やはり私の先生は間違っているようで間違っていない。   作:黒霧Rose

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23話 彼女の弱さは初代の強さに及ばない

「比企谷八幡。私が顧問をしている奉仕部の部長・・・ここまでは知っているな」

 

生徒指導室で私は静ちゃんと話をしている。話題はそう、『比企谷八幡』についてである。

 

「静ちゃんが奉仕部の顧問ってとこ以外はね」

 

静ちゃんが顧問だったのか。ということは、やっぱり私のアプローチに間違いはなかったのね。

 

「まぁ、そこはいいだろう。それで・・・だ。1つ、陽乃に質問をしよう」

 

「ん?いいよ」

 

一体どんな質問なんだろう。少しワクワクしてしまう。

 

「例えば、君に一番の親友が居たとしよう。その親友が苛めを受けていると知ったら、君はどうするかね」

 

「・・・前提からぶち壊すような回答なら『私の親友にそんなことはさせない』かな。でも、そういう答えじゃないでしょ?」

 

それに、もし前提をぶち壊すというのなら、『そもそも私に親友などいない』が正解になる。

 

「当たり前だ。それは陽乃だからできることだろう。そうではない君の答えが聞きたいのだよ」

 

「じゃあ・・・多分、『止める』んだろうね。助けるかもしれない。それが私の答え」

 

「いい答えだな・・・では、どう止めるのかね」

 

「うーーん。これに関しては、やっぱり『潰す』と思うよ」

 

実際それが早い。それに、私ならそれができるのだ。利用できるものは利用しないと勿体ないではないか。

 

「まぁ、君ならそうするのだろうな」

 

静ちゃんはどこか納得したように頷く。

 

「で、この質問に何か意味があるの?」

 

「本題はここからだ。さて、さっきの例題だが、実を言うと君が入学してくる前に実際にあった問題なんだよ」

 

「生徒間の?」

 

「そう。ここまで話せば分かるだろう?」

 

なるほど、そういうことね。

 

「その問題を比企谷先輩が解決した・・・そういうこと?」

 

「おおよそ合っているが、肝心なところが違う。正確には『解消』したんだよ」

 

『解消』?人の悩みに関して、解決することはあれど『解消』をするなんて、他人ができるものなのか?

 

「これから話すこともまた、実際に比企谷がとった行動だ」

 

「うん。聞かせて」

 

そう言うと、静ちゃんの顔色はどんどんと悪くなっていき、今まで見たことがないような、どこか後悔を抱えているような、そんな顔になっていた。

 

「比企谷はな、苛めを受けている生徒に告白をしたんだよ」

 

「え?告白?」

 

いきなり予想していなかったような単語が出てしまい、つい聞き返してしまった。

 

「まぁ黙って聞け。そして、比企谷はその子に振られた。その後、『どうして俺を振るんだ?俺は一目惚れして、こんなにも君のことを好きになったのに!ふざけるな!ふざけるな!』と目の前で叫んだのさ」

 

「・・・」

 

「それからというもの、その子の苛めはピタリと止んだ。そして・・・」

 

 

 

 

「苛めの対象はいつからか、比企谷になっていたんだ」

 

 

 

 

「それって」

 

「ああ。君の思っている通り、比企谷の狙い通りの結末になった。それだけなんだよ」

 

「つまり、比企谷先輩は苛められている子に告白し、わざと彼女を責め立てるようなことをして周りの同情と、自らの異常に注目させ、苛めの対象を移したって・・・そういうことなの!?」

 

「・・・その通りなんだよ」

 

あ、ありえない。人のために、今まで知りもしない、話したことすらもない、そんな他人のために、どうしてそんなことができるの?どうしてそこまでできるの?

 

「そんなの・・・ただの」

 

「『自己犠牲』か?」

 

「・・・そう」

 

「比企谷はそれを否定する。アイツは『これが最善で効率的なんですよ。だから自己犠牲なんかではない』そう言うさ」

 

正直、私はどこか彼を嘗めていた。けれど、そうではなかった。彼は、比企谷八幡という人は、どこまでも優しく、そして、どこまでも独りなんだ。

 

「私」

 

「ん?」

 

「私、比企谷先輩と放課後の時間を過ごそうと思う」

 

「陽乃・・・お前」

 

彼を知りたい、彼のことを知らなくてはいけない。私の『仮面』を見破り、私の『本質』を垣間見ながらも、自然体でいた彼。彼なら、もしかしたら私の望む『なにか』になってくれるのかもしれない。いや、それなのかもしれない。

 

「聞かせてくれてありがとう。じゃあ、また明日ね」

 

そう言い残し、私は生徒指導室をあとにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

「陽乃・・・君と比企谷は本来、交わってはいけないんだ。君の『弱さ』は比企谷の『強さ』とは相性が悪すぎる」

 

 

その静ちゃんの呟きを私が聞くことは、これから先もずっとなかった。

 

 

 

「こんにちは、比企谷先輩」

 

静ちゃんと話をした翌日の放課後、私は奉仕部の部室に来ていた。

 

「・・・雪ノ下・・・か。昨日の依頼の件か?」

 

「違うよ。ただ、比企谷先輩と話してみたいなーって思って来たの」

 

やはりまずは会話をしなければ。そうでなければ、何も分からないままなのだ。

 

「話すことなんかない」

 

比企谷先輩はそう返すだけ。

 

「えーつまんないー」

 

私はわざとらしく、そんな態度をとってみる。

 

「うーぜぇー。それ止めてくんないかね」

 

「私の素なんで分かりませーん」

 

「はぁ・・・」

 

どこか疲れた顔をする比企谷先輩。

 

「こんな美少女の後輩と放課後の時間を過ごせるんだよ?」

 

「だからなんだってんだよ・・・」

 

全く失礼してしまう。

 

「なぁ雪ノ下、お前、クラスというか学校では上の立ち位置に居るんだろう?」

 

比企谷先輩の方から話を振ってくれたと思ったら、そんなことを言ってきた。

 

「まぁ、そうかなー」

 

「だったらここに来るのは止めておけ。依頼の連絡ならまた前のようにメールで送ってくれればいい」

 

「・・・それって、比企谷先輩の噂があるから?」

 

「分かってるじゃねぇか」

 

やっぱり、比企谷先輩はそう言うんだね。

 

「優しいんだね」

 

だから、私は素直にそう言った。

 

「でも、その優しさは『自尊心』の低さからくるものだよね」

 

「・・・」

 

それもまた、私が率直に思ったことだった。

 

「自分は下で、他人は上。だから自分よりも相手を尊重してしまう。そしてそれは比企谷先輩にとってはある種『当たり前』と思っている。違う?」

 

「・・・かもな。俺は最底辺の住人だ。だから他者を優先していると言えばそうかもしれない。だが、」

 

そこまで言うと、比企谷先輩は何かを見つめるような視線で言葉を放った。

 

 

 

 

「それでも、俺がここに居るという証明くらいにはなる」

 

 

 

 

彼は、彼はきっとどこかで人との繋がりを望んでいるのだろう。けれど、彼はそれを真っ直ぐには伝えられない。あんなやり方しかできない、自分を軽く見ているが故に、他者からを求めている。それでも、彼は『俺はここに居る』と、そう伝えるために必死でもがいている。彼の目にあるのは『諦め』なんかではない、『諦めの悪さ』なんだ。だから、未だに彼の目は、

 

 

 

 

 

 

 

他人に向けられているんだ。


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