やはり私の先生は間違っているようで間違っていない。   作:黒霧Rose

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15話 二代目は初代の片鱗を見せる

修学旅行2日目、由比ヶ浜さんと私は京都の街を散策していた。

 

そして、嵐山の竹林にやって来た。

 

「ここで告白とか、ロマンチックだよね」

 

「・・・そうね」

 

近くにあった案内板によると、夜になると道に置いてあるライトが竹を照らし、幻想的な世界ができあがるらしい。

 

確かに、告白にはうってつけの場所であり仕掛けだ。

 

けれど、今回は事情が事情なのでもしかしたら由比ヶ浜さんの、戸部くんの思い描く光景にはならないかもしれない。

 

 

「こんなところで、告白とかされたいな」

 

由比ヶ浜さんが呟く。

 

「ええ、とても共感できるわね」

 

そこで、イメージに出てきたのが誰であるかはこの際、言う必要はないだろう。

 

 

 

 

 

 

その後も、由比ヶ浜さんと2人で歩き回った。

 

「はいゆきのん!肉まん買ってきたよ!半分こしよ」

 

「ええ。ありがとう」

 

2人で1つのものを分け合う。分け合って食べる食事もいいものね。

 

 

 

「見て見てゆきのん!着物着てるよ!」

 

「綺麗ね」

 

着物を着る機会は何回かあったが、こうして京都で着ているところを見ると、街の雰囲気とあっており、とても絵になっていた。

 

 

 

 

 

「こうして来ると、京都っていいところなんだね」

 

「ええ、本当にそうね。とても、とても楽しいわ」

 

本心を言える。ただそれだけが、そんな普通のことが私には喜びであり、幸せだった。

 

「また来よっか」

 

「ええ。必ず」

 

 

 

 

 

だからどうか、この幸せが続きますように。

 

 

 

 

 

 

 

 

「雪ノ下さん」

 

ホテルに着いたとき、葉山くんに呼び止められた。

 

「なにかしら」

 

「少し話がある。来てくれないか?」

 

その顔はなにか、大切な話だと言っているようだった。

 

「・・・分かったわ」

 

 

 

 

 

 

「こんなことを本当は君に頼むべきではないんだろう。だがもう、俺にはどうしようもない」

 

ホテル近くの河川敷で葉山くんは話を始めた。

 

その口振り、あなたまさか!?

 

「戸部を止めてくれ」

 

「・・・海老名さんのこと、知っていたのね」

 

「・・・・・・ああ」

 

やはりそうだったのね。けれどどうして今更それを?それに海老名さんのことを知っているのなら、あなたが戸部くんを止めればいいじゃない。

 

しかし、それはこの男にはできないだろう。それも知っている。『みんなの葉山隼人』である限りそれはできない。

 

「そんなことで延命したとしても、それは上辺だけの偽物よ」

 

そうだ。そんな本心を隠し、ただみんなで居続けるだなんて、『偽物』でしかない。

 

「俺は、俺は今が楽しいんだ。守りたい関係があるんだ」

 

『守りたい関係がある』その言葉には私も思うところがある。私にも『守りたい関係がある』

 

「・・・貸しということにしとくわ」

 

「済まない」

 

「いいわ。けれど、必ず返してもらうわ」

 

「ああ」

 

 

 

 

もし、この依頼を達成できないということになってしまえば、『奉仕部』に必ず悪影響が出る。そうなると、私の守りたいものも守れない。

 

もうなりふり構ってはいられない。

 

私が今やるべきなのは『解決』でも『達成』でもない。

 

『解消』だ。

 

 

 

 

だからここで『鬼札』を切る。

 

 

 

 

「もしもし、雪ノ下よ。今日の夜、嵐山の竹林に来てもらえないかしら」

 

 

 

 

 

『私』という名の『鬼札』を。

 

 

 

 

 

夜、嵐山の竹林にみんなが集まる。それを私と由比ヶ浜さんは遠くから見ていた。

 

「大丈夫かな」

 

「・・・策ならあるわ。任せてもらえないかしら」

 

「う、うん」

 

言質は取ったわ。

 

 

戸部くんと海老名さんが、ライトアップされた竹林の真ん中を歩く。

 

始まるのね。

 

 

 

 

「お、おれ、え」

 

 

そこで私は歩きだし、叫んだ。

 

 

「比企谷先生!!居るなら出てきてちょうだい!!」

 

 

「「え?」」

 

戸部くんと海老名さんが不思議そうにこちらを見る。

 

 

「大声で名前を呼ぶなよ。それで、なんだこの状況」

 

 

比企谷先生が少し離れた所から出てきた。

 

「それより比企谷先生、話があるの」

 

もう、やるしかない。これしかない。

 

「なんだ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あなたのことが好きです。私が卒業したら、お付き合いしてください」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そう。私は比企谷先生に告白をした。今、この状況、このタイミング、この瞬間、この時に。私は全身全霊をもって比企谷先生に想いを打ち明けた。

 

 

「・・・この際、告白の真偽はどうでもいい。だが雪ノ下、俺は教師でお前は生徒だ。だから俺はその告白に返事はできない。もしそれでも今返事が欲しいって言うなら、答えはノーだ」

 

やはり、振られちゃうわよね。けれど、今はこれでいい、これでいい・・・はず、なの、よ。

 

「そう、ね。私の想い、聞いてくれて、ありがとう」

 

「用件はそれだけらしいな。俺はホテルに戻る、お前らも集合時間には遅れるなよ」

 

そう言って、比企谷先生は元来た道を戻って行ってしまった。

 

 

私は海老名さんを見る。どうか、どうか気付いて。お願いだから!!

