やはり私の先生は間違っているようで間違っていない。   作:黒霧Rose

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25話 彼女は初代を甘く見すぎていた

『おれがなんとかしてやる』

 

そう言ってくれた彼を思い出す。私の胸の中に『希望』が溢れたのは初めてだ。

 

彼の言った言葉には重みがあって、何故か安心をした。それが、彼の持つ優しさなのだろう。

 

 

 

 

 

けれど、きっと失敗する。『解決』も『達成』も『解消』もできない。それらは全て不可能なのだ。

 

 

 

 

だってそれが、『雪ノ下』に生まれた私の人生そのものなのだから。

 

 

 

 

「陽乃・・・本当のこと、なのか?」

 

私は、静ちゃんと話をしていた。そう、比企谷先輩が私の依頼を正式に受けたと、彼が伝えたからだ。

 

「うん。比企谷先輩から聞かされた通りだよ」

 

「・・・」

 

静ちゃんの顔は浮かない。

 

「静ちゃん?」

 

「まず、謝らなければならない。済まなかった、君の望みが分からなくて。本当に申し訳ないと思ってる」

 

静ちゃんはそう言って、頭を下げた。

 

「ううん。いいの。本当は誰にも言うつもりはなかったから。それに、気付かれてたら私が『私』に対しての自信が無くなっちゃうよ」

 

「本当に・・・済まなかった」

 

静ちゃんはこうやって、自分の責任のようにしたがる。それは、本当に自分を責めているからだ。私の『進路選択の自由が欲しい』という想いに気が付けなかったことを、本当に悔やんでいるのだ。

 

だから、私は静ちゃんが好き。本当に、綺麗な人だと思う。

 

「いいよ。でも、それだけじゃないんでしょ?多分、比企谷先輩のこと」

 

「・・・ああ」

 

分かっていた。静ちゃんは本当に比企谷先輩のことを想っている。心配しているのだ、彼がまた無茶をするのではないかと。

 

「今回の君の依頼は今までとはベクトルが違いすぎる。比企谷の手段ではどうしようもない。それに、下手に動けば」

 

「まぁ、確かにね」

 

自らを手札とし、真っ先に切る。それが比企谷先輩の常套手段だ。

 

「比企谷先輩にさ、言ったんだ。もうあのやり方は辞めてって」

 

「釘は刺したんだな」

 

「うん。でも」

 

「どこまで効果があるのか・・・だろ」

 

「・・・」

 

静ちゃんがこんなにも心配しているというのに、彼はあのやり方を辞めてはいない。それは、目の前で見た私もよく知っている。

 

「アイツは多分、どうにかして君の依頼を達成・・・或いは解消をしようとする。それがあいつの『強さ』だから、な」

 

「・・・そう、だね」

 

「本当は、私がやらなければいけないんだ。教師である私が教え、導かなければならなかったんだ。君も、比企谷も。こんなにも自分は無力なのだと痛感させられるよ。だから」

 

静ちゃんはその潤んだ瞳で、初めて見たその赤くなっている瞳で

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「こんなにも、胸が痛いんだな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一筋の涙を流しながら、そう言った。

 

 

 

 

それが、『平塚先生』の優しさの全てだと、私はまたこの人を好きになる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

静ちゃんと話し、比企谷先輩が依頼を受けてから数ヶ月が経った。未だに、私は奉仕部に通っている。先輩はいつもと変わらず、あーだこーだ文句を言うが、なんだかんだで最後は私の相手をしてくれる。

 

 

 

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「ん?電話だ」

 

 

珍しい。私の携帯に電話がかかってくるなんて。

 

 

 

「陽乃、私です。今日の放課後、迎えの車に乗って帰って来てください。大切な話があります」

 

 

 

それは、私が恐れる、母からの電話だった。

 

 

 

 

故に、今日の放課後は奉仕部に行けなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ただいま。それでお母さん、話って?」

 

家に着くなり、私は直ぐにお母さんの元へ向かった。電話で言っていた『大切な話』それがとても気になっていた。

 

いや、正確に言うなら『嫌な予感』していた。

 

 

 

「ねぇ陽乃、あなたの正直な気持ちを教えてくれないかしら」

 

 

 

 

 

 

「・・・え?」

 

今、私のお母さんはなんと言ったのだろうか?『正直な気持ちを教えてくれないかしら』それって、それって・・・どうして?あのお母さんが、どうして?

