やはり私の先生は間違っているようで間違っていない。   作:黒霧Rose

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31話 初代の始まり

「改めまして、比企谷小町です」

 

「雪ノ下雪乃です」

 

あの電話の後、私は小町さんに言われた場所・・・つまるところファミレスに来ていた。イタリアンを主とした、手頃な値段のあそこだ。

 

ちなみに、一色さんには後で会わせるということで話がついている。今は彼女と2人で話さなければならないことがあるからだ。

 

「なるほど・・・確かに、陽乃さんにそっくりですねー」

 

「姉さんのこと、どれくらい知っているんですか?あと、敬語はいらないですよ」

 

あなたの方が歳上なので、私に対して敬語を使う必要はない。

 

「言われてみればそうだね。じゃあこれでいこうかな」

 

納得していただけた様子。その方がこちらもやりやすい。

 

「陽乃さんのことなら、まぁそこそこ知ってはいるよ。陽乃さんは私の1つ上だからね、高校の先輩でもあるわけだ」

 

「なるほど・・・」

 

「仮面を被っていたところとか」

 

「っ!!」

 

その言葉に、目が見開いていくのを感じる。あの質問からそうではないのかと思ってはいたが、やはり分かっていたのか。

 

「まぁ、それはいいとして。雪乃さんが私に訊きたいことって、それじゃないよね?」

 

「・・・はい」

 

鞄の中にあるノートを取り出す。一色さんが持ってきてくれた、彼への確かな手掛かり。

 

「そうそう、これこれ。いやぁ〜久しぶりに見たなぁ」

 

ノートを手に持ち、笑いながらそれを見ている。

 

「これを書いたのは、小町さんで間違いないんですよね?」

 

「そうだよ」

 

「でも、解せないところがあるんです」

 

このノートと、先程言われた彼女の発言から私には疑問が生まれていた。

 

「言ってみて」

 

「小町さんが入学した時点で、比企谷先生はもう既に卒業していますよね?」

 

「・・・その通りだね」

 

そう、小町さんの年齢は姉さんの1つ下。つまりそれは比企谷先生とは3歳差があるということだ。そうなると、3年間で卒業となる高校では入れ違いが起きる。彼女が彼の記録を書くことはできないはずなのだ。

 

「簡単な話だよ。小町は奉仕部の話を、ひいてはお兄ちゃんの高校生活の話を大体聞いているから書けたんだよ」

 

「それって」

 

「お兄ちゃんからと、あともう2人から」

 

その2人の予想はついている。彼と関わり、彼を知っている人など、あの人達で間違いない。

 

「姉さんと、平塚先生ですね」

 

「正解」

 

ニッコリと満足そうな笑みを浮かべ頷く。その時、揺れたアホ毛が彼と重なる。本当に、2人は兄妹なんだ。

 

「あともう1つ」

 

「何故これを残したのか?でしょ」

 

「はい」

 

何故小町さんは『奉仕部活動帳』というノートを書き、それを生徒会室に置いて行ったのか。私とあなたを繋げるためだったと仮定しても、それは少し弱い。もし一色さんが見つけていなければ、私はこのノートの存在自体知らなかったのだ。

 

「それはね、誰かに知ってもらいたかったからなんだ」

 

「・・・比企谷先生のことを、ですか?」

 

「うん。お兄ちゃんがどういう人なのか、お兄ちゃんがどんなことをしたのか、それを誰かに知ってもらいたかった。『私達』のそんな願いからこのノートを残したんだ」

 

「私達?それって、姉さんですか?」

 

「違うよ」

 

「平塚先生、ですか?」

 

「そうだね」

 

平塚先生と、小町さんがその願いのためにノートを残した。それは、誰でもよかったのだ。姉さんでも、私でも、本当に誰でもよかったのだ。ただ、比企谷八幡という1人の生徒が居たというそれだけを伝えるために。

 

「けれど、それが雪乃さんだったらな。そう願ってもいた」

 

知らず知らずのうちに、私はもう1人からも期待をされていたというわけだ。それも、彼の妹から。

 

「電話で、『そのノートも一緒に』って言ったでしょ?あれも結構賭けてたんだよ。これで違かったら恥ずかしかったなぁ・・・でも、持っていてくれたからポイント高い!」

 

「え、ええ」

 

そのポイントとは一体なんなのだろうか?貯めると何かいいことでもあるのだろうか?まずいわね、なんだか混乱してきたわ。とりあえず、貯める方針でいきましょう。

 

「まぁそれはこの辺にして、これは雪乃さんが見つけたの?」

 

「いえ、後輩の生徒会長が見つけました」

 

「1年生で生徒会長、めぐりと一緒だ。へぇ・・・そっか」

 

目を細めながらノートを撫でる。な、なんだろう、少しだけ姉さんと同じような気配がした。

 

「その子、比企谷先生の助言で生徒会長になったんです」

 

「お兄ちゃんの助言?なるほど、それでか」

 

「え?」

 

後半、聞き取りにくかったので聞き返す。

 

「いえいえ、こっちの話。さて、じゃあ次は小町から話をしましょう」

 

「はい」

 

 

この時を、待っていた。比企谷先生を姉さんよりも、平塚先生よりも近くで見てきた彼女の話、それを聞くことを今日は望んで、臨んできたのだ。

 

 

「ノートを開いてみてください。そこに、全ての始まりがある。小町があなたにする話、その答えがそれだよ」

 

小町さんに促され、渡されたノートの1ページ目を開く。そこには、1枚の原稿用紙が挟まっていた。シワが多く、少しだけ色味が変わっているその用紙にはこう書かれていた。

 

