やはり私の先生は間違っているようで間違っていない。   作:黒霧Rose

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24話 彼女は初代からすれば『アホ』なのだ

 

「と、いうわけで比企谷先輩。テニスをしましょう」

 

「は?てかなんでまた居るんだよ」

 

私はここ最近、よく奉仕部の部室に来ている。

 

「それはもう放っておくべきじゃない?」

 

「いや放っておかねぇから。放っておけねぇから。めんどいんだよ雪ノ下の相手すんの」

 

本当に失礼な先輩だ。他の男子なら余裕で釣れてしまうのに。

 

「あ、そういうこと言うのね。ふーん」

 

「おい待て、その『私、今企んでますよ〜』みたいな顔を止めろ」

 

「・・・」

 

「ああーーーもう。分かったよ、テニスすりゃあいいんだろう」

 

「そうこなくっちゃ!」

 

実際、私は何も考えていない。けれど、比企谷先輩はこうやれば、なんだかんだで来てくれることを知っているのだ。

 

 

 

よっし、ボコボコにしてあげるわ!!

 

 

 

 

「お前、めちゃくちゃ上手いな」

 

テニスコートを借り、私と比企谷先輩はテニスしている。今日がテニス部の休みの日ということはもちろん知っていたので、借りることができた。もちろん、私という要素が絡んだからだけどね。

 

「そういう先輩も中々センスいいね!」

 

実際やってみると、先輩のテニスの腕は中々だった。

 

「まぁ体育のとき、壁当てしてるからな」

 

なんでそれでこんなレベルになるのだろうか。謎である。

 

 

 

 

 

 

「あー負けた負けた。ほんとつえーな」

 

「ふっふっふっ。当然よ!」

 

もちろん私が勝った。

 

「お前、マジで自分の得意なことで人をボコるって恥ずかしくないのかね」

 

「んーーー全然」

 

「あ、そうですか」

 

こうやって話してみると、比企谷先輩は中々話しやすい人だと思った。私の『仮面』を知っているからか、それとも『本質』を知っているからか、それは定かではないけど私を対等に扱ってくれる。それが新鮮で心地いい。

 

「・・・なぁ雪ノ下」

 

「ん?」

 

そんなことを考えると、いきなり先輩が真剣そうな声で話をしてきた。

 

「あの依頼。あれは本気のもの・・・なのか?」

 

『あの依頼』それは、私と比企谷先輩が知り合うきっかけとなったあれだ。

 

「そう・・・だね。多分、あれが私の願いの一つなんだと思う」

 

そう、あれは私の本当の願いの一つだ。誰にも語らず、悟られなかった私の望み。

 

「・・・そうか」

 

「でも、動かないでいいよ。あれは私が興味本位で書いただけだから。先輩は、何もしなくていいよ」

 

「それがいい・・・のかもな」

 

 

 

 

 

 

 

だって、誰が動いたとしても、その願いが叶うことなど私には一生訪れないのだから。

 

 

 

 

 

「ひゃっはろー!」

 

「なんつー挨拶だよ」

 

今日も今日とて相変わらず奉仕部へと顔を出す。

 

「およ?比企谷先輩はお勉強かな?」

 

「見りゃ分かるでしょ。3年なんで勉強しないと」

 

「受験か」

 

「そうだ」

 

そういえば比企谷先輩は3年生だった。つまり、大学受験を早くても今年、どれだけ遅くても年始に控えているのだ。

 

「じゃあ私も勉強しようかな」

 

そう言い、比企谷先輩の隣でノートを広げる。

 

 

 

 

 

 

一時間ほどが経ち、比企谷先輩が口を開いた。

 

「雪ノ下」

 

「ん?」

 

「もしお前が進路を選べるとしたら、どうしたい?」

 

その質問が来ることは、もしかしたら予想できていたのかもしれない。何も、驚きはなかった。

 

「・・・分からない。けれど、悩むという過程、迷うという歩み、選べるという自由にこそ価値があると思う」

 

「そう・・・だな。済まない、辛いことを訊いて」

 

申し訳なさそうに言う比企谷先輩。けれど、私は気にしていない。彼が彼なりに考えているということが伝わってきたから。

 

「いいよ」

 

 

 

 

 

それっきり、会話はまた無くなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日、私はクラスの人々からの視線を感じていた。

 

なにかあったのだろうか?