 

 

「陽乃は、私や今のことについてどう思っているの?正直に聞かせて」

 

 

 

 

 

ふざ、けるな。ふざけるな。何を今更、どうして今更。

 

「大丈夫だよ。上手くやって」

 

だから私はいつも通り『私』でいようとする。

 

「その『顔』それだけで、分かったわ。もう、嘘をつかないで」

 

「っ!?」

 

「そんなのなしにして、聞かせて?」

 

 

 

 

 

ああ、駄目だ。もう遅い、私はもう、壊れる。『私』はもう、壊れてしまった。

 

「ふざけないで!!今更そんなこと言われてもどうしようもないよ!!いつもいつもいつもいつも私の話なんて聞かないで、聞こうともしないで勝手に何もかも決めて!今日、話があるからって言われていざ来てみたら『正直な気持ちを教えてくれないかしら?』私をなんだと思っているの!?この『仮面』だって好きで付けてるわけじゃない!!いっつも嫌だった、押し潰されそうだった!それでも、それでも、って耐えて頑張ってきたのに!それなのに、それなのに・・・なんで今更なの!?どうして今なの!?」

 

もう止められない。私の中にある全てが爆発する。

 

「辛かった、気持ち悪かった。周りの人を見て、自分は不幸だなって何回も考えた!『雪ノ下さんはいいね』そうやって言われる度に何回他人を憎んだことか!何回、人を羨んだことか・・・。私だって、私だって、『自分の道くらい、自分で決めたいよ』」

 

 

 

 

 

「ごめん・・・なさい」

 

 

 

 

 

 

 

「・・・ああ、あああ」

 

 

 

 

母からのその『ごめんなさい』の一言に私の最後まであった全ての理性は、崩壊した。

 

 

 

 

 

 

 

 

「どうして、お母さんはあんな話を?」

 

落ち着いた後、私は今の私の最大の疑問をぶつけた。

 

「最近ね、ずっとある人がうちの会社を訪ねて来ていたのよ。その人と、話をしていくうちに、教えられたから、いえ、気付かされたから、かしらね」

 

「それって、」

 

『ある人』私には心当たりがある。もし、そうなら、もし、私の知っているあの人なら

 

 

 

 

「比企谷八幡と、名乗っていたわ」

 

 

 

 

その名を聞いた瞬間、私はもう一度涙を流した。だって、それは、私の知っている『彼』だったのだから。

 

 

 

「陽乃。大学は好きな所に行きなさい。それで、辛いことがあったらお母さんに相談して。私たちに足りなかったのは『愛し愛されている』という実感なのだから」

 

 

 

「いい、の?自分で決めて、いいの?」

 

「ええ。いいのよ」

 

 

 

 

私が欲した、諦めていた願いは叶った。いや、叶えてくれた。他でもない、比企谷先輩が叶えてくれた。

 

 

「でも、会社は?雪乃ちゃんがっていうなら、私が」

 

もしそれで、私の妹の雪乃ちゃんが代わりになるというなら私はそれに納得できない。この話を受けるわけにはいかない。

 

「いいえ、雪乃ではないわ。ちょうど、申し出てくれた人がいたの」

 

「え?そうなの?」

 

驚きである。しかもお母さんが認めるなんて、相当にすごい人なんだ。

 

「ええ。学業も優秀ですし、機転の利く要領の良さ。雪ノ下建設のこともとても知っていて、あなたと知り合いでもある。だから、条件付きでその話を『仮』という形で受けたのよ」

 

まっ、て。その人、その人って。駄目だ、考えてはいけない。ダメだ、私はこれ以上、話を聞いてはいけない。だめだ、それ以上、頭を回してはいけない。

 

 

 

 

「ねぇ、お母さん、その人って、もし、かして」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そう、比企谷八幡さんよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

それもまた、私の知っている『彼』だった。


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