やはり私の先生は間違っているようで間違っていない。 作:黒霧Rose
修学旅行が終わり、2週間以上が過ぎた。
ハッキリ言うと、奉仕部の雰囲気は最悪だ。居心地が悪く、以前のような暖かさは消え、今では冷たい空気が張り詰めるだけの場所となってしまった。
由比ヶ浜さんは、変わらず放課後は顔を出してくれる。けれど、私たちの間に会話はほとんどない。最初の挨拶程度の会話しか交わさない。というよりも、これは会話とも呼べないだろう。
比企谷先生は変わらずそのままだが、由比ヶ浜さんと先生が話をしていると、私はそこに入れなくなってしまった。
どうしてこうなってしまったのだろうか?答えなんて知っている。
それは、私が原因だ。
修学旅行で、私は戸部くんの告白を遮り、比企谷先生へ告白をした。
私は・・・どこで間違えてしまったのだろうか。
ガラガラ
不意に、部室のドアが開いた。
そこに居たのは、平塚先生と城廻会長、それから見たことのない女子生徒だった。
「なにか?」
私はつい、そう訊いてしまう。正直なところ、今はあまり依頼をこなせそうにない。
「君たちに依頼があるんだ。城廻、一色、話しなさい」
そう平塚先生に言われ、城廻会長と一色と呼ばれた子は依頼の内容を話した。
二人の話をまとめると、『嫌がらせで生徒会長に立候補させられたのでどうにかしてくれ』だった。
しかし、それは普通なら学校側が対応しなければならないのでは?私たち生徒が何かするよりも、何倍も効果がある。
けれど、彼女の担任が自分のクラスから生徒会長が生まれ・・・という脳内お花畑みたいな感じであり、生徒会選挙の原則から外れることになるため、実質不可能らしい。
一体どうすればいいの?私には何が出来る?何をしてあげられる?
いえ、私が何かをしてもいいの?
*
翌日、比企谷先生が部室に現れた。
「依頼の件は聞いた。雪ノ下に由比ヶ浜、お前達はどう動く?」
昨日の依頼の話を始めた。確かに、今の奉仕部の顧問は彼だ。だからこそ、その質問をしたのだろう。
「あたしは・・・あたしが代わりにせい」
「お前達のどちらかが生徒会長に立候補するというのは今回無しだ」
「ど、どうしてですか!?」
由比ヶ浜さんは声を高らかに質問する。私も、同じような気分だ。どう考えてもそれしかこの依頼を達成することはできない。
「活動理念に反するだろうが」
全くもってその通りだった。『魚を与えるのではなく、魚の取り方を教える』それがこの部活の活動理念だ。私たちのどちらかが生徒会長に立候補すれば、それは魚を与えたことと同義だ。否、魚を与えることそのものだ。
「まぁいい。俺は少し一色いろはと話をしてくる」
そう言い、彼は部室を出て行ってしまった。
*八幡side
「さて、お前が一色いろはだな」
俺は、学生時代によく使っていたベストプレイスに彼女を呼び出した。
「はい、そうです!まさか、比企谷先生からご指名いただけるなんて・・・嬉しいです!」
なるほど。可愛らしくてプリティーで実に
腹が立つ。
これはあれだ、アホ後輩と同じだ。まぁアホ後輩の方がすげぇからこれだと下位互換アホ後輩というわけだ。
「そのあざとい態度いらないぞ」
だからそれはここで止めさせる。
「・・・気付かれてましたか」
降参です、と言い無表情になる一色。
「お前のなんかよりもよっぽど腹立つあざとさ知ってるからな。そいつに比べれば児戯にも等しい」
アホ後輩のあれはもはやあざとさと言うよりは『もう1人の自分』というレベルだ。こんな猫かぶりじゃあ俺は騙されんぞ。
「さて一色、本題に入ろうか」
「本題って、生徒会選挙のことですよね?」
よく分かっている。
「ああ。お前が会長になった時のメリットとデメリット。会長にならなかった時のメリットとデメリットの話をしよう」
あの二人では代わりに生徒会長に立候補するという案しか浮かばないだろう。しかし、それではいけない。俺は曲がりなりにも『奉仕部』が好きだから。
だから俺が『魚の居場所』を教える。
「生徒会長になって、私にメリットなんてあるんですか?」
一色は不思議そうに訊いてくる。
「ある。まずはならなかった時のメリットとデメリットから話そう」
一色の顔は変わらないが、構ってはいられない。
「まずはメリットから言おう。面倒な仕事はせずに済み、時間もこうして作れる。サッカー部のマネージャーに時間も使える。つまりはほぼいつも通りだ」
「それは分かってますよ。私だってそれを望んでるんですから」
だろうな。生徒会長になってしまったらそれがなくなる、できなくなる。だが、デメリットが存在する。もう、『いつも通り』ではいられない。
「次にデメリットだ。お前は無理矢理、つまるところ悪意によって立候補させられた。ということはお前はそいつらから良いように思われてはいない。それを踏まえた上で訊こう、お前が選挙で負けたらそいつらはどう思うだろうな」
「・・・ざまぁみろ」
「そう。間違いなくお前に対する悪意が加速する。結局、なろうがなるまいがどっちもそいつらにとってはどうでもいいんだよ。どっちにしろ成功してるみたいなもんなんだから」
「そんな・・・」
この問題の最たる点は『どっちに転んでも成功してる』ということだ。一色いろはが生徒会長になれば、彼女の時間をうばえる。労力を奪える。ならなくても、周りからはざまぁみろと、惨めな気分にさせられる。立候補が成立した時点で、そいつらはもう完了しているのだ。
「だからこそ、会長になった時のメリットの話をしよう」
「・・・聞かせてください」
一色の顔が真剣なものになった。どうやら自分の立場がようやく分かったらしい。
「まず、純粋に内申点がもらえる。次に『一色いろは』というブランドが立ち上がる」
「ど、どういうことですか?」
「考えてもみろ、一年生なのに、生徒会長になる。しかも初めは嫌がらせによる立候補だった。それなのに、それすらも自らの糧として、チャンスとして立ち向かう。こんなの、応援しないわけがない」
立ち向かう姿と、逃げ出す姿。どちらが周囲の目を惹き付けるか、そんなのは決まっている。嫌がらせにも立ち向かい、一年生ながらに生徒会長をやるという意志を見せる。魅せられない人間などいない。誰だって応援したくもなる。
「そして生まれる3つ目のメリット。それはお前を嵌めたやつを見返せるという点だ。本当は嫌がらせのつもりだったのに、気付けば『一色いろは』というブランド力が上がり、『一色いろは』に力を与えていた。そんな姿を見せつけられた奴らは、どう思うかね」
最大のメリットはそこにある。もし彼女が生徒会長として成功すれば、そのきっかけを作ってしまったというわけになる。本当は嫌がらせだったのに彼女にチャンスを与えてしまった。プライドが傷付くなどというレベルなどではない、完全に立つ瀬がなくなる。
「まぁもちろん、その分仕事はすることになる。時間も割くことになる。労力もかかる。これがデメリットだ。お前はどちらを選ぶ?」
俺は両方の損得を教えた、つまり『魚の居場所』を教えた。俺にできるのはここまでだ。ここからは一色が自分で選び、自分で進んでいかなければならない。
「・・・分かりました。先生に乗せられてあげます」
「・・・そうか」
一色は生徒会長になる気になった。これで俺の役目は終了だ。
「それで、先生がよければ生徒会の顧問になってくれませんか?」
これは予想外だぞ。