やはり私の先生は間違っているようで間違っていない。   作:黒霧Rose

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16話 それは初代の・・・

*八幡side

 

「来たか」

 

修学旅行最終日、俺はある人と駅で話すことにした。

 

「どうしたんですか、比企谷先生」

 

「さて海老名、雪ノ下に『告白の阻止及び現状維持』の依頼をしたのは事実だな?」

 

「・・・はい」

 

まぁ今さら嘘をつくこともできまい。事情は全て雪ノ下から聞いている。

 

「能書きは面倒だからいいな、結論から入ろう。雪ノ下と由比ヶ浜の仲が壊れた」

 

俺は事実を述べる。淡々と事実のみを話す。

 

「そ・・・んな」

 

海老名は驚いた顔をしていた。

 

「昨日、お前からの依頼と戸部からの依頼を解消するために雪ノ下は俺に告白をするという行動に出た。その結果、雪ノ下は由比ヶ浜から拒絶をされた。あの後、竹林でずっと泣き続けていたよ」

 

「わ、たしは、取り返しのつかないことを・・・」

 

それは一体『なに』に向けられた後悔の念なのだろうか。いや、もしかしたらそれもただの自己満足、自己陶酔の果てなのだろうか。

 

「本来、教師はこういうことを言ってはいけないんだろうが、言わせてもらう」

 

俺は海老名をまっすぐに見る。

 

 

 

「今回の雪ノ下と由比ヶ浜の件については関わるな。干渉するな、関係しようとするな、関係を持とうとするな、そして『なにもするな』」

 

 

 

「そ、そんな」

 

さっきから驚きしかしていないが、どうしてなのだろうか。どう考えても、人の顔色や空気、感情というものに機敏な由比ヶ浜が雪ノ下のとったあの行動を受け入れてやることができないなど、分かりきっていたことだろうが。

 

「話はそれだけだ。じゃあな」

 

 

 

 

 

 

『ねぇ、どうして?どうしてなの?どうして○○○○はいつも、いつも自分を犠牲にするの!?』

 

『犠牲なんかじゃない。これが、これが最善なんだ。これしか・・・なかったんだ』

 

『嫌だよ。言ったよ、私言ったよ?絶対に自分のことは切らないでって。そう・・・言った、じゃん』

 

『・・・』

 

『もう嫌だよ。○○○○がそうやって傷付くの、見たくなんてないの!!私が、私がこんなことで救われたと思ってるの!?バカにしないで・・・バカにしないで、よ』

 

『ゴメン、ゴメンな』

 

 

 

 

 

 

懐かしい夢を見た。まだ、俺が部長だった頃の記憶。

 

「雪ノ下が、あのやり方をしたからか?」

 

帰りの新幹線の中、俺は眠っていた。昨日は雪ノ下を見て、その後のことを考えていて眠れなかったのだ。

 

「あれは俺のやり方だろうが・・・」

 

どうであれ、人の告白を自分の告白で邪魔をしたのだ。そんなことをすれば、少なからず悪意を向けられ、ヘイトが集まってしまう。それは、それは俺のやり方だ。いや、俺のやり方『だった』ものだ。

 

もし、俺が雪ノ下と同じ立場だったら同じことをしていただろう。もっとも、告白の対象は海老名だっただろうが。

 

文化祭で平塚先生から、俺が部長としてどうしていたのかを雪ノ下は聞いた。そしてそこから、『自分を手札にする』というある種1つの結論に至った。

 

「君が傷付くのを見て、傷付く者が居るんだ・・・か」

 

いつだか、平塚先生とアイツに言われた言葉だ。その時の2人の顔を忘れたことは無い。哀しみ、哀れみ、同情、そんな生ぬるい感情ではなかった。

 

そこにあったのは、純粋な、ただの一縷の狂いもない『優しさ』だった。

 

それでも、俺はそんな2人の想いに、優しさに応えてやることはできなかった。応えてやりたかった、応えられるものなら心の底からそうありたいと願った。

 

けれど、俺にできたのは精々自分を切ることだけだった。

 

今の俺は、過去の自分を肯定してやれるのだろうか?肯定しているのだろうか?肯定して、いいのだろうか?そんな終わることのない自問が始まった。

 

 

「なぁ、俺は間違っているのかな」

 

 

誰にも向けていない、それでも答えを求めている。誰かが答えてくれることを待っている。

 

 

「雪ノ下。俺は、お前が傷付くのを見るのが、なんだか・・・」

 

 

 

 

 

 

それから先を言うことは、なかった。

 

 

 

 

 

 

「ただいま」

 

家に帰ってきた。と言っても、今は一人暮らしをしているので返事はない。

 

「おかえり!」

 

と思っていたのだが、どうやら思い違いだったらしい。

 

