やはり私の先生は間違っているようで間違っていない。 作:黒霧Rose
22話 二代目は彼女と彼の恩師から聞く
「雪ノ下、私の家に来て欲しい。ある人を招いて話をしよう」
私はなにがなんだか分からなくなっていた。突然、比企谷先生が辞めてしまうという話を聞いて、気が動転していた。
*
「入ってくれ」
気付くと、私は平塚先生の家に来ていた。一体、これから誰を混じえて話をするのだろうか。
「待たせたな」
平塚先生が、先に居るであろうその人と話しているのが聞こえてくる。
「ホントだよ、全くもう。でも、無理はないか・・・雪乃ちゃんも突然聞かされたんだもんね」
その声を聞き、私はすぐに部屋へと向かった。
そう、
「待ってたよ。雪乃ちゃん」
私の姉、雪ノ下陽乃が居たからだ。
「さて、じゃあどこから話そうかな」
目の前には姉さんと平塚先生が居る。
「勿体ぶらないで、さっさと話してちょうだい!」
「まぁまぁそんなに焦らないで」
今の私は上手く自分をコントロールできていない。自分の感情が、今までにないくらい昂っているのを感じる。
「そうだね。話は、まだ私と八幡先輩が高校生だった頃まで遡るかな」
2人が高校生だった頃、つまり、私が知りたがっていた『二人の過去』についてだ。
「私が八幡先輩に『ある依頼』をしたのが全ての始まりだった」
そう前置きをして、姉さんは話を始めた。
*陽乃過去side
『つまらない』
私にとっては全てがつまらない。面白くもないし、楽しくもないし、興味を引かれないし、魅力的にも感じないし、心も踊らない。なにも、私の心を穿ちはしなかった。
高校に入学したが、結局やることは変わらない。いつも通り、私は『私』であるだけだ。それだけでいい、それだけしか許されないのだ。
「ねぇ雪ノ下さん」
「ん?」
そんな思考をしていると、私に1人の女子生徒が話しかけてきた。
「『奉仕部』って知ってる?」
「ううん。知らないけど、その部がどうかしたの?」
いつもの『笑顔』で会話する。
「なんかね、生徒の悩みとかを依頼として解決する部活なんだって。それで、3年の先輩が1人でやってるらしいんだけど、その先輩はいつも酷いことして依頼を有耶無耶にしちゃうらしいんだ」
「酷いことする先輩も居るんだね」
嘘。本当は興味がある。どうしてそんな人が人の悩みを解決する部活なんてやっているのだろうか。
そうだ。静ちゃんに訊いてみよう!
「ねぇねぇ静ちゃん」
放課後、職員室に行き、目当ての先生のところで話をする。
「静ちゃんは止めろ。それで、何の用だ?」
「『奉仕部』ってなに?」
その名前を出した途端、静ちゃんの顔が強ばった。
「・・・知っているのか」
「今日、クラスの人から教えてもらったの」
「・・・お前は関わらない方がいい。私からはそれだけだ」
「ええー。なんでよ」
いつもの静ちゃんと違う様子に、私もつい掘り下げてしまう。
「なんでもだ」
その時の静ちゃんは、意地でも何も言わないというスタンスを貫いた。それが私には分かった。
けれど、それが逆に私の好奇心を煽った。そして同時に、静ちゃんをここまでさせるその人に、何か別の期待をしてしまった。
*
翌日、私はその部のメールがあることを知り、匿名であることを書いた。
どうしてそんなことを書いたのか、私には分からなかった。今まで、誰にも打ち明けず、誰にも知られなかった、私の弱さを何故か素直に書いてしまった。
「雪ノ下陽乃・・・だな」
数日後の放課後、先輩が話しかけてきた。
「えっと、告白ですか?」
自慢だが、私はここ最近はよく告白をされている。同い年、先輩問わず、誰からも告白されている。だから、この人もそうなのではないかと、つい尋ねてしまった。
「『進路選択の自由が欲しい』」
「っ!?」
それは、私があの部に送ったメールの内容だった。
「その反応は当たりらしいな。部室に来てもらえるか?」
言われるがまま、私はその先輩と部室へと行った。
連れていかれたのは、特別棟3階の端っこの部屋。こんな所にあったのか、どうりで分からないわけだ。
「まずは自己紹介からだな。俺は比企谷八幡、3年で奉仕部の部長をしている」
