やはり私の先生は間違っているようで間違っていない。   作:黒霧Rose

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14話 二代目は自分の手札を確認する

『告白を成功させたい』

 

という依頼を戸部くんからされた。相手は同じグループの海老名さん。

 

そしてその海老名さんからは

 

『告白を阻止してほしい』

 

という依頼をされた。

 

矛盾している2つの依頼、それら2つを同時に解決するなんて不可能だと言えよう。

 

なにより問題なのは、海老名さんに告白をしたその時点で今回はゲームオーバーなのだ。告白すらもさせない、そういう結末でなければ海老名さんが本当に望むところの『現状維持』にはならない。

 

 

ここで私の方の状況を整理しよう。今は修学旅行1日目で、F組とは別行動になっている。海老名さんからの依頼を知らない由比ヶ浜さんが余計なことをしていなければいいのだけれど・・・まぁ難しいわよね。

次に私の手札ね。私には最強の切り札が1枚あるが、それは今回使えそうにない。正確に言うなら、使ったところで意味が無い。由比ヶ浜さんは海老名さんと同じグループの人、手札として使うのは論外だ。

 

ダメね、手詰まりだわ。ただでさえ、戸部くんからの依頼だけでもほぼ達成不可能とまで言われているのに、それと矛盾する依頼の達成など本当に不可能だ。

 

 

 

 

1日目の夜、私は1人でホテルの売店コーナーに居た。ホテルにチェックインした際、ここに京都限定モデルのパンさんが居たことを確認したからだ。

 

誰も居ないわよね?よし、さぁ買いましょう。ようこそパンさん。

 

「目当てのものは買えたそうだな」

 

「っ!?・・・比企谷先生」

 

売店から出てきた瞬間、男の人に話しかけられたと思ったら比企谷先生だった。比企谷先生で良かったわ。

 

「さて雪ノ下、俺と共犯者にならないか?」

 

「え?」

 

 

 

 

 

 

 

「それで平塚先生、これはどういうことですか?」

 

今私はタクシーに乗っている。助手席に比企谷先生、後ろに私と平塚先生という形で、だ。

 

「いやぁ、どうしてもこっちのラーメンが食べたくなってね」

 

悪びれもせず堂々と言う平塚先生。

 

「それは教師、というか大人としては如何なものかと」

 

「仕方ないさ。大人と言えど所詮は人間だ。自分の欲くらいたまには正直になるものさ。それに、だから君と比企谷には私が奢るという形で手を打つつもりだ」

 

どうしてだろうか。前半はなんだかいいことを言っていたはずなのに、後にいくにつれ、ダメな大人の見本みたいな発言になっていったのは。

 

「まったく、俺は最初から確定だった辺りがホントにセコいですね」

 

比企谷先生が呆れて言う。

 

「いいじゃないか。こうして君とラーメンを食べるのなんて、君の大学時代が最後だったのだから」

 

「そう言われると、不思議と悪い気はしなくなりますね」

 

なんだかんだでこの2人は仲がいい。教師と元生徒、そして今は教師と教師だ。それなのに、どこか背中合わせのような、そんなふうに見える。なんだか羨ましい。

 

 

そういう相手が居ることになのか、それとも相手が比企谷先生ということになのか、その答えは案外すぐに分かった。

 

 

ラーメンの感想を言おうと思う。

 

『凶暴な旨みだった』

 

 

 

 

「私はこれから酒を買いに行くが、どうする?」

 

タクシーに戻り、平塚先生が尋ねてくる。

 

「俺がホテルまで雪ノ下を送ります。それでいいか?」

 

「そうね。お願いするわ」

 

このまま外に居続けるのはあまりよろしくない。それに、比企谷先生と居れるならそれでいいわ。

 

 

 

 

 

比企谷先生と2人でホテルまで歩く。

 

「依頼はどうだ?」

 

「ダメね。それにクラスが違うから、なにもできないわ」

 

クラスが違うため、私と彼らは会うことがなかった。

 

「まぁ、元々がほぼ達成不可能な依頼だからな・・・」

 

「ええ、身をもって思い知らされたわ」

 

それに加え、海老名さんからの依頼もある。本当にどうすればいいのかしら。

 

「ま、最悪の場合は『切り札』を切るんだな」

 

こちらをまっすぐに見て言う。

 

「あなた、気付いていたのね」

 

「俺をナメるなと言ってるだろうが。俺がお前の手札になってることくらい知ってる」

 

比企谷先生は私が先生を『切り札』扱いしていることを知っていたらしい。

 

「けれど、今回は『切り札』を切っても難しいわ」

 

「それはお前が『切り札』をそれ単体で考えているからだ」

 

「え?」

 

「カードゲームにおいて『切り札』ってのはコンボを組んで初めて輝くんだよ」

 

コンボ・・・なるほど、『切り札』を別の手札と組み合わせて使うのね。確かにその発想はなかったわ。

 

「そうすれば、それは『切り札』ではなく、必殺の『鬼札』となる」

 

「・・・そうね。肝に銘じておくわ」

 

「そうか。ほれ、もう少し早く歩くぞ」

 

そう言って、ペースをあげる先生。

 

 

 

 

 

私の手札をもう一度考え直す必要があるわね。

 

 

 

 

部屋に戻ると、同室の女子に比企谷先生と一緒に歩いているところを目撃されてしまっていたようで、質問攻めにあった。と言うよりも、あっている。

 

「雪ノ下さん、まさか比企谷先生が好きとか?」

 

ニヤニヤしながら質問してくる。

 

「そ、そんなことは・・・」

 

「照れてる雪ノ下さん、可愛い!」

 

なんだか恥ずかしくなってしまう。

 

「えー、じゃあ比企谷先生のことはどう思ってるの?」

 

「え、ええと」

 

私が比企谷先生をどう思っているか・・・ねぇ。

 

「あ、ちなみに比企谷先生って意外と人気あるんだよ」

 

「そ、そうなの?」

 

突然の事実に聞き返してしまう。

 

「クールだし、授業は分かりやすいって他のクラスや後輩の子達が言ってたよ。あんまり笑わないからミステリアスでいい!って言う子もいたかな」

 

お、驚きだわ。まさか私の知らないところでそんなことになっているなんて。

 

「それで、雪ノ下さんはどう思ってるの?」

 

そ、そうだったわ。今は私が比企谷先生をどう思っているのかという話だったわ。

 

目を閉じ、熟考してから答える。

 

「そうね、一緒に居ると心地好くて、頼りになって、それでいて優しい人。かしら」

 

「「「雪ノ下さん、顔が恋する乙女だよ!!」」」

 

「え?」

 

確かに、彼のことを考えていると顔が熱くなってきて、不思議と笑がこぼれてしまうけれど・・・。

 

「そっかぁ〜あの雪ノ下さんがねぇ・・・まさか比企谷先生だとは」

 

「うんうん、青春だね!」

 

そ、そう言えば、どうして私はこんなことを?

 

「あ、あの、このことは」

 

「分かってるよ!私たちの心の中にしまっておくよ」

 

「え、ええ。そうしてくれると助かるわ」

 

それにしても、笑顔をあまり見せないからミステリアス・・・ね。

 

「・・・比企谷先生はちゃんと笑う人よ。それも優しくね」

 

まるで、それを知っていることを誇りであるかのように、私は付け加えた。

 

 

 

 

 

 

 

「「「雪ノ下さん、超可愛い」」」

 

 

 

 

 

 

 

私は寝る前、外を見ながら自身の手札について考える。

 

私の持ちうる『切り札』は比企谷先生だ。

 

由比ヶ浜さんはやはりダメだ。彼女がグループに居づらくなってしまう。

 

比企谷先生は『切り札』は組み合わせることによって『鬼札』になると言っていた。けれど、私にはあまりにも手札が少なすぎる。どうすれば、どうすればいいの?

 

 

『あいつは真っ先に自分を切っていた』

 

 

 

ふと、平塚先生の言葉を思い出した。

 

そう、そういうこと。確かに、私にはもう1枚手札があったわ。他の誰にもない、私だけが持ちうるもう1枚の『切り札』

 

 

比企谷先生、あなたがどんな気持ちで『自分を切っていた』のかは分からない。

 

 

 

 

だから、私も同じ『景色』を見ることにするわ。


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