奥から出てきたのは、可愛らしい顔立ちに、少し鋭い八重歯を覗かせ、俺と同じアホ毛を立たせた

 

「久しぶりだね、お兄ちゃん!」

 

 

我が妹、比企谷小町だった。

 

 

 

 

 

 

 

「それにしても、どうしたんだ?」

 

最後に会ったのは、俺の大学卒業の日だったかな。え、そうなると雪ノ下さんと同じくらいのペースってこと?なんなら、雪ノ下さんの方が再会が早かったから雪ノ下さんの方が勝ってるまである。

 

 

いや、ない・・・と思いたい。

 

 

「お兄ちゃんが修学旅行から帰ってくるの、今日って聞いたから・・・来ちゃった」

 

一体なんなのだろうかこのあざとくも可愛い妹は。誰の妹だ?俺の妹だった。

 

「なるほどな。ほい、お土産」

 

そう言って、あるものを渡す。

 

「これって、お酒?」

 

「今年、成人だろ」

 

そう、妹の小町は大学2年生なのだ。つまり、今年で20歳。立派な大人になるというわけだ。

 

「そ、そうだけど。まだ誕生日来てないよ?」

 

そう、小町の誕生日は3月3日だから正確には来年になるのだ。

 

「まぁ、誕生日が来たら飲もうぜ。それとは別に、八つ橋とかあるから」

 

そう言って、京都の和菓子を小町には渡した。

 

「こんなに買ってきてくれるなんて・・・お兄ちゃん、愛してるよ!!あ、今の小町的にポイント高い!」

 

相変わらずのポイント制である。上限があるのだろうか、それ。というか、今何ポイント貯まっているのか覚えているのだろうか?

 

「はいはい。こっちは2人に渡しといてくれ」

 

「はいはーい」

 

もちろん、両親の分も買ってある。

 

 

 

「それで、お兄ちゃん、修学旅行はどうだった?」

 

なんとも言えないところを突いてくる。楽しくなかったと言えば、そうでもない気がするが、如何せんどうしようもない事が起きたからなぁ。

 

「まぁ、ぼちぼちかな」

 

「・・・なんか、あったんだね」

 

流石は俺の妹である。どうやらバレてしまってるらしい。

 

「小町はさ、俺が部長だった頃の俺のやり方って覚えてるか?」

 

「そりゃあ、ね」

 

どこか気まずそうに答える。それも仕方の無い話だ。

 

「二代目の部長がよ、俺と同じようなやり方をしたんだ。それで、信じてたやつから拒絶されちまった」

 

前に、依頼の件で小町に隠し事をしたところ、怒られて喧嘩になったことがある。それ以来、俺はある程度は話すことにした。小町なら、そう思ってもいいと言われたからである。

 

「二代目の部長・・・確か、陽乃さんの妹だったよね」

 

「ああ」

 

「そっか。お兄ちゃんのやり方を使っちゃったか」

 

呆れたように微笑む小町。

 

「・・・もう少し、詳しく教えて」

 

 

そう言われ、俺は話せる所だけを話した。雪ノ下が受けた、達成不可能な2つの依頼のことを、雪ノ下がとった行動を、それでどうなったのかを。

 

 

「お兄ちゃんも雪乃さんも、しょうがない人だね」

 

「ああ。だが、最適だったと俺は思う」

 

「そうだね。普通に考えて無理だもん」

 

矛盾している2つの依頼。解決などできるわけがない。

 

「お兄ちゃんは、どうするの?」

 

俺は、どうする・・・か。いや、俺はどうしたい?どうなって欲しいのか、どうであって欲しいのか、どうにかしたのか?

 

「・・・分からない」

 

「そっか。まぁ、今はどうしようもないよね」

 

今回、俺は動くべきなのか?動いてなにかできるのか?俺にできることはなんだ?

 

「お兄ちゃんはさ、雪乃さんのことが心配なの?」

 

「いきなり、なにを」

 

「だってさ、そんなに難しそうな顔して」

 

そんな顔を俺はしていたのか。

 

「・・・そう、かも、な」

 

「お兄ちゃん、ようやく見つかったんじゃないの?」

 

ようやく見つけたもの。それは多分、俺が長年求めていた『あれ』なのだろう。確かに、考えてみればその兆候はあったのかもしれない。

 

「・・・どうなんだろうな」

 

恋人としてではなく、『本物』としてなら。それなら今の俺の『立場』でも通用するのか?それなら、俺は求めても、求め続けてもいいのか?望んでも、期待しても、許されるのか?

 

「お兄ちゃん。お兄ちゃんが決めたことなら、小町は応援するよ」

 

「・・・そっか。ありがとうな」

 

 

妹に元気づけられるとは情けない兄もいたものだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

でも、これでようやく俺が動く理由ができた。

 

 

 

 

 

 

 

 


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