「雪ノ下陽乃です」
軽く自己紹介をする。けれど、この人は私のことは知っているはずだ。
「あの」
「なんだ?」
「どうして、私が出したって分かったんですか?」
そう、私の最大の疑問はここなのだ。普通あんな一文で個人を特定できるわけがない。だというのに、この人はそれをやってのけた。それが不思議で仕方ない。
「悩みの内容からある程度の目星は付けられる」
「内容から・・・ですか」
「ああ。まず1つ、『自由が欲しい』ということは『自由がない』という現状の表れだ。そこで考えられるのが、強制力の有無だ。ならどこからの強制力か、それは教師か両親だと推測できる。その理論でいくと、期待されている立場にあるものから攻めればいい。つまり、試験などで上位に入っている奴だ。
次に、『進路選択』という言葉だ。うちの高校に来るということはほぼ進学を考えていると思っていい。と、するのならばそれは大学の学部についての話となる。なら何故、学部に対してなのか。それはつまり、ある学部を指定されているという可能性が出てくる。
そして、そもそもこの奉仕部に依頼をするということそのものだ。最後の手段としてなのか、それとも、周りに弱みを見せられない奴なのか。そこまで考えれば、あとは合わせるだけだ」
彼のその圧倒的なまでの思考が、答え合わせをするかのように示されていく。
「そういう奴を探していたら、1人だけ奇妙な奴が居た。そいつは『完璧』であり『完全』であり『完成』されていた。いや、もっと言うなら『完結』していたんだ。故にそれが『仮面』であることはすぐ分かった。更に、そいつは新入生代表も務め、そして」
「『雪ノ下』という苗字をしていた」
「これが俺の考えだ。そしてそれは当たった」
目の前の先輩は、そうして私の方を向いた。
その目は、腐っていた。そう、腐り果てて、濁っていた。
「・・・すごい、ですね」
「その『仮面』は止めてくれ。気持ち悪いから」
「やっぱりバレちゃうんだ」
私と直接会話したのもこれが初めてだというのに、彼はもう見破っていた。それが、なんだか嬉しかった。
「完璧だからこそ疑わしい。この世に完璧なんてないし、『悪意』が漏れている」
「あらら〜。ホントにすごいなぁ」
「まぁそれはいい。それで、俺はあの依頼に対して動いてもいいのか?かなりデリケートな問題と俺は見たんだが」
「・・・私さ、分からないんだよ。なんであんなこと書いたのか、どうして奉仕部に興味をもったのか。動いてほしいのか、それとも否か。ねぇ、」
「比企谷先輩は、どうして依頼を有耶無耶にするの?」
それは、単純な疑問。クラスの女子に聞いたこと、『酷いことをして依頼を有耶無耶にする』これがどうも私の中で引っかかっていた。
「・・・俺が善人じゃないからだな」
「嘘。じゃなきゃこんな部活には居ないなよ」
そんな人が生徒の悩みを解決する部活になんて居るわけがない。
「さぁな。俺にはそんな答えしかないから」
「ふーん。つまんないの」
誰も何も言おうとはしない。静ちゃんも目の前の先輩も、何も答えない。いや、本当の答えを言おうとはしない。
「とりあえず、保留ということにしておく。何かあったらまた来てくれ」
「はーい」
はぁ。この後、静ちゃんの所に行こうかな。
*
「ねぇ静ちゃん」
職員室に着くなり、私は静ちゃんの所で話を始める。
「だから静ちゃんは止めろ。それで、今日は何の用だ?奉仕部のことなら」
「比企谷八幡」
「っ!?」
その名前を出した途端に、静ちゃんの顔が今までにないくらい真剣なものになった。
「お前、会ったのか」
「うん。すごいねあの人は。あの思考力と観察力、それに、あの目。まるで世界全てに対して諦めているような・・・そんな目。だから私の『仮面』もバレちゃったのかな」
「・・・生徒指導室に行こう。少しだけだが話をしてやる」
ようやく静ちゃんがその気になったね。
「どんな話を聞かせてくれるの?」
そう聞くと、静ちゃんはこちらを振り向かず、けれど立ち止まり、どこか悔しそうな声で言った。
「優しくて、傷を知りすぎているが故にボロボロになった男の話さ」