やはり私の先生は間違っているようで間違っていない。   作:黒霧Rose

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13話 二代目は部員に弱い

 

「人の気持ち、もっと考えてよ!」

 

冷たい風が吹き、竹林が揺れる。

 

そこに響く声は、彼女が信頼をしていた『味方であり友人』である女性のもの。

 

 

 

 

私は、間違ってしまったのだろうか。

 

 

 

 

 

 

 

ねぇ先生、『本物』って一体なんなの?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

文化祭も終了し、2年生のクラスでは修学旅行が話題の中心となっていた。けれど、私の関心はそこにはなかった。

 

そう、私の関心は『比企谷先生の本物』にある。文化祭が終わった後、私は先生に『あなたの本物にはなれないか』そう尋ねた。それは私の本音であり、願望だった。

 

その時の先生の答えはこうだった。

 

 

『俺にだって、未だに本物がなんなのかは分からない。けれど、もしかしたらお前となら見つかるのかもな』

 

 

そう言った、そう言ってくれた。たったそれだけの会話をしただけなのに、その返事をもらっただけなのにそれがとても嬉しかった。

 

 

「雪ノ下さんは、私たちと同じグループでいいかな?」

 

J組のクラスメイトが話をしてくる。修学旅行で盛り上がっているのは、どうやら私のクラスでも変わらないらしい。

 

「え、ええ。よろしくお願いするわ」

 

こういったグループを作るというものは、昔苦労させられたものね。けれど、高校生になってからは誰かが誘ってくれるのでその苦労は無くなっていた。

 

「雪ノ下さんは、ここに行ってみたいっていうのはある?」

 

「私は、あなたたちに合わせることにするわ。けれどそうね、龍安寺には行きたいかしら」

 

『龍安寺』縁側から見る石庭が様々な動物を模しているということで有名だ。その一つに、虎の姿を模したものがあるという話を聞いたので、是非とも見てみたいのだ。同じネコ科だものね。

 

「分かった。ありがと」

 

どうやら私はあまり話し合いに参加しなくて良さそうね。

 

 

修学旅行2日目の自由行動は、由比ヶ浜さんとまわることになりそうね。

 

 

 

なんだかんだで、私も修学旅行が楽しみだった。

 

 

 

 

 

「ねぇねぇゆきのん、2日目、どこまわる?」

 

放課後、由比ヶ浜さんと部室で話をしている。

 

「そうね・・・名所巡りはクラスの方でやるだろうから、食べ歩きをしながら、京都を散策する。なんてのはどうかしら?」

 

「それいい!楽しみだなぁ〜」

 

「ええ、そうね」

 

ここ最近、私は変われていると思う。少しずつだけれど、素直になれている。今までは、少し態度が固かったが、由比ヶ浜さん相手ならこうして『私』というものを見せることができる。

 

比企谷先生、あなたが私を変えてくれたのよ。

 

 

コンコン

 

 

そんなことを考えていると、部室のドアがノックされた。

 

「どうぞ」

 

「失礼するよ」

 

そう言って入ってきたのは、葉山くんと戸部くんだった。

 

 

 

 

 

「俺さ、最近、海老名さんのこと、いいかなって思ってんだ」

 

「そ、それって」

 

由比ヶ浜さんが少し身を乗り出す。

 

「今回の修学旅行で、告白しようかなって、思ってんだ」

 

「ま、マジ!?」

 

由比ヶ浜さんの目がキラキラしてるわね。

 

「それで、その話を私たちにしてどうするの?」

 

話がサッパリ見えてこないので、こちらから話を切り出す。

 

「やっぱ、フラれるとか結構キツイわけ。だから、そのサポートをしてもらいたい、てきな」

 

それは・・・。

 

「正直、私たちには難しい話だわ。サポートと言っても、何をしたらいいのか分からないし・・・」

 

そう、自慢ではないが私には恋愛経験というものが無い。告白された経験ならあるが、私が誰かに恋をしたという経験がない。故に、今回の依頼は難しい話なのだ。

 

「やってあげようよ、ゆきのーん!」

 

「・・・」

 

どうしましょう。由比ヶ浜さんにお願いされると、なんだか断りづらいわ。

 

「お願い」

 

「お願いします、雪ノ下さん」

 

戸部くんも頭を下げてくる。

 

「・・・はぁ。分かったわ、依頼を受けましょう」

 

折れたのは私だった。

 

 

 

 

 

 

 

比企谷先生、これで合っているのよね?

 

 

 

 

 

 

 

「雪ノ下、お前、最近なにか依頼を受けたな?」

 

依頼の話の後、私は鍵を返しに職員室へ寄った。その時、比企谷先生に話しかけられた。

 

「え、ええ。どうして分かったのかしら?」

 

「あまり俺をナメるな。顔を見れば大体のことは分かる」

 

な、なんだか恥ずかしいわね。

 

「雪ノ下、会議室に行くぞ」

 

そう言われ、私と比企谷先生は会議室へと向かった。

 

 

 

「まず話しておこう。誰からの依頼かは知らないが、今回俺という窓口は通っていない」

 

「・・・え?」

 

てっきり彼らは比企谷先生を通したのかと思ったわ。

 

「それを踏まえた上で訊こうか、どんな依頼だった?」

 

それから、私は今回受けた依頼について話をした。

 

「そいつは・・・やっちまったな」

 

「やはり、断るべきだったのね」

 

それを聞いた比企谷先生の顔は不安を物語っていた。

 

「ほぼ達成不可能と言える」

 

「・・・」

 

あそこで折れてしまったことがいけなかったわ。

 

「まぁやっちまったことはもういい。とりあえず必死で考えろ」

 

「え、ええ。そうするわ」

 

それしかない。

 

 

 

 

 

その日、少しばかりの後悔と大きすぎる無力感を私は味わったのだった。

 

 

 

 

 

コンコン

 

翌日の放課後、またしても部室のドアがノックされた。

 

「はろはろー」

 

入ってきたのは、海老名・・・さん?

 

「ひ、姫菜!?」

 

由比ヶ浜さん、そう大慌てでは向こうに不審がられてしまうわ。

 

「そ、それで、どうしたのかしら?」

 

まさか、彼女からもなにか依頼があるの?

 

「それがさ、最近」

 

「さ、最近?」

 

「最近、隼人くんが戸部っちのことばかり構うから、大岡くんと大和くんが寂しそうなの!まさか、まさかお預けなの!?放置プレイなの!?それに、最近私の中で比企谷先生もいいかなって思っていてさ、はやはちなの!?いや、とべはち!?それとも総受け!?キマシタワー!!!」

 

こ、これはひどいわね。最初から何を言っているのかサッパリ分からなかったわ。とりあえず、比企谷先生を巻き込むのは止めなさい。それは私と姉さんが黙ってないわよ。

 

「え、えっと・・・それで、それがどうかしたの?」

 

「まぁさ、なんか最近変わってきてるんだよね。私は今が好きかなーって。それを言いに来ただけ、お邪魔してゴメンね」

 

そう言うと、海老名さんは部室を出て行った。

 

「な、なんだったんだろうね」

 

「・・・」

 

 

比企谷先生から鍛えてもらってきた私の『国語脳』が何かを告げている。そう、そうだ。読み解け、そう言っている。

 

海老名さんの話を要約すると、彼女が言っていたように

 

『最近変わってきてる』『今が好き』

 

その前に彼女はなんの話をしていた?

 

そう、そうだ。葉山くんや戸部くんを含む男子の話をしていた。

 

それを視野に入れて話をまとめると『男子達が変わってきてる。私は今が好きなんだ』ど、どういうこと?

 

 

いえ、違う。そうではない、それではないんだ。なにか、なにか他の可能性を見落としている。

 

 

なら男子が変わった理由はなに?

 

考えろ、考えなさい雪乃。

 

人を変えるもの、それも大きく変えるものはなに?

 

 

・・・っ!!そう、そういうこと。

 

 

海老名さん、あなたまさか『そのこと』を伝えに来たというの?

 

「由比ヶ浜さん、私、少し出るわ」

 

「う、うん」

 

まだ、まだ近くに居るはずよ。

 

「海老名さん!」

 

ようやくその後ろ姿を見つけ、名前を叫ぶ。

 

「雪ノ下さん?どうしたの?」

 

私の声に海老名さんが反応する。

 

「あまり私をナメない事ね。厳しい先生から『国語脳』を鍛えられているのよ、あれだけの言葉だけどあなたが何を伝えたかったのか、それが多分見えたわ」

 

「・・・」

 

 

「あなたが本当に伝えたかった、いえ、違うわね。依頼したかったのは『戸部くんの告白の阻止』違うかしら?」

 

私はさっき至った答えを海老名さんに話す。

 

人が変わるとき、それは『恋』をしたときだと聞いたことがある。もしも海老名さんが戸部くんの想いに気付いていたら?そう考えればすぐに分かったわ。

 

要するに『戸部くんに告白されそう。私がどんな答えを返そうと、グループはこのままではいられない。私は今が好きなの、だからどうにかして』そういうことになる。

 

 

 

 

「流石だね、雪ノ下さん。そうだよ、私からの依頼は『戸部っちの告白の阻止と現状維持』だよ」

 

 

 

 

 

これはもう、本当に厄介なことになったわね。

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