 

 

『高校生活を振り返って 2年F組 比企谷八幡』

 

 

 

「その作文を平塚先生に提出したことが、奉仕部の、お兄ちゃんの高校生活が始まった瞬間」

 

2年生が始まった時、私もこれと同じものを書いたことがある。それと同じ、もの。

 

「小町がする話は、お兄ちゃんの高校生活、即ち奉仕部でのお兄ちゃんの話。だから、そのノートを持っていてくれて本当に助かった」

 

小町さんの目は先程までの笑みではなく、真剣そのものになっていた。それに倣い、私も覚悟を決める。

 

「平塚先生、陽乃さん、お兄ちゃんの話を基に限りなくお兄ちゃんの視点に近づけて話すね」

 

「お願い、します」

 

姉さんが私にしなかった、いえ、『できなかった』彼の話。『比企谷八幡先輩』でも『比企谷八幡先生』でもなく、『初代部長の比企谷八幡』としての、彼の話。

 

 

かつて、その一端を平塚先生に聞いたことがある。

 

『彼は自分を切っていた』

 

かつて、比企谷先生からその理念を聞いた。

 

『魚の居場所を教える』

 

 

その彼が辿ってきた、奉仕部の始まり。

 

 

 

 

 

*八幡(小町)過去side

 

『高校生活を振り返って 2年F組 比企谷八幡』

 

 

高校生活とは、一般的に青春の象徴として扱われることが多い。その高校生活の中で私が見つけたものと言えば、あらゆるものは欺瞞で成り立っているということだ。

生徒同士の関係を例に挙げれば、グループなどがある。誰か中心にし、その他を取り巻きとする。多くの人が居ることからまるで良いことと受け入れられそうだが、その実態はどうなのだろうか?

 

主君と従者、その関係は正に立場として成り立っていると考えられないだろうか。

 

そこにあるのは理解ではなく、憧れ。集団であり、そこに属し、則し、多勢というものに憧れる慟哭そのもののようだ。

 

 

憧れは、理解から最も遠い感情。

 

 

とある漫画であったセリフだ。それに沿っていいのならば、そのグループも所詮は理解し合えない烏合の衆でしかない。

 

それを、欺瞞と言わずしてなんと言うか。

 

 

しかし、対する私はグループに属するどころか親しい者すら居ない。その欺瞞ですらも手に入れることができない。なんとも皮肉な話だ。

 

 

いっそのこと、砕け散ればいいのに。

 

 

 

「砕け散るのは君の方だ。比企谷、私が出した課題は何だったかね?」

 

高校2年生に進級した俺は、ある日の放課後に平塚先生から呼び出されていた。

 

「『高校生活を振り返って』という題でしたね」

 

「分かっているというのに何故こうなった?」

 

「解っていなかったのでは?」

 

「文字にしなければ分からない屁理屈を言うな」

 

流石現代文の教師、これくらいの言葉遊びは通用するか。

 

「で、何故こうなった?」

 

平塚先生は作文を机に置くと、その目をこちらに向ける。

 

「最近の高校生はこんな感じですから、それを振り返ってみたんですよ」

 

群れて横暴に振る舞う者たちを見て、或いは思い出して呟く。多勢に無勢、誰もが分かりきっている言葉だからこそそれは説得力を持つ。

 

「そしてその欺瞞が君の得たもの、と?」

 

「正確には欺瞞と解ったことですかね」

 

「・・・はぁ。そういうものでもないぞ、世の中。君からすれば欺瞞に映るだけであって、当人達はそう感じていない。主観と客観というやつ・・・いや、君の主観でしかないという話だ」

 

「まぁ、結局はそういうことですね」

 

そう、それは俺の主観でしかない。俺がそう感じ、そう思い、そう受け取っているだけの話。もっと穿った言い方をすれば、俺の思い込み。

 

「文系科目の成績だけで言えば、学年トップの君だ。やろうと思えば、こんな作文よりもっと綺麗なものが書けただろう?」

 

机に置いた作文を指でトントンとつつきながら分かりきった質問をしてくる。

 

「ええ、まぁ」

 

「それに、君のことだ。私がこれを見たら君を呼び出すことくらい分かっていただろう?だからもう1回訊くぞ、何故こうなった?」

 

俺はこの人に目をつけられている。最初は文系科目の成績がトップであることから目をかけてもらっているのだと思っていたが、そうではなかった。

 

『君の目だよ。それが私が君を気にかける理由さ』

 

以前尋ねた時に、こんなことを言っていた。そこから、漫画の話をしたりラーメンを食べに行く仲になったというのは・・・また別の話か。

 

「・・・多分、何かを変えようとしてるんだと思います」

 

平塚先生の目は、大きく見開かれた。当然だ、俺は前に『変わることは逃げ』と言っていたのだから。

 

「君からその言葉が出るとはな」

 

「俺も意外です」

 

けれど、俺は何かを変えようとしている。今のままは嫌だと、おれの心が告げている。悪くても、良くてもいい、ただ別の方向に何かを変えたい。

 

「ふむ・・・なら、1つお節介をしよう」

 

「・・・はぁ」

 

「なぁに、そんな顔をするな。君が何を変えようとしているのかは分からない。だから、まずはそこから変えてみよう」

 

「『そこ』?」

 

 

先生は、その口をニヤリとすると俺の目を指さした。

 

 

 

 

 

 

「世界の見方ってやつだ」

 

 

 

 

 

 

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