、『文化祭実行委員の出席簿』だ。今日は学校へ行けなかったからできなかったが、昨日までのものなら完成させている。

 

「そうか、サンキュ。さて、見舞いの品は置いていったし、確認も取れたことだから俺は帰るとするよ」

 

「待って!」

 

気付けば私は、大声を出して比企谷先生を呼び止めていた。

 

「・・・もう少し、居てほしいの」

 

きっと私は熱でおかしくなっているのだ。だからこんなことを言ってしまったのだ。

 

「いいか雪ノ下、俺は教師でお前は生徒。そしてお前は女で一人暮らしだ。なにもする気はないが、それでもこうして俺がここに来ているのは特例なんだ」

 

彼の言うことはもっともだ。正論でいて、正しい。けれど私の『感情』が帰らないでと言っている。

 

「・・・お願い」

 

もう泣いてしまいそうな声だった。

 

いつから私はこんなに『弱く』なってしまったの?

 

 

「・・・はぁ。いいか、9時だ。それまでは居てやる。だがそれ以上はない」

 

先生は観念したかのように言う。

 

「あり、がとう」

 

 

私は、自分が『弱く』なっているのを感じた。

 

 

 

*八幡side

 

 

「おい、アホ後輩。お前マジなにしてくれてんだよ」

 

俺は雪ノ下の家のリビングで件のアホ後輩に電話をかけた。

 

『も、もう耳に入ってたんだね』

 

「もうこっちに帰ってきてる。話は雪ノ下から電話で聞いたんだよ」

 

『そ、そっか・・・なんかごめんね。まさかああなるとは』

 

本当に申し訳ないといった声で話すアホ後輩。

 

「はぁ、まぁ過ぎたことはいい」

 

『うん』

 

実際過ぎたことを言っても仕方がない。こいつも反省したようだから、これからのことについて話そう。

 

「それで、だ。お前に頼みたいことがある」

 

『八幡先輩の頼みならなんでも聞いちゃうよ!エッチなことかな?おすすめはエッチなことだね!』

 

「黙れアホ後輩」

 

残念ながら俺はそんなことを頼みたいわけではない。というか男にそんなこと言わないの。

 

「お前に頼みたいのは『黙っていること』それだけだ」

 

『えっと・・・え?』

 

理解できなかったのか、聞き返してくる。

 

「今後、文化祭実行委員に関して口出しをしないこと。そういう事だ」

 

『そ、そんなんでいいの?』

 

「それが大切なんだよ」

 

『八幡先輩がそう言うなら・・・』

 

「よろしくな」

 

 

なぜ俺がアホ後輩にこんな頼みをするのか、答えは簡単だ。アホ後輩は文化祭実行委員の中で、大きすぎるほどの発言権と影響力がある。彼女がなにかを言った場合、それが十中八九という確率で確定してしまう。だからこその『黙っている』だ。脅威となるのがその発言権と影響力ならば、何も言わせなければいい。たったそれだけでアホ後輩の『力』というものは大半を失うのだ。

 

ま、そこに居るだけでも影響力あるのがあのアホ後輩なんだがな。

 

 

・・・クソッタレ。

 

 

 

*sideout

 

 

翌日、私は体調も良くなり、放課後にあるスローガン決めの会議に出席をしていた。

 

「雪ノ下さん」

 

それにしても、一体比企谷先生はあの出席簿をどう使うつもりなのかしら。データとして保存しても大した意味を持つとは思えないし。

 

「雪ノ下さん」

 

「は、はい」

 

相模さんに呼びかけられていた。

 

「全員揃ったけど」

 

そうね、今は珍しく文化祭実行委員が全員揃ったのだし、会議を始めてもいい頃合いね。

 

「では」

 

 

「悪いな、その会議に俺も参加させてもらう」

 

 

そう言って会議室に現れたのは比企谷先生だった。

 

「ん?比企谷先生、一体どうしたのかね」

 

この文化祭実行委員の顧問である平塚先生がそう尋ねた。

 

「まぁ、こっちにも事情があるんでね。気にせず進めてください」

 

そう言って、先生は窓際の方へと行き、壁にもたれかかった。

 

「では気を取り直して、文化祭のスローガン決めをします」

 

私の言葉で、会議室が一気に騒がしくなる。

 

 

 

 

そうして、ホワイトボードには様々な意見が書かれていった。

 

「じゃあ、最後に私から」

 

そう言って立ち上がったのは相模さんだ。

 

『絆 〜ともに助け合う文化祭〜』

 

「どうかな?」

 

あら、あなたからそんなスローガンが出てくるとは思わなかったわ。それに、あなたにそんなことを言える資格なんてないのではなくて?

 

 

「なぁ、そのスローガンって教師である俺も案出していいの?」

 

沈黙を貫いていた比企谷先生が相模さんに尋ねる。

 

「先生からもあるんですか?いいですよ」

 

「そうか、なら俺が案を出すならこうだな」

 

そう言って先生がホワイトボードに書いたのは

 

 

 

 

『残念ながら今回の文化祭はありません』

 

 

 

 

だった。

 

 

は?あなた何を書いているのかしら?

 

「えっと・・・比企谷先生、これはどういうことですか?」

 

相模さんは怒りを込めたような表情で比企谷先生に訊く。

 

「どうもこうもない。とりあえずこの資料を全員に配る、いいか?隅々まで目を通せ」

 

先生が配った資料は先生が私に頼んでいた『文化祭実行委員の出席簿』だった。

 

 

「これって」

 

実行委員の誰かがそう呟いた。

 

「そう、この文化祭実行委員の出席簿だ。これを踏まえて尋ねようか」

 

 

 

「お前たちに文化祭を開催させる気はあるのか?」

 

 

 

「そ、そんなのあるに決まってるじゃないですか!」

 

相模さんが叫んだ。

 

「そうか、なら委員長に質問だ。何故お前の名前のところにチェックが付いていない?」

 

「そ、それは」

 

答えられるはずがない。彼女は恐らくサボりをしていたのだから。

 

「仮にお前が外回りやクラスの見回りをしていたとしよう。しかしそれでも、書類の提出、実行委員への報告、現状確認などこちらに顔を出さなければいけないはずだ。それすらもないとは一体どういう了見だ?」

 

「・・・」

 

何も答えられない相模さんに興味が無くなったのか、今度は実行委員全体を見る。

 

「そしてここにチェックのないやつらにも同じ質問をしようか。お前らはなにをしていた?」

 

その質問に会議室は静まる。

 

「答えられないということは人に言えないこと、つまりサボりか。さて、出席簿にチェックの付いている生徒代表として副委員長の雪ノ下、このまま現状が続いたとして、文化祭開催日までにどれだけの割合が終わる?当然、誰もが与えられた仕事のみで、無理はしないという前提のもとだ」

 

比企谷先生からの質問に私は正直に答える。

 

「そうね、見積もって7割程でしょうか」

 

「残りの3割は何に当たる?」

 

「エンディングセレモニー、外部からの有志数件・・・当たりです」

 

私のその言葉に、文化祭実行委員全員の顔が青ざめていく。これらの仕事が追いつかないことの意味をようやく理解したのだ。

 

「お前らが知っての通り、総武高校の文化祭は地域一体として行われる。そして向こうの人達は、地域賞などを楽しみにしている。この地域賞の発表及び受賞が行われるのはエンディングセレモニーだ。もう分かるな?」

 

そう、つまりそれは総武高校の信用問題に関わる。それに当たる仕事が不完全ということは文化祭、それも今後の文化祭開催にとても大きなダメージを与えるということなのだ。

 

「で、これらを踏まえた上でもう一度訊こうか、お前らは文化祭を開催させる気はあるか?」

 

その言葉に、相模さんを含めた全員が黙り込んだ。

 

「・・・じゃあ次にいこうか」

 

「比企谷先生、まだあるのかね?」

 

比企谷先生の発言に平塚先生が尋ねた。

 

「ありますよ。文化祭実行委員でも、教師でもない、それでいてここにいる者たち、そう『生徒会』がまだですから」

 

「っ!?」

 

その発言に城廻会長の顔が歪む。

 

「さて城廻、どうしてこの状況になるまで放置をしていた?お前たちは文化祭実行委員のサポートが役目のはずだ」

 

「それは、私たち生徒会はあくまで最低限のサポートのみ、ということですから」

 

その質問に城廻会長が答える。私もその話は聞いていた、だからここで生徒会まで糾弾される理由が・・・いえ、『最低限』と言ったわね。そう、そういうこと。

 

「それはもちろん知っている。しかして城廻よ、何をもって『最低限』とするんだ?」

 

「え?」

 

「分からない、と言うよりも答えられないのなら俺が教えてやる。この場合における『最低限』とは『文化祭開催』だ。それで、雪ノ下からの現状報告を聞いて、果たして生徒会は『最低限のサポート』をしてると言えるのか?」

 

「それは・・・言えません」

 

悔しそうな顔をしながら城廻会長は答える。

 

「だろうな。『最低限』という言葉は、決して自分が行動しないための免罪符などではない。それをよく覚えておけ」

 

「・・・はい」

 

 

 

「さて雪ノ下、文化祭実行委員及び生徒会が仕事をこなしていけば、文化祭当日までには間に合うか?」

 

 

「ええ。そうなれば、だけれども」

 

 

「比企谷先生、もういいだろう。こいつらも反省している、そこまでにしておけ。実行委員も生徒会もこれからは真面目に仕事に取り組むように」

 

平塚先生がそう締めくくる。

 

「だそうだ。今回のこの件からお前たちが何を感じ、何を考えるのかはどうでもいいが、これだけは言わせてもらおうか」

 

 

そこで言葉を切り、比企谷先生は扉の前に立ちこちらを見ずに言った。

 

 

 

 

 

 

 

「今回、お前らの無責任さが、ある1人の生徒が倒れるという状況を作りあげた。お前たちは『最低限』どころか『最低』だよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

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