 

 

「ねぇ、雪ノ下さん」

 

「ん?」

 

そして昼休み、女子が話しかけてきた。

 

 

「一昨日、テニスコートで一緒にテニスしてたのって、奉仕部の先輩だよね?」

 

 

その瞬間、全てを理解した。

 

そうか。私が視線を感じていた理由はこれか。比企谷先輩も、私もベクトルは違えど有名だ。そんな2人がテニスをしていれば、それは確かに興味の的になる。

 

「テニスなんてしてないよー?」

 

だから私は嘘をつく。大事にすれば、必ず比企谷先輩にも迷惑がかかる。それは避けなければならない。ようやく、なんだかんだで一緒に居られているのだ。その時間を壊すわけにはいかない。

 

「部活の先輩が見たって言ってたんだよ」

 

「だから、それは」

 

マズイ。段々とクラスの人も近くに来た。早急に話を切り上げなくてはならない。

 

「雪ノ下さんのこと、見間違うわけないって」

 

ここで自分の容姿が仇となった。

 

どう、すればいいのだろうか。素直に認める?それは無しだ。このまま嘘をつき続けるのもありだがどうも上手い嘘が出てこない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ああ。確かに一昨日、俺と雪ノ下さんはテニスをした。『無理矢理、俺が頼み込んで』な」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その声は、私が知っている声だった。

 

「せん・・・ぱい」

 

「雪ノ下さんも正直に言えばよかったのに。俺がしつこく頼んできて仕方なくって」

 

突然の登場と、その発言に私の意識は動転していた。

 

「ああ、なんで俺が居るのかって?購買の帰りに寄ったら俺の話をしてたみたいだから、ついな。」

 

彼は、それが答えだと言わんばかりの態度で話を進めていく。

 

「これが事の真相だわ。それじゃ」

 

そう言い残し、彼は教室を出て行った。

 

 

 

そん、な。せっかく、せっかく、私を見つけれてくれた彼なのに。その彼との時間が・・・もう、過ごせなくなるの?

 

 

 

 

 

 

「どういう・・・こと。どういうこと!?」

 

放課後、私は奉仕部の部室へ行き、比企谷先輩に向かって叫んだ。

 

「あ?なにが?」

 

「なにが?じゃないわよ!今日の昼休み、なんであんな嘘をついたの!?」

 

「ああやって言えば、丸く収まるし誰も損をしない。なにより効率的だったからだ」

 

当然だと、彼からはそんなことを言われているような気がした。

 

「ふざけないで!!そんな嘘で、そんな・・・うそで・・・」

 

「ゆき、のした?」

 

目の前が滲む。ああそうか、私は泣いているんだ。私の目からは涙が零れているんだ。

 

「どうして、どうしてそんなにも簡単に自分を犠牲にできるの?どうして、そんなにも自分を下に見れるの?どうして、そんな優しさを私にまで、向けるの?」

 

「・・・」

 

一度溢れた思いは止まらない。涙のように、止めることなどできない。

 

「目の前で、比企谷先輩が傷付くのを見て、私は怖くなった。なんだか嫌な気持ちになった。なんで、なんで私がこんな気持ちになるのよ・・・」

 

「・・・ありがとう、な」

 

いきなりのお礼に私は戸惑ってしまう。

 

「どう、してお礼なんかするの?」

 

「なんで、だろうな。多分、そんな気持ちを俺に向けてくれたからかもしれないな。初めてだったから、そんなことを言われたのは」

 

「・・・もう、私の前では二度としないで。それだけは約束して」

 

「そうするよ。すまなかったな」

 

 

 

 

 

数分して、私の涙は止まり、落ち着いた。

 

「なぁ雪ノ下」

 

「ん?」

 

最近はこうやって比企谷先輩の方から話を振られるのが多くなってきた。

 

「お前、『アホ』だな」

 

「・・・・・・は?」

 

この先輩は一体なんなのだろうか。人を泣かせといて、感謝したばかりだというのに、人をアホ呼ばわりするなんて。

 

「いやよ、あんな優しい奴なのに『仮面』被ってるなんてアホみたいじゃねぇか」

 

「・・・」

 

不意打ちだった。彼に『優しい』と言われ少し動揺してしまった。作った『私』ではない、ただの私を彼は『優しい』とそう言ったのだ。

 

「でも、それがお前の強さなんだろ。そういう優しさも、弱さもなにもかも『仮面』で覆う。そうして自分を律する。誰にだってできる事じゃない。しかし、『アホ』だ。アホ後輩だ」

 

「前半はなんだかちょっと嬉しかったのに、なんなの『アホ後輩』って」

 

嘘だ。ちょっとどころではない、かなり嬉しかった。私を見てくれただけじゃない、私を認めてくれたような気がして本当に嬉しかった。

 

「だからってわけじゃない・・・けれど、お前のその優しさを俺は否定したくない。だから」

 

先輩の目はいつになく真剣になり、私を真っ直ぐに見て

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「『あの依頼』を正式に受ける。俺が、必ずなんとかする」

 

 

 

 

そう言った。

 

 

 

それは、初めて知った『希望』だった。

 

 

 

 

 

 


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