やはり私の先生は間違っているようで間違っていない。 作:黒霧Rose
「・・・人生を、捧げるってお前・・・何、言ってんだ」
「言葉通りよ。あなたに、私の全てをあげる」
これから先、私はあなたから離れない。離れたくない。そのためには、もう私の全てを彼に捧げるしかない。
「・・・お前には、これから先がある。俺の価値の無いこれからに比べれば、お前の未来は」
「そう言えば、まだあなたには言ってなかったわね」
まぁ、母と姉以外には言っていないのだけれど。
「私の夢、あなたがこれから進もうとしている道と同じなの。だから、これで等価よ」
そう、私の夢は父の仕事に携わりたいこと。その道を彼が行くというのなら、私もそれと同じということになる。だから、比べる事なんて出来やしない。同じものを比べてところで、意味なんてない。結局のところ、『同じ』なのだから。
「・・・そう、なのか」
「ええ。何も問題は無いでしょう?」
「・・・い、いや、俺は教師で、お前は生徒だから」
「あら、あなたはもう教師では無くなるのでしょう?だから、その言い訳は通用しないわ」
自分で言っていた事を忘れてしまったのかしら?あなたはもう教師を辞める。あなたが教師で無くなるのならば、私が総武高の生徒であろうとなかろうと関係ない。
ただの、男と女になるだけ。
「・・・第一、なんで俺に人生を捧げるなんて言い出すんだ・・・」
決まり切った事を。
「そんなの、あなたと関わり続けたいからよ。あなたに、私を見続けて欲しいからよ。あなたと、一緒に居たいからよ」
恥ずかしい。こんなことを言い出すなんて、本当に恥ずかしい。あの修学旅行での告白の、数百倍恥ずかしい。今すぐ泣きたいくらい恥ずかしい。鼓動は早くなる一方で、顔は熱を帯びて真っ赤になっている。脚は震えているし、汗だっていっぱい出てくる。
「『本物』を、あなたと探したいからよ」
本音だ。本音だから、こんなにも苦しい。こんなにも痛くて、張り裂けそうで、辛くなる。
「全部、全部あげる。だから、お願い・・・私を、私だけを見て。私から離れないで・・・私の、傍に居て」
足りない。どうして、言葉を出そうとすればするほどその言葉は違うものになってしまう。どうして、私の想いを乗せるだけの言葉は見つからない。
それが、もどかしい。伝えようとすればするほど、口に出せば出すほど違っていく。本当に、言葉は不便だ。
「私は、あなたを一人にしたくない」
彼は、振り返って私を見る。その瞳は濡れていて、月の光を反射するように煌めいている。儚げで、触れてしまえばまるで幻だったかのようにそこから消えてしまいそうで、だから、それを確かめたくなる。それを確かめるために、私は彼の手をより強く握る。離れないでと、ここに居てと、どこにも行かないでと、子供のような気持ちを込めて、彼の温度を感じる。
「・・・俺は、捻くれてる」
「知ってるわよ。でも、あなたが優しいのも知ってる」
「俺は、目が腐っている」
「私を映してくれているのなら、どんな目でも構わない」
「俺は、お前を引っ張って行けるような男気はない」
「なら、私があなたを引っ張ってあげる」
「俺は、友達が居ない」
「そうね」
「・・・」
「・・・何か言ってよ」
「あ、ああ、うん」
それを否定しろなんて、無理な話だ。私、虚言は吐かないもの。だから、修学旅行の日に言った貴方への言葉も、本当の事なのよ。知っていたかしら?
「・・・あと、俺は、弱いやつだ」
「奇遇ね。私も弱い女の子なの。一緒に強くなりましょう」
「俺は、駄目なやつだ」
「私が矯正・・・いえ、更生してあげる」
いいわね、『比企谷八幡の更生』私の生涯の依頼にしようかしら?
「あんまり金も無い」
「頑張って働きなさい」
「俺は、めんどくさいやつだぞ」
「面倒な位が丁度いいわ」
「・・・それから」
「構わない。どんなあなたでも、構わない」
もう聞き飽きた。あなたの駄目な所なんて、聞き続けたら朝が来ちゃうじゃない。
「むしろ、そんなあなただからいいまであるわ」
「・・・なんだそれ」
そう。その笑みがいい。不意に出る、心の発露のような笑みがいい。その笑みを見たくて、私は歩いてきたのだから。
「私も面倒な女なの。父の仕事を継ぎたい・・・でも、あなたに譲ってもらうのも嫌」
「・・・じゃあ、奉仕部ルールしかないな」
「奉仕部ルール?」
「ああ。勝負をして、勝った方が相手に何でも言う事を聞かせられる。俺が部長だった頃からあるやつだ」
「・・・私も、あなたと勝負をするつもりだったの」
赤い顔のまま、私は頬が上がる。楽しい、楽しくてしょうがない。彼と話して、関わって、一緒に居るこの時間が、楽しくてしょうがない。
「長い勝負になりそうね」
「まぁ、そうなるな」
不器用だ。こうやって勝負にでもしなければ、彼と関わり続ける理由が出来ない。
そして、それに応えてくれる彼が、好きで堪らない。
これからも、ずっと一緒に居たい。
「ねぇ、比企谷『さん』」
「・・・なんだ?」
「あなたが好きよ。ずっと、私の傍に居て」
迷いもなく放ったその言葉に、彼の顔も赤くなる。今日は彼の知らない顔をいっぱい見た。
今日のことは、生涯忘れられないだろう。
忘れたくない。絶対に、忘れない。
そんな顔、初めて見たもの。
真っ赤な顔で、目を細めるあなた。
真っ赤な顔で、その口元に笑みを浮かべるあなた。
照れくさそうに、でも嬉しそうに、そうやって笑う顔、初めて見たもの。
絶対に、忘れてなんてあげない。
「喜んで」
*
さて、なんやかんやあった週末も過ぎ学校は冬休みに入った。寒いし寒い。意味の分からない感想にため息が出る。あ、白い息が出てきた。冬の実感に、辺りを見回す。
振袖を来た女性があちらこちら、ここの神社は人が多い。少し離れたところに来てみたのだけれど、失敗だったかしら?あ、だめ、人混みに酔う。軽く死ねるわね。
まぁ要するに、明けましておめでとうございますという事だ。新年である。
「待ったか」
「いえ、 私も今来た・・・とこ、よ」
「ん?どうした」
横から声をかけられ、その声に喜んで振り向くとそこに居たのは比企谷『さん』だった。眼鏡をかけ、黒いチェスターコートを羽織り、首元にマフラーを巻いた彼はもう本当にかっこよかった。
「改めて、明けましておめでとう。今年もよろしくな」
「え、ええ、ええ。よ、よろしくお願い致します」
「なんでそんな焦ってんだ?」
「い、色々あるのよ」
「あ・・・そう」
聞いた?聞きました皆さん?あの彼が、私とさようならをしようとしていた彼が、『今年もよろしくな』だって!もう最高ね。新年バンザイだわ。
え、私だれ?こんなの、いつもの私と違うわ。
「んじゃ、初詣すっか」
「・・・そうね」
オーケー、落ち着いたわ。これでいつもの雪ノ下雪乃ね。ふふん、流石わたし。
「ほれ、はぐれると面倒だから掴まっとけ」
「・・・・・・うん」
「いや、うんって・・・」
差し出された手を掴む。は?こんなので正気を保てる訳ないじゃない。なんなのよもう。これが、初代と二代目の格の違いってやつなの?全然敵わないじゃない!なんでそんな余裕なのよ。
そんな思いで彼を見ると、その顔は赤くなっていた。
「あ・・・ふふっ」
「なんだよ」
「いいえ、なんでもないわ」
なんだ、私と同じだったのね。
そんなとこも、いいわ。
「マジで人多い。ホント人多い。あと人多い」
「『元』国語教諭とは思えない程の語彙力ね・・・」
彼は教師を退職した。終業式の日、同時に離任式が行われた。クラスの人達もショックを受けていたのを覚えている。何だかんだで人気があったから当然の事ね。
奉仕部でも彼の離任式を独自に行い、彼が嬉しそうにしていた。由比ヶ浜さん、彼はもう私のものなのだから笑った彼を見て顔を赤くするのは駄目よ。駄目ったら駄目なのよ。あと一色さんも。何が『不意に笑うとか反則です!は!?もしかして、普段とのギャップを見せ付けることによって女の子の大好きなギャップ萌えを発動させようとか思ってますか!?ごめんなさいギャップが凄すぎてとんでもない摩擦が起こって私の胸も熱くなって来たのでこれからは一人の女の子として接して下さいごめんなさい』よ。もう意味が分からないわそれ。結局のところ断ってないじゃない。
いろは節、恐るべし。な、なんだか語呂がいいわね。
「んで、お前は何を願って来たんだ?」
「あら、知らないの?願い事は人に言うと叶わなくなるのよ。だから内緒」
「ほーん」
「で、あなたは何を願ったの?」
「・・・言わねぇ」
それは絶対に叶えたいから、という事で納得してもいいかしら?いいわよね。よし、それでいきましょう。
私の事だったら、いいな。
だって私の願いは
『あなたとずっと一緒に居られますように』
だもの。
次回で完結ですかね