 

 

「あ、それでさ」

 

「凄かったね、さっきの雪ノ下さん。私、今は誰とも付き合うつもりは無いし、恋をするつもりもないから、なんか、綺麗だと思っちゃったな」

 

どうやら私の意図に気付いてくれたようだ。

 

「そ、そうだ、な」

 

「私はホテルに戻るから。また明日」

 

そう言って、海老名さんも戻っていってしまった。

 

「雪ノ下さん」

 

私に話しかけてきたのは、葉山くんだった。

 

「・・・なにかしら」

 

「まさか、君があんな行動に出るなんて、な。済まなかった」

 

頭を下げる葉山くん。

 

「謝罪なんていらないわ、私に失礼よ。それから、きちんと借りは返してもらう。忘れないで」

 

「・・・ああ」

 

 

 

 

 

 

 

「由比ヶ浜さん、とりあえず」

 

私はあのグループが全員居なくなるのを確認し、由比ヶ浜さんのところへ戻る。

 

「なんでゆきのん、あんなことしたの?」

 

「そ、それは」

 

言えるわけがない。言ってしまえば、当然海老名さんのことも話さなければならなくなる。そうなると、由比ヶ浜さんがグループに居づらくなってしまう。

 

「・・・そっか、言えないんだね」

 

「・・・」

 

悲しそうな顔をする由比ヶ浜さん。

 

「ゆきのんはさ、今まで色々な人を救って、スゴくカッコイイって思ってた。でもさ、でもさ、これは違うじゃん」

 

「ゆ、い、がは、ま、さん?」

 

 

 

 

「もっと、人の気持ち考えてよ!」

 

 

 

 

由比ヶ浜さんが涙ながらに叫んだその言葉は、明確な『拒絶』だった。

 

 

 

 

 

どう、して?私は、私の守りたいもののために、そのために。

 

 

 

 

「あ、あああ・・・あああああああああ!!!」

 

 

 

1人になってしまった私は、泣き出した。もう、もう抑えることができなかった。

 

 

「う、ううっ、ど、う、して、なの・・・どうしてなの、ゆい、が、はま、さん。う、ううう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よう、雪ノ下。奇遇だな」

 

私を呼ぶ声がした。その声は私が知っている、私の好きな人の、好きな声だった。

 

「どう、して、ひき、がや、せん、せい。もどった、はず、じゃ」

 

「どう考えても、あんな状況でお前が俺に告白するなんておかしいだろうが。となるとお前には、ああするしかない、いや、せざるを得ない状況にあったというわけだ」

 

本当に、どうして分かるのだろう。

 

「お前から戸部の依頼については聞いていた。だとすれば・・・海老名辺りなら何か言われたな。例えば『告白の阻止』や『現状維持』などか」

 

「そう、よ」

 

何もかも先生にはお見通しのようだった。

 

「だが、結果さえ見ればお前はその2つの依頼をどうにかしたと言える。ならどうして泣いている」

 

「そ、それは・・・ううっ」

 

さっきの由比ヶ浜さんのことを思い出してしまい、また涙が出てきた。

 

「・・・ここに居ない由比ヶ浜、だな」

 

「あ、あああ・・・」

 

「はぁ、なにがあったのか、どうしてこうなったのか、全部話せ。これは顧問命令だ」

 

 

そう言われ、私は嗚咽を漏らしながらも、戸部くんと海老名さんの依頼のこと話した。葉山くんから言われたことを話した。自身の手札が、『私』と『比企谷先生』だと気付いたことを話した。

 

 

由比ヶ浜さんのことを、話した。

 

 

「・・・雪ノ下」

 

拒絶されてしまうのだろうか。私は、好きな人にすらも拒絶されてしまうのだろうか。そう思うと、また涙が出てきた。

 

 

「よくやったな」

 

「・・・え?」

 

思っていた言葉とは違う言葉が聞こえた。

 

 

「確かにお前のやったことは『最善』なんかじゃない。けれど、それでも『最適』ではあった」

 

 

「う、ううっぅぅぅ」

 

私を認めてくれたことが嬉しくて、更に涙が出てきた。

 

「今は泣いておけ。あの告白が嘘か真かは知らねぇけど、自分を好きだと言ってくれた女の、それも生徒の涙くらい受け止めてやるよ」

 

「あ、あ・・・あああああああああ!!!!」

 

 

 

 

 

「もしもし、比企谷です。今、嵐山の竹林に雪ノ下といます。奉仕部絡みのことで、雪ノ下は今、精神の状態が不安定です。もう少しこちらに居る予定なので、お願いできますか?」

 

『・・・奉仕部絡み、か。分かった、集合時間に遅れても大丈夫なように他の先生方に話をしておく。君なら安心だ』

 

「すみません、平塚先生。お願いします」

 

『ああ。雪ノ下を、任せたぞ』

 

「ええ。もちろん」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ねぇ先生、『本物』ってなんなの?




この依頼の『解消』方法は『マジ告白による横槍』